男娼大貴・業務日報

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【16:30】

 深浦篤(ふかうら あつし)は大貴の通う中学を知っていた。2年ほど前から彼を指名買いしており、つき合いの中で得た情報である。最近では下校途中に迎えに来て、そのまま弄んでやることもあった。今日もまさにそのパターンだ。急に遊びたくなって昨日電話をし、他にも何件か仕事が入っていて忙しいという大貴に無理を言って1時間だけ手に入れた。
 
 というか、大貴に電話を掛けたときは既にいつもの口座に金額を振り込んでおいた後。強行して、断れないようにしてしまったのである。
 
 約束の場所へと車を停める。並ぶ民家の間から校舎が見える──学校が近くて、なおかつ人通りが少なく、目立ちにくい路地だ。

 ほどなくして現れた大貴は、学生服に鞄を肩から掛けていて、傍目にはふつうの子どもと変わらない。
 助手席に乗り込んでくると人好きのする笑顔を浮かべ、お疲れ、ちょっと遅くなってゴメン、掃除さぼろうとしたけど無理だった、などと話し始める。

「嘘はいかんな、大貴。知ってるぞ、校門の所で女のコと話してたじゃないか。離れた所から見ていたんだよ、長話しだったな?」
「げっ……まじで? でも掃除当番の話はホントだよ」
「どうだか。少年男娼は恋愛禁止な癖に。女子と仲良くしたらダメじゃないか」
「ただの友達だし。何言ってんの?」

 とぼけるつもりか、と深浦は思った。まぁ、しかし大貴のプライベートには興味はない。こうして会ったときに、楽しませて貰えればそれでいいのだ。
 
 車を動かし、向かうのはFAMILYの事務所。大貴を送り届けるついでにビルの駐車場で抜いてもらうことにする。何しろ時間はわずかしかない。

「あ、れーさんいる」

 ビルの1階部分をくり貫いたスペースに停めると、隣には洒落た外車があった。

「斉藤君、また車変えたのか」
「何台も持ってるみたいだよ。俺もよく知らねーけど……」

 大貴の肩に手を回し抱き寄せる。まずは濃厚なキスから始めた。舌を挿れると、大貴のほうからも絡め返してくれる。口で繋がりながら少年の下腹部もまさぐってみた。学生服のファスナーを開けて中を触ると、相変わらず無毛の性器を掴める。大貴のそこは処理されて永久に生えてこないそうだ。もちろん股間だけでなく、全身全てがなめらかさを保つ。そして陰毛の類の他にも、大貴の身体は様々に手が加えられているのだった。まさしく性玩具として愛でられるために育てられた身体なのである。

 弄りながら唇を愉しんだあとは、少年に奉仕をさせる。運転席を後ろに下げ、股の間に大貴を迎え入れた。
 
 大貴のフェラチオは絶品だ。深浦の知る限りでは、この歳でこれほど巧い男娼はいない。口の使い方だけで金を取れる少年。実際に深浦も、フェラチオのみさせて他は何もしなかった夜もある。

 また、大貴は美味しそうにしゃぶるのだ。ベルトを外し、スラックスを下ろすと微笑いながら口に含む。心なしか──いや確実に、大貴は己がそうされるより客のモノにしている時のほうが嬉しそうだし、楽しそうだ。受け身よりも、自分が動くほうが好みなのか。

「あぁ、いいよ、大貴……」

 深浦は快感に身震いする。大貴の舌は絶妙に這い回り、やがて深く喉の奥まで深浦のペニスを飲み込んだ。一体、これほどの高い技巧を身に付けるまでに、どれだけ厳しく躾けられたのだろう。

 そして、深浦が大貴の口奉仕を好む理由はテクニックだけでなく、此処にもある。……くわえさせながら彼の股間を爪先で探ると、完全に膨らんでいた。
 大貴はフェラチオをすることで勃起する。刷り込まれた条件反射なのか、元々しゃぶるのが好きなのかは定かではないが。

「んッ……いじっちゃイヤだ」

 股間を足で探られて、大貴は上気した頬でペニスから口を離した。唇も顎も唾液で濡れている。

「大貴は淫乱だな、おじさんのを舐めて興奮しちゃうんだから」
「踏むなよぉ……だめ……」
「パンツにシミまで作って。欲情したね、大貴」

 言葉でも弄ってやると、大貴はぎゅっと深浦の性器を握って目線を落とす。恥じらいを感じているようだ。その素っぽさというか、いつまで立っても消えない初々しい反応も深浦の心をとらえている。ベテランの男娼に似つかわしくない。まるで大貴は身体だけがどっぷりと性玩具として染められていて、心は年相応の、ふつうの男の子のままといった感じなのだ。

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 残り時間は少ない。深浦は大貴を車外へと出した。制服のズボンを下着ごと奪い、壁に手をつかせる。奥まった場所であるのと車が影になっていて道路からは全く見えないのだが、大貴は屋外で下半身を晒すことにひどく羞恥を覚えているようだ。頬はますます染められ、眉間に皴も寄っていた。

「恥ずかしいんだね。でもおじさんにお尻を向けて、余計におちんちんが起ってるぞ」

 夕陽と頭上の蛍光灯の明かりで、深浦は尻肉を割って孔を観察する。毎日犯されている割には綺麗だが、やはり赤く充血している。絶えずモノが挿入され擦られれば否が応でも粘膜は傷付く。

「やっ……見んなよッ、そんなトコ……! はやく挿れろったら」
「急かすねぇ。おれのチンコが欲しいってか」
「今日あんまり時間ないだろ。俺の、カバンのなかにローション入ってるから……」

 恥じらう大貴は、振りむいて車内を示した。言われた通りに深浦が座席に放られたカバンを持ってくると、案外重い。開ければ教科書やノートに混じり、潤滑油やらヴァセリン、性的な玩具、替えの下着に歯ブラシといったものまで詰まっている。
 
 何度か学校帰りの大貴と逢ったことはあるが、カバンの中を見たのは初めてだ。深浦はこの中身に驚いた。

「おいおい、こんなモノ、学校に持って行ってるのか」
「だって、何が起こるかわかんねーじゃん。今日みたいに、がっこーの帰りにエッチする日なんてしょっちゅうだし。急にやられたり……」

 深浦はローションの瓶を開けると、手にとって塗り付ける。感触が冷たいのか大貴は小さく震えた。

「んッ……あぁ、ふ……っ……」

 人さし指と中指を束ね、いきなりに捩じ込んでゆく。ドロドロに塗れているせいもあるが、調教済のアナルは難なく大人の指を受け入れた。内部を混ぜて抽送すれば、その度に大貴は切なげに声を漏らす。突っ張る足に力が込められているのも深浦に伝わった。
 
