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 夕方、スチールベッドに座ってぼんやりと眺めているのは再放送の時代劇だった。べつに、祥衛は時代劇が好きなわけじゃない。ただのヒマツブシ。起きている時間が長い、不眠症の祥衛にとって1日は長すぎる。半分の12時間くらいでいいと、いつも思っている。

《年貢が重く、もう生きてはゆけませぬ……ご隠居さま……お力添えくださいまし……》

 町娘が旅のご隠居に助けを求めるところでガラケーが震えた。飼い主である怜からの着信だ。祥衛はセブンスターメンソールの煙を吐きだして、灰皿に潰すとローテーブルのガラケーを手に取る。

「…………」
『ビルの下に着いたってさ〜、お客さん』
「……わかった」

 用件だけで切れる通話。

 祥衛はテレビを消してから、立ちあがり姿見を見た。タンクトップに灰色のネルシャツ、デニムに、シルバーのネックレスとピアスと指輪。すでに髪もセットしていて、いつでも出かけられる格好でいた。革の長財布とガラケーと煙草を持ち、部屋を出る。

 施錠するとエレベーターには向かわず、反対側の非常階段から地上を目指した。カンカンとショートブーツの踵が鳴って、ウルサイ。

(飛び降りれたら楽なのに)

 自分には羽根がなくて、それは出来ないから残念。

(次は鳥か虫に生まれるのもいい)

 降りきるとすこしだけ息が切れていた。日頃の運動不足を認識する。だからといって運動をはじめようとも感じないまま、祥衛は裏口から路地に出て歩き、ぐるりと回りこむようにビルの表に向かった。

 なぜこんな面倒くさい迂回をしているかというと、FAMILYの事務所ビルに住んでいることを客に知られたくないからだ。

「おぉー、ヤスエくんが来たァ、今日はよろしくなぁ」

 ビル敷地内の駐車場にミニバンが停車している。怜よりもチャラそうな風貌の中年男性がドアにもたれてだらしなく立っており、現れた祥衛ににこやかに手を振ってくる。祥衛は無表情のままほんのすこし頭を下げた。

「じゃあっ行こぉかぁぁー」

 そのチャラ男が後部座席のドアを開けてくれた。彼はというと助手席に座る。運転席にはガタイのいい柄シャツの男が陣取っていて、スキンヘッドのサングラスにピアスをしていて、チャラ男よりもさらにカタギではなさそうな雰囲気をかもしだしていた。

 祥衛はべつに客の詳細なんて興味がないし、どんな人でも構わないし、どうでもいいからなにも知らない。知ろうともしない。もちろん今日の客たちとも、会ったことも身体の関係も何度も持っているけれど、祥衛は名前すら覚えていない始末だ。

 これから合流する大貴だったら、知っているだろう。

 大貴は客の情報をスマホにメモって、あとでノートに書き写してもいるから。

 祥衛が記憶しているのは《この車は喫煙可能》そんな都合のいい情報だけ。発車する車内で、祥衛はさっそく煙草に火をつけた。

 チャラ男も吸いはじめながら「寝れたぁあー?」とか「今日はなにか食べたぁ?」などと色々聞いてくる。祥衛は必要最低限の言葉を返す。はやく大貴がとなりに来てほしかった。

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 学校へと近づいてゆくほど、下校時の生徒たちが窓の外にすれちがってゆく。なかには祥衛の知っている顔もあって、祥衛は彼らを(楽しそうにしゃべっているな)とぼんやり思ったりした。

 大貴を拾ったのは通学路をすこしだけ離れた路地裏だ。歩道にしゃがみこんでスマホをいじっていた制服姿の大貴はミニバンを見ると立ちあがる。ワイシャツを袖まくりした着方でちょっと高校生みたいだった。ドアを開けて後部座席にすべりこんできてくれる。

「お疲れさまでーすっ。ありがと、迎えにきてくれて」
「いいよぅ、これからタップリ楽しませてもらうんだからねぇ」

 チャラ男も大貴もニコニコしている。大貴の屈託ない笑顔は営業用だと、祥衛にはわかる。

「ハッシーちょっとやせた?」

 運転席と助手席のスキマに身を乗りだしてたずねる大貴に、カタギではなさそうなスキンヘッドの男が今日はじめて笑った。

「実は胃腸風邪こじらせて大変だったんだよなぁ……」
「まじでぇー。大丈夫かよっ。心配じゃん」
「大丈夫だ、もう治ったから」

(ハッシー……そんな名前だった気が、する)

