校内不純行為

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「越前谷に礼は言ったのか。熱心にお前に、宿題やら連絡物を届けてたんだから……」
 教師の言い草を聞き、健次の眉間には皴が寄った。
 話があると呼びだされ、秀乃に感謝しろとのお説教を食らっている。実際は秀乃本人の部屋にいたので届けるもクソもないし、そもそも、二学期ほとんど登校出来なかったのは秀乃のせいだ。事情をなにも知らない担任教師は秀乃のおかげで進級出来るようなものだと言い、健次の苛立ちは頂点に達する。
「……待て、相沢! 話はまだ終わっとらんぞ!」
 これ以上聞いていると、担任をぶん殴りそうだ。健次は勝手に職員室を後にした。
 なにが礼だと、内心で毒づきながら教室に戻る。ちょうど四時限目がはじまる所だったが、健次はカバンを手にふたたび廊下へ出た。
 向かうのは生徒会の会議室。旧校舎の三階にあるその部屋は長机が並んでいるだけなので、盗まれるような貴重品もなく施錠されていない。
 健次は今日もガラリと扉を開けると、パイプ椅子に腰を下ろした。引き出しから取りだすのは灰皿で、赤ラークに火を点ける。
 生徒会の部屋を都合のいい喫煙場所にしてしまっている近頃の健次だが、これくらいの見返りは当然だと思っている──あれほど好き勝手やられたのだから。
 快晴の空を眺めつつ、吸い殻を弾いた。カバンから春江の作ってくれた弁当を取り出し、一人きり味わいはじめる。今日のおかずは竜田揚げの他に、レンコンの梅あえ、厚焼き玉子、揚げ出し豆腐。デザートにはわらび餅も添えられていた。
 平らげてしまうと眠気がこみあげ、いつのまにやら腕組みをしたまま眠っていた健次だったが、チャイムで目覚める。今からが本当の昼食の時間だ。
「健次っ。早弁したんだね、育ちざかりの成長期だからお腹空くのかなぁっ?!」
 すぐに現れる、相変わらずなテンションの秀乃。健次はちらと見ると、忌々しげに舌打ちをした。なんだか最近、この部屋で二人で昼休みを過ごすのが日課になりつつあるような気がする。
「成長期はもう終りだろ」
 健次は伸びをした。座ったまま眠ってしまったせいか、関節が凝って音をたてる。
「あぁ、だりい」
「健次ったらいっつもそれだな。学校楽しくないのか?」
「……楽しいか、楽しくないかで計る場所じゃねえ。高卒を取得する所だ」
「成程、ストイックな意見だなー」
 頷いて、もくもくと弁当を食べる秀乃の昼食はいつものよう、仕出し屋が作ったような松花堂弁当。健次はカバンからスポーツ飲料を取りだし、喉に流しこむ。ペットボトルの蓋を閉めると、そういえば、となにかを思いだしたように秀乃が話しだした。
「健次のクラスに、転校生来たよな。健次が俺の所にいるあいだにさ」
 ……と、言われても、健次には分からない。人に興味を抱くことがないので、他の生徒と仲よくなるどころかろくに顔も覚えていないという始末だ。
「空手部らしいぞ。なかなか強いらしい。健次、喧嘩するなよ?」
「そいつの、名前はなんだ」
 だが、空手と聞くと少しばかり気になる。健次が尋ねると、考える秀乃はしばしに目線を宙に浮かせる。
「うーん……忘れたな。俺のタイプじゃなかったから」
「俺より強いヤツなんて、そうはいねぇ。久しぶりに骨のあるヤツだったら、面白い……」
 意識せずに健次の口許はゆるむ。この辺り一帯の“骨のあるヤツ”はすべて潰してしまって、退屈だ。もしも戦える人間ならばいい暇潰しになる。拳を鳴らすと、秀乃にじっと見られた。
「健次、なに考えてるんだ?」
「さあな?」
「どうせ闇討ちだろう。健次はおてんばだから怖いな」
「また俺を女の言葉で……!」
 おてんばと表された健次は、座ったまま机を足蹴にする。ドガッ、と音をたててずれた机を「すまない、可愛いからつい!」などと言いながら直し、なにごともなかったかのように弁当を食べ続ける秀乃は本気で怖がっている様子ではない。そんな秀乃を変なヤツと思いながらも、不快ではないとも思う健次だ。
 犯されすぎて俺の頭がおかしくなった。秀乃の菌がうつったのだ。そんなふうに自分に言い訳しつつも、居心地の良さは否めない。