 しかし、容姿の調った少年とはいえ今の状態はブザマ以外の何物でもない。上半身は学ラン、下は靴だけで、屋外でこうして尻を突き出すなんて──学校指定の色は白と定められているため、大貴はクリーム色のコンバースを履いていた。靴下を嫌って真冬でもない限り素足の少年の脚に、注がれるローションの筋が伝って垂れている。
 
 地面には他にも滴があった。大貴のペニスから分泌された先走りの汁だ。

「誰か、通りかからないかな。斉藤君でもいいよ。大貴がお尻で感じてる所見せつけたいね」
「や……っ、あん、見せたく、ねーし、……!」

 繰り返し指を動かして慣らしてゆくと、大貴の漏らす声は嬌声のようになる。意地を張っていても、時折女の子のようにアエギを零してしまうようだ。
 
 少年男娼の尻穴など、女性器と対して変わらない。ペニスよりもこちらを触られるほうが気持ちいいという男娼もいる位だ。幼い頃から肛門を性的に鍛えられれば、否が応でもそんな身体になる。
 
 大貴も例外ではない。
 
 嫌々と首を振っていても、腸壁はあさましく深浦の指に絡みついてくる。きっと昨晩もその前の晩も他の客に同じような愛撫を受けているだろうに、突っ込まれれば飽きる事なく食らいついてくる淫猥なアナルだ。

「ふッ、んぅ……も、いいから……」

 大貴は瞼を閉じ、壁に額をつけている。

「何がいいんだね」
「もう慣らさなくていいから。早く、いれればいーじゃん……」

 そんな言い方では深浦は納得しない。もっといやらしく、情熱的に求められたい。
 たとえ、残り時間の少ない行為でも。大貴にとっては一日の仕事のうちの、単なる流れ作業のひとつでしかないのかもしれないけれど──

「おじさんを見ないか、大貴」

 ぬめる入り口を指の腹で円を描くように弄り、焦らしながら少年の頭を掴む。ローションに髪が濡れたが、深浦は気にしない。大貴は首をひねり、顔を後ろに向けた。
 
「もっとちゃんと、おねだりして欲しいんだけどな」
「……入れたいのはそっちだろ、急に電話してきて。俺はいそがしいのに、今日絶対だいきくんに会いたいってゆったから、むりして時間作って……ケツ出してんじゃんか!」

 高級娼年らしからぬ生意気な口調に、深浦は笑った。この性格が大貴の可愛さでもある。

 深浦はズボンから勃起したモノを晒すと、先端を少年の孔にあてがった。瞬間、大貴の身体がビクついて跳ねる。

「! ひぅ、ッ……」
「おねだりしないと、ずっと焦らしたままだぞ。まだ時間は十五分もある」
「あっ、あぁッ、イヤ……!」

 ふるふると震える大貴に、亀頭の先だけが滑り込む。瞬間にあぁ、と声を上げてその身体には力がこもった。

「全部挿れろよ、もう……!」
「そうだな、大貴は淫乱な男の子だから先っぽだけじゃ満足できないな?」
「い、いんらんじゃねーもん、ちが……」
「素直にならないと、ずっとおあずけだ」

 深浦の言葉に、大貴は唇をきゅっと噛んだ。興奮からか屹立した少年のペニスからはさらに涙が伝っている。そんな大貴に追い撃ちをかけるべく、先端を抜きとって再び指でアナルを撫でた。物欲しそうに口を開く孔。

「あ……んッ、ひ……!」
「ヒクついてるよ。認めないか、大貴は性玩具だろ?」
「くッ、うぅ、せいがんぐ……」
「そうだ。すました顔して学校通ってるけど、お前の本性なんて公衆便所と変わらないもんな」

 きつい言葉を浴びせれば、呻き声が漏れる。少年が事実を受け入れずとも、その身体は貪欲に深浦を欲しがっていた。中指の第一関節のみを埋めてやれば痛いほどに吸い付いてくる。

「あぅ、あんッ、いれて、篤さんのチンポ欲しいっ、つっこんでほしぃ……」

 我慢できなくなったのか、やっと大貴は甘えてきた。一層腰を突き出して、尻の穴を見せつけてくる。

「ふん、どこに入れて欲しいんだ」
「俺の……穴にハメてほし……」
「穴じゃないだろ。大貴は便所なんだから、もっといやらしく言いなさい」
「んふ、うぅ……俺の、ケツマ…ンコ……」

 その様に満足し、やっと深浦は挿入してやる。一気に刀身すべてをぶち込んだ。大貴は嬌声とも悲鳴ともつかない声を上げ、表情を歪める。

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「あッあぁあぁ…!!」

 少年玩具にゴムを使う必要はない。遠慮なく生で挿れて、思いきり中出しをするのが基本の使い方だ。抜き差しも少年に気を遣う事なく、客は自分の欲望を満たすためだけに腰を振ればいい。
 
 少年のほうもそれを理解している。大貴は多少の痛みが走ろうとも、体勢を崩さない。客がしやすいように尻を突き出し、懸命に肉杭を受け入れてくれる。打ち込みに合わせて漏れる声も艶があり行為に華を添えた。

 正直、どこまでが演技でどこまでが素なのかは深浦に分からない。喘ぎは作った声には聞こえないが、この子は普通の子どもではないのである。
 大人と性的な遊びをするために育てられたような存在なのだから……

「あッ、あっ、はっ、んッ、あーッっ、イイ、こすれてる、あぁあッ、きもち……いよッ……」

 とはいえ、今の大貴はウソでよがっているようには思えない。本当に悦んでいるはずだと深浦は思う。一度も触れていないのに、屹立し天を指すペニス。深浦は貫きながら、それを握りしめてやった。

「! やっあぁ、だめ……」
「やっぱり大貴も男の子だな、お尻よりこっちのほうが感じちゃうか」
「んぅ、ふーッ、うぅうッ…!」

 無毛の癖にサイズの大きい肉棒。皮も剥かれて大人のそれと姿は変わらない。擦ってみると固さが増して、カウパーの分泌がドロドロと促進する。
 
 このまま続ければ、間違いなく大貴もイク。けれどもう時間も終わりだし、自分だけが達してやろうと深浦は思う。──それに大貴はどうせすぐ、次の男に犯されるのだから今射精しなくとも別にいいだろう──?