 動きだす車内、祥衛はハッシーの後頭部をじっと見る。
 大貴は祥衛のとなりに体重を沈めてきた。

「つーか、ヤスエ今日学校来るっつったじゃんっ……」

 ちょっと素に戻った大貴が口をとがらせて話しかけてくる。軽く肩を掴まれたりもした。

「むり、だった」
「電話してもでねーし、なんじにおきたんだよー」
「9時半」
「じゃぁじゅうぶん来れるだろ。やくそくやぶった」

 拗ねる大貴をチャラ男がなだめる。

「まぁまぁ、しょうがないよ、ヤスエくんはあまり学校好きじゃないんだから」
「だって前もあったんだぜ。来るっつって来なかったことー、うそつきっ」
「…………」

 肘でつつかれて、ちょっと痛い。祥衛はつつかれた脇腹をそっと押さえた。 

「ははは……ケンカするな、ふたりとも」

 笑うハッシーは提案する。

「イチャついてみろ、仲直りできるぞ」

 チャラ男も「そうだよ、それがいちばんだよぅ」とうなずいて同意した。
 大貴は小さく笑ってから、祥衛のネルシャツをひっぱってくる。

「……だってよ。イチャイチャしよ、祥衛」
「……ん……」

 さっそく重ねられる唇。

 大貴のキスは巧い。ねっとりしすぎているわけでもなくて、控えめなわけでもなく、いつも絶妙だ。掻きまわしてくる舌の動きにすぐさま酔えてきて、祥衛はそっと瞼を閉じてしまう。

(汗のにおいが……する)

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 いつものシャワージェルの香りじゃない。
 男娼として完璧に準備してくるときの大貴とはちがう匂いに、祥衛はすこしドキッとした。

「俺だけ汗くせーから、ヤだなー」

 タンクトップの上から右乳首をつまんできつつ、大貴は唾で濡れたキスを離した。祥衛は胸をとがらせる刺激に震えてしまいながら、自由になった口で息を吸いこむ。

「はぁ、あぁ……」
「六時間目が体育だったんだ」

 両方の乳首をつままれた。貫通しているピアスごと引っ張られたときに走る痛みが気持ちいい。

「ほぉう、今日の体育はなにしたんだ?」
「サッカーだよ。いいだろー」

 たずねるハッシーに大貴は微笑む。チャラ男のテンションがかなり上がった。

「うっわぁーいいよぉ、超いい、大貴くんがサッカーしてるとこ見たいなぁぁあ!」
「見にくれば? フェンスごしに。あーでもー、ヘンな人だと思われてー、通報されるかなー」

 大貴の手は下腹部をすべりおりて、デニムの股間に触れてくる。すでに半勃起して生地を膨らませてしまった祥衛はちょっと恥ずかしい。

「まぁヘンな人だけどねぇボクら」

 そう言ってチャラ男が笑う。ハッシーも大貴も笑う。

(…………)

 祥衛以外はみんな笑っているから、こんなとき祥衛は自分も笑えたらいいのに、とほんのすこしだけ思う。

「あれだよなー、伊造さんはぁー部活のヤツら盗撮してーニヤニヤするタイプだよなー」

 祥衛はやっとチャラ男の名を知った。イゾウというらしい。

「何部があるのかなァ、あの中学校は」
「なんでもだいたいあるよっ? サッカー部もだし野球部とか卓球とかバスケとか……水泳とか」

 しゃべりながらも大貴は愛撫をゆるめない。デニムの上から股間をつかまれたり、腿を撫でられたりして、祥衛は心地よさを感じている。ちゅっ、と短いキスを頬にされたりもした。

「大貴は部活やらないのか?」
「えー……、やりてーなぁって思ったときもあるけど、ムリだし……」

 ハッシーの言葉に大貴はさみしそうな表情を見せる。けれどそれは一瞬でかき消えて、妖しい微笑になる。

「俺の部活はー、エロいことしてみんなを楽しませてあげることだよ。なーヤスエっ。ホモのセックスが俺たちの部活だよなっ」
「……んんッ…………」

 楽しそうにしてみせる大貴の舌先が耳朶に触れて、祥衛はギュッと大貴の白いシャツをつかんでしまった。

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 ミニバンは高速道路に乗る。ハッシーいきつけの市外にあるホテル街への最短ルートだ。

「すっげー、ヤスエ、もうこんなにしてんじゃん」

 ベルトを外され、大貴によって掴みだされるペニス。
 まわりにふつうに車が走っているのに、握りこまれて肌を寄せられる状況は、祥衛にはとても恥ずかしい。

「はッ……あ……、ふ……」
「祥衛も俺の出してさわって」
「あぁ……」

 囁かれ、首筋にもキスをされた。祥衛は唾液のしずくを顎から垂らして震えながら、言われたとおりに従うべく指先で探る。

「ベルト……とれない……」
「なんでだよ、それくらいできるだろ」

 苦戦してもぞついていると苦笑された。大貴は祥衛が外しやすいように身を傾けてくれたから、なんとか祥衛は両手を使い、大貴のベルトを解く。

 ホックも開けて、ボクサーパンツから掴みだす大貴の性器も弾けるように天井を向いた。肥大改造ですでに大人のものと変わらない肉感にされた性器を、何度握っても何度見ても祥衛はどきどきしてしまう。

