性的処方箋

1 / 11

 窓ガラスに両手をついて腰を突きだす、祥衛の痩せた全裸は、生まれたての子鹿あたりを彷彿とさせる。
「う……あ、ぁ……」
 か細く漏れる、呻きともアエギともつかない声。
 怜は薄い唇でほくそ笑み、後孔に挿れている中指をさらに深めていく。
「ひッ、あぁあああ……!」
 その瞬間、跳ねるようにビクツク祥衛の身体。それがまた可笑しくて、怜の嘲笑を誘った。
「……キツイね。しばらくなにも咥えてないからかな?」
「っ、ふぅ、う……」
「ああ、だけど俺の指輪。美味しそうにハマったよ」
 風邪をひいた祥衛は今週の頭から、ずっと怜のマンションにいた。当然、仕事はしていない。
 挿入を受けるのは数日ぶりというわけだ。 
「これはリハビリだよ。祥衛」
 ろくに潤滑油も使われず、肛門に指を入れられている祥衛は口を引き結び、ぎゅっと瞼も閉じていた。痛みを覚えているのかもしれない。
 だが、祥衛が痛がろうと怜には関係ない。
 むしろ祥衛だから、すぐに痛みを快楽に置き換えるだろう──祥衛はそういう性癖の少年だ。
「お客さんとのセックスに復帰する前に、弄ってあげないとね」
「っ……ッ、ひゃあぁっ…………!」
 怜が身体を密着させ、挿入していないほうの左手で尻肉をつねってやれば、祥衛はまた震えた。
 祥衛は情事になれば過敏なほどに反応が良くなる、普段は無口無表情だが、性的な時間では鮮やかなほどに乱れてみせる。
 怜は掻き分けるように指の数を増やした。人さし指も挿れてやる、半ば強引に。祥衛はくぐもった悲鳴を漏らし、ガンッ、と音をたててガラスに額をぶつけた。
「バカだね。逃げられないよ、この窓は開かないから」
「あ…………ぁ、」
「開いたところで、待ってるのは23階の夜景」
 幾つものピアスが開いた耳朶を舐め、意地悪に囁く怜。
 吐息を吹きかけてから、ガラスに映る祥衛を見れば半開きの瞳で眼下を眺めていた。
 快感にぼんやりとしているのか、あきらめて絶望しているのか、どちらとも取れる顔。
 ただ、その頬は紅潮していた。

2 / 11

 怜の両手の指はそれぞれ、祥衛の乳首を左右つまんでいる。愛撫というよりは、つねって痛みを与えるような嬲り方だ。祥衛にはそれくらいで丁度良い。
 ピアスの輪が貫通したその両突起は、見ているほうが恥ずかしくなるほどに屹立している。
 祥衛の胸は、男娼として調教される以前に比べて明らかに発達していた。
 乳輪の直径も、乳頭の大きさも。
 感度も上がった。はじいて指を離した怜が祥衛の背中を窓に押しつけると、それだけで「ひぃッ」とわななく。冷たいガラスの感触に乳首が当たり、反応したのだ。
「今度は1階で裸にしてあげるよ。ここじゃ、キミの全裸がみんなに見えないからね」
 背を撫で下ろす怜の手は、双丘へと降りてゆく。その蕾はいま、見事な太さのバイブを咥えこんでいる。
 怜は指淫だけに飽き足らず、挿入したのだった。
 ローションも、ジェルも使っていないはずだった。それなのに尻穴からは蜜が垂れ零れ、白い太腿を濡らしている。これは腸液だ。
 透明な液は怜の視線の先で溢れるばかり。床を目指して流れてゆく。
「呆れるよ、キミのいやらしさには」
「あっ、あぁああ、あ……」
 スイッチは弱に合わせてあり、なめらかな蠕動。
 それなのに祥衛にはきついらしい。ガラスに触れる膝頭はガクガクと震えている。
 氷のような目で眺めている怜は、咥えこんでいる後孔のまわりや、玉袋、そして性器までにも手を伸ばす。
 当然のごとく祥衛の肉棒は勃起しきっていた。いままで一度も触れられていないというのに。
 痛みさえも、与えられていたというのに。
 発情している。
「ぁ、や……、……ぅ!」
 握りしめると、祥衛はギュッと目を閉じる。怜は掌全体で祥衛のモノを包みこむと、次の瞬間その指を祥衛の顔の前へと運んだ。
「キミって子は本当に浅ましいよ。ひどいお漏らしをしてるね?」
「…………!」
 わざとらしく、祥衛の眼前で開かれる手。
 体液にまみれた怜の手を、祥衛はいたたまれないといった表情で見る。
 そのまま、怜は手を祥衛の顔に押しつけた。

