Butterfly and Leopard

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 ベッドの上、腰を突きだした裸身の大貴に、中指を挿れて掻きまわしている。
 克己の手淫にあわせ、大貴からは淫らな喘ぎが漏れつづけた。
「あぁあ、ぁ、ッ、ぁあ──……」
 とても鮮やかな鳴き声だ。
「きも、ちぃ、いよぉ、あぁ、あ……!」
 聞いていて心地が良い。
 本当はこんな行為に溺れるべきではない。当然ながら克己には明日も仕事があるし、大貴だって、学校があるだろう。さっさと切りあげて眠ったほうがお互いのためだ。
 それなのに、克己は凌辱をやめられずにいる。
 大貴に煽られている。
 恐ろしいまでの官能的魅力に溢れた痴態から目をそらせずに。
(……こんな夜になったのも、偶然に会ってしまったからだ、ビルのエントランスで)
 たった三十分前の出来事を思いだす克己だ。
 あのときまだ克己は平静でしかなかった。大貴も発情を抑えていた。
 出会わなかったほうが、良かったかもしれない、大貴にとっても、克己にとっても。
 克己は苦笑した。

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「……あぁ、大貴くん」
 戸締まりをして一階に降りると、ちょうど大貴と鉢合わせた。Tシャツにデニムの私服姿だ。
 エレベーターからエントランスへと出た克己は「お疲れさまです」と挨拶をする。
(あれ)
 いつもの大貴なら、元気に返事をくれるはずだ。
 しかし、今夜の大貴は目線をぼんやりと床に彷徨わせたままだった。
「事務所に用事ですか? それなら、施錠してしまったので、俺も戻りますが」
 ほのかな異変を感じながらも、克己は話しかけてみる。
「……ううん、いい……」
 大貴は首を横に振った。やはり、表情に覇気はない。
「薫子の部屋に行くから」
「薫子さまは、ご帰宅されて、このビルにはいらっしゃらないはずです」
「でも、俺はここで……、朝まで寝てく……」
 大貴は一歩を踏みだそうとする。その瞬間にぐらりと揺れた。崩れ落ちて膝をつく。
「あっ……」
 腰が抜けてしまった自分に、大貴自身も驚いたらしく、目を見開く。克己には、大貴はかすかに震えてもいるようにも見えた。
「具合が悪いんですね、大貴くん」
 克己もしゃがむ。それとなく大貴の肩に触れてみると体温はひどく熱い。
「……大丈夫……」
 眉根を寄せた大貴が零す吐息も、熱量を帯びている。
「大丈夫だから、ほうっといて」
「放っておけませんよ」
 克己は意識して柔和な微笑みを作った。決して情に厚い性格ではないと自覚しているが、弱っている大貴を置いて帰るほど薄情にもなれない。
(……保護者を頼らないということは、なにか、事情があるのか)
「貴方は、俺の後輩なんですから」
「こうはい……」
 大貴にじっと見つめられた。その瞳も潤んでいる。大貴の様子がおかしいのは明白だ。
「ありがと、カッツン……」
 やっと大貴は微笑ってくれた。相変わらず、力のない笑みだったが。
 立ち上がる大貴に、肩を貸す。
「とりあえず、外にタクシーを呼んであるので、俺の部屋に行きますか」
「いいの……、めいわく、じゃ、ねーの……?」
「全く」
 ふたりでビルを出れば、夜風はかろやかに克己たちの髪を撫でていく。目の前の道路に停まっている車に近づき、大貴とともに後部座席に乗りこんだ。

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 克己はいくつかの自宅を何人ものパトロンに与えられている。今夜は郊外にある広々とした日本家屋に帰るつもりだったが、大貴のことを考えて、ビルからそう遠くないマンションを選んだ。
「びやく、を、飲まされて……」
 辿りついた玄関でスニーカーを脱ぐ大貴は、恥ずかしそうに頬を赤らめながら教えてくれる。
 車内でも熱に浮かされたようにしていた顔を見ていて、薄々、勘づいていたことだ。
「それなのに、ぜんぜんイカせてくれねーから、俺のカラダ、ヘンになってるんだよ」
「災難でしたね」
「カッツンは今日、どんな仕事したの……?」
 克己は大貴を支え、寝室へと連れていく。
「特別なことはなにひとつありません。ひとりのお客さまと、食事をしてホテルに行っただけです」
 ベッドを目にするなり大貴は、ばたんと倒れこむ。
「そぉなんだ……」
 そんな少年を横目に、克己はライトスタンドを仄かに灯した。間接照明のおぼろげな明かりが闇を薄め、調度品と大貴の影を壁に映す。
