1 / 6今日までテスト期間なのに、明け方まで輪姦(まわ)された。一応登校したが、最悪のコンディションで受けたテストの結果は、きっと芳しくないだろう。座っているだけで尻は痛く、殴られて腫れた左瞼と頬も痛む。さらに寝不足なので、うとうとしながら、半分寝ながら問題を解いていた。 今日の科目は数学と地理と保健体育の3つで、幸い、終わってしまえば昼前に下校できる。 答案用紙を提出した健次は、帰りのホームルームを待たずに荷物をまとめ、無言で教室を出た。 頬と唇の痛みを感じながらもあくびをする。とっとと家に帰って爆睡したい……。 「……あ、あの! 待って、相沢くん……」 声をかけられて振り向くと、室長の女子がいた。勇気を振りしぼって追いかけてきたらしいが、健次と目線は合わせない。居心地悪そうに廊下の床を眺めている。 「鈴木先生が、職員室に来るようにって言ってました……!」 なぜ同級生なのに敬語を使われるのか、健次にはよく分からない。もちろん、職員室に顔を出すつもりもない。聞かなかったことにして再び歩きだすと、女子は言葉をつけ足す。 「……無視して帰ったらお家に連絡するぞって……ちゃんと私、伝えたから……!」 逃げるように走り去られ、健次は眉間に皺を寄せる。 電話に出るのは家政婦の春江だ。春江にまた余計な心配をかけたくないので、とてつもなく気が乗らないが、職員室に向かった。 失礼しますも言わずに引き戸を開けて、鈴木の席に行く。途端に職員室内の談笑は静まり、健次を遠巻きに観察する嫌な空気になった。 2時限目の地理の時間、健次のクラスを担当していた鈴木は、健次を見上げて不満げに鼻息を漏らす。さっそく本題を切りだされる。 「相沢、お前、テスト中に寝てただろう? もうすぐ受験なのに……それで良いのか? 良いはずないよな? というか、普段の授業態度からして――……」 ぐちぐちと小言が始まり、健次は窓を向きグラウンドを眺める。天気がいい。まったく聞かずに過ごしていると、鈴木は痺れを切らしたようにデスクを手のひらで叩いた。 「お前のことを話してるんだぞ! 相沢! だいたい、その怪我は何なんだ?!」 鈴木は健次の顔に貼られた脱脂綿と絆創膏を見る。 ……鈴木の指摘に、辺りの空気がさらに凍りついたのを健次は感じ取る。健次が虐待されていることに触れるのは教師といえども、この近辺の大人たちの間ではタブーだ。なかなか骨があるヤツなのかもしれないと健次は鈴木を妙に見直し、やっと目を見て答えてやる。 「階段から落ちた」 「さっきは、庭で転んだって言ってたよな?」 そういえば地理のテスト中にも聞かれたかもしれない。適当に受け答えしているのでいちいち覚えていない。 「じゃあ……縁側から落ちた」 自分で言って笑えてきて、健次はうつむき、口許を押さえた。 笑い声を押し殺し、肩を震わせている健次に、鈴木は苛立ちをあらわにする。 「全く! ふざけてるのか? 大人をからかって楽しいのか!?」 「鈴木先生、もうそのくらいで……」 これ以上場の空気を悪くしたくないとばかりに、他の教師が止めに入ってくる。だが、鈴木は説教をやめない。 「お前も大変だとは思うが、周りが迷惑するんだよ。ちゃんとまともな教育をなさってる普通のご家庭から預かってる生徒たちに悪影響なんだ、お前はなぁ、存在だけで風紀を乱すんだからな! 少しは怪我を隠すとか、目立たずに大人しく過ごすとか、慎めないのか?!」 「ほら、相沢、もういいから!」 鈴木はまだ叱りたそうだったが、止めに入った教師に追い立てられるようにして、健次は職員室を後にする。 実に無駄な時間だった。さっさと帰れなかったせいで掃除の時間に差しかかっている。