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 健次は立ち上がるとまた煙草をくわえ、火を点けた。堂々と吸っていても、旧校舎へと来る人間はそういないのでばれることはない。
「なんだ……?」
 窓を開けてくゆらせていると、眼下に駆け込んできた男女の姿を見つけた。
 制服姿の少年と少女は、物置と校舎のあいだに隠れて唇をついばみあう。不慣れなのかぎこちなくもある口づけだが、濃密な想いがこめられているようだった。
「昼間からお盛んだな」
 いつの間にか、秀乃も席を立っていた。眼鏡を中指でずり上げ、いちゃつく生徒を冷めた目で観察している。
 地面では男子生徒がセーラー服をめくり、乳房に噛みついていた。彼らは、よもや前生徒会長に眺められているとも知らず──淫らに肌を寄せあい、性交へとなだれこむ。
「健次」
 名を呼ばれ、健次は振り返った。秀乃はガラス窓を閉め、健次の口を奪ってくる。
 健次に嫌悪感はこみあげない。身体に腕を廻され、そっと舌先を差しこまれても。窓の下でされていたキスよりも、はるかに大人びた接吻を交わす。味わうようにねっとりと絡みつく秀乃の舌に、健次もそれとなく絡めて唾液を混ぜる。
 キスは長く続いた。健次は、秀乃と口で繋がりながらも腕を伸ばして灰皿に煙草を置く。そこからはまだ一筋の煙が生まれ、立ち昇って揺れる。
「煽られたのか……」
 やっとのことで途切れ、健次は呆れたように鼻で笑い、べとべとの唾液を拭った。
「あんな風に見せつけられたらな」
「単純なヤツだ」 
「健次も反応してるよ。俺のキスに感じてくれたの? サカッてるあいつらに感じたの? 健次はノンケだからさ、ああいうのがいいんだろう」
 秀乃の手は健次の股間を制服ごしに触れてくる。健次は眉をしかめた。
「良くねえ。あんなもんで勃つか」
「じゃあ……俺のキスで、こうなったってこと?……嬉しい……。あぁ、ガチガチになっていくよ」
 薄ら笑いを浮かべて、秀乃は撫でさすり続ける。健次は腰のあたりがびくつくのを感じ、一歩だけずり下がった。
 春江の怪我がまだ治りきっておらず、性行為をしていないため正直なところ溜まっていた。ストレスのままに夜道で手当たりしだいに殴りつけレイプに及ぶこともしていないし、誰かに強引に犯されるということもない。健次は今、人生でもっとも健全な日々を送っている。
「また俺が、抜いてもいいみたいだな?」
 その場に跪く秀乃に、健次はなにも返せなかった。
 ──実は、もう何度かこの部屋で行為に及んだことがある。生徒会の会議室は、今や健次の喫煙所であるとともに、二人の性欲を満たす場所とも化していた。
 明確に拒否することが出来ず、かといって手放しで迎え入れたくもない健次は困惑してしまう。
 そんな健次の迷いを、秀乃は見逃さない。拒まれる前になし崩しにしようと目論んでいる。秀乃によって健次のファスナーは下ろされ、性器は手中に収められた。
「形も良いし、大きさもあるし、理想的だ……健次のすべてが俺のタイプだ」
 秀乃はまるで夢見心地の乙女のようなうっとりとした目つきだ。崇めるように、大切なものを扱うかのごとく両手に包みこんで嬉しそうにしている。
「ンっ……」
 扱かれれば、健次は思わず吐息を漏らしそうになる。唇をぎゅっと閉じてとどまったが、秀乃にその顔を見られてしまった。目が合うと、秀乃はほくそ笑みながら眼鏡を折り畳み胸ポケットに入れる。それが合図といわんばかりに、ペニスへの激しい舌奉仕が開始された。

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 秀乃はわざとらしく下品なほどに水音を立てて、美味な果実でも貪るかのよう、旨そうに咥える。熱心に吸いつき、絡みつき、健次の先端から生まれる先走りも嚥下してしまう。
 健次は壁に背をもたせかけ、腰を落として立ちながら──しゃぶられる快感で表情を歪ませた。
「ン……、っ、く……」
 拠り所がなく、秀乃の両肩を掴む。四季彩での日々でずいぶん慣れたとはいえ、秀乃の唾液に塗れればひどく熱く、痺れる。
 熟れゆく身体をどうすることもできず、健次はもう吐息を押し殺せなくなり、だらしなく唇を開いていた。
「う……ッ、は、あぁ……」
「いい顔だ。健次……愛してるよ」
