mellow scent

1 / 10

 ひとつめの仕事を終えた街角で煙草を吸い、祥衛は星を数える。
 今夜の空は澄んでいて雲ひとつなく、見える星のまたたきの数も、いつもよりすこしだけ多い気がした。煙を吐きだして、吸い殻を側溝に捨てる。ガラケーを取りだして見ると次の仕事の時刻まで、まだ30分ほどあった。FAMILYのビルが待ちあわせ場所なのだが、此処からビルまではそうかからない。

(すこし……早いかもしれない)

 遅刻するよりずっといいかと思い、バイクに跨った。
 裏道は目的地への大幅なショートカット。
 大通りを走るよりずっと早くたどり着ける。

(あっ……)

 ビルに近づいていくと、すでに人影があったので驚く。
 駐車場の入口に大貴と男がいる。祥衛を待つように、彼らの身体はビル前の路地にあった。

「おっ、来たぜっ」

 グレイのピーコートを着たすこし品のいい装いの大貴が微笑う。かたわらの男性は白髪交じりで、大貴より背が低かった。祥衛よりもすこしだけ低そうだ。上質なスーツにおなじく上質そうなコートを羽織っている。
 ひょっとして待ち合わせの時刻を間違えていたのかと不安になった祥衛は、彼らの前で停車した。
 ヘルメットを取ると、男から注がれるのは興味津々といった熱っぽい視線だ。

「……大貴……」
「ゴメン。竹村さんと予定より早く合流できたから、話してたんだ。祥衛はチコクしてねーよ」
「バイク、停めて、くる」
「おうっ」

 祥衛は駐車場に入り、いつもとおなじ場所に停める。
 黒塗りのベンツには読書する長田が座っていた。多分、その車に乗ってホテルに行くのだろう。
 改めて彼らの元に歩いていく。男は満面の笑みを祥衛に向け、大貴もポケットに手を突っこんでいまも笑顔だった。今日の大貴は昼間の大貴とあまり変わらない様子なので、素で親しくしている客なのだろうなと祥衛は推測する。

「これがヤスエくんか、いやぁ、話に聞いた以上にキレイな子じゃないか……!」
「だろ? 期待の新人なんだぜ」
「握手してもらってもいいかい? うん、あぁ、ありがとうねぇ」

 請われるがままに手袋をしたままの手を差し伸べたら、感謝されながら握られた。

「つーか、竹村さんって守備範囲広がったよなー。むかしはぁ『6年生になったらご飯食べにいくだけにしようね』っとかゆってたのに、ぜんぜんじゃん」
「誰のせいだと思ってるんだ? 大貴くんのせいだよ。おじさんをたぶらかして飽きさせないんだから……!」
「えーっ、なんだよそれ、たぶらかしてないし!」

 竹村が煙草を取り出すと、大貴も自然な動作ですっとライターを取り出した。手慣れた様子で火をつける姿を祥衛は無言のまま眺めてしまう。

(……大貴は、小学生のころからこういうことをしているんだ……)

 所作にしみじみと思う。少年愛趣味を持つ大人たちが大貴とは性的なことをするためだけでなく、ただ過ごすだけでも隣に置きたがる気持ちが、祥衛にも、いつも、なんとなくわかる。

「ヤスエも吸う?」
「さっき、吸ったばかりだ……」
「じゃあ竹村さんが吸ったら行こーぜ」

 大貴はライターをしまい、祥衛にも屈託のない笑顔を向けてくれた。

2 / 10

 都心のシティホテルにチェックインすると、すぐに祥衛は下着一枚にされてしまう。ワイシャツにスラックスの竹村に両乳首をつままれる。念入りにチェックするかのようにこねくり回され、顔を近づけられ凝視されたりもして、さっそく恥ずかしい。

「本当にピアスが貫通してるんだねぇ。あぁ、痛そうだなぁ……な、舐めてもいいかな?」
「……はい……」

 仕事だから、やめてほしいとは言えない、内心では嫌だけれど。広々としたクイーンサイズのベッドに寝転ばされ、舌先を胸に受ける。
 ベッドには、素肌に備え付けのガウンを着た大貴も座っていて、ウインナーロールをかじっていた。立ち寄ったコンビニで買ったものだ。
 大貴の視線はテレビ画面に注がれていて、祥衛たちの行為をあまり気にしていない。