 克己はダイニングに赴き、スーツの上着を脱いで椅子にかける。手洗いうがいをしてから、グラスに氷を落とし、ミネラルウォーターを注いだ。
「お水でも飲んでください」
 寝室に戻り、克己もベッドに腰かけた。大貴は倒れこんだままの姿勢から、シーツに腕をつき、のっそりと身を起こす。
「うん。ありがと……」
「グラス、持てますか」
 心配だったので尋ねたが、大貴は微笑んで受けとった。
 すぐさま、ごくごくと飲み干していく。嚥下する大貴の喉を、克己は見守った。
「はー……、おいしい、つめたい」
 グラスを空にして、克己に返した大貴はふたたびマットレスに沈みこむ。Tシャツがめくれて素肌の脇腹が覗く。大貴は虚ろに瞼を伏せ、気だるげな吐息を零した。
「おかわりは」
「……ううん、もう、いい、寝るから、俺……」 
「薫子さまに連絡はしなくて、いいんですか」
「今日はヤスエの部屋に泊まるってウソついてあるから……」
 めずらしい、と克己は驚く。大貴は素直な子どもで、保護者に嘘をつく印象はない。
「なぜ、それほどまでに……帰りたくないんですか?」
 克己は率直な疑問をぶつけてみた。

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「……見られたく、ねーもん、弱ってるところ……」
 大貴は首を横に振った。動作にともなって衣擦れの音が漏れる。
「恥ずかしい目にあってる俺とか、犯されてる俺とかは見られてもいいけど……弱ってる俺は、なるべく薫子に知られたくない、かっこわるい……」
(思春期の少年の、可愛らしい意地か)
 克己はグラスをベットサイドのチェストに置いた。それから、ゆるめていた襟元のネクタイをさらにゆるめる。ひとつ開けていたボタンをふたつみっつと外した。
「おねがい、俺がカッツンの家にいることは内緒にして」
「いいですよ」
「……よかった、ありがと……」
 ほっと安らいだ吐息を零し、大貴は寝返りをうつ。
「お休みになる前に、デニムくらいは脱いだほうが良いんじゃないですか」
 残念ながら、この家には大貴に貸せるようなパジャマはない。替えのワイシャツとスーツ以外は、バスローブや、女もののランジェリーくらいしか、クローゼットにはしまわれていなかった。
 克己の言うことをきき、大貴はデニムの前をくつろげる。バックルとボタンを外すたったそれだけの動作でも指先はおぼつかず、もたついた。
「……あんま、じっと見ないで」
 羞恥を滲ませた視線が、大貴から投げかけられた。晒される素肌の腿を眺めながら、克己は冷静に「抜いてみてはいかがですか」と、意見を与える。
 すると大貴は克己のほうが驚くほど、大きくビクつく。
「ヤだよ……! ひとりでするなんて、むなしすぎる」
「ですが、投与だけされて、達していないんでしょう」
 大貴は唇をつむる。妙な沈黙は肯定を表していた。
「さっさと済ませたほうが楽になれますよ、なんなら俺は、席を外していますから」
「いいっ」
 ムキになった幼子のように、大貴は首を横に振る。
「そんなことしねーよ。朝まで寝るっ」
 Tシャツも脱ぎ捨ててしまった。今宵の客によるキスマークの痕や、鬱血痕が、いくつも散らされている。こんなにも愛しておいて射精をさせなかった男の性癖はきっと歪んでいるのだろう。
「眠れるんですか?」
 やれやれと、克己はため息を零してから、大貴の服をたたんでやる。ボクサーパンツ一枚になった四肢はずるずるとシーツの海に伸ばされていった。
「疼いて、眠れないんじゃないですか」

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「へーきだってば、ほっといて……今日はもうイロイロされすぎて、嫌になってるんだよ。これ以上エッチなこと、したくねーもん!」
 わけのわからない意地だ。手早く射精してしまえば、いくらかは楽になれるだろうに、なぜそうしないのだろう。克己には理解出来ない。もしも大貴の立場だったら、冷たいシャワーを浴びながら、さっさとひとりで済ませていることだろうと思う。
(些細な欲情にとらわれて、睡眠の質が落ちれば、明日の接客にも障るだろうに)
 大貴は拗ねたらしく克己に背中を向けてしまった。それから、ブランケットをたぐりよせて素肌に纏う。
「放っておきたくないですね」
 克己はたたんだ衣服を、グラスの傍らに置いた。
「俺に委ねてください。すぐ終わりますから」
「あっ、ちょ……」
 そっと唇を奪ったが、大貴は克己を押しのけようとする。実際、克己の顔は大貴から剥がれてしまった。