「あん、ぁッ、ひぅ、あっ…あぁあ!!」

 なめらかに筋肉のついた腰を抱き、深浦は絶頂を叩き込む。遠慮なく奥に射精した。

「今日最初の種付けだよな、大貴」

 毎日無数の精液を受け止めている少年のアナルだが、その日一番はじめに中出しをした者になるのは何だか気分がいい。まだ誰のモノも吐き出されていない内部を、己の白濁で汚す優越感がある。

「あぅ、う……」
 
 深浦が抜き取ると、大貴はその場に崩れ落ちた。頬を上気させ、吐息も熱く荒げている。尻穴はローションと深浦の精が混ざった濁液に塗れ、淫らだ。

「お前をイカせる時間はないよ。仕方ないね、自分が遅刻してきたんだから」
「うん、そう……」
「綺麗にしてくれるね?」

 深浦の言い分に大貴は頷く。息を切らしたまま体勢を変えて、深浦の足下に這いずってきた。勃起した性器と後孔から液汁を垂らしながら来る姿に、深浦は微笑む。少年のこんな姿が見れるのだから、わずかな時間でも買って損はない。

 大貴は躊躇いなく深浦のペニスを口に含む。使用後の客の性器を舌で清めてくれる、玩具らしいサービスだ。絡みついたローションも精液も全て舐めとってくれる。

 今の今まで自分の尻穴に嵌まっていたものなのに、大貴には抵抗感がないらしい。それどころか先ほどのフェラチオと同じく、しゃぶっていると発情してしまうのがこの少年の性(さが)。反り返って主張する大貴の肉棒からは、舐めながらまた新しい蜜が滲み出ている。

「ありがとな、大貴」

 亜麻色の髪を撫でてやると、大貴は上目づかいで深浦を見てきた。……この瞳に深浦は弱い。

「……うぅん、なんかあわただしくてゴメン、またちゃんとエッチしよ。時間のあるときにゆっくり……」

 すっかり綺麗になった深浦のペニスから顔を離し、大貴はいきり立ったままの、自らの股間に指を這わせた。様々な液汁に塗れたそこは手のひらでは拭いきれない。太腿を伝う滴には白い濁液もあり、それらが垂れてコンクリートに染みを作っている。

 ああ……、と返事をする深浦の前で、大貴は汚れた指先をべろりと舐めた。その動作に深浦は見とれてしまう。わざとやっているのか、と思うほどにいやらしく、挑発的な仕草。

「できれば急じゃなくてー、前もって予約してくれると、助かるんだけど」
「そ、そうするよ……」
「そしたらもっとじっくり俺もフェラできるし? 何回もイカせてあげられるもん」

 話しながら大貴は立ち上がり、脱ぎ捨てた下着を使って股や股間を拭く。そしてそれは着けず、素肌に直接ズボンを履いた。

「パンツいる? 俺の」
「えぇ? いらないよ」
「遠慮しなくていーよっ。ほいっ!」

 さわやかな笑顔で、汚れた下着を投げられる。衣服を乱したままの深浦はついキャッチしてしまう。体液や潤滑油でドロドロの、モノトーンのアーガイル柄のボクサーパンツ。

「おい、大貴」
「じゃあもう行かなきゃ、またメールするね。篤サンもひまなとき連絡して! バイバイ」

 速攻で消えてしまう少年。駆けてゆく足音を残し、残ったのは未だ性行為の余韻に漂う深浦と、行為の痕跡、体液とローションの滴飛び散るコンクリートの床。

「まったく、何に使えってんだ」

 苦笑して、深浦は車に戻った。空の助手席に大貴のパンツを放る──

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 上昇するエレベーターの中、大貴はベルトも閉めず、シャツもはだけただらしない姿だ。壁にもたれ、不機嫌な表情でごしごしと口許を拭う。

(くっそー、強引に予約いれやがって。むっかつく、次やったら怒ってやる!)

 今回は営業してやったが、何度も続くようなら素でキレようと思った。克己のようにずっと『男娼』でいられるほど、大貴は器用ではない。

 10階に着くと、拗ねた顔のままで降りた。通学カバンもずるずる引きずってゆく。薫子がFAMILYのビル内に借りている小部屋を合鍵で開ける。薫子は今、仕事のために遠出しているのだった。

(せーふくも汚れたし、サイアク。ケツん中べとべとする、はやくシャワー浴びたい……!)

 カバンを玄関に捨て、浴室に直行した。制服を脱ぎ捨て、即座に頭から被る水流……締めていたアナルをゆるめると、白濁が垂れてくる。篤の精液は濃厚であり、量も多かったのだ。

 行為の余韻で、大貴の性器は軽く勃起したまま。先走りの雫までも未だに滴っている始末だが、そんな身体を泡立てて綺麗に清めていく。

 大貴が仕事の前に決まって使うボディジェルはベルガモットの香り。母親の好きだったアールグレイティのにおいに似ているから、ひどいことをされる夜でも守ってもらえるような気がして……まだ実家にいる幼い頃から同じものを使っている。接待の相手や、客の大人たちにもこの香りは好評なので、気を良くして使い続けているというのもあるけれど。

 肛門にはシャワーヘッドを押し当てて浣腸をし、大貴は今日のスケジュールについてぼんやりと考えていた。意識を仕事モードに移行させていく。

「ふぅ……」

 濡れた髪を掻き上げれば、鏡に映る顔は色気をにじませる『男娼』のものとなっていた。香りは大貴の気分を落ち着かせるとともに、性行為を受け止める心構えも与えてくれる。

(……まーいいや、篤サンにはむかついたけど……今日も仕事がんばろっ)

 自分に言い聞かせ、大貴は頷いた。浴室を出て身体を拭くと、トイレで深浦の残り香を完全に排出する、シャワーで挿れたお湯とともに。それから、カゴに畳んで入れられている衣類に袖を通す。

 深浦のせいでマンションに帰る暇がなくなり、薫子にメールで『着替えをFAMILYのビルの部屋に持ってきて』と頼んだのだ。ちゃんとそろえて置いてあり、優しさに大貴は頬をゆるめる。

 彼女のセレクトなので、大貴が選ぶよりも上品なコーディネート。着替えた大貴は早速、薫子にお礼の文章を打つ。ハートマークももちろん飛ばした。

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【18:40】

 駅前からほど近い場所に建つ高層ホテル。会社帰りの駒形圭一朗(こまがた けいいちろう)は、ゆっくりとした足どりで其処へ向かっていた。
 
 少年との待ち合わせの時刻はとうに過ぎている。しかし、駒形は急がない。この遅刻は『確信犯的』なもの。
 
 瀟洒な建物の自動ドアをくぐると、1階フロアの奥に広がるカフェ・スペース。宿泊客以外も気軽に立ち入れる喫茶フロアだ。ビクトリアン様式のソファとテーブルとが並べられ、空間は談笑に溢れている。窓際の席に、駒形を待つ──大貴がいた。

 独りティーカップに口をつけ、硝子越しの景色に視線を向ける亜麻色の髪の少年。時には髪をワックスで遊ばせていることがあるが、今日は目立ってセットしている様子はない。服装はと言うとヴィヴィアン・ウエストウッドのカーディガンから、シャツの襟が覗く。傍らに脱いで置いてある上着には見覚えがあった、グレイのピーコートだ。以前彼を買った際に、着ているのを一度目にしたことがある。その服装にジーンズを合わせた姿は大人びており、雰囲気はとても中学生には思えない。少なくとも、高校生か。