生徒たちがホウキやモップを手にうろついて邪魔でしかない、鬱陶しい。 上履きをスニーカーに履き替えて、体育館裏の通用門に向かう。ホウキを持った生徒たちはここにもいた。ろくに手を動かさず、男女数人でだべっている。 「相沢また顔腫らしてんじゃん、見た?」 「見た見たぁ、カワイソー」 「服の下見たことある? グロ注意なんだけど」 「あー体育の着替えんときに見た、ドン引きするわ、あれ」 「暴力だけじゃなくてさぁ、親の知りあいのオッサンとかにヤラれてるらしいよ、やばくね?」 「それ聞いたことある、有名だよね、キモッ……」 自分のことを話されていても気にせずに横を通りすぎていく。ひとりの男子生徒が「ヒィィ」と、怯えた声を響かせた。 「うわっ相沢じゃん……やべ……!」 「こっち見たんじゃね? 怖っえぇ、やべー怖いって、前あいつ中村さんをシメてたんだから……」 「1年の時に3年の主将ボコった話も知ってる?」 「つーかさぁ、あんな怖えぇ顔でしゃぶってんのかよ……勃たねぇって……」 「えーでも結構イケメンじゃない? 」 「性格は最悪だし、自己中じゃん」 「良いヤツだったらとっくに助けてもらえてるよなぁ?」 「あんなヤツに友達出来るわけないし!!」 独りだと何も言えないくせに、集団だとキャンキャンうるさい。 体調がすぐれないせいか「うるせぇ」と蹴りにいく気にも、襟首を掴んで「死ぬか?」と脅してやる気にもならず、健次はうんざりした気分で学校の敷地を出る。 すると──待ち構えていたように、校門前に停車していた銀色のジャガーの窓が開く。 運転席から顔を覗かせるのは須見(すみ)という男だった。 2 / 6少し前に壮一の知人が連れてきた男で、最近、健次を凌辱して調教するあの会合の常連になった。親から継いだ町工場の社長だが、工場にはろくに顔を出さずに昼間からフラフラしている。日焼けはゴルフ焼けらしい。今日も仕事を抜けてきたのか、作業着姿だ。 「よぉ、健次くん、テストだったんだろ? どうだった? 手応えの程は?」 当然無視して歩いていく。須見はクラクションを鳴らしたが、それも無視だ。すると須見はわざわざ車を降りて追いかけてきた。早足で近づいてきて、健次の腕を掴む。 「俺さぁ、昨日参加できなかったんだよね、飲んでてさぁ! 俺とも遊んでくれって!」 「学校まで来んのはルール違反だろ」 健次は須見を振りほどく。須見はわざとらしく意外そうな表情を浮かべた。 「えっ? 何それ? 肉便器使うのにルールなんてあるの?」 「相手して欲しいなら親父を通せ」 「おいおい、健次くんさ、恩田くんたちとは直で電話しあってセックスしてんだろ? なんで? どうしたら君とそういう仲になれんの?」 恩田のグループは、暴力を振るわないし、勉強も教えてくれる──ひどく虐待してこない相手には健次だって普通に口を利くのだが、そんなことも分からないのだろうか。 健次は再び歩きだした。しかし、須見はしつこい。今度は健次の肩を掴んでくる。 「もしかして、恩田くんのこと好きなの?」 「バカか?」 思わず鼻で笑ってしまった。その瞬間、須見の顔は怒りに歪んで、力まかせに殴りかかってきた──悲鳴をあげたのは健次ではなく、通用口に溜まっていた女子。一部始終を見ていたらしい。 健次はとっさにガードを構えたが、昨日の傷に響いて痛んだ。 顔をしかめていると、須見は不気味に笑う。 「やっべぇ、騒ぎになっちゃうよなぁ、さすがに学校の前では良くないよなぁ」 奥の手とばかりに、ニヤつきながらスマホを取りだして画面を見せてくる。映しだされるのは、昨夜撮られたハメ撮り写真。昨夜の参加者の誰かがさっそく須見に送ったのだろう。 