「やめろよ、カッツン」
 それならばと太腿から下腹部までを撫でまわすと、大貴は引き攣れるように震えた。
「だ、め、だってば……!」
 ボクサーパンツに包まれた性器は半勃起で、完全に膨らみきってはいない。
 しかし、発情の証は確実にある。
「生地が湿っていますよ、我慢汁ですか」
 指摘してやれば、大貴の頬がカァッと赤く染まり、睨まれもした。
「やめろってゆってるだろ、さわ、ん、なっ」
「身体は素直ですけれど」
「あっ、あ、ぁ……」
 揉みこんでやれば、カタチはすぐに肥大していく。愛撫しながらふたたびキスをする。大貴は逃げようともがき、克己の舌は深くまで大貴を抉ることはなかった。
(強情だな)
 克己は鼻で笑う。
 大貴という少年は、今回に限らず、骨の髄まで調教されきっている身体の持ち主とは思えないような、いまだに初々しいそぶりを見せることがある。
 普通の少年の心を抱えたまま、恥知らずに振る舞ったり、淫らな夜を過ごすのは辛いだろう。
 望んでいやらしい身体にされたわけではないのにという葛藤も、まっとうな生活への憧れも諦めて、さっさと心から恥知らずになったほうが自分のためになる。
 妙な矜持はさっさと捨て去ってしまうのが、賢い性玩具の処世術だ。それが克己の考え方だった。

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「い、やだ、やだ……今日はもう、したくない……」
 発情を嫌がり、首を横に振るう大貴の泣きそうな顔がスタンドの明かりに照らされている。克己が指先を胸にまで辿りつかせてやれば、それだけでまたビクンと身じろぐ。
「あ……ッ、……」
「快楽に堕ちたほうが、楽になれますよ」
 乳首をいじると、性器同様、反応は鮮やかだった。すぐに熟れるようにそそり起つ。
「ヤ、だ、ってば……!」
 頬を赤らめている大貴は現状を受け入れず、まだ嫌がっている。
 しかし、抵抗はすこしずつ弱まってはきていた。あらためて克己が大貴の顎を掴み、キスを捧げてやれば、ばたつく動作はさらに弱々しくなる。
 それでもまだ逃げようとする大貴を押さえつけるように身を寄せれば、かすかなものだったが、大貴も舌を蠢かせてきた。克己は内心でほくそ笑む。
(……抗いきれるはずないだろう、いじらしい)
 さすがの大貴も、もう逆らわない。
 捩じこんだ舌先でまさぐり、深まっていくディープキス。溢れる唾液。
 客の爪痕を残した身体を大貴は何度もビクつかせ、明らかに感じていく。
「ッは……ぁ……」
 あるとき、最後の力を振り絞ったらしく強い力で押しのけられる。
 唇と唇に、唾液の糸が引いた。
「イ、ク、いっちゃ、う……」
 切羽詰まった訴えだ。克己はしっとりと濡れたボクサーパンツを剥がしてみる。両手をかけて生地を下ろせば、屹立したペニスが弾かれるように現れ、脱がされることにも反抗は起こらない。
 たやすく脚をすべり、大貴は一糸纏わぬ姿になった。
 頬を上気させ、瞼を閉じて、はぁはぁと呼吸を乱す大貴を、克己は無表情で眺める。
(……いつ見ても、ポテンシャルの高い身体をしている)
 男娼は、いくら着飾っても最後にはすべてを脱ぎ捨てることとなる。ゆえに結局は裸身が魅力的でなければならない。その点において大貴は基準を軽くクリアしていた。
 脱毛処理を施され、産毛も陰毛もないなめらかな素肌。大ぶりな性器。それらは父親の嗜好らしいし、脚の長さもコーカソイドの血を引くゆえに過ぎないが、なめらかについた筋肉は大貴自身が普段から体型にきちんと気を配っていることの現れだ。
「はぁ、あぁ、は……ぁ……」
 大貴は薄目を開く。両手それぞれで太腿を押さえながら。勃起しっぱなしの性器からは触れてもいないのに、とろとろと透明な蜜が零れてきた。
「俺、も、う、ほんとにイキそう……、カッツンっ……」
 すがるような目つき。紅く染まった頬。だらしなく開いた唇。欲情しきった大貴は身体の魅力をさらに増させる、圧倒的なまでの官能的魅力を垂れ流しているが、そのことについて本人に自覚がなさそうなのが、始末に悪い。
「どうし、よう……」
「どうしようもなにも……、達していいんですよ」
「う、ん……」
 克己は優しく唇を奪う。大貴はやっと克己の背中に腕をまわしてくれた。恥ずかしそうにしながらも、きちんと舌を絡めてくれる。

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「……っ、は、うぅ、う……」