 駒形はそんな少年を観察する。……眺めたいが為に、わざと遅刻をしたのだ。

 彼の造作は駒形のタイプ。とびきりの美少年という訳ではないが、十分に調っている。切れ長の眼が印象的な凛々しい顔だち。容姿はまだ成長途中で、あどけなさを滲ませているけれど──あと数年もすれば今よりも、美男になるに違いない。長い手足は少年の背丈にまだ伸びしろがあることを示唆していた。

 駒形の瞳に映る大貴は、今まさに大人の男へと変わる過渡期に存在する。『少年』という時期は短い。短命が故に儚い美がある。いずれかき消えてしまう若さ、熟れてしまう前の青い果実だから、眺めていたい。

 想いを抱きながら、喫茶フロアとロビーとを仕切る硝子の衝立に身を寄せて、観葉植物の影で彼を窺う──眺められているとは知らぬであろう少年は頬杖をつき、片手でケータイを開いた。時間を見ただけなのか、すぐに閉じてまたテーブルに置く。そしてティーカップに口をつけ、ぼんやりと通りを眺める。素の様子を垣間見れるのも、遠目に覗く愉しさだ。

 駒形の盗み見は今回がはじめてではない、むしろ常習的に行っている。良い趣味でないことは自分でも分かっているけれど、やめられない。

 しばらくの鑑賞の後、駒形はやっと喫茶室に足を踏み入れた。まるで今来たかのように、何食わぬ顔で少年の向かいに腰を下ろす。

「やあ、ごめんごめん。会議が長引いてしまって」

 適当な嘘で誤魔化した。大貴は口角をゆるめ、ぜんぜんいいよ、そんなに待ってないし、と微笑む。風景を見つめ、ぼおっとしていた表情は一瞬で消えた。子どもといえどプロだ、客の前でふぬけた素振りは見せない。

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 予約しておいた客室のソファに、駒形は背を沈めている。目の前には寝台に横たわり、自慰に耽る大貴の姿。たまには彼のオナニーを見るのも面白いのではないか、そう思って命令を下したのだ。
 
 大貴はワイシャツと靴下だけを残した姿で、横になって性器を扱く。人前でこんな様を披露するなど、なかなか普通の人間には出来ないだろう。しかし、性玩具として調教されている少年は痴態を見せてくれる。多少恥ずかしそうにしつつも、擦る動きはリズミカルだ。

 オカズにと与えたのは適当な18禁雑誌。此処に来る途中、コンビニで購入した。ノンケの少年はグラビアの女を見つめながら行為に耽る。開かれているのは、長い黒髪に色白のAV嬢の頁。誰かさんに似た雰囲気の女だが、この際それは追求しないでおく。彼の自慰が見れれば、駒形はそれでいい。

「ッ、ふぅ、イキそう」

 大貴は扱きながら駒形へと視線を動かした。快楽を味わっているせいで、やや熱を帯びた表情だ。

「イってもイイ?……出したいんだけど…」
「駄目だよ、もう少し我慢して」
「ん……」

 限界まで扱かせたかった。大貴は堪えるように、唇をきゅっとつむる。それでも弄る動きは緩まない。客の許可が出るまで、少年玩具は勝手に手を休めたりしない。

「ずいぶんと気持ちよさそうだね。射精なんて、毎日してるだろうに」
「……してねーし。昨日は休みだったから」
「へぇ、休みの日は、エッチもオナニーもしないんだ」
「休みくらいは、エロいことしたくない」

 大貴は言い切って、扱く手を速める。迸りはもう間近だろう……より近くで絶頂を見つめたく、駒形は席を立った。腰を下ろすのは大貴の傍ら。雑誌を手に取ると床に放り、少年の性器に顔を寄せる。

「なんだよ。……顔にかかるぜ、もうホント、イキそうだもん」
「構わないよ」
「駒形さんの変態。」

 冷めた様子で白濁を散らした。今日の大貴は派手に快楽を表すようなことはせず、表情を少し歪めたのみ。飛沫は駒形の鼻先や、首元にまで届く。

「ふふっ。嬉しい?」

 大貴は笑い、ペニスから手を離す。液汁に塗れたその指を駒形へ伸ばすと、頬になで付けた。少年の精液とはいえ男の匂いがする、芳醇さに駒形はうっとりとしてしまう。射精の一部始終を鑑賞出来たことにも満足する。

「ああ……よかったよ、見れてよかった」
「こんなんで良かったら、いつでも見せてあげる。今度はアナルオナニーしようかな。駒形さんの前で」
「えっ」

 それはそれで、またさぞかし淫らな光景だろう。唾を飲み、思わず想像していると大貴が動いた。駒形のベルトを外しにかかる。

「でもそれは次に買ってくれたときだよ。いまからはセックスするんだ」

 あっという間にズボンを脱がされた。駒形は押し倒され、少年の唇に自身を咥えられる。這わされる舌先……駒形は搦めとられてゆく。

「だ、大貴くん……」
「スゲェ勃起してる。カチカチじゃん、俺のオナニー見て興奮した?」

 そう言うと、大貴は口腔の奉仕に集中しはじめた。あまりの絶技に駒形の意識は揺るがされる。何度も悶え、ぶさまに震えてしまう。ワイシャツをはだけさせ、瞼を閉じてフェラチオをするその姿もまた駒形を酔わせた。
 先程のカフェで見せていた、無邪気そうな面影は大貴には無い。色香を纏う別人と化していた。

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【21:14】

 1409号室から男が帰ったと、フロントからホテル内のバーに連絡が入る。従業員はそれをカウンターで飲んでいた初老の男に耳打ちした。フン、と鼻で笑って着物姿の彼は立ち上がる。この男こそが一大ホテルチェーンを経営する灰原孝造(はいばら こうぞう)なのであった。

 灰原は客室へと向かう。マスターキーを使えば、全ての部屋を解錠することができる。大貴がいる部屋の扉も、もちろんだ。

「……来週の月曜はムリだよ。もう予定が入ってるし。再来週ならいーけど」

 布団の中でケータイを耳に当てる少年。話し相手はおそらく客だろう。荒っぽく扉を閉めると、灰原はベッドに近づいた。横たわる大貴と目が合う。

「ホントに忙しいんだよ。何で信じてくれねーの? 俺だって立脇さんと、できるなら、会いたいって思ってるんだぜ」

 大貴の傍らに腰を下ろした。布団を掴んで剥がしてやればさらけ出される裸身。蜜色の間接照明に照らされる、情交を終えたての素肌だ。精液とローション、汗の匂いが立ち上る。

 電話を続ける大貴に構わず、灰原は少年の背中から臀部を撫で、感触を楽しんだ。腿のなめらかさと弾力も味わう。本人の意志や気性はともかくとして、身体は上等な性的愛玩具として育てられてきているのがわかる。肌には産毛すら存在しない。
 