3 / 11

 祥衛の垂らしている蜜を祥衛の肌で拭った怜は、室内のソファに腰を下ろす。一人掛けのアームチェアで足を組むその姿はとても絵になった。
「……う……、」
 おそるおそる、といった様子で振り向いた祥衛の顔は自らの先走りと腸液に塗れている。尻には玩具を差したままで、まるでしっぽのよう。
 怜にはその様子もまた可笑しく、笑えてしまう。
「バイブじゃ満足できないでしょ? キミという子は」
 頬杖をつき、酷薄な笑みを浮かべながら命令を下す。
「俺に挿れてほしいんでしょ。そんなニセモノのオモチャじゃ満足できない。本物で犯されたいんだよねー?」
 なにも答えない祥衛だが、かすかに頷いたのを怜は見逃さない。
「……ほらね。そうだよね、やっぱり」
 くつくつと笑ってから、怜は「抜けよ」と声色を低く鋭く変えて命じた。
 祥衛は、震える手を後孔へと伸ばす。
「違うだろ。だれも手で抜けなんて言ってないでしょ。ソコで這うんだよ。力んで、産み落としてごらん。……うまくできたら挿れてあげるよ」
 その命令に、祥衛は身じろいだ。しかし逆らえないと悟っているのか、崩れ落ちて従う。フローリングの床に両手をつき、怜のほうに尻を突きだす。
「もっと近くで見せてよ。そのまま、バックしておいで」
 言われたとおりにする祥衛は、怜のもとに後退してゆく。ストップ、と言われた距離はまさに怜の目の前で、四つん這いの肛門を晒す結果になった。
「あ……、あぁ……」
 恥ずかしいのか、祥衛の身体はもじもじと動く。ペニスは弄られているときよりも勃ち上がっている始末で、ポタリと透明な先走りが床に垂れた。
「すごいよ祥衛。開いて、美味しそうに咥えこんでるね」
「や……ッ、あ……」
「もっと突き出せよ。ケツを。見せつけろ」
「……ふぅう……、う……!」
 祥衛は小刻みに震えつづけながらも、床に額をつけ、バイブの刺さった蕾を高く突きあげる。