 嫌がっていた大貴はもういない。必死さも滲みでるほど、懸命に口を吸ってくれる。 
「あ……ッく、いく……、イク……!」
 肩を震わせ、大貴はキスを外した。
 克己は密接を解き、見守ることにする。
「…………」
「あ、ぁ、あぁ……」 
 ぎゅっと瞼を伏せ、恍惚に飲まれていく大貴は、噴出する絶頂を握りしめる。
「……あぁぁ──……ぁ……!!」
 両胸の突起もツンと起てたまま、仰け反る背中。
 心底気持ちよさそうな表情は、見応えがあった。
 克己は大貴の髪を撫でてやる。そうしていると、この少年を愛玩している大人たちのひとりになったような気分を味わえた。
「……、はぁ、はぁ……はぁ……」
 昇りきった大貴は荒く息をしている。外した手は口許に運ばれ、白濁はなんのためらいもなく舐めあげられた。大貴は目を伏せたままごく自然な動作で指先から指と指のあいだまで舌を這わせ、絶頂の証を味わってしまう。
 そんな大貴と相対する克己にも、不穏な欲情が現れてきている。スラックスの下で、克己の欲望も疼きつつある。
 克己自身も驚いていた。まさか、大貴に、煽られるとは思わなかった。
(この俺が)
 苦笑してしまう。昂ぶってきた鼓動をきわめて客観的に受けとめて。
 単なる親切心で快楽を与えたはずなのに、それだけでは満足できなくなっていた。
 犯したい。色気に溢れたこのオモチャを。
 克己の育った遊郭とはまた異なる手法と美学で作られた愛玩用の少年を。
 克己も大貴の手首を掴み、精液に舌をつけてみた。思春期の少年のものとはいえ、味も匂いも大人の男と変わらない。濃厚な後味は大貴が今夜どれほどねちっこく責められ、溜めさせられていたのかを暗に克己に伝えもする。
「カッツン……?」
 手指を口に含まれながら、大貴は不思議そうな視線を克己に向ける。その瞳はあいかわらずとろんとして、熱に浮かされているかのようだ。
「……大貴くん、俺は前々から、越前谷家の方々に言われていたんですよ」
 指先から唇を離した克己は適当に建前を告げる。
「ときどき、接客のしかたを教えてやれと。ついでですから、今夜、このまま、いかがですか」
「前……おしえてもらったよ? カッツンに……」
「それは貴方が、FAMILYの男娼になってすぐの話じゃないですか」
「うん……」
 ホテルに行って、仕事の流れを説明しつつ大貴を抱いたが、教えることなどほとんどなかった。FAMILYに来たときから、すでに大貴は完成された商品だった。
「じゃあ……、おしえ、て……もらおうかな……」
 納得したらしく大貴は頷き、克己は内心でほくそ笑む。
 ムキになって嫌がっていた大貴は、一度達してしまったせいか、もういない。 
「……カッツンのキス、すごかった……」
 うっとりとした顔つきで、大貴は唇に指先を這わせる。
「ほとんどキスだけで、イッたし……、こんなの、実家の地下で何日もヘンなことされて頭おかしくなってるとき以来だよ」
「今夜はきっと媚薬の作用ですよ」
「それもあるけど、カッツンのテク、やっぱすごい……あこがれるから……」
 感嘆と恍惚が混ざりあった吐息を漏らした大貴は、あらためて克己を見つめてきた。
「勉強のために、教えて……」
「ええ、どうぞ学んでください」
 克己は遠慮なくキスをする。大貴はもう逃げることなく、好意的に克己の舌を受け入れてくれた。

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 ねっとりと口づけを愉しんだあとは、スラックスの前を開け、咥えさせてみる。
 克己の足のあいだに身をすべりこませ、熱心に口淫を捧げてくれる大貴を眺めるのは、視覚的に満足できる行為だった。
 もちろん、技巧も十分すぎるほどに巧みだ。裏筋に這わせる舌の動きも、尖端だけを含んでキャンディのように舐めまわすやり方も、すべてを口に挿れて喉を突くディープスロートも。
(やはり……俺が教える必要などは無いな)
 それを再確認してしまった。
 奥まで受け入れる大貴の唇からはどろどろと唾液とも胃液ともつかない液体が垂れ零れていくが、大貴に苦しげなそぶりは見られない。訓練を受け、慣れきっている。
 苦痛どころか、フェラチオを施している事実に対し、明らかに大貴は感じていた。
 唇を窄めて抜き差しする頬は染まったままで、夢中になって抽送を続け、その口許も、克己のズボンも性器も、シーツも、涎にまみれていくばかりだ。
 克己は大貴の髪を撫でてやったり、乳首にまで指先を伸ばしてみたりする。大貴は胸元も興奮しきっており、両の突起とも著しい屹立を保っている。