 しかし、灰原の心を悦ばすのは肌の綺麗さではない。古傷の痕だ。

 癒えてずいぶんと薄くなってはきているが、大貴の身体には不審な痕が幾つも残っていた。例えば──足首には古傷が輪を描いて重なっている。枷を嵌められて出来た擦過傷の痕に違いない。大貴は足枷をつけられても大人しくするような子どもでは無いから、こすれて頻繁に擦りむいていたのだろう。

「あー、うぜえ!!」

 大貴は通話を終えると、ケータイを投げ捨てた。それは壁にぶつかって音を立てる。灰原は足首を掴みながらも、放られた先を目で追う。

「くっそうっとうしい、切ろうかな、コイツ」
「大貴、客を粗末に扱ったらいかん」
「だって。だってすげえスキスキゆってくるんだよ、困るもん! で、嫉妬したりしてくる。だからわざとー、俺が仕事してるような時間に電話してきたり……」

 口を尖らせて不満げな表情をし、大貴はシーツをぎゅっと握る。灰原はそんな大貴の様子に関係なく素肌を撫で回して弄ぶ。

「さっきの客も中々、癖がありそうだが? カフェではなぁ、お前のことを遠くから眺めたりして」
「いーんだよ。そんくらいさせても。視姦がスキみたい、あの人」
「ほう、それならワシと気が合いそうだ」
「灰原さんもクセがあるもんね」

 寝返りを打って、大貴はくすくすと笑う。こいつめ、と言って拝原は太腿を抓ってやった。逃れようとする大貴の顔は笑っていて、じゃれているようだ。

「灰原さんとあそんでるヒマねぇもん、身体洗うっ」
「待て。待て大貴……」

 起き上がった大貴の腕を掴み、静止して胸にも指を伸ばす。乳首を摘もうとしたが、それは手で払われてしまった。

「俺は予約制だよ。これ以上したいときはー、ちゃんと電話してきてから」
「しゃらくさい。散々、ワシのホテルを使わせてやっとるだろうに」
「そんなん偶然だし! 今日だって、お客さんがたまたま灰原さんのホテルとっただけじゃん!」

 大貴は灰原を振りほどき、絨毯に素足を乗せた。ケータイを拾ってから、浴室のほうへと行ってしまう。

「腹は減っとらんのか。夕飯は食べたのか?」
「くってねーよ。減ったけど……」
「上で用意するぞ。お前の好きなハンバーグでも、パフェでも何でも」
「まじ?」

 食べ物の話をすれば、大貴はくるりと振りむく。

「けどー、次のお客さんとめし食うんだよなー。だいじょうぶかな、ちょっとくらい食っていっても」
「おまえなら平気だろ」
「そうかな。じゃあ食ってく。俺、ベルエデの煮込みシチューすきだよ!」

 満面の笑みを浮かべ、大貴はバスルームに入っていった。灰原は早速最上階レストランのヴェルエデールに電話をする。シチューとパフェを作るようにと命じた。

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 最上階のダイニングレストラン、灰原に伴われて奥まった個室へと入ってゆく少年。彼が着ている、グレイのピーコートに廻された灰原の手つきは明らかに性的だ。まるで愛人を扱うように密着し、顔を近づけて親しげに話す。その様子に従業員はヒソヒソと噂した。

「会長って男の子好きなんでしょ、また連れてきてるよ」「何処で買うんだろうね、いつもいつも」「そういう、いかがわしい店があるんだろ?」「あの子前も会長と一緒にいるの見たよ」「あれじゃない、アイドルの卵とかさぁ」「会長って顔広いもんなぁ〜」

 そんな話に加わっていたバイトの立野 翔(たての しょう)だったが、噂の会長に呼ばれてパフェを手に赴いた。夜景が望める席で、灰原の手は今少年の肩に置かれている。一見しては孫と祖父のようにも見える関係性だが、やはり様子はおかしい。

「……あっ、きた!」

 気付いた少年は会話を止め、立野の方を向いた。きらきらとした瞳はあどけなく、どこにでもいる普通の子供である。テーブルに置けば嬉々とした表情で金匙のスプーンを持ち、早速口に運びだす。

「すっげー、フルーツ超盛ってる!」
「おお、翔君か。お前もここに座りなさい」

 灰原は隣の席をポンと叩いた。時折様子見に訪れるこの老人に気に入られている自覚はあったので、立野は思わず後ずさる。しかし断り切れず、結局は席についてしまうのであったが。

「美形だなぁ翔は。ここで働かせるには勿体ない、儂の秘書でも務めんか?」
「えっ。……そ、それは……」
「やめといたほーがいいっすよ。絶対ヘンな目に遭うし!」
「何だ大貴は。失敬な奴だ、悦い目の間違いだろう」
「あははは。パフェすげえうまい! 作ってるひとにお礼ゆっといて下さいっ。シチューも美味かった〜」

 少年・大貴と目が合う。立野は戸惑いを隠せない。自分とさほど歳が離れていると思えない彼は、灰原とはいったいどのような関係なのだろう?

「つーか俺、のんびりしてたらやべえじゃん。……うわ、もう10時すぎてるし」

 大貴はケータイを取り出して時間を見る。灰原はそれを覗き込んだ。

「何時なんだ、待ち合わせは」
「10時半。場所はこっから近けーんだけど」
「キャンセルして、今日は儂と過ごせ」
「無理だよ。そうゆうのは駄目だもん」
「融通が利かんなぁ、大貴は」
「予・約! 何度も言わせんなよ、予約して」
 
 身体を寄せ合い、話す二人の話の内容が立野には分からない。それどころか目の前で灰原は大貴にキスをしようとする。立野の困惑は増して、驚きで息を飲む。しかし口づけは未遂に終わった、大貴は唇が重なる前に顔をそむけたのだ。

「駄目だってばっ……」
「なんだ、チューもさせてくれんのか、大貴」
「買われたときしか、俺は男娼しないもん。ホテルの人も見てるし──」

 大貴はパフェを崩しながらも、立野のほうを気にしてみせた。恥ずかしそうな表情を浮かべている。男娼という単語に困惑しながらも、やはりチーフが言うように“いかがわしいお店”から来た少年なのかと立野は思う。

「翔、大貴はなぁ、キスが上手いんだぞ。こんな子供だが抜群にいやらしくてなぁ」
「わっ、やめろよ! そういう話すんなよ……!」
「舌遣いがたまらん。翔君も今度して貰いなさい。女を抱くのが馬鹿馬鹿しくなる」

 くつくつと笑う老人。大貴は頬を染めてスプーンを使い、拗ねたような表情で食べている。急ぎはじめたのか、心なしか口に運ぶペースが速まった。

 灰原はそんな大貴に寄り添いながらも、立野に色々と質問を投げ掛けてくる。彼女はいるのかだとか、大学では何を専攻しているのかだとか、他にも色々な話を──その間に大貴はプリンパフェを綺麗に食べ終えてしまった。時刻は10時15分だ。