「可愛い子だ、おぉ、勃ってきた」

 屹立しきった乳首を指先でいじられ、快感はもどかしく祥衛を刺激し、つい、内腿をすり合わせてしまう。

「うぅ…………」

 舌は祥衛の喉や、脇腹や、さまざまな部位を這う。
 ついにはトランクスごと口に含まれたから、顔を歪めてしまった。
 気色悪いと感じる気持ちと、快楽にうっとりする気持ちが混ざりあって、複雑に揺れる。

「こんなに大きくして。いい子だ、いい子だ……」
「あぁぁ…………」

 さわさわと布越しに撫でられる。大貴は「あははっ」と、テレビに笑っていた。食べ終わったパンの袋を捨てて次はたまごロールを取りだしている。

「じゃあ、見せてもらおうかなぁ。おぉ……!」

 トランクスをずり下げられると、弾けるように勢いよく現れてしまう肉茎。祥衛の想像以上に固く勃起していたから、恥ずかしくなる。

「本当だねぇ、おちんちんにもピアスが……痛かったねぇ」

 竹村は尖端をつまみ、じっと鑑賞し、陰毛を撫でるようにも触れてきた。

「なるほど……手足もここも体毛が薄い……ヤスエくんはすばらしい天然ものだ……」
「じゃあ俺はー、養殖ってこと?」

 うっとりしている竹村に大貴が笑いかける。
 パンをほおばりながら、スラックスを爪先でつついたりもした。

「そういうことになるのかなぁ……計算された調教とボディメイキングが、すばらしいからねぇ……大貴くんのパパには感謝しないといけないといつも思ってるんだよ!」

 竹村は大貴の片足にしがみついた。
 ちょっと竹村の気がそれて、祥衛はほっと一息つく。 

「ふふっ。俺の脚、竹村さんってスキだよなー」
「あぁ、今日もすべすべだ、大貴くぅん……」

 頬ずりをしたり、舐めあげたりと楽しむ竹村の舌が太腿にまで達し、はだけたガウンの裾の奥に入ろうとすると、大貴は竹村を押しのけた。

「だーめっ」
「えぇっ……?」
「それ以上は後でして」

 パンをかじる大貴を、竹村は残念そうに注視する。
 白髪頭を大貴は撫でた。

「いま、めし食ってるから。ヤスエと遊んでろよ」
「わかったよ……早くしてね、大貴くん」
「歯もみがかなきゃ。だから、もうちょっと時間かかるかなー」

 名残惜しそうに大貴の膝から下を撫でまわしたあとで、竹村は祥衛に向き直った。
 その瞬間にぞっとしてしまった祥衛だ。萎えかけたペニスをまた手のなかに閉じこめられる。
 また、いたぶりが再開される。

3 / 10

「あぁあ……、ッ、うぅ…………」

 貪りつかれ、祥衛は震えるしかなかった。
 口に含まれながらも乳首を指先でつつかれると、たまらない。
 大貴は寝室から姿を消してしまって、テレビはアダルトチャンネルを映している。響きわたるAV女優の喘ぎ声と自分の喘ぎ声が交錯するのがまた祥衛にはいたたまれず、羞恥を煽られる。

「エッチな番組にして行っちゃって……まったく、大貴くんは……大貴くんはパパにオモチャにされちゃっただけで、ほんとうはノンケの男の子だからねぇ、こういうのが好きなのかなぁ……おじさんより……はぁ……」

 祥衛を扱き上げながら、竹村はぶつぶつと漏らす。

「ヤスエくんは家でこういうの見たりするの? ひとりでしちゃったりするの? ま、毎日セックスのお仕事してるのに、おうちでもするのかな?」

 興奮気味に尋ねられ、祥衛は首を横に振る。それは本当のことだった。

「し……ない、です……」
「本当に? 本当に? ヤスエくんはゲイじゃないの?」

 握られる力が強くなる。祥衛は眉根を寄せた。

「ちが…………」
「じ、実はね、おじさんも孫がいるんだよ!」
「……!」

 のしかかられて唇を奪われる。豪快に吸いつかれたあとは舌を挿れられ、口のなかをめちゃくちゃに蹂躙された。すぐに顎まで唾液が滴ってゆく。

(きもちわるい……) 