 肉棒を吐きだした秀乃は、顎を濡らして立ちあがる。伸ばした指は健次の口許をなぞり、唇を愛撫した。軽く歯列もなぞってから、頬にキスも与える。
「ア……」
 首筋も舐めあげた。アンダーシャツの上から胸の突起を弾いた手は、健次の腰骨へと降りてゆく。バックルを外され、下着ごとズボンを脱がされた。
「大丈夫だ、健次。俺に弄られるのは、平気だろう……?」
 秀乃は尻肉を撫で、その奥にまで指を這わせ、蕾を探しあてる。唾液と健次自身が滲ませた先走りを潤滑油にして、指先は内部へと滑り込んだ。
「……!」
 中指一本に浅く掻かれるだけでも、健次にはきつい。立っているのが辛くなり、机に手をつく。結果的に尻を秀乃に突きだす体勢に移行し、後孔を直接に舐められたりもする。
「あ……ッ、あ……!」
 舌先の感触は絶妙で、健次の背骨を駆け上がり、愉悦に変わる。
「いやらし過ぎるよ、健次、なんて姿だ!」
「ぐ……!」
 興奮気味の秀乃の声と、媚肉を舐められたり掻かれたりして立つ水音が響く、二人きりの部屋。
 軟禁生活の間に、健次の感じる部位はすべて秀乃に見つけられ、把握されている。的確に刺激されるたび、健次はブザマにビクつき、秀乃の唾液滴る脚を震わせたりした。
 こうして少しずつ、秀乃によって慣らされる。男根を受けいれるための準備が進む。長机に突っ伏し、学ランの袖に埋めている健次の顔は弄られながらなぜだか熱くなってきた。もう駄目だ。あとは快楽に堕ちるだけ。
「まわってきた……」
「ん?」
「キサマの、毒、が……」
 吐息を零し、健次は眉間に皴寄せる。ペニスへの刺激も多少はされるが、補助的なものにすぎない。尻穴で快感を得て、さらに多量の先走りを垂らしつづける。
 健次が股間を活きらせて酔いしれていると、後孔に指ではない感触を覚えた。秀乃はあえてなにも告げずに突然突き立てたのだろう、指で弄る延長線のように健次に感じさせるために。
 また、健次が嫌がるので触らせたり、咥えさせたりということも滅多に求めない。秀乃はただ奉仕し、熟れた頃合いにこうして結合するのみ。
「ア、あ、あぁ……」
「痛くないはずだ。ほら、しっかり開いてるから」
「っ……ぅ、う……」
 両手で腰を掴まれ、ゆっくりと、埋め込まれる。
 他人の勃起した性器が体内に逆流してくる感覚は、健次にとっては精通を迎える前から経験してきた、よく知っているもの。
 けれど今までに感じてきた挿入と秀乃の挿入は違う。痛みがない。張り裂けるほど、壊れるほどに無理やり捩じ込まれてきた行為とは、違う。秀乃は健次に酷くしない。秀乃の持つ媚薬の体液も相俟って……気持ちよくてたまらない。

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「子作りに励もう。着床するといいね!」
 なにを訳の分からんことを言っているんだコイツは、と健次はいつもながら思った。だが言う余裕はない。繋がっている部位が甘く疼き、体勢を維持するのでやっとだ。
「健次、好きだ、好き……!」
 まずはゆっくりとした抜き差し。抜けてしまいそうに腰を引いたあと、また根本までギッチリ挿れられるという繰り返し。すべてを肛門の中に収められているときは、強烈な異物感と苦しさがあるのに、壮絶なほどの快感もある。「今、全部入ってるよっ」「健次のお尻、俺のチンポ絞り取るみたいに締め付けてくる」などと耳元で解説されるたびにかかる吐息にさえビクついてしまう。
 けれども動きはのろく、秀乃は焦らす。もどかしくなる健次は自らの性器に手を伸ばしてしまう。
「いいよ、俺が扱くから」
 すると、秀乃の手も伸ばされてきた。ゆるい腰の動きも止めないまま、前も一定のリズムで扱かれる。
「いら……ん、世話だ、自……分で……」
「妻の性欲処理も夫の役目だ。俺に擦らせて」
「俺がい……つお前と結……」
 健次の呻きは、快感に呑まれる。扱き方が速くなったからだ。後孔への抜き差しと合わさり、こらえきれずに喘ぎを零す。
「あッ、あっ、ア……」
 せり上がってくる衝撃に力み、意識せずに爪先立ちとなる。健次は両腕を突っ張り、秀乃に握られたまま絶頂の白濁を漏らした。
「く……ッ…!」
「出たね、健次。まだ出るよな……?」
 秀乃は一滴も残さまいと絞り、こそげ取る。その手つきにも感じる健次は、思わず悶えそうになってしまう。