「うおっし。完食! ちょう美味かった!」
「彼女が出来たことがないとは、翔君駄目だぞ。もっと積極的に行かなきゃなぁ。コイツなんか、ガキの癖して女がおるんだぞ!」
「もう余計なこと言わなくていいよっ。俺行くから」
 
 大貴は脱いでいたコートを着て、席を立った。灰原も続けて立ち上がりつつも、まだ立野に向けて話をしている。
 
「それも女王様だ。分かるだろ、SMの女王様! 鞭でビシバシ、ってな」
「灰原さんも叩いてもらえばいーじゃん。……ごちそうさまでした、また来ます!」

 灰原に腕を組まれながら、大貴は笑顔で従業員に頭を下げていた。立野はその様子に肩をすくめ、食器を下げようとする。

「おい、翔! おまえも来なさい、大貴を下まで送っていくぞ!」

 しかし、灰原からそんな声が掛かれば無視する訳にいかない。ハイ、と返事をしてついて行った。他のスタッフからは明らかに同情の視線が投げ掛けられる。

 店外へ出ると、シャンデリアの下でエレベータを待つ。大貴はコートから小さな鏡を出し、顔や髪型を気にしていた。老人の戯言に相づちを打ちながら軽く前髪を直す。エレベータに乗り込むと壁には姿見があるので、それで全身も見ている。

「いやに気にして。次は上客か?」
「べっつに。フツーのお客さん。俺、どのお客さんと会う前でも身なり正してんじゃん」
「大貴は可愛い、何も気にせんでもそのままで良いぞ」
「かわいくねえし。翔サンのがー、ホントかわいくねっ?」

 密室の中で大貴は笑いかけてきた。屈託のない笑顔に立野はどきりとする。いつのまにか名前も覚えられていた。

「手ぇだしちゃだめだよ、レストランの人なんだろ。セクハラすんのはー、俺みたいなの相手だけでいぃからな。分かってる?」
「分からんぞ〜、お前は今日そっけないし」

 老人がふてくされたような素振りを見せた瞬間、大貴は灰原を抱きしめた。即座に始まる濃厚で淫靡な接吻。舌と唾液の混じる音に立野はどうしたらいいのか分からなくなる。幸い途中で扉が開くことは無く、少年と老人のディープキスは1階にたどり着くまで続いた。

「ふーっ。どうだっ、これで悪さしねえなっ?」
「こんなチューでかぁ。儂に満足しろと言うんか」

 二人はフロントの絨毯の上を行く。どうやら灰原は建物の外まで送っていくらしい。立野はエレベータから降りることはせず、最上階へと引き返す。垣間見た会長の趣味と少年愛にただただ呆然としながらも、己の股間も密かに反応していた。繰り広げられたキスが脳裏から離れない……

9 / 13

 長田はホテル前に停車し、待機していた。カーナビでTVドラマを眺めつつ待っていたが、22時を過ぎても大貴は来ない。次回予告を見終えると、さすがにまずいだろうと思って電話を入れる。しかし出ない。

(おいおい、寝ちゃってるんじゃないだろうなぁ……)

 心配していると、大貴はホテルオーナーの灰原と会話しながら、こちらに歩いてきた。その姿を認識してホッとした長田だ。

「じゃあな大貴。おみやげ、楽しみにしとるんだぞ」
「うんっ。また電話して。おやすみ、灰原さん」

 座席に座る前に、大貴はちゅっ、と灰原の頬にキスをする。扉を閉めてからも、発車する車の中で手を振る。灰原も手をぶんぶんと振っており、その様子から相当大貴に好意を抱いているさまが分かる。

 前を向いて座り直すと、大貴はため息を零した。早速口にするのはフリスクだ。何粒も齧るのはキスの味を消したいからだろう。

「あー、やべぇ、遅刻する……間に合うかなー…」
「何とか間に合うだろう。オーナーとエッチでもしてたのかい、大貴君」
「うるせぇよ。してねーし。つぅかー灰原のおっさん、シンガポールに行くんだって、来週。いいな、俺も海外いきてーな。イギリスいきたい……」

 そう言うとずるずると崩れ、だらしなく座席にねそべってしまう。欠伸まで零している始末だ。

「もーやだな、帰りてーな……まじ眠ぃもん、次も犯されるし……イヤだー、あー、イヤすぎて笑えてくる!」

 あははは、と本当に声を出す大貴。大貴がこんな風に壊れるのはよくある事だったが、幾ら壊れても、客の前に出ればちゃんと『男娼の大貴』に戻る。慣れている長田は気にしない。

 長田は無言でハンドルを握り、次の客の元へと大貴を送り届ける。それが長田の仕事だ。

10 / 13

【22:30】

 岸本はFAMILYの少年男娼・大貴と落ち合うと、居酒屋で食事をした。
 
 その後に連れ込むのは、岸本の勤務先である裏AVメーカーのビルで、撮影用のベッドに押し倒す(部屋といい車といい、会社の物をすっかり私物化している岸本だ)

「じゃあ、挿れさせてもらうよ」

 はだけたシャツ以外、裸になった大貴の尻穴が目の前にある。ジェルを使って大貴自身により慣らされたソコは準備万端。岸本のモノも丁寧にフェラチオを受けて、爆ぜそうに勃起している。

「いいのかな。今日もじかに挿れちゃって」
「良いにきまってんじゃん。つーか俺、ゴムなんてめったに使ってもらえねーし……中出しばっか。生挿れ専用の穴だろ、って良くゆわれる」

 少年玩具を買いはじめて日の浅い岸本は、まだまだ遠慮しがちだ。けれど確かに直の感触は気持ち良く、結局ゴム無しで挿入するのだったが。

「イヤじゃないの、毎日種付けって」
「ふっ、ぅう……」

 後ろから覆い被さって突き入れれば、大貴は悩ましげに吐息を漏らす。岸本の揺らし付けに合わせて、半勃起のペニスも揺れていた。

「大貴クンは男の子なのに、毎日いっぱい精子出されちゃうって、どんな気持ち?」

 質問癖のある岸本は色々と聞いてみたくなる。
 なめらかな背中に唇をつければ、綺麗な石鹸の匂いがした。今日も仕事をこなしてきているだろうに、そんなことを全く思わせない清潔な肌だ。

「ん……ッ、男……あつかいしてもらえてねーよーな、気もするし……おもちゃっていうか、性欲処理の、道具なんだって、自覚する……」
「辛いんじゃないかい、じゃあ」
「しょーがねえもん、俺……は、処理用、道具だから……」

 腰を掴み、大きくグラインドさせて打ち込む。根本まで全て埋めてやるたびに「うぅッ」「あッ」などと切なそうな吐息を漏らす大貴だ。シーツをギュッと掴んでいる。
 
「痛い?」
「だ…いじょうぶ……んっ、ンっ、あっッ、あっ!」
「激しくして良いの?」
「! うッくぅぅ……!」

 大貴が良いというので、岸本は何度も奥底を突いてやった……金を取って挿れさせるだけある、大貴の雄膣は絶妙すぎる。そこら辺で捕まえたような少年や、オナホールでは得られない味。