 一度射精をしたにも関わらず、下腹部の熱も保たれているのが克己から伺えた。
「だめ……、そんな、さわったら」
 ふいに大貴は唇から肉茎を外し、克己の手から逃げようとする。
「フェラしながら……イッちゃいそうになる……」
「それも一興じゃないんですか」
「ヤだ、そんなの……」
 股間から顔を離した大貴は、背中からシーツに倒れこむ。動作とともに、勃起しきったペニスがぶるんと揺れた。酷く汚れた口許を大貴は拭う。
「はずかしすぎる」
「大貴くんは、恥ずかしがりやさんですよね」
「う、ッ」
 前々から感じていたことを指摘すると、うろたえたらしい。戸惑う瞳が克己を見る。
「なんでわかんの?」
「そりゃあ……」
 ことごとく恥じらっていれば嫌でも気づく。いままで隠せていると思っていたのだろうか。
「あんま、それ、みんなにゆわないで、黙ってて」
「良いですよ」 
 克己が微笑むと、大貴も口角をゆるめる。
「俺はー、おじさんたちのあいだでは、エロいことがスキで、男ズキで、恥知らずな性玩具ってことになってるから……」
 自らの身体を撫でてみせながら笑んでいる大貴は、相変わらずにひどく官能的だった。
「そうなんですね」
「あはははっ……、ウソなのに……ほんとはホモセックスしたくないって、思ってるのに……」
 今度は克己が大貴を咥えこむ。大貴の開いた股ぐらに身をすべりこませ、口に含んだ。
「薫子のことだけが、スキなのに……」
 根元を扱きながら軽く舐めまわしただけで、引き攣ったように大貴の内腿は震え、手指はたまらないといったようにシーツを掻く。
「……あー、だめ……、すご……ぃ……、あぁあ……」
 仰け反る大貴はかぶりを振る。克己は腿を撫でてやりながら、より深くまで飲みこむ。
 大貴は爆ぜそうだ。もう、長く保ちそうにない。
「……また、イっちゃ、う……!」
 うわずった声。それから鼻にかかった「イク、いくぅ」という訴えも克己に届く。
「あぁあああっ、きも、ち、いぃ……よぉ……!」
 溢れだした白濁は二発目とは思えないほどに芳醇な味わいと量だった。
(口では嫌々言いながら身体は淫乱でしかないだろう)
 克己は唇から引き抜き、身体を起こす。
(大変だな、あどけない心を抱えたままの性玩具は)
 瞼を閉じてぐったりと寝そべった大貴を見下ろしつつ、飲みこむ。口直しに水でも飲みたかったが、グラスに注ぎに行くことよりも、このまま目の前の大貴を眺めていたいとも思う。
 汗を滲ませ、乱れた呼吸で胸を上下させ、眉根には皺を寄せて余韻を漂う大貴の姿はあまりにも悩ましく、性的魅力に溢れていた、大貴自身が望まなくても。

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「……次は、なにを教えてくれる、の……?」
 薄目を開けた大貴は不敵な笑みを浮かべてみせる。余計に目をそらせなくなる、心を鷲掴みにされ、ぞくりと射抜かれるような表情に。
「腰の使いかたは、いかがでしょうか?」
 明らかにすこしずつ箍の外れてきている大貴に、克己も薄笑みを返す。
(これ以上の戯れは明日の仕事に障るのでは)と過ぎった思考をねじふせている克己がいた。
 本末転倒だ。元はといえば、大貴を楽にしてやるためにはじめた行為なのに。
 すっかり虜になっている。
「……いいじゃん、それ……、俺のなかに入ってきて、カッツンっ……」
 大貴は嬉しそうに笑んだまま寝返りをうち、背中を克己に向けた。素肌の背中には今宵の客につけられたらしき真新しいキスの痕の他にも、妙な古傷が薄く残っている。
 大貴の受けてきた躾の痕跡だ。
 可哀想にとは思わない。克己の育ってきた遊郭も負けず劣らずの濃度で教育を施す。
 克己はチェストから軟膏を取りだした。向き直ると、大貴は克己の眼前でゆったりと腕を持ちあげ、腰を突きだすような体勢に移行した、四つん這いの姿勢だ。
「今日、指も、なにも入れてもらってないんだよ……」
 大貴は右手の指を臀部の谷間に這わせる、わざとらしく、見せつけるかのように。指先は蕾に捩じこまれることなく、何度も入り口付近を往復する。
「だから……スゲー犯されたい……、カッツンとするのひさしぶりだから、楽しみ……、どんな突きかたしてくれたか、思いださせて……」
「えぇ、しっかりと堪能してくださいね」
 表面上は柔和さを装いながら、克己は確かな興奮を覚えている。中指で軟膏を塗りつけると大貴は大きく震え、よりいっそう尻を突きだしてきた。克己からの愛撫をあからさまに欲しがっている。
「あっッ……、いい……」
「まだ、なにもしてないですよ」