(すご……い……、あぁ……)

 うっとりしている場合ではないと気づき、祥衛は頬を染めながらも扱きはじめる。
 
「んっ、ふ……っ、あ、あっ、あ」
「ふぅ……ンッ、はぁ……はぁッ……」 

 おたがいのものをゴシゴシ扱きながらの舌挿れキスに、客たちは嬉しそうだ。

「おうおぅ、いいなぁ、エロくなってきたぞ」

 大貴は扱きかたも巧い。祥衛が自分でするときの触りかたよりずっといい。指先は裏筋に貫通しているピアスを弾くように刺激してきたりするし、緩急のついた擦りかたに祥衛は酔いしれてしまうばかりだ。

「ふー、じゃあっ、祥衛にフェラの授業しよっかな……」
「ひっ……あぁ!」

 ひときわ大きく扱いてきた大貴にそう言われた。
 大貴は、祥衛の先走りに濡れた指先を口に運んでみせ、目の前でわざとらしく舐める。

「口つかって気持ちよくして、俺のこと」

 指に舌を這わせるさまをとても直視できず、うつむくようにうなずいた祥衛は蚊の鳴くような声で「……わかった……」とつぶやいた。

 姿勢を崩し、大貴の股間に顔をうずめる。すると大貴はペニスを掴んで祥衛の頬にピタピタと押しつけてきた。そんなことをされたら、祥衛の心音ははねあがってしまう。

(やっぱり……汗のにおい……だ……)

 清潔な香りの大貴に対してよりも、興奮してしまう。

(俺は、おかしいのか……。イヤだ、変態になりたくない……)

 祥衛の心に残っている理性が、かすかに拒否する。
 拒否したところで、両乳首にもペニスにもピアスをつけられてしまって、毎日肛門性交を行わなければならない身で『変態じゃない』なんて言い張ることは出来ないのに。

「咥えろよっ」
「んは……ぅ……」

 祥衛は目を閉じてかぶりついた。大きくて苦しい。
 それでも懸命に顎を動かしはじめたら、大貴に優しく髪を撫でてもらえた。

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「そうそう、そんなカンジで舌つかって……」
「う……はぁ……ン……、っッ……」
「ちょっとずつー、うまくなってはきてるよなー」

 褒められたのでホッとした。大貴のものを口いっぱいにほおばりながら。

 そのまま、しばらく祥衛は咥えていた。

 客たちは日常会話をしていて、窓の外には他の車も走っている……そんな空間に祥衛が舐めている音だけ響く。

「──……なー、ずーっとただ咥えてればイイってわけでもねーって前も教えたじゃん」
「あ……」

 ふとした瞬間、大貴の手のひらに額を押される。祥衛は多量の涎とともにペニスを吐きだしてしまった。

「外側をなめたりとかもするんだって。ずっと咥えてるとあご疲れるからー、休憩にもなるだろ」 
「えッ……う……」

 フェラチオの仕方ももう何度も教えてもらっているのに、いまだに習得できていない祥衛はだらしなく舌を出したまま唾液を垂らし、どこを舐めようかと迷う。

「ほら。ココとかー……」

 そんな祥衛に教えるように、大貴の指先が裏筋を辿ってくれる。祥衛は舌をつけてそのとおりになぞった。尖端に辿りつき指が止まると、祥衛は握りしめもして必死に舐めあげてみるのだが、大貴には快感からではないようなため息をもらされた。

「そうゆうときも根本をしごきながらー、したほうがいいんだけど………まーいっか、祥衛だし」
「ごめ……ぅ……あぁ……」

 大貴は優しく腕をまわして抱き起してくれる。

「ヤスエはマゾでー、ヤラれてるだけでかわいいから、まだ、そんなんできなくてもいっか」
「ン……だいき……っ……」

 ふたたびのキス。つながる舌に酔いしれる祥衛は瞼を開けられない。大貴に奉仕することも忘れて快感にうっとりしてしまう。

 大貴はふた竿のペニスをいっしょに握って豪快に扱いてくれて、ディープキスして涎を垂らしながら祥衛にはとてつもなく気持ちよくて、先走りもまた漏らし、大貴のされるがままに弄ばれた。

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「どう? 体操服の俺はっ」

 少年を連れていても問題なく入れてしまうような問題のあるラブホテルの一室、大貴は上半身だけ体操着のTシャツを着ている。体育大会が近いため《2−3真堂》と大貴の字で黒マジックで書かれたゼッケンが縫いつけられていた。

「おぉ、似合ってるぞ。ヤスエもこっち来い」
「…………」

 ロングソファに座ったハッシーはサングラスを取り、ペットボトルの炭酸水を飲んでいる。祥衛はほぼ全裸で大貴のとなりに立った。おたがいに下半身は伊造に渡されたパンティー1枚で、それはほとんど紐で性器など隠せる代物ではない。おまけに、ふたりとも手首は枷をつかって後ろでまとめられてしまった。