須見はどこか得意げな口調だ。 「あそこで騒いでる子たちにも見せよっか? 恥ずかしいぞ、メス顔、イキ顔、知られちゃうよ、見せられたくないなら大人しくさぁ──」 勝手に見せればいい、どうでもいい。もっと恥ずかしい目にも散々遭わされてきたし、いまさら同級生に知られても、陰でひそひそ言われるのが少し増えるだけのことだ。 健次は歩きだす……それでも、また須見に腕を掴まれる。 らちが明かない。 「は、は、話聞けよ!!」 「うっせぇな、クソが……」 ギャラリーが増えてきた。通用門には先程よりも大勢の生徒が集まり、興味津々といったテンションで盛り上がってこちらを見ている。 確かに、これ以上騒ぎになっても面倒臭い。教師にもまたグチグチ言われるかもしれない。 (……俺は何も悪くねぇのに腹立つ……) 健次はムカつきながら引き返し、須見の愛車のジャガーを蹴った。 思いきり蹴ってやったので後部座席の扉は凹む。須見は血相を変えて走ってきて、車のそばにへたりこんだ。そして恨みのこもった目で見上げてくる。 「なにすんだぁぁ、このガキ!! 幾らすると思ってんだよ、この車ぁ!!」 「開けろ」 健次は見下しながら、催促するようにまた扉を軽く蹴った。 「俺を連れてくんだろうが、ヒマ人」 「目上の人間に対して、その口の利き方は何だよ!!」 須見は後部座席の扉を開いて健次を押しこみ、自分は運転席に座る。わめきながらエンジンをかけ、何処かに向かって走りはじめた。 「壮一さんに言いつけるぞぉ、弁償してもらうからな! 叱られるのはお前なんだからなぁ!!」 ……どうも昨日から運が悪い。このアホに開放されたら神社にでも寄ってから帰るか……と思いながら、健次は窓の外に目線をやる。風景は大通りを流れていく。 3 / 6連れこまれたビジネスホテルで、入室した瞬間に頬をぶたれた。学校前の路上と同様、力加減されなかったので耳鳴りがする。とっさに身を引かなかったら、鼓膜が破れていたかもしれない。 壮一を含め昔から虐待してくる連中は手加減が上手いが、須見の暴力はめちゃくちゃだ。骨折など大きな怪我をしたら、壮一の友人が院長を務める病院に行かなければならないので面倒臭い……滋賀にあって、少し遠いのだ。 (ちゃんと身構えてねぇと、やべぇな) 警戒しながら殴る蹴るを浴びていると、「なんで防御するんだよぉ!!」などと苛立ちを叫ばれ、終いには髪を引っ掴まれ、ベッドに倒された。まだ暴力は続く。馬乗りになって殴打される。 「車の恨みだ! バカガキが! 最初から! 素直について来いよ!!」 口の中に滲む血の味。しだいに殴り疲れてきたのか、須見は肩で息をしている。 「どうせ、逆らえないんだからな……好きなんだろ? 春江ちゃんだっけ? あの家政婦がさぁ……」 須見は下品な笑みを浮かべる。 「あいつのために虐待耐えてんだろ? 健気だよなぁ、あれは壮一さんの女なんだから、頑張ってもさぁ、健次くんのものにはならないんだよ?」 須見は健次に跨ったまま、作業着のポケットからスマートフォンを取りだした。 「ていうかさぁ、昨日スゴかったみたいじゃん」 路上で見せてきた写真を、飽きもせずまた見せてくるのかと思いきや、今度は動画を突きつけてきた。そういえば昨夜は動画も撮られている。昔からしょっちゅうビデオカメラを回されているので、いちいち気にするような神経はとっくの昔に麻痺していた。 映像の健次はシーツに這いつくばって、巨大なディルドを捩じこまれている。太さは健次の手首ほどあり、長さもなかなかのものだ。黒光りしてグロテスクでしかない。須見は笑う。 「ヒイヒイ泣いてるじゃねぇか、傑作だよな」 『アァアアァぁあ──……!!』 