4 / 11

 排泄に似た行為を、祥衛は行う。
 力んで排出されるバイブはゆっくり、すこしずつ、グロテスクな姿を覗かせた。黒く凸凹した表面が間接照明にぬらりと光る。
 部屋は暑くないはずだが、祥衛は汗を滲ませていた。興奮して身を熱くさせているのだ──この淫らな少年は。
 怜はその様子を冷たい目で見下しながら、遠隔操作できる細いリモコンを掌のなかで動かした。直後、ヒイッ、と祥衛の声が部屋に響く。
「あ、やぁあッ、あ……、あ……!」
 振動音とともに、針金のように細い肢体は奇妙な動きをする。爪先で踏ん張り、身をもぞつかせながらも、中途半端にバイブを咥えた尻を振っていた。
「ひぅッ、ッ、あぁあ──……!!」
 上半身と床が擦れ、乳首のピアスの音も鳴る。いまにも倒れこんでしまいそうだったが、怜に叱られないように耐えているのだろう。懸命に四つん這いの姿勢でいる。
「……あ……、あ……ぁあ……」 
 蠕動を続ける太いバイブが床に落ちたのと、祥衛が射精したのは同時だ。黒光りの玩具に白濁の飛沫がかかる。
 そのさまはあまりにもいやらしかった。
「あ……ぅ、う……」
 絶頂後も体勢を維持している祥衛に、怜は近づいた。祥衛の汗は髪からも雫になり垂れている。玩具の嵌まっていた尻孔は赤く充血し、拡張されてぽっかりと穴のようだ。その蕾はヒク、ヒク、と収縮したり開いたりもしている。
 怜は取り出したスマートフォンで、無言のまま祥衛の脚の間に産み落とされたバイブの写真を撮った。シャッター音に祥衛は動揺している。続いて、怜は肛門の写真も撮る。接近して画面の中央におさまる卑猥な蕾。
「本当にいやらしいなあ、祥衛って」
 撮影したそれを見て、怜はしみじみと呟いた。
「これさ、祥衛にメールで送っとくから待ち受け画面にするんだよ。分かった?」
「…………!」
 祥衛が息を呑むのが怜に伝わる。無理だ、と言いたいのがわかったが、怜は許さない。バイブを掴んで祥衛の腹にぐいとめり込ませた。
「分かったんだよね。祥衛」
「う……、……うぅ……!」
 分かったならいいよ、と言って怜は玩具を床に置いた。その表情はにこやかな笑みである。

5 / 11

 再びソファに座る怜はファスナーを下ろし、取り出したペニスを祥衛にしゃぶらせた。床の上で懸命に咥える姿を見下す。
 そしてしばらくの後、挿入の許可を与えた。
 祥衛は自らの手で後孔にあてがい、突き刺すようにして怜に座る。たっぷりと濡れそぼった唾液が潤滑油だ。
「あ…………」
 ずるりと体内に飲みこむ祥衛は、明らかに恍惚の吐息を漏らす。表情もどことなく嬉しそうで、怜は鼻で笑ってやった。
「良かったね。祥衛。祥衛はこうしてるときが一番シアワセなんだもんね」
 首筋を撫でる手を下ろし、脆弱な身体をなぞる。腰骨に触れると尻の肉を抓った。痛かったのか祥衛は震える。
「ひ! うッ……!」
「揺らしてごらん。祥衛の好きなように動いていいんだよ」
「…………」
 怜の囁きに、祥衛は腰をもぞつかせた。恥ずかしさから大胆に動けないといった様子だったが、そんなふうに微かに動くだけでも、祥衛の唇からは「あッ」「んっ」などと声が漏れる。
「あー……ッ、あー……!」
 当然のように祥衛は、そんな動作では物足りなくなって少しずつ蠢きを大きくしてゆく。怜の両肩を掴んだ姿勢で、円を描くように腰をくねらせたり、前後に振ったりもする。その度に勃起したペニスも揺れた。
 怜はなにひとつ動いてやらない。
「あッん、あっ、あッ、あっ……」
「いいリズムだね、祥衛」
「あッっ、あっ、あぁあっ! あぁあ……!」
 祥衛は顔を真っ赤に赤らめながらも、動きをどんどん大胆にしてゆく。抜き差しとこすりつけで、怜の肉棒の感触を存分に愉しんでいる。股間は漏らした先走りにまみれきっていた。
「んふ、ぅう……あ、ぁ、あ」
 祥衛は男根を抜けてしまうぎりぎりまで抜く。そしてまた一気に根本まで飲みこむ。
「……あ──ッっ……!! 」
 瞬間に迸る精液は──噴水のようだ。
 祥衛は白濁を飛び散らして怜も自分自身も汚しながら、尻孔をすさまじく締めつける。あまりの淫乱さが可笑しく、怜は口許を覆ってくつくつと笑い、絶頂にとろけそうな祥衛はというとだらしなく唇を開き、恍惚を見つめていた。