「やっと本来のやらしい格好になれたなお前ら。外じゃ普通のガキのフリしてるけど本当は公衆便所みたいに使ってもらってる肉便器だもんな」
「うんっ、俺たちはみんなの性処理用オナホールだもん。なー、ヤスエー」

 笑いかけてくる大貴に、祥衛は唇を震わせる。認めたくない感情がやっぱりまだ、祥衛のなかにある。有無をいわさず性玩具にされた大貴と違って、自分からこんな運命に飛びこんだくせに。

「本当オモチャみたいに育てあげられやがって。大貴はこのチンポが淫乱っぽくていいよなぁ。一生パイパンのデカチンなんてバカみたいで最高だな。ヤスエなんか中2で乳首とチンポにピアスだぜ、恥ずかしいなお前ら」

 クスクスと笑われている。笑われるような身体なんだ……と思う。

「そうだよー、恥ずかしいオモチャにされた身体でー、今日もいっぱい楽しんでっ」

 大貴はレースに飾られた尻肉を揉みしだかれている。トイレに行っていた伊造が戻ってきた。

「ヤスエくんが白、大貴くんが赤を選んだんだねぇ。紅白で縁起いいなァー」

 彼の持ってきた下着は何種類かあり、好きなものを選べと差しだしてくれたのだ。大貴は吹きだして、それは淫乱ぶる演技ではなく素のようだった。

「あはは……なんだよ縁起って。俺、そんな理由で赤にしたわけじゃねーし……」
「分かってるよ、大貴は赤色が好きだからな。シャアの色なんだろ?」
「うんっ」

 ハッシーの言葉に素の様子のまま大貴はうなずく。あいかわらず尻を揉んでもらったり、睾丸をいじられたりしながら。祥衛の肩に置かれるのは伊造の手だ。

(あ……、ぁ……)

 彼にキスをされる。祥衛は目をとじる。舌を挿れられながら乳首のリングを引っ張られた。伊造は大貴よりも優しい引っ張りかただ。

「大貴は学校の体操着もこのスタイルでいけよ。パイパンチンポ振ってケツも丸だしで」
「ヤだよ、学校でフリチンはぁー」
「じゃ、今度どこかの運動場貸しきってやるから、この変態っぽい格好で体育ゴッコするか」

 伊造の唾液を味わいつつ、聞く会話。もしかしてそれには自分も参加させられるのだろうかと祥衛は憂う。イヤだ。大貴たちで勝手にやってほしい。

「こいつらは学校とセックスの往復で、普通のガキより自由に駆けまわる機会少ないんだ。かわいそうにな、たまには俺がそういう機会やるよ。後ろ手のフリチンでサッカーだ」

 そんな機会のときはW指名されませんように……と、祈ることしか祥衛には出来ない。

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 お互いに後ろ手に拘束されたまま、広いベッドに大貴とねそべり、咥えあう。ほとんど紐同然の下着なのでお互いに穿いたままでも愛撫できてしまう。

 祥衛は車内でフェラチオしたときに指摘されたことを守りながら奉仕しようと思うのだが、手を使えないことが理由だけでなく、やっぱりうまくできない。祥衛のモノも大貴に咥えられているせいで、気持ちよすぎることもあって口がおろそかになる。

「あっ……ぁ……、はぅ……」
「ヤスエくんまた休んでるよぅ。ダメじゃないか、ちゃんと舐めなきゃねぇー」

 69の様子をソファで眺める大人たちにも、やっぱり祥衛は注意されてしまう。

「大貴を見習え。旨そうにしゃぶってるぞ」
「やっぱり先輩性玩具ってカンジだ、大貴くんは」
「えへへ……祥衛は感じやすいからー、ゆるしてあげて」

 相変わらず体操着に下着姿の大貴はちゅぱっ、と音をさせながら祥衛のペニスを口から出す。そんな動作にすら感じて震えてしまう祥衛だ。

「感じすぎてー、頭真っ白になっちまうんだって……」
「ヤスエ、ちょっと乳首デカくなったんじゃないのか」

 立ちあがったハッシーに、身体を覗きこまれる。

(あっ……あ……いやだ……)

 見ないでほしい。恥ずかしい。祥衛も唾液まみれのペニスを吐きだしてしまい。覆い被さっている大貴の尻の双丘を見つめることで、サングラスを外した彼の視姦を意識しないように務めた。

 大貴のアナルは──祥衛よりも挿入される頻度が少ないため、現在進行形では傷んでいない。が、入り口の肉襞は盛りあがっていて、たくさんの男性器の摩擦をここで受け咥えこまされながら育ってきたことが見てとれる尻孔だ。

(俺の……は……もっと、汚、い……んだ)