「はは、すげぇ声」 動画を見ていると昨夜の恐怖が蘇り、健次は眉根を寄せた。 『ひぃアッ……あ……あ……ぁあァァ……ン……!』 「S字結腸貫通したときの顔、最高だな」 須見も寝そべり、健次に擦り寄る。間近でスマホを見せてくる。 「こういうすげぇのぶっ刺されてるとき、どういう気持ちでいんの? 女の子になっちゃった気分にでもなってんの?」 声も涙も自然に溢れて、目の前はチカチカして、真っ白になり……あまりいい気分ではない。 快楽はなく、怖さしかなく、ただ早く終わってくれと願っている。それでも性器は不思議に反応して、勃起を維持し、とろとろと精液混じりの先走りを垂れこぼしつづけるのだ。 答えずに黙っていると、須見は違う動画も見せてきた。画面いっぱいに映るのは四つん這いになった健次の肛門で、先程よりも締まりがあるから、時系列は串刺しにされる前の辱めだ。 須見は楽しそうに健次の顔とスマホを並べ、画面内の恥部と、目の前の顔をセットで見て笑う。 「うーわ、恥ずかし」 画面の中では、いくつものローターがその尻に向けて垂らされていた。健次の肌の上でぶつかりあう蠕動と振動音。少しでも逃れたくて身をよじり、蠢く肛門と揺れる性器をこうして客観的に見ると、とても滑稽だった。素肌の背中は大人たちの手で押さえつけられている。 『逃げんなって、腰くねらせんなって!』 ローターのひとつが掴まれて、健次の入り口の襞をなぞった。 『あ、ぁ、アっ……』 『ほぅら、気持ちいいからなー』 はめ込むように、それを内襞に挿れられてしまう。映像の健次はわななくように身を震わせる。 『ン、ぁ、あぁ、あ……!』 それだけで終わるはずもなく、もうひとつはめ込まれた。それなのに尻の谷間や入り口の襞も、他のローターで刺激され続ける健次のもぞつきは酷くなって、哀れにうねり、男たちの笑いを誘う。 『ははは、すっげぇ、腰振って誘ってんのかよ!』 『何の踊りだよそれ! ハメてほしいってか?!』 ローターを挿れられても健次は半勃ちだったが、丹念に扱かれだすと、さすがに芯を入れていく。 『はいフル勃起〜!』 身体の向きを強引に変えられ、仰向けにされて晒された、強制的に欲情させられた性器――何人かのスマホが近づき、好き勝手撮影されてフラッシュがパシャパシャと光った。 次の動画に切り替わる……一体いつまで昨夜の悪夢を見せられるのだろう。うんざりする健次の瞳に映るのは、男に強要されてディープキスをする自分の姿だ。裸で腕を回しあって舌を絡ませ、唾液を垂らして抉りあうさまは恋人同士にも見える。映像内には嫌悪感を示す男もいる。 『ザーメン飲ませまくりのチンポしゃぶらせまくりの口とよくキス出来るなぁ、きったねぇ』 『おい、それが終わったら、またこっちしゃぶれよ』 別の男は自らの性器を握りしめて、それで健次の頬をつついた。須見は笑う。 「年上のお兄さんたちにこんなに辱めてもらってるガキ、日本に健次くんだけだよな!」 須見はやっとスマホを放った。面白そうにニヤついたまま、健次のベルトに手をかけてくる。制服のズボンを脱がされて、ボクサーパンツを露わにされた。 布越しに揉みこまれたあと、その下着も下ろされ、パイパンに剃られたありさまはお約束のように笑われる。 須見は健次の股を開いてさらにからかう。 「日替わりで色んなチンポつっこまれてるケツ穴、御開帳〜」 そうされるだけで入り口の粘膜が引き攣れるピリッとした痛みと、奥の方では鈍痛が蠢いたのを感じる。乱交するだけでなく、面白おかしく極太のディルドを挿れられたのにまだ癒えるはずない。 傷を負って熟れた肛門を、須見は興味深そうに覗きこんでくる。 「さすがに緩んでるなぁ、ははは、かっわいそうになぁ……!」 