 克己は苦笑する。あらわな孔はヒクヒクと収縮と拡がりを繰り返し、入り口の皺をなぞってやれば物欲しげに腰が揺れた。
(凄い姿だな……)
 陰嚢も揺らし、依然として張り詰めたままのペニスも振ってみせる姿は淫猥でしかない。
 こんな姿をさらけ出してしまうのが嫌だったから、性感を得るのを頑なに拒んでいたのかと思うと、いまさらながらすんなりと納得できたりもした。
「あぁ……、ぁ……、ほしかっ、た……!」
 中指を滑りこませていくと、内襞は歓喜のままに締めつけてくる。表情は恍惚だ。指の数を増やしても大貴は難なく飲みこみ、嬉しそうなままでいる。
 大貴の嬌声を聞きながら、掻きまわし、愛撫を愉しむ。
 しばらく後、じゅうぶんに拡がりきった後孔から指を抜いた克己は、淫らさに軽く感動も覚えた。
 ぽっかりと開き、物欲しげに潤みきった蕾。ピンク色の襞は潤滑剤で艶めかしく光り、興奮を保った肉茎からは先走りの液汁が滴って、シーツに染みを作っている。
「じっと、見んなよぉ……!」
 いまも朱に染まったままの顔を悲痛に歪ませ、大貴は訴える。
「ちょうだい、は、やく、カッツンの、入れ、て」
「もっと淫らにおねだりしてみてください、俺に」
「……!」

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 焦らして、虐めてしまいたくなった。大貴は泣きだしそうな顔で身体をくねらす。 
「……ちょう……だい、……ぅ、だい……」
 消え入りそうな声を絞りだしながら、克己にアナルを剥きだしにして、尻を揺する。
 あまりにも淫猥な姿に、見惚れてしまう克己だった。
「……もっと大きな声で、大貴くん」
「ちょう、だい、ほしいっ、入れてぇ」
 大貴は請いを繰り返し、ひたすらに振りつづける。それでも克己が触れずにいると急かすように、訴えの声はボリュームを上げ、寝室に響き渡った。
 尻の振り方も大きくなる一方で、勃起した性器も見ているほうの羞恥を煽るほどに揺れている。
「チンポちょうだい、ちょうだい」
 頬を真っ赤に染め、大きな声で欲しがる大貴に異変が訪れる。ある瞬間にびくつき、これ以上ないほどに高く腰を突き上げた、四つん這いのまま。
「あ……、ぁ……、う、そ、だ、……イヤ、だ、おれ……っ……!」
 驚くべきことに、大貴は三度目の射精に至った。きつく尻孔を締めて、ぱらぱらと精液の雨を降らせる。克己は笑ってしまい、拍手を贈る。
「凄いな……、ふふ、羞恥で興奮して、達しましたか」
「……こ……ん、なの、俺じゃ、ない……!」
 小刻みに身を震わせ、いまも這いつくばるような体勢を維持したまま、大貴は頭を横に振った。
「クスリで、お、おかしくなってる、だ、けで……」
 淫らに誘ってみせたかと思えば、ふいにシラフの大貴に戻ったりもするなんて、つくづくこの少年は不安定な精神構造の持ち主だ。
(その危うさや、アンバランスさも、客を惹きつけて止まないんだろう)
 克己は分析する。ヒクヒクと震える後孔を眺めながら。
「俺は、スキで、こんなカラダになったんじゃ、ない……ッ……!」
「そう思っておけばいいですよ、それで貴方のプライドが守れるなら」
 克己は両手を、大貴の臀部にかけた。感じきった身体は触れられるだけでいちだんと震える。
「ひゃ、ぅ、な、んだよ、その、言いか……た……、あぁ、あ……」
 淫らな大貴を前に、克己の怒張は滾ったままだ。尻肉の谷間をペニスでなぞってやれば、溺れるように大貴はもがき、シーツを掻き乱す。
「じ、じらす、なよッ、はやく、はやく……」
「達したばかりでしょう。本当にいやらしい子ですね」
 克己はほくそ笑み、尖端をあてがう。大貴は「あぁッ……」と、声を漏らした。ゆっくりと結合を深め、肉茎を沈めていけば悲鳴とも嬌声ともつかない、鮮やかな呻きも溢れていく。
「あぁああぁ、あ──……、ッぁあ──……!」
 聴き応えのある見事な鳴き声だ。
 最奥まで満たすと、克己は抜き差しに移行する。大貴の腰を抱え、抉っていく。
「うッ、あぁ、あ、あぁ、あ、ッあぁ──……」
 わざと、荒く突いてやっても、いまの大貴には悦楽でしかないらしい。シーツに押しつけた横顔はとろんとした視線を彷徨わせている。
「あーっ……、あ、ぁ、ほしかった、こ、れ、……、カッツンのチンポがぁ、ほしかった……ッ……!」
 交わりが外れそうになるほど抜いてやれば、その動きにも大貴は悶える。
 ふたたび、一気にすべてを捩じこむと、大貴は背中を不自然なまでに反らした。
「ッやぁああぁ」
「また、漏らしてしまうんじゃないんですか?」