 そんなふうに執拗に抉ったあと、体位を後背座位に変えた。胸を反らして喘ぐ大貴の乳首は勃起し、ワイシャツをぷっくりと尖らせているのが淫やらしい。

「くッ、あぁあ、きしもと、さ……」
「今日は何回射精したの、大貴クン」
「い、いっかいッ……」
「ホントに? 意外に少ないんだ」
「あぁッ……」

 大貴のペニスを握ってやる。後穴に打ち込みながら擦ってやれば、大貴のよがり声はいよいよ増す。

「はッ、あぁ、あっ、あっ!」
「大貴クンも出しなよ、僕だけ気持ちよくなったら悪いじゃないか」
「手、汚しちゃう、岸本さんの手──」
「良いよそんなの。イキ顔近くで見せてよ」
「は、はずかしい……!」

 大貴の肉棒は、岸本の手のひらの中で完全に勃ちあがっていた。擦り続ければ零れる蜜。

「彼女には見せるんだろう、大貴クンのそういう顔」

 耳朶を舐めてそう囁いてやれば、大貴はハッとしたように、表情に素を滲ませる。

「あ、あたり前だろ……あぁあッ、あっ!」
「今日もこの後エッチするの? 仕事でもプライベートでもイっちゃうんだ」
「しねーし……俺は、ほんとは、そんなに……!」

 絶頂が迫っているのか、大貴は言葉の途中で唇を噛みしめた。岸本の快感も高まっている。

「あぁイクよ大貴クン、出すよっ!」
「!!……」

 大貴の両肩を押え付け、刀身の全てを収めて岸本は中出しをした。手を離してしまった大貴のペニスもほぼ同時に震え、精液をドクンと漏らした。それは何度かに分けて放出される。

「……そんなに、エロいことって、すきじゃねーんだ……。信じて、もらえねーかもしれないけど……」

 頬を赤らめ告げられてもその通りだ、信じがたい。

 結合を解くと、布団に倒れ込む大貴は──充血した肛門からも、勃起した肉棒からも白濁汁を零してまみれ、卑猥な姿と化している。
 
 そんなふうに液汁を垂らしながら、岸本のペニスを口でクリーニングしはじめる。舐め回すだけでなく吸いつき、尿道に溜まっている残りの精液もストローを使うかのように抽出した。

「んッ、んっ、んっ……、んぅ……」

 切なげな顔をしつつも、掃除のために貪りつく大貴。行為を終えた今も岸本のどきどきは止まらない。
 改めて思う「少年男娼」とは素晴らしい生き物だ……

11 / 13

【00:05】

 自宅にて、坂崎は全裸で正座していた。今日は気に入りの少年男娼──大貴を自宅に招いている。

 間接照明の注ぐリビング、鞭を存分に振りまわしても良いようにとテーブルを脇にどかし、プレイで部屋を汚してもかまわないように床には透明のシートを引いた。

「お待たせ」

 着替えた大貴がドアを開け、入ってくる。

 彼の普段着も好きだけれど、SMの女王を思わせるようなフェティッシュな衣装も坂崎は好きだ。黒い光沢のラバースーツを纏い、太股あらわにロングブーツ、エナメルのロンググローブを嵌めているコスチューム。

「だ、大貴くん……」

 その姿を見上げると、自然と零れる恍惚の吐息。大貴は坂崎を見下して顔を撫で回すと、ふふん、と不敵な笑みを零した。

「今日の仕事は全部受けだったんだ。すげーイヤだった……だからー、ずうっと、早くサカザキいじめたいなーって考えてたんだよ」
「……大貴くん、ボクを好きにしてほしい、ボクでストレス解消して」
「イイ子。お前はかわいい犬だな」

 褒められながら喉元も撫でられると、坂崎は嬉しい。そして大貴の手によって首輪を付けられれば、早くも気が遠のきそうになる。

「もう勃起してるぜ。変態」
「あぅ、あッ……」

 ブーツの踵で、性器を踏まれた。

「俺は性玩具でー、ドレイだけど。その俺に仕えてるお前はもっと下のランクってことだよな?!」

 首輪の鎖を引っ張られてバランスを崩し、坂崎は床に手をついて倒れる……四つん這いのような体勢になってしまう。

「なぁ。坂崎?」
「そ、そうですっ、ボクは、性処理玩具の大貴くんよりもッ、さらに下の存在なんですッ!」
「ふははははっ。最低じゃんそれって。カチク以下ってことだぜ?」

 背中を、鞭の柄でなぞられてゆく……坂崎はばくつく心音を感じている、ゾクゾクする、大貴にいじめられている時間が人生の中で一番愉しい。

「だ、大貴様あッ……」

 赤い蝋燭を傾けられれば、自然と少年のことを様付けで呼んでしまう。熱に苦悶を感じながらも、口許に押し付けられる大貴のブーツにキスをして舐める。

 さらに手首を縛されて、受けるのは浣腸器具とカテーテル。性器に細い管を導入されて強制的に漏らす尿。

 大貴に出逢う前は何も知らなかった坂崎の体は、今では自分でも驚くほどの変態プレイを受け入れることが出来るようになった。

 便意に苦しみよじる身体に、また垂らされる蝋。大貴はくすくすと笑っている。
 
 やっとのことで大便を許可され、洗面器に跨がれば融合していく羞恥と恍惚……皮膚にへばりついた蝋は長い一本鞭を降り下ろすことで剥がされ、痛みの中で坂崎は叫ぶ。

 顔面にも蝋を受けた。呼吸用の穴だけを開けたラップを巻かれ、その上に熱を落とされる。その間も、容赦無く腹を踏まれたりした。

 大貴様、大貴様、大貴様。

 何度絶叫したか、分からない。叫びながらとても幸せな気持ちになる。性器はずっと屹立しっぱなしだ、至福が止まらない……!