そんな須見もベルトを外し、下半身を晒して肉茎を掴み、催促するように揺らした。 「ほら、咥えろよ」 「…………」 嫌でしかない。唇を引き結んだままでいると、また髪を掴まれて頭をぐらつかされた。 「咥えろって言ってるだろう! もっと殴られたいのか!!」 フェラチオしなくても済むなら、多少の暴力のほうがマシだ。 しかし、口許に無理やり性器を押しつけられてしまう。擦れる陰毛の感触も気持ち悪すぎる。 「健次くんの大好物だろ? ほらほら、昨日だって旨そうにしゃぶってたくせに……いい子にしてたら、車の弁償額減らしてやるからさ……」 顔をしかめる健次の鼻は摘まれ、当然息苦しくなり、口を開けざるを得なくなった。その隙に須見はペニスを捩じ挿れてくる──生臭さと血の味が混じって最悪だった。 4 / 6シーツの上に置かれたスマホは未だに動画を映しつづけていて、昨夜の健次もフェラチオをさせられている。それだけでなく後孔も貫かれ、咥えながら悶えている。『ン……ふ……うぅ……』 『歯ぁ立てたら、チンポまたライターで炙るぞー』 『火傷したくねぇんなら、必死こいて奉仕するんだなぁ』 前にも後ろにも強制的に突っこまれるなんて、まるで串刺しだ。 このとき、実は健次は、正直なところ泣きそうな気持ちになっていた。実際には泣かなかったが、苦しさと悲しさと屈辱感から涙が込み上げてきそうだった。吐き気も凄く、胃液混じりの唾液をだらだら垂らしながら揺さぶられている。 ……今だって泣きたいし、吐きたい……須見に頭を押さえつけられ、無茶苦茶に突かれる喉。イマラチオに慣れていなければ、派手に噎せていたに違いない。昨夜を引きずって食欲がなく、朝食を抜いてきたので吐くものがないが、ちゃんと食べていたら胃の中は逆流して吐瀉していただろう。 しばらく抉り続け、須見は少しは満足したのか、やっと喉から抜きとってくれる。健次の血と唾液と胃液に塗れたペニスはどろどろと糸を引いて離れていく。 しかし、安息は続かず「ケツ向けろよ」と急かされた。 「喉マンの次は、こっちも使わせろよ」 ただでさえ傷ついている後孔なのに、洗浄することも、慣らすことさえもろくにしてもらえないまま、強引に尖端をあてがわれる。 極太ディルドと乱交で緩んだ穴が、後背位で、須見の勃起を少しずつ飲みこんでいく── (痛っ……てぇ……痛てぇ……) 健次は表情を歪め、枕に噛みつき、必死に堪える。それでも、あまりの痛みと異物感に腰をくねらせてしまい、それは須見の嘲笑を誘って、尻は無残に平手打たれた。パァンと音が鳴る。 「上、学ラン着せたまま犯すのもそそるなぁ……、おい、嫌がってんのかぁ? 大人しく飲みこめって、肉便器らしくさぁ……!」 「……ッ、ぅ、う、ぐっ……」 「ていうかさぁ、いっつも思うんだけどすっげぇよなぁ、健次くんのケツ穴……処女みたいに締めつけてくんのにヤリ慣れてるから柔らかくって、絶妙だよなぁ」 始まる抽送。攪拌される痛み。健次は悲痛に瞼を閉じる。 鼓膜は閉じられないから、聞こえてきてしまう、動画内でも犯される健次の喘ぎ声。 『はッ……あっ、あっ、アぁぁあ……』 『次俺、次俺! はやくこっちにも貸せって』 『あッ、あっ、あっ、あっ、あッ……!』 『偉い偉い、ピストンに合わせて上手に声出せてんじゃねぇか』 そんなつもりはなかったから、指摘されて恥ずかしかった。聞いていて蘇る羞恥。細目を開けてスマホを見ると、昨夜の健次は赤く染まる頬を隠すために枕に顔を押しつけている。 裸身の健次に打ちこむ男は『あーイク』と宣言して、力強く最奥を貫き、残酷に抉った。 『かは……ッ……! ぅうぅ……!!』 『はーい種付けー!』 