6 / 11

 ──反響する音の渦。充満する香水と煙草の匂い。
 自動ドアが開いた瞬間から、その強烈な洗礼を受ける。
 お世辞にも治安がいいとは言えない、猥雑な駅裏通りにあるパチンコ屋。足を踏み入れた村上という男は、きょろきょろと祥衛の姿を探した。
 今宵、祥衛とはここで落ちあう約束をしている。
 村上がこういった店を待ちあわせに選ぶのは、話さなくても楽しく過ごせるから。祥衛ほどではないが、村上も人とコミュニケーションを取るのが苦手で、会話もうまくないのだった。
 店内は大入りで人口密度が高い。おまけに通路も狭いため歩くのに苦労する。祥衛を見つけるのには時間がかかった。
 やっと探し当てた祥衛はサングラスをかけていて、煙草を吸いながら台を打っていた。指輪の光る細い指でジッポで火をつける様はとても15才とは思えず、手元の灰皿には吸い殻がたまっている。
「……やあ」
 声をかけると、祥衛は無表情のままでちらりとこちらを見てくれた。挨拶はそれだけだ。
 村上も玉を用意すると隣に座り、打ちはじめる。
 そのまましばらく時間が流れた。
 お互いに会話はない。
 村上は全くかかる気配がなく、祥衛もそれほど調子が良くなかったので切り上げた。祥衛は2箱を五千円に換金していた。
 そのまま店を出て安ホテルに行こうかと思った村上だったが、祥衛に服の袖を掴まれる。なにをするつもりかと、村上は少しだけ驚きつつも祥衛に従う。
 祥衛が村上を連れていくのはトイレ。小汚さをごまかすように、柑橘系の芳香剤が幾つも置かれ、きつい臭いを撒き散らしている。タイルには客層を反映して落書きも目立った。

7 / 11

 祥衛は個室に入る。そしてサングラスをはずし、自らのベルトに手を掛けた。
「ヤスエ……くん、」
 村上は息を飲む。
 ジーンズを膝下まで下ろして明らかになった祥衛の股間は、卑猥なランジェリーを着けていた。女性用であり、生地の面積も少なく、ピンクと黒のストライプ柄にリボンが飾られている。
 当然のように勃起して、先走りでべとべとだ。
 祥衛がこんなにも発情していたことに村上は気づいていなかった。座っていたときは上着に隠れていたし、おそらく屹立したペニスをベルトにはさんでいたのだろう。
「これは、罰、で……」
 二人きりの個室の中。祥衛は下着の腰部分をつまんで引っぱり、わざとらしく股間に食い込ませる。怒張したペニスの形を誇張させた。
 その形もだが、生地から覗く亀頭がなんともいやらしい。尿道にはスティックが突っ込まれており、その細い棒の先端は可愛らしいハート型をしていてペニスを飾っていた。
 祥衛が自分からこんなふうにアピールすることはないので──飼い主にするように命じられての動作だろう。
「き、のう、怜君の……許可なしに、射精、して……っ、汚したから……罰、ゲーム、中で」
 恥じらいに表情を歪ませ、震える祥衛は携帯電話を取り出すと、村上に見せた。
 その画面には尻穴の接写が大きく映され、猥褻この上ない。ぱっくりと開いたピンク色の襞はいまにも蠢きだしそうだ。
「これって……?」
「俺のお……尻、…………」
 消え入りそうな声だ。村上は携帯を受けとり、まじまじとその写真を見る。そして、目の前では祥衛が下着を脱ぐ。ピアスに飾られた男性器の全貌が明らかになったかと思うと、くるりと体の向きを変えて村上に後孔を見せた。
 ──小ぶりで細い何本ものディルドを咥えこんでいる。
 通常の使い方とは逆向きに便器に跨がり、村上に尻を突き出す形になる。はずみで1本が抜けてずるんと落ちた。その尻には折檻を受けた痕もあり、叩かれたアザが鮮やかだ。
「俺は……っ、す、すぐイク、イキやすいお、尻……、だか……ら……!!」
 祥衛はなにかを言いたいようだが、赤面するばかりでうまく言いきれない。耳まで赤くして恥じらい、辛そうだった。尻はふるふると揺れ、肛門からまた1本が零れ落ちそうになる。
 なんともいやらしい姿だ。
 壮絶なほどに。
「あ……っ、あ……!」
「が、頑張って、ヤスエ君……」
 村上は祥衛に伝える。祥衛がきちんと言うのを見届けたい。
 するとその思いが伝わったのか、祥衛は絞り出すようにやっとのことで発した。
「俺……を、罰し……て……」