 揺らしつけつつ、大貴の性器を握る。相変わらずに勃起しきり、分泌した体液でぬるぬるだった。

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「はぁっ、あッ、ぁああ、あ、はぅ……」
 克己の上に跨がり、大貴は腰を振っている。欲情に溺れていても大貴のリズムはおろそかにならず見事で、賞賛に価するものだった。克己にも的確な快楽を与えてくれる。
「……ひゃ、ッ、うぅ、いく、イク……」
 揺れながら訴えた大貴は、克己のワイシャツをぎゅっと握った。後孔をひどく締めつけながら、棒のように屹立しきった肉茎から四度目の吐精をする。最初の射精にくらべれば少ない量だったが、それでも飛沫く。
「はぁ、はァ、はぁ、はぁ……」
 絶頂の余韻に蝕まれている大貴は、深くうなだれた。克己はそんな大貴に休息など与えることはせず、すぐさま突き上げるように揺する。
「やぁあぅッ」
 零れる、言葉にならない悲鳴。克己は身体を起こして座位にし、もがく大貴を抱きしめる。
 そのまま押し倒し、正常位に移行する。割り広げた大貴の脚を抱え、小刻みに打ちこむ。
「や、ッ、いやぁ、や、だ、おかしくなる、また出ちゃ、う、いや──……!」
「いいじゃないですか……空になるまで出せば」
「あぁああッ、ぁああ、ヤだぁあ……!」
 シーツを掻きむしる大貴は頬だけでなく胸元までも紅潮させ、放った白濁の飛沫に濡れた裸身を、ばたつかせている。イヤだイヤだと言っていながらも、大貴の尻孔は克己の突きこみに歓喜しているのは間違いない。柔襞はいちだんときつく締まり貪りついてきた。
「も……れる、よぉ、だめ、だって、ば……、……!」
 幾度かの射精を経て、やっと屹立がやわらいだ半勃起のペニスから、ふたたび絶頂の液汁が滴る。
 それでも、克己は構わずに抜き差しをつづける。
 激しさのなかで、克己の唇は愉悦に歪んでいた。大貴を壊していくことに仄暗い悦びを感じる。
(俺が鬼畜なんじゃない、お前が悪い、そんなにも悦い顔を見せるから)
「あぁああああ、だめ、ヤだぁあぁああ、お、れ、おかしく、なる、だめ、いや…………!」
 苦悶を表わす大貴の表情は、眉間に著しく皺を刻んでいる。必死で頭を横に振り、静止を願っていた。大貴の震えはもはや、痙攣だ。
「イヤぁああぁ、パパ……、パパぁ……!」
「ふうん、飛んだか……」
 克己は行為を止めないまま、垂らした精液を手のひらで拭ってやる。陰毛に絡むことなく拭き取れるので、こんな際にも永久脱毛を済ませた恥丘は便利だった。
 拭ってやったそばから、とろとろと半濁液が尿道口から零れてくる。精液なのか、先走りなのか判別がつかない。大貴はイキ続けているのかもしれない。
「うぅ、う、ぅ、たすけて、……すけて……」
 めそめそと、鼻水をすすりだす大貴は、揺れながら目を擦った。そのうちに顔を両手で覆ってしまう。克己は反抗と絶叫を越えてしまった大貴を見下ろして抉りつける。
「……もう……むりだよ……ぉ……っ……」
 瞼を隠してぐずぐずに嗚咽を漏らす状態でも、幾度となく射精して敏感になった身体を痙攣のように震わせていても、大貴は克己にあわせて腰を揺すりつづけ、おろそかにならない。
(真堂崇史は、類まれな性玩具を作りあげたな……)
 克己の瞳は相変わらずに冷めきっていたが、胸の内は熱く熟れ、高みに昇りつめていく。
「そろそろ俺もいく──」
「……っ、あ……」
 大貴の顎を掴んでやった。目許を隠した指先がずれて、涙で赤く染まった瞳が覗く。視線が交わっても、克己とは認識していないらしい。
「パパ、はやく、おわって……」
 恍惚と虚ろを彷徨っている大貴の表情は素晴らしく、撮影して残しておきたいほどの艶やかさだ。
「俺がいつお前の親になった」
 克己の口許は意地悪く笑む。大貴の唇に親指を立ててやった。
「や、ッ」
「俺はもう人の親になる気はないからな」
 絶頂に辿りつきそうな瞬間に引き抜き、大貴の腹の上に吐精する。その瞬間はさすがに克己も顔を歪める。大貴はぼんやりとした表情のまま、散らされた雫をゆっくりと指先でなぞり、口許に運んだ。
 舌を出して舐め、あろうことか泣き顔をゆるめ「おいしい……」と、確かに呟いた。
「……がんばった、から……、ごほうび……」
 精液に塗れたまま、大貴は瞼を閉じる。
「ザッハトルテとー……、アール……グレイ……」
 そんなものでいいのかと、克己は吹きだしてしまった。ひどく衣服を乱した姿のまま、亜麻色の髪を撫でてやる。すでに大貴は安楽な寝息を立てはじめていた。