『今日何回目だよ、あははは』 『家畜より種付けされてんなぁ、健次!』 中出しされて笑われている。 須見も笑っていた。揺らす腰を止めないままで。 「興奮するんじゃないか? 犯してもらいながら、自分のセックス映像流されんの」 するわけがない。悲しさが増すだけだ。おまけに須見は強引でヘタクソで激痛しかない。昨夜のほうがまだ快楽を得れた瞬間もあった。 「ッ、ぐ、……ン……、は……」 「気持ち良いのかぁ?」 小刻みに抉りつけられると、痛みはさらに溢れて、出血しているのが我ながら分かる。 ……まだ続いている動画の中では、射精された健次はシーツにしゃがみこみ、力んで、下品な濁音とともに肛門から濁液を排泄した。男たちは呆れた視線を投げかけてくる。 『すーぐ出しちまうのな、こいつ』 『もう、恥じらいも何もねぇんだなぁ』 違う……見られながらひり出す羞恥よりも、体内に他人の精液を溜めこまれる不快のほうが上回っているだけだ。 撮影しているスマホが、ふと肛門の下に差し入れられ、開いたり閉じたりとヒクつき蠢く襞や、どろつく精液を垂らしながら揺れる尻と性器を臨場感あふれるアングルで接写した。 精液はスマホの画面にボタボタっと垂れこぼれ、滲んでぼやける映像……こんな風にも撮られていたのかと、記憶に無かった健次の目の前は暗くなり、絶望感に囚われる。 撮影者が個人的に見て楽しむだけでなく、須見に送られてきているように他の者にも一斉送信されていて、これからもずっと彼らに痴態を鑑賞され笑われるのだろう。 考えだすと心が削げていく、死んでいく、そんな気持ちになるのはよくあることだけれど──今もまたそういった感情に沈む。 シーンは切り替わり、アナルに指を挿れられて掻きだされ、カメラ目線を命じられた自分がこちらを見つめている。虚ろな瞳を虚ろな瞳で見つめかえす。一通り掻きだされた昨夜の健次はまた覆い被さられて犯されていく……。 『よっしゃ、次の種付けなー』 歪む自分の顔と、無理やりに蠕動されて跳ねる身体。 『う……、うぅ……ッ……ンっ……』 「あ……っ、……く……、ぅ……」 重なる喘ぎ声。昨夜も地獄なら、今も地獄だ。早く終わって欲しい。いつ終わるのだろう。 『あッ、あっ、あっ……あ……』 「ア……ぁ……うぅ……!」 ……終わったことなんて無いかもしれない。物心ついた頃すでに虐待されていた。虐待されていない時間は地獄の合間のわずかな休息に過ぎない。15年間ずっと地獄の焔の中で生きてきたような人生だ。 5 / 6たっぷり楽しんだ須見は自分だけシャワーを浴び、首からタオルを下げた全裸でユニットバスから戻ってくる。健次は下半身の汚れをティッシュで拭って、元通りに下着と制服のズボンを穿いていた。学生鞄もすでに肩にかけ、ベッドに座り、煙草を吸って過ごしていた。健次を見て、須見は鼻で笑う。見下した笑いだ。 「帰る気満々じゃん、まぁ、いいよ、やることやったし──」 健次は煙を吐きだすと、立ちあがり、デスクの灰皿に吸殻を潰す。 それから須見へと腕を伸ばして、手のひらを向ける。 「3万出せ」 須見は何を言われているのか分からないといった表情になった。 「へっ?」 「3発出されたから3万」 「おいおい……何言ってるんだって……?」 「避妊しやがらねぇから、30万にするか?」 「ちょ、ま、健次くん、頭オカシイだろ……!?」 「300万にするか」 健次は一度腕を引っこめると、学ランのポケットからスマートフォンを出す。須見に動画を見せられたときと同じようにそれを突きだして、録音してやった音声を再生する。 実は入室してすぐ、スマホを見るフリをして動画撮影のボタンを押しておいたのだ。