 自分のアナルを想像して恥ずかしくなる祥衛は瞼を伏せた。客の中には『淫乱なケツしやがって見てみろ』と手鏡を渡してくる者もいて、そういった機会に見るおのれの肛門はだいたいひどいありさまをしていた。凌辱されて傷みきって赤く腫れあがり、爛熟した花かなにかのように変形していることが多い。

「おい、乳輪広がってンじゃないのか」

 ハッシーの声にドキッとする。彼に乳首のピアスをつままれて引っ張られもした。痛い。

「ピアス着けてるからかなァ、大きくなったのは。いいねぇヤスエくん、淫乱っぽい身体に仕上がってきて」
「あ……ぁ……ッ、や…………」

 気づけば伊造も祥衛を覗きこんでいる。大貴は彼らが祥衛を弄りやすいように身体をどけた。その肛門も無毛の性器も離れてゆくから、祥衛はちょっと心細くなる。

「そうだオモチャも持ってきたから、ヤスエくんに使ってあげるよ」

 伊造の言葉に、大貴が食いつく。

「えー、なに使うの? 伊造さんっ」
「普通のピンクローターだよ。しまったなぁ、ニップル責め系も持ってくればよかった」

 伊造は少年たち用のパンティーを入れてきた本屋の紙袋からローターを出してきた。シーツに投げ捨てられたのは3種類で、ワイヤレスのものもある。

「ローターなら俺も持ってるよ。使う?」
「こら、なんで学校にそんなモン持ってってるんだ」
「俺はいつもイロイロ持ち歩いてるじゃん!」

 大貴はベッドから下りてしまう。
 代わりに祥衛に擦り寄ってきたのは伊造だ。

「あ……、あ……」

 振動音がしはじめる。リモコンから伸びたコードの先にあるタマゴ型の物体を胸に近づけられるだけで、祥衛は内腿を震わせ、喉をひくつかせてしまった。快感の記憶がそうさせる。

「あぁあ……──あぅう……あー!」

 乳頭の先に接着された途端、妙な声をあげてしまう。
 ハッシーは触れてこないものの興味深そうにニヤニヤと祥衛を見下ろしている。

「もっともっとぉ乳首大きくして、ベテラン男娼っぽいエロイ身体になろうねっヤスエくんッ♪」
「う……ぁ……あ……あぁッ、あっ」
「ヤスエがんばってるんだぜー、オモリのついたクリップとかつけてー、乳首鍛えてるもんなー」

 通学カバンを固定されたままの後ろ手で持つ大貴がまた戻ってきてくれた。

「ほぉ、トレーニングしてるのかヤスエは」
「そうだよ。見てるだけで痛そーなのに勃起してよがってて、コイツまじすげーなーって感心する」
「大貴くんは鍛えないの? 乳首っ!」

 2つのローターを使って祥衛の両乳首を責めながら伊造が問いかける。
 ベッドに座る大貴は「ヤだよ!」と即答した。

「俺はぁ胸はー、あんまし調教されてなくてー、けっこう素で残してもらってるもん。これ以上ヘンな身体になりたくない!」
「ココは大貴の身体で、一番純朴なんだな」

 ハッシーは大貴の左乳首をきゅっとつまんだ。器用にも行儀悪く足先を使ってカバンをゴソゴソ探っている大貴は唇をとがらせる。

「あ……もー……さわんなよー。つーか、俺にもヤスエいじめさせて」
「今日はナニ持ってるのかなァ、大貴くんは」
「海外のヤツ。いいだろ、これー!」

 唇をゆるめている大貴が、演技ではなくウキウキしていることが……祥衛は快楽に溺れながらもわかった。

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 大貴は手枷を外され、自由になった両手で祥衛の凌辱に加わってきた。指にはめて魔女の爪のようになるローターで日本製のグッズより振動も強い。伊造が「うわァそれいいなぁ!」と連呼して興味深そうにしていると、大貴は簡単に「じゃーあげる」と微笑む。祥衛は彼らによって乳首だけでなく身体じゅうの敏感な部分を責められて、失禁してしまいそうなほど……とろけきっていた。
 
「や……はぁ……も……」

 呼吸を乱して倒れている祥衛は、大貴の振動する指先に内腿を撫でられるだけでビクビクしてしまう。勃起しっぱなしの性器からは先走りの液がとまらない。高まりつづけている快楽。