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 昼過ぎに、薫子のマンションまで迎えに行った。
 ランニングに薄手のカーディガンを羽織った大貴がすでにエントランスの石段に腰かけている。スマートフォンをいじっていたが、近づいてきたタクシーに気がつくと笑顔を作り、スマホは後ろポケットにしまった。
「カッツンっ、おはよう、お疲れさまっ」
 克己の隣に乗りこんでくる大貴は歳相応の普通の少年で、昨夜の情事の余韻などまるでない。
「おはようございます。もう、お昼ですけどね」
 走りだす車。運転手にはこの後の行き先もちゃんと告げてある。
「だって、さっき起きたんだよ、家帰ってからもー、また爆睡してた!」
「結局学校はお休みにしたんですね」
「うん、ムリして行っても、早退しそうだもん」
 大貴はセットしていない、おそらくシャワーを浴びてそのままの髪を掻く。
「……あ、カッツンはぜんぜん悪くねーよっ!」
 今度は両手のひらを見せてぶんぶんと振る。
 感情豊かな大貴を見ているのは、なかなかに楽しい。
 そう思っている客は多いことだろう。淫靡な生活を送っているのに、それでも普通の子どもらしさを失っていないのは美点だ。
「むしろ、よかったってゆうかー、ガマンしてたら、もっとカラダの具合悪くなってると思うもん」
「いえ、すこし俺も責めすぎました。すみません」
 ふたりきりの空間ではないから、ぼかした言いかたで謝った。とはいえ、克己と大貴があんなに激しく絡みあっていたとは、タクシーの運転手も、街行く人も、だれも想像出来ないはずだ。
「カッツンは悪くないってゆってるだろー。でっ、今日はなに食べさせてくれるの?」
「もうすぐ着きますよ」
 昨夜のおわびと言ってはなんだが、昼食を御馳走することにした。大貴はマナーも厳しく仕込まれているので、何処に連れて行っても恥ずかしくない。
 選んだ店は繁華街をすこし離れたところにある、百年以上の歴史を誇る料亭。とはいえ建物は改装されてモダンな造りで、ランチは比較的リーズナブルかつ、カジュアルな装いでも楽しめる。
「あ、ここ来たことある。でもー、夜しか来たことねーし、そんなには来た回数多くないよ」
 店の前でタクシーを降りると、大貴はそう述べた。
「さすがは大貴くん、良いお客さんを持っていますね」
(俺には敵わないだろうが)と、心のなかで付け足す克己だった。予約していた個室に通してもらう。窓からは広々とした庭園が望める、優雅な席だ。
 アペタイザー、スープ、パスタと、順番に運ばれてくる。克己はあらかじめ、大貴の苦手な野菜は除くようにと店にきちんと伝えておいた。メインは仔羊のグリルのサルサヴェルデだ。
「すげーしあわせ、ありがとう!」
 食後のザッハトルテを食べながら、大貴は満面の笑顔を零してくれる。ずっとニコニコと嬉しそうに味わってくれていたけれど、なかでも際立つ、今日一番の笑みだった。
「喜んでいただけて、俺も嬉しいですよ」
「あの、じつは俺、昨日のこと途中から、あんまし覚えてなくてー……」
 大好きなアールグレイも口にして、気持ちがほぐれたのか、大貴はふと、打ち明けてくる。
「せっかくカッツンがいろいろ教えてくれたはずなのに……もうしわけねーなって……」
 笑顔から一転、しゅんとして曇らせる表情。
「でしょうね、ずいぶんと乱れていましたから」
「み、みだれて……?!」
 今度は瞳を見開いてみせる大貴だった。
「な、んか、俺、ヘンなことゆってなかった?」
「いいえ、特には」
「ほんとに? 正直にゆえよっ」
「なにも」
「ぜってー?!」
 本当になにも言っていなかったと何度も繰り返せば、やっと大貴は信じてくれた。
「……また日を改めてご指導しますよ」
 克己は微笑みを浮かべる。クリームチーズのミルクレープをフォークに刺しつつ。
「ほんとっ? 今度はぁ、調子悪くないときにー、もっとちゃんと習ってもいい?」
 大貴は顔を輝かせる。あまりの邪気の無さに、克己は素で吹きだしてしまった。
「ふふっ、いいですよ」
「わーいっ。カッツンみたいな先輩いてー、ちょうめぐまれてる! ベッドの上だけじゃなくてー、マットプレイも教えてほしいし、縄で縛るのも教えてほしい。俺ー、和風のSMはー、あんまりくわしくないから、勉強中なんだー」
「大貴くんの好みそうな、真っ赤な縄をご用意しておきますね」
 射しこんでくる、穏やかな陽光とは裏腹の妖しげな話題でふたり微笑む。克己は、たまには後輩と食事に来るのもいいものだと思った。

E N D