床に置いていたので性行為の絵は撮れていないが、音声は録れている……数十分間も。 『いっつも思うんだけどすっげぇよなぁ、健次くんのケツ穴』 自分の声を聞き、須見の顔色は変わっていく。蒼白になっていく。 『締めつけてくんのに柔らかくて、絶妙だよなぁ』 「な、っ、な……いつの間に……!! なに録ってんだよ!!」 「てめぇも録ってんだろ」 「俺は撮ってねぇよ!!」 そういえばそうだ。他の人間が撮ったものを見せつけてきただけだった。健次は笑った。 「……ふっ、そうだな」 「そうだなじゃねぇって……! このガキ、余計なことしてんじゃねぇって!!」 血相を変えた須見は、健次のスマホを奪おうと飛びかかってくる。健次は難なく避けて、須見は派手にすっ転んだ。 「消せよ!!!」 タオルは落ち、全裸で叫ぶ姿はブザマでしかない。……そんな須見を無言で見下しながら、健次はスマホを向けて写真を撮る。 シャッター音に須見はさらに取り乱し、無駄な足掻きで顔を隠す。 「うわぁっ、やめろ!!」 「テンパリすぎだろ」 健次は余計に笑ってしまう。しかし、この男はスキが多い、詰めも甘い。イラついたから思いつきで録ってやったものの、ここまで脅しが効くのは意外だった。 「そんなにバレたくねぇのか」 ひどく虐待してこない相手とは普通に口を利く、世間話だってする──だから健次は、恩田たちから聞いてはいた、須見は名ばかりの取締役社長で会社に居場所がなく、肩身の狭い思いをしているらしい。女も抱けるから妻子もいるが、夫婦仲も妻以外の家族との関係もあまり上手くいっていないそうだ。 学校にまでおしかけ、こんなところに連れこんで性欲を発散されたのは、ストレスのせいもあるかもしれないが、暴行していい理由にはならない。健次は冷ややかに見下す。 「中坊レイプしてるって、会社にも家族にも知られたくねぇのか」 「し、しっ、知られたいわけないだろ?! お、終わっちゃうだろう……本当に……っ……!!」 「べつにてめぇが終わろうが、俺はどうでもいいけどな……」 録音した音声を、また再生してやる。 『こういうすげぇのぶっ刺されてるとき、どういう気持ちでいんの? 女の子になっちゃった気分にでもなってんの?』 須見はもはや半泣きの声を上げる。顔は両手で隠したままだ。 「うわあぁあ、消してくれぇ……!!」 「勝手にも程があるだろ」 健次は音声を巻き戻し、最初の方に録れた声も聞かせる。 『……バカガキが! 最初から! 素直について来いよ!!』 須見は思考停止してしまったようで、だらりと両腕を下ろすと、魂が抜けた表情で床の一点をただ眺めていた。健次はスマホをしまう。 「声とさっき撮った写真、会社と家に送られたくねぇんなら、二度と俺に関わるな」 「…………」 「てめぇが近づいて来ねぇなら、俺もてめぇに関わらねぇ……じゃあな」 健次はドアノブに手をかけてから、振り向き、半分冗談のつもりで言い捨てる。 「300万もちゃんと払えよ」 財布からキャッシュカードを取りだして、口座番号を須見に教える。須見は必死な形相で、全裸のまま、ホテルの備品のボールペンとメモ紙でメモを取っていた。払う気なのだろうか──払ったら本当にバカなんだろうな、と思いながら健次は部屋を後にする。 後孔の痛みをこらえて表情にも動作にも出さず歩くのにも、健次は慣れきっているから、平然とした顔で最寄り駅に向かった。 6 / 6輪姦の傷も、須見に襲われた傷もほぼ癒えたころ、健次は自室に恩田を通した。休日の昼間からセックスをする。 終わったあと……ぼーっとしていると、先に風呂を使った恩田が帰ってきた。健次も風呂に入るために、吸っていた煙草の火を消し、廊下に出る。 隣には姉の部屋がある。