 もう……イカせてほしい。

 それなのに先程から性器は誰にも触ってもらえずに、焦らすように周囲ばかりをなぞられる。もどかしく身をよじることしかできない。

「美味しそうに仕上がってきたねぇえ、ヤスエくん!」
「ンっッ、ひゃ……」
「そろそろ食べごろかなぁあー?」

 尻の双丘を伊造に掴まれ、開かれ、蕾を舌先で突かれる。瞬間、快楽中枢に電撃が流れるかのような刺激が、祥衛の背骨を駆けあがった。

「すっげぇ……そんなさわってねーのに、ケツがトロついてる……!」
「ローション使わなくてもエッチできそぉだねェ! ボクのヨダレで十分だね!」

 大貴に興味深そうに覗きこまれ、伊造には舐めあげられ、祥衛は泣きそうな顔で悶えてしまう。

「やめぇ、らぁあ、あぁあ…………ひァあ、」

 みっともない声が喉から溢れた。こんな姿も声も顔も誰にも知られたくない、見られたくない。

「うぅ……もうぅ……やぁ、ああ、ッひぁや──!」
「イヤイヤも好きのうちだね、だって美味しそうにローター食べてるよ!」
「あぁはぅうッ、うぅうー……!」

 伊造によりタマゴ型のローターを肛門に当てられ、飲み込まされる。柔襞を抉るように暴れる振動。身をよじる祥衛のそばでは大貴がハッシーとキスをはじめていた。大貴はうれしそうに腕を回していちゃついている。

「ほうら、ほらッ、ヤスエくんわかる?! 出たり、入ったりしてるんだよ!」
「あは……ぁ……」
「傷だらけで震えてカワイイお尻だねぇ!」

 ローターを飲みこまされたままそこにキスをされれば、また、例えようもない快感がゾクゾクと祥衛に襲いかかってきた。

「じゃあ俺のケツもー、祥衛みたいにトロトロにしてぇ、マンコみたいにしてー」
「こらこら、サカるな、大貴」

 クスクスと楽しそうなまま大貴は全裸になり、祥衛とは身体の向きを反対にベッドで四つんばいになる。きっとワザとだ。祥衛に見せつけ視覚的に責めようとしている。

 結局ほとんどの仕事で祥衛は、客にも大貴にもいじめられてしまう。完全に凌辱されているのは祥衛だけになってしまうことが多い。

(どう……して……? 俺がマゾだから……?)

 M字に脚を開かされて伊造にめちゃくちゃに舐められながら、手を伸ばせば届く距離で大貴の尻にローションのボトルが傾けられるさまを、見せられる。

「あー、きもちいぃッ……、ケツでぇ、イキそうになるぅ……」
「ダメだぞ、イッて良いって言うまで我慢しろよ」

 ハッシーは大貴の尻孔をいじってやりながら、少年とは思えないほど猛々しく勃起しているペニスも握って、それは快感を与えるものではなく戒めだ。

「ンッ、だいじょ……うぶ、だからー……あー、あぅ……ン……はっしぃい……」

 大貴から滴る先走りの雫。大人の大きな指が2本、3本と祥衛の目の前で、卑猥にグチュグチュ開いてかき乱すから、祥衛はまばたきも忘れて注視してしまった。

 それを呆然と眺めている場合でもない──祥衛からローターが引き抜かれる。
 
「んやッ!」

 また変な声をあげてしまった。そんな祥衛の両腿を掴んで伊造は涎を垂らす。舌なめずりもしてみせる。祥衛は怖くなった。悪寒が走る。しかしいまの祥衛はもう……身震いと快楽の境目すらもなくなっていて、なんでも悦びに繋げようとしてしまう。感覚が狂っていた──

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「いやァ、あッ、あぁ、あ──……ッっっ!!!」
「うわぁあ、きっつう、ローションなしケツマンきつうぅう、最高だぁ!」
「ひぃやぅ……あっ、あッ……」

 ぶち破るように挿入ってくる男の肉茎。祥衛は真っ赤に染めた顔で目を見開く。痛みはもちろんあったが、それ以上に衝撃が激しかった。一気に根本まで突き上げられ、身体がおかしな反り方をする。わずかに残されて刈りとられた自分の陰毛と、ピアスの揺れる肉棒を見る。

「あンッ、あっ、あ、あぁうッ!うぅンッ!」

 足首を掴まれて激しく打ちこまれる。

「あッ、ひゃぁ、あ! あ! あぁあぅン……!」

 抜き差しされて悶える祥衛は隣の挿入も目にする。

「ほぉら大貴も挿れるぞー」
「あ──……ッ、あぁ…………!」

 伊造のモノよりも大貴のモノすらも超えるデカさを持つ太くて重厚な性器が、大貴の双丘に突き挿れられてゆく。突起物のついたバイブのようにボコボコと幾つもの球体が埋められたペニスだった。貫かれた大貴は後背位で受け入れながらも自らの喉をさわり、掻いている。そこは大貴の性感帯だ。

「すっげぇ……あぁぁあ、はっしぃっ……」
「旨そうに咥えこみやがって、とんだ淫乱ガキだな、お前もヤスエも」
「あぁあ……ケツんなかいっぱい、きもちぃ……俺ぇ……、やばいよぉ……」