 呼吸を乱し、机に突っ伏す健次と、しばし腰つきを止めて健次の精液を味わう秀乃。付着した指の白濁をしゃぶって嬉しそうに味わい、すべて舐めとったところで揺らしつけを再開した。
「! ッ……あ、ああぁ……!」
 余韻を漂っていた健次の意識は激しい快楽に戻される。極みに達したばかりの身体に、媚薬混じりの抽送はあまりにきつい。刺激が強すぎる。
「あ、あッ、う、……!!」
「気持ちいいな、健次。男の子扱いしてあげたよ、チンポでイカせてやっただろう。だから次はお嫁さんらしく膣でイッてよ」
「なッ……殺、す、てめ……!」
「もちろん中出しだ、子作りだから」
「変態ヤロウ、が、くそ」
 次第に強くなる揺らしつけ。緩急をつけて、健次を翻弄するように叩き込んでくる。
 巧すぎる……健次は目を閉じて呪う。健次も下手でないと自分で思っているし、実際、腰遣いだけで春江をイカせられる。
 けれど秀乃には敵わない。性の英才教育を受けてきた人間に勝つことなど到底無理だ。
「ッ、ん、ンっ……」
 差し込む角度や揺らし方によって、健次の喘ぎが変わることを秀乃は愉しんでいるようだ。反応を観察し、少しの変化も見逃さずに的確に性交を進める。
 例えば、両乳首を摘まれながら突き込まれると背筋が反り、喘ぎ声もうわずる。
 秀乃も片足を机に掛けてより深くまで結合すれば、最奥にまで挿入された健次は一層切なげな表情をして拳を握りしめてしまう。
「……思い出すね、健次。俺の部屋での性交三昧」
「あ、ぁ、あ……」
「多い時は一日に十二回したね」
「ンッ、ふ……っ、う……!」
「俺もイクよ、受精してよ、好きだから!」
 ずっぷりとはめ込まれたまま、健次の腸壁は白濁に満たされる。呼吸を乱す健次も、ほぼ同時に射精した。先程よりも量の少ないそれはまた秀乃の手に握り締められ、舐め取られる。
 そして結合を解くことなく、スキスキ言いながら腰つきを再開させる秀乃。ぐちゃぐちゃに掻き回されながら健次は「あとで殺してやる」と心の中で毒づいた。

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「痛い! 痛いよ健次! ひどいよッ!」
 暴行を受け、顔にも身体にも怪我を負った秀乃は下着姿でしくしくと泣いていた。さっさと制服を着た健次は煙草を咥え、秀乃のカバンに入っていたノートを派手に破いて燃やしたり、弁当を包んでいたハンカチも燃やしたり、残りの持ち物はゴミ箱に入れたりといった作業を行う。秀乃の学ランは窓の外に放り投げたため、ポプラの木に引っかかっていた。時刻は五時限目の休み時間にさしかかっているので、当然、あの男女の生徒はもういない。
「うるせえ! クズ眼鏡! 死ね!!」
 健次は荒らしに荒らした部屋をさらに蹴り、秀乃を殴ったために曲がったパイプ椅子を再び振り上げた。
「ひー! やりすぎた、やりすぎました!……じゃあさ今度は健次が俺を犯してよ!」
「馬鹿か。キサマに挿れるなんて気色悪いことできるか!」
「なにそれ、なにそれぇ!!」
 椅子を壁に放り投げ、健次は秀乃の制服から抜き取っていた財布を広げる。小銭もカード類もその制服同様すべて窓から捨ててやった。秀乃の「ぎゃー、おてんばすぎる」との悲鳴が被る。
「五万も持ってきてやがるのか。学校にこんな金いらねえだろ、阿呆だろ」
「だって、ときどきタクシーで帰るもん」
「『もん』じゃねえ。きめぇ。没収だ」
 紙幣を自分のポケットに捩じ込むと、健次はカバンを手に部屋を出ていく。
「じゃあなカス。馬鹿野郎が、足がふらつく……」
「ちょ、ちょっと相沢君、僕の制服どうしよう」
「てめえで拾ってこい」
 体内には拭いきれていない粘液の感触が残っていて気持ち悪く、はやく風呂に入りたい。猛烈にだるくなってしまったし、健次は帰宅することにする。
 渡り廊下を戻っていると、いつもと同じ体育館裏の決まった場所に、空手部の連中がたまっているのが見えた。その中には見慣れぬ茶髪頭の生徒がいて、秀乃の言っていた転校生かもしれないと目星をつける。
 あいつと試合するため、久しぶりに部活に出てもいいな、と健次は思った。
 性欲を晴らし、不本意ながらすっきりした健次の瞳に、冬の空は澄んで映る。

E N D