それほど壁は分厚くないから、どんな気持ちで弟と客のセックスを聞いているのか……少し気になるが、問いつめて確認したいほどでもない。そもそも姉とは何年も会話すらしていなかった。 身体を清め、お湯につかって、下着を替えて家着にしているジャージを着る。髪もちゃんと乾かしてから部屋に戻ると、恩田は健次の布団をとりあえず畳んでくれていた。 座布団に座り、暇そうに健次の教科書をめくっている。 健次は学習机の引き出しを開けて、封筒から5万円を抜く。それを恩田に突きだすと、恩田は困惑した面持ちで見上げてくる。 「何これ」 「……よく勉強教えてくれる……だから、その……」 言葉が詰まってしまう自分のことを、健次は格好悪いと思った。 バカだとか死ねだとか、罵りの言葉はすらすら出てくるのに、感謝の言葉となるとうまく伝えられない。 それは恩田に対してだけでなく、一番伝えたい相手──春江に対してもそうだ。 恩田はあまり乗り気ではなさそうに、とりあえずといった風に紙幣を受け取る。 「あぁ……須見さんから100万取ったって本当だったんだ」 健次は金額を訂正する。 「300万だ」 「冗談だと思ってたよ」 「車も凹ませてやった」 「健次くん、昔は可愛かったのに、鬼になってきたね」 恩田は楽しげに笑う。 「だけどそれくらいの逞しさも必要かもしれないね」 「いや……」 健次も座布団に座る。健次が風呂に入っている間に春江が持ってきたのだろう、座卓に置かれた、グラスのお茶で喉を潤す。 「金もらっても……イライラはあんまり消えねぇのが分かった」 ただ、ドン引きしたせいで苛立ちは消えるというよりも萎えた。 とりあえず一部の金を下ろしたATMからの帰り道、げんなりしながら神社に寄って、使うあてもないので賽銭箱にも5万円をつっこんできた。 「俺も別に健次くんからお金はいらないかな」 そう言ってから、恩田は、紙幣を布団の上に置く。 「じゃあ、このお金でさ、あとで何か食べに行こうか」 「……あぁ、いいな」 「健次くんが嫌じゃなかったら、伊藤たちも呼んでいいか?」 恩田の友人も、恩田と同じく健次を殴らないし、強引なセックスはしない。健次は頷いた。 彼らが来るまで勉強の時間にする。 数学の教科書を開いて、面倒な問題の解きかたを教えてもらう。 文系の健次は、証明問題は得意だが、複雑な数式や図形はちょっと苦手だ。 ふと恩田は尋ねてくる。 「結局、第一志望は何処にしたの?」 「公立の──……」 高校の名前を口にすると、大学時代はずっと家庭教師をしていた恩田だから、知っていたらしい。 「良い選択だと思うよ。学校自体の評判も良いし、距離的にも適度にここから離れてるし──高校に行けば、きっと少しは楽になるよ、今よりは地元を離れるわけだから……」 恩田は切なげな表情になる。 「こないだのテストみたいに、おじさんたちにジャマされないように、受験の前日とか、俺の家に泊まりに来てもいいんだよ。それくらいなら協力できるから」 励ますような、慰めるような言葉の後に、恩田は健次をまっすぐに見据えた。 「頑張ろうな」 「…………」 ……健次は目線をそらした。善意を向けられることにはあまり慣れていないので、照れくさいと言うか、面映いというか、くすぐったい気持ちになる。 恩田は健次の心情を察しているのか、そんな態度を取ってしまっても、特につっこんでこない。 「じゃあ、次は82ページから」 言われて教科書をめくり、窓の外を見れば、ちらつく粉雪。 こんな日は温かいものが食べたい。何だって食べられるくらいの金があるのに、男数人で集まれば結局ラーメンあたりに落ちつくんだろうなと健次は思って──少しだけ笑った。 E N D |