 甘えた声とともにくねらせる大貴の尻を、ハッシーはパァンと平手打った。すぐさま赤く染まる。

「素でヨガってんじゃねぇぞ、大貴」
「だって……、あぁ……すご、ぃからぁ……!」
「そら、そぅら、しっかり性処理しろよ!」
「あッ、んぁッ、はっしー、あっ、あッ、あっあぁッ、スゴ……っ、ッううぅ……」

 開始された抽送。祥衛たちよりも安定感のある交尾が繰り広げられてゆく。挿入される側もする側もセックスに慣れていて上手い。大貴は感じてしまいながらもちゃんと体勢を整えて受け止めているし、ハッシーも丹念かつリズミカルに腰を使って快感を得ている。

 それにくらべて祥衛と伊造はめちゃくちゃに乱れているだけだ。祥衛だって悪い。喘ぐことしかできず、刺激を受けるたびに不随意に暴れるだけなのだから。

「ヤスエくぅん、ヤスエくん! すごいね、ボクのほうが妊娠しちゃいそうだよぉ!」
「ッ……んあぁぁう、あぅう……!」

 布団を蹴り、シーツを引っかき、伊造からは後孔への刳りとともに涎まみれのキスをもらう。キスというよりも顔をベロベロ舐めまわされるような汚らしい愛情。潔癖症の気がある祥衛は本当に泣きたくなってきた。表情を歪めてしまう。

 それなのに興奮は続いていて、気持ちよくて、おかしくなりそうだから、妙だ。

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 祥衛と大貴はお互いに中出ししてもらい──大貴は即座に口を使っての清拭に移行した。射精された白濁を垂らさないように尻孔をきつく締めながら、客のペニスに喰らいつきクリーニングをする。ベッドにどっしりと座るハッシーは、そんな大貴の髪を撫でてやっていた。性奴隷といった存在を使うことに慣れている様子だ。だからこそ少年ながらも仕事をきっちり行う大貴を好んで使っているのだろう。

「どうする、もういっかいする……?」

 突起物だらけのペニスに軽くキスをして、大貴は上目遣いをする。ハッシーの手は愛おしむような撫でかたをしていた。

「まだ時間あるし……」
「いや、もう満足したよ。ありがとうな大貴」
「! えへへ……」

 はにかむ大貴は身を起こす。

「風呂でさっぱりするか。お前のケツも洗ってやる」
「えっ、ハッシーが……? 悪りぃよー」
「俺の中出しだ、俺が掻き出してやってもいいだろ。ついでにお前のチンポも扱いてやる」
「ほんとっ? 俺も射精していいの?」

 大貴たちはベッドから下りる。絨毯に素足をつけてから、大貴は折り重なるようにして気を失っている祥衛と伊造を見た。
 
「このふたり……どうしよ」
「ほっとけ、ほっとけ。そのうち起きるだろう」
「うん……」
「気遣い過ぎても成長しない。ヤスエも少年男娼として生きていくんだ、たくましくならないとな」
「…………」

 心配そうに祥衛をしばらく眺めたものの、大貴は客に肩を抱かれて浴室に行く。

 祥衛はそんな大貴の視線を、薄目をひらいて感じていた。伊造にのしかかられている重みで目覚めて。この中年は祥衛の肌に涎を垂らして熟眠しきっている。

(きたない……、重い……)

 激しく眉間に皺を寄せる。尻穴から中出しの精液を漏らしているのと祥衛自身も絶頂を極めてしまったせいで、体中は白濁液にもまみれていた。唾液にも、汗にも、浸されているだけではなく。

(だぃき……いつも、心配させて……俺は……)

 伊造のイビキを聞きながら、祥衛は再び目を閉じる。起きあがって拭きたいのに身体が動かない。

(ごめ…………)

 遠のいていく意識。イビキの向こうにシャワーの水音と無邪気な笑い声が聞こえた。

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 祥衛は叩き起こされて、大貴にあれこれ世話を焼いてもらいながら服を着る。

 車に乗ってホテルを後にすると、外はすっかり日が暮れていた。高速道路からは過ぎ去る高層ビルの明かりやネオンがよく見えた。色とりどりに鮮やかで綺麗だ。

 都心に戻ってから回転寿司を4人で食べる。彼らはFAMILYのビルまで送ってくれると言ったが、裏路地に入る前に大貴が「ここでいいよ」と言う。大貴はちゃんと挨拶をして、祥衛も頭を下げて、ミニバンから降りた。すぐに車は見えなくなった。

「はー、疲れたー……でもヤな仕事ではなかったなー。ハッシーのチンコきもちいぃからー、ちょっと腰ぬけそうになる。人間バイブだなー。そう思わね?」
「あぁ……」
「ウチ帰ってもっかいフロ入ろっ。あのラブホのシャンプーもボディーソープもスキじゃねーもん。キャピキャピした女みたいなにおい!」
「…………」
「気にいってるローターあげちゃったけど、まぁいっかー」