「ふぅ……」

 怒濤の責めが途切れて、ラップと拘束を取られたとき、大貴は煙草をくわえていた。坂崎の愛用する銘柄を。

 大貴が煙草を吸っている所を、坂崎ははじめて見た。
 しかもちゃんと肺に入れている。見慣れないその姿も色気があって、ときめいてしまう。

「坂崎さんって、ホープすきだったよね?」
「えっ、あっ、うん……」
「あげる。頑張ったご褒美だよ」

 大貴は微笑み、吸いさしのソレを正座する坂崎の口にくわえさせた。テーブルにはホープの箱がある。……自分のために買ってきてくれたのだ、分かると坂崎は嬉しさに涙さえ込み上げてきそうになる。
 たかが、煙草だけれど。

「ケツでイク所見せろよ、俺に。お前が射精するところ発表しな」

 大貴の差し出してくれたガラスの灰皿に吸殻を入れると、坂崎はもちろんです、と述べる。大貴によって調教された身体は、尻穴でも達することができるようになった。

 並べられるディルドから好きなものを選んで、ジェルに塗れさせ、己の内部に挿入していく。

 大貴は長い脚を組んでスツールに腰掛ける。手にした鞭をもてあそびながら、嬌声を響かせて感じている坂崎の姿を、嬉しそうに眺めていた。

12 / 13

【03:21】

 女王としてSMプレイの仕事を終えた薫子はラブホテルを出た。道具を詰めたキャリーバッグを引き、駐車場へと歩む。其処には長田が運転する、黒のドイツ車が停まっているはずだったのだけれど。

(あら……?)

 長い睫毛に縁取られた瞳を見開く。薄暗い駐車場、壁にもたれてケータイをいじる姿があった。
 薫子の見立てた服を着た、亜麻色の髪の少年──大貴だ。

「あっ、薫子っ。おつかれさま」
「貴方。何をしているの、こんな処で……」

 歩み寄る薫子に気がつくと、大貴はニッと微笑んで壁から背を離す。電話もしまって、薫子のそばに近づいてくる。

「迎えにきた! 俺のほうがー、先に仕事終わったから」
「何時だと思っているのかしら。お家に帰っていなきゃ駄目でしょう?」

 薫子は唇を尖らせ、大貴の胸を軽く小突いてやる。

「明日は学校休みだよ。それに一秒でもはやく、薫子の顔が見てーんだもん……」
「中学生はとっくに寝てる時間だわ」
「むかつく。また俺のこと子供あつかい」
「子供じゃないの!」
「俺はフツーの子供じゃねーしっ。今日もいっぱいエッチしてきたんだよ、SMもした!」
 
 大貴に掴まれ、強引に引き寄せられた。奪われてしまう唇……小さく悲鳴を上げたけれど、舌先に絡められてしまえば、それ以上の声はふさがれる。

 掻き回されてゆく、絶妙すぎるディープキス。

 異常なほどに巧みな舌先は、この歳の少年のする接吻ではない。大人と性遊戯をするために躾けられた舌。
 
 薫子は酔わされ、よろめいてしまう。身体から力が抜ける……背中に腕を廻されて抱きとめられ、崩れずに済んだけれど。

「薫子が、心配してくれるのはうれしーけど、だって、早くあいたくて……こうやって抱きしめたかった。今日は2回イッたんだけど、2回とも薫子のこと考えてたんだよ……薫子でしかイキたくないもん……」

 首筋にも、軽いキスが与えられた。大貴からの真直ぐな愛情は可愛らしく、薫子は怒る気をなくす……愛らしさの前に、はぐらかされてしまう。

「分かったわ、貴方の気持ちは」
「ほんと……?」
「ええ。だから、どいて頂戴。はやくお家に帰って、薔薇のお風呂に入りたいの。そしてバニラを食べて眠るわ……」

 押しのけて抱擁を剥がすと、大貴はキャリーバッグを掴んで、引いてくれる。

「俺もいっしょに入ってもいい?」
「構わないわ」
「うれしい。身体、洗いっこしよ」

 笑顔の大貴と並んで、離れた所に停まっている車に向かい歩き出した。薫子の表情も緩む。

13 / 13

「でっ、灰原のおっさんにー、パフェも食べさせてもらったんだよ。すげーうまかったなー……」

 薔薇色のお湯を充たし、花びらを浮かべたバスタブの中、大貴は一日の仕事のことを全て話してくれる。

「今日は灰原様に、酷いことはされなかったの?」
「あったしまえじゃん。買われてないんだよ、させねーよ。セクハラはゆるしたけど……あと、べろちゅーもしてあげた、いっぱい」
「優しいのね、貴方」

 そう言ってやると、大貴は微笑う。

「男娼として当然だよ。俺はー、変態の人達を楽しませてあげたいもん。普段の現実では押し殺してるような願望も、性欲も、発散させてあげたい」

 大貴の答えに、薫子も微笑む。いい子ね、と言ってやれば嬉しそうに一層口許をゆるめる大貴だ。

「薫子だってやさしいし、ちょういい人。それにキレイすぎる、可愛すぎる……全部俺のタイプ……」

 素直な褒め言葉を聞いていると、足首を掴まれてしまう。深紅のペディキュアに、寄せられる唇。

「……はやく大人になりてーな……」
「どうして?」

 爪先を舐めて、大貴は顔を離す。

「だって。今の俺じゃ、薫子につりあってない。大人の男になったら薫子を今よりもしあわせにする自信あるし、ガキはやだ」
「……そんなことはないわ。私にとっては、貴方の成長を見るのも楽しみの一つ。駆け足で大人に成られたら、つまらなくってよ」
「成長してるの、俺?」
「しているに、決まってるでしょう。この私が飼っているんですもの」

 薫子は立ち上がった。タイルの上を歩いて扉を開き、浴室を出る。大貴も追うように湯船から上がって、薫子を後ろから抱きしめてきた。

「ありがと。俺、ぜったい恩返しするっ……実家にいたままだったら、頭おかしくなってるもん。薫子と一緒に住んでるから、ヤスエとかとも出会えたし、今の俺があるのは全部薫子のおかげだよ」
「ふふ。可愛い子……」

 大貴の頬に爪を滑らせ、背伸びをして与える接吻。
 湯気と薔薇の馨り、そして大貴の腕にも包まれながら薫子は安らぎを覚える。

 薫子自身が在るのも、大貴が居てくれたから。今この胸に満ちているような愛おしさは、大貴以外に抱いたことはない。少年の成長を見守り続けていける喜びを、薫子は穏やかな気持ちで受け止めていた。

 これからも、大貴を瞳に映していたい。

 身体を拭いて肌の手入れをし、長い髪を乾かして、お気に入りのランジェリーに身を包む。

 そうして冷凍庫からバニラをふたつ取りだすと、寝室に向かった。大貴は薫子を待っていてくれる、天蓋に包まれたベッドに寝そべり、欠伸を零し漫画雑誌をめくりながら。大貴も薫子同様、下着しか着ていない。

「良かったのよ。眠たいなら先に寝てて」

 金匙のスプーンとバニラを渡すと、大貴は雑誌をサイドテーブルに置く。

「イヤだっ。俺もアイスたべるもん。薫子といっしょに!」

 薫子も横たわった。カーテンの隙間からは夜明けの空が覗く。時刻はもう朝が近い……
 味わいながらも何度めかのキスをすれば、バニラの味がした。薫子の好きな味に舌が染まっている。

 大貴の体温と存在を感じながら、至福のひと時を過ごす……薫子を何より癒すのは、大貴という少年だ。
 これから先も、ずっと、ずっと。

E N D