8 / 11

 祥衛は客にこうするように、飼い主の怜から命令を受けていたに違いない。言葉を発したあとはゆっくりと左右に腰を振るという、ねだるような動作をはじめた。
 挿されているいくつものディルドは動きによってまたひとつ抜け、便器の中に落ちる。
 こんな痴態を見せられてはたまらない。村上はすぐさまチノパンを脱ぎ、勃起した男根をさらけ出した。
「わ、わかった。俺でよければ、ば、ば、罰してあげるから!」
 勢い良く突っ込もうとしたそのとき、人の気配を感じて祥衛の口を押さえる。喘がれてはまずいと思ってだ。
 扉一枚隔てた向こうで小便をする音がして、しばらくの後に途切れる。気配が消えると当時に村上はふさぐ手を外したが、代わりに祥衛の唇には脱いだ靴下を押し込んだ。今日は一日じゅう外回りの仕事で歩き回っていたので、蒸れてきつく匂うはずだ。
 だが、もう村上の理性は飛んでいる。祥衛を可哀相だと感じる余裕など消えていた。
 それに祥衛は──酷い仕打ちに興奮する性癖の少年。
 靴下をしっかりとほおばり、玩具に凌辱されている肛門を突き出して便器に抱きつきながら、スティックが刺されたペニスをこれ以上ないほどに膨らませて固くしている。
 そうだこの少年は変態だ。
 じゃあ、遠慮する必要はない。
 めちゃくちゃに扱って犯してやればいい。
 おのれに言い聞かせた村上は肉杭を押し当てる。
「……ヤスエくん、い、入れるねッ!!」

9 / 11

 またディルドがずるんと抜けて落ちた。だが、残り2本もまだ刺さったまま、村上のモノも根本まで受けいれる。入り口に余裕はなくギチギチに開いていた。
 痛いのか、祥衛の背がのけ反る。靴下を噛む、声にならないうめきが漏れた。
「──ッ、っン……ッ、ン、ふー!!」
「く、くるしいのかな、でも、これ、罰なんだから。気持ちよかったら罰にならないよね、ねッ?」
 揺らしつけ、腰をスイングさせながら村上は囁く。あまりに狭いため村上の男根も締めつけられて痛かったが、痛みよりも興奮が勝っている。
 視覚的にも。
 まじわる体温にも、感触にも。
 パチンコ屋のトイレで犯しているというシチュエーションにも──すべてが村上を熱く酔いしれさせ、腰遣いを加速させる。
 ピストン運動を続けてゆくとこそぎ取られるようにすべてのディルドが零れて落ち、それからは抽送もスムーズになった。
 祥衛の細い身体に覆いかぶさり、味わうセックス。
 誰かが用を足しに来ると息をひそめ身体を密着させてやり過ごし、人の気配が消えるとふたたび、パンパンと音の立つ激しい性交を繰り返す。
 村上は二度中出しした。もちろん、そのあとには汚れたペニスを祥衛にクリーニングさせることも当然のように行う。少年性玩具の仕事は肛門を使って客の精液を絞り取るだけではなく、射精後の客の性器を綺麗に舐め清めたり、拭うことも含まれる。