 お礼を言いたいのだけれど、やっぱり言えないまま。
 祥衛はいつも通りに聞き役に徹するだけで、にぎわう夜の大通り、制服姿の大貴のとなりを歩く。

「つーかヤスエ、相当あのおっさんに責められてたよな。だいじょうぶかよ。ちょっと俺も祥衛のこといじめちゃったけど……」
「……平気だ……」
「ごめんな。なんかー、祥衛見てるとー、つい……いじわるしたくなるときあるんだよなー……Sな俺はキライ?」

 大貴が謝らなくてもいいのに、と思いながら祥衛は首を横に振る。街灯の明かりの下で大貴はホッとした表情になった。

「よかった。じゃあ、これからもエッチのとき、いじわるする!」
「……ちょ、や……」

 嬉しそうに笑って身体に腕を絡ませてくる。痛い。プロレスの技みたいで苦しい。すぐに腕をほどいてくれたけれど。

「俺ー、タクシーひろって帰ろうと思うんだけど、祥衛どーする? 次の仕事あるんだろ」
「あぁ……」
「なんじ? どこで?」
「21時に国際センターで……待ちあわせだ……」
「じゃあついてく、俺もそこまでいっしょに歩こっ」
「……いい……」

 これ以上迷惑をかけられないから、祥衛は断ろうとした。それに国際センタービルは目と鼻の先。まっすぐ歩けばいいだけで、ここからビルは見えるくらい近い。

「俺も帰り道そっちだし。なにゆってんだよー」
「……」
「祥衛はー、今日の仕事は次で終わり?」

 うなずいたヤスエは、大貴にも聞いてみる。

「大貴は……?」
「俺はぁもう終わったみてーなもんだよ。いっかい家帰ってちょっと休憩したらー、お茶するんだー。おしゃれな夜カフェいく、エッチはなしだもん。ガチショタコンのひとだから」
 
(ガチショタコン……)

 言っている意味がわからなくて黙っていると、通じたらしく、説明してくれる。

「俺がー、ちいさいころに接待してたひとなんだけど、中学生はもうエロの対象外なんだって」
「それは……激しいな」
「発情はできないけどー、俺じたいはスキらしくてー、出張でこっち来るとぜってー会ってくれるんだー。ヤスエにも今度紹介する。すげーかっこいいおじさんだよ!」

 大貴はその場でくるりとまわった。無邪気にニコニコ笑いながら話してくれる。

「でー、それ終わったらー、きょうへいと遊ぶっ。ガストで朝までモンハンやるんだー」
「……そうか……」
「仕事終わったら、祥衛も来てもいーんだぜ。つぅか来いよ。きょうへーは祥衛ともっとしゃべりたいってゆってたし、俺も祥衛と恭平は気があいそうって思う」
「…………」

 そう言われても、クラスメイトと接するのは苦手だ。ろくに話したことも接したこともないのに、苦手意識ばかりが先行する。

「きょうへーんち母子家庭だし、ほとんどひとりぐらしなんだ、アイツ」
「そうなのか……」

(たしかに、俺と重なるところもあるんだな……)

 知らなかったことを教えられた。ちょっと意外に感じる。

「仕事のことはさすがにゆえねーけど、他のことならけっこう話してる。夜中も自由に遊べるしー、学校のヤツらのなかではいちばん仲いいかも」

 赤信号で立ち止まる。横断歩道を渡ればもう国際センタービルだ。

「ほんとうはー、沢上ともけっこう気が合ったんだけどなー。転校しちまったから……」
「…………」
「あ! 恋愛、とかじゃねーぜ! 俺は沢上のことは……女としてみてないってゆうかー、あ、それはっ失礼な意味じゃねーし……」
「……わかってるから」
「ホント? よかったー、沢上いいヤツだよなー」
「俺には……もったいない」
「そんなことねぇよ」

 信号が変わって、横断歩道を歩きだしながら大貴は微笑った。

「祥衛はあの沢上のスキな男ランキング第一位なんだぜ。自信持てよっ」
「…………」
「ヤスポン! 祥衛はすげーイケメンだしー、祥衛と友だちってこと俺みんなに自慢してるもん!」
「してるのか……」

(はずかしいから、やめてほしい……)

「じゃあな、ヤスエっ。ガストどうする? 来んのかよっ」
「……すこし……顔出す……」
「まじで! やったー! 今日の朝の占いでおうし座のあなたはハッピーってゆってたけど、あたった! わーい、俺、うれしいから走ってかえる!」

 渡り終えたところで大貴は本当に走りだした。祥衛は立ち止まり、そんな大貴を見送る。

「またあとでなー!!!」

 走り去る背中に、祥衛はすこしだけ微笑ってしまう。大貴といると楽しい。ひどい目に遭う仕事も耐えきれる。

 すぐに次の男が迎えに来てくれたから、祥衛は彼とともに近くのホテルに行き、ふたたび股をひらく時間となった。

E N D