10 / 11

 怜の元には何通ものメールが送られてきた。
 差出人は祥衛。客に痴態を撮ってもらって送るようにと命じたので、その通りに従っているのだ。
 添付写真には、パチンコ屋の汚らしいトイレの便座に全裸で座り、M字開脚している祥衛が映っている。口に咥えた汚い靴下は客のものらしい。
 壁に手をついて肛門を突き出している写真や、ディルドを両手に持って笑顔を作らされている写真もあった。祥衛なので無理やりのかなりぎこちない笑顔で、赤面した泣き笑いのようなグチャグチャな顔だったが、一応は笑顔だ。
 最初の客・村上とのプレイはそこで終わる。
 続いては、今宵二人目の客との写真。
 廃虚を裸で引き回され、犬のような体勢で小便をさせられている祥衛。交尾も乱雑で、工事現場にあるようなブルーシートを敷かれその上でのセックスだ。ハメ撮りの様子も何枚か送られてきている。祥衛は、極太の客の肉棒を身体いっぱいに受けとめていた。
「従順なマゾ奴隷だね、祥衛」
 怜はそう呟くと、スマートフォンに接吻をする。首都高速を走らせるアウディで時速170キロを超えながら。
 そして、端末を助手席に放る。怜はこれから、祥衛を廃虚に迎えにいくのだ。涼しい顔をしてハンドルを握り、漆黒の風をきって煌めくビル群を駆け抜けて向かう。

11 / 11

 郊外の廃工場。この場所に、怜は何度も仕事で来たことがあった。放棄された機械類や垂れ下がるチェーンといったシチュエーションがマニアに人気で、たびたび調教の場となったり、撮影が行われるのだ。
 割れたシャッターを潜り、慣れたように不法侵入する。しばらく歩いて行くと、捨て置かれたキャスター付きのイスの上に、つけっぱなしにされた懐中電灯が放置されていた。光はスポットライトのようにあたりを照らしている。
 その光を浴びているのが、全裸の祥衛だ。
 ブルーシートの上に座り込んでいる姿は、陰影によって哀れさを引き立たせ、痛々しい。肌は体液に塗れていた。
 だが怜はそんな祥衛を見ても憐憫の情など抱かない。むしろ、祥衛にはこんな仕打ちがよく似合うと思っている。
「お疲れー、祥衛」
 あっけらかんとした口調で近づいた怜は、祥衛の腕を掴んで引きずり上げた。針金のような身体がよろけながらも立つ。
「じゃあ帰るよー」
 ずるずると外に連れ出した。車に着くと、後部座席にあったバスタオルを渡し、汚れた身体を拭かせてから助手席に乗せる。
 祥衛は服をどこかで無くしてしまったようだ。それは時々あることで、めずらしいことではない。全裸にタオルを肩から被り、その上にシートベルトをするおかしな格好も見慣れたものだった。
「どう? 久しぶりに働いてみて」
 怜は来る途中に買っておいた、缶コーヒーのブラックに口をつける。祥衛には缶入りのカロリーメイトを与えた。両手で受けとった祥衛は、わずかにぺこりと頭を下げる。
「ねえ祥衛?」
 問いに対する答えを急かすように、怜がちらりと見ると、祥衛は答えた。
「……もう風邪は……なおった。のが、わかった……」
 カロリーメイトのプルトップを開けた祥衛は、無表情のまま。そんな返答か、と怜は肩をすくめつつも祥衛らしいなとも感じる。
「じゃ、帰ろうか」
 怜はアクセルを踏んだ。ちびちびとカロリーメイトを味わっている祥衛を乗せて、ふたたび首都高速に乗る。
 こうして日常に戻った。
 祥衛にとってしばしの休息となった数日間は終わって、明日からはまた休み無く男を受けいれる日々となる。
 細く脆弱な身体にはきつい仕打ちかもしれない。けれど祥衛は自らこの人生を選んだ。
 だから怜はなにも言わず、性奴隷として無残に使いつづける。飼い主らしく──

E N D