 目を閉じて耐えた。頭を押さえつけられて逃げることもできない。

「ヤスエくん、本当に可愛いねぇ、舌を出してごらん」

 言われるがままにすると、その舌に食いつかれる。
 祥衛は鳥肌を立てていたが、竹村に気にするそぶりはない。祥衛の舌はしばらく竹村の口腔に抜き差しされた。

「ようし、じゃあ、お、お尻を見せてもらおうかな」
「…………」

 布団に手をついて四つん這いになった。
 ひとり目の客の感触がまだ残っている尻孔を晒す。
 覗きこまれると泣きそうな気持ちになる。歪んだ表情はシーツに押しつけて隠した。

「可哀想に、傷んでるねぇ。まだまだトレーニング中のお尻だね。大丈夫、挿れてもらってるうちに鍛えられてくるから。そうしたら立派なケツマンコになるからね」

(言っている意味が……わからない…………)

 肛門も舐められ、依然として鳥肌が引かない。
 指先で襞をめくられたり、撫でられるとピリッとした痛みも走る。

「あッ! あっ、うぁあ……ッ……」

 蠢く刺激に合わせて祥衛は震える。
 臀部から背筋を一気に舐めあげられて首まで辿り着かれるとハデな悲鳴をあげてしまった。

「ひぃ……ぅうう……!!」
「可愛い、可愛いよ、ヤスエくん。大貴くんは中学で、いいお友だちができたなぁあ!」

 耳朶に吐息を吹きかけられる。
 シーツをギュッと掴む手も舐められた。どうやら竹村は舐め好きなようだ。
 こんなにおぞましいことをされているのに勃起したままの自分自身のことも、祥衛は理解できない。今夜の客も、今夜の自分も、常識的に考えて、どこかおかしい。いつものように。

4 / 10

 両手で尻を掴まれ、孔に舌を挿れられていると、やっと大貴が寝室に帰ってきた。
 感じながらも祥衛は心からホッとする。

「うわ、サカッてるし……竹村さん服脱がねーの?」

 微笑っている大貴はスマートフォンをテーブルに置く。

「脱ぐ、脱ぐとも!」
「いいカンジにいじってもらってるじゃん。祥衛、顔真っ赤だぜ」

 ベッドを下りる竹村と入れ替わり、大貴が腰かける。
 先程まで竹村がしていたように大貴も両手で祥衛の尻を開き、入り口にキスをしてきた。
 舌も這って、竹村の唾液を舐めとるよう蠢く。

「……あ……ぅ……!」

 竹村の舌も気持ちよかった。
 でも、大貴の舐めかたもすごく気持ちがいい。

「どーする? なんか使う? 俺、ディルドとか持って来てるけど」

 大貴はすぐに口を離し、ベッドを下りた。しばしの休憩を味わう祥衛だ。

「実はおじさんも持って来てるんだよ。ヤスエくんは新米だと聞いていたから、ちょっと小ぶりな品をね」
「まじでー、すげー準備いいじゃん。さっすが竹村のおじさま。それ使おうぜー」

 自分がこれからされることを話されているのに、祥衛には口を挟ませることもなく意見も聞かれず、勝手に決められる。
 そんな扱いにも祥衛はドキドキしてしまって、昂ぶった身体の火照りは冷めない。

「大貴くぅん、やっぱり、その呼び方、いいなぁ……」
「おじさまって? あはは、じゃあもう呼んであげない」
「あぁ、もう……いじわるだなぁ……」

 そういうところもいいんだけど……、と、竹村が呟いている。

「つーかテレビうるっせーなー。切っていい?」
「大貴くんがつけたんじゃないか。ねぇ、ヤスエくん」

 女優の喘ぎ声が消えて静かになった室内、ローションの容器の蓋を開けられる音や、それがグチュグチュとなにかの物体に馴染まされる様子が寝そべる祥衛に伝わってくる。

(……挿れられる…………)

 身構えていると、全裸になった竹村が再びにじり寄って来た。
 足を開いてと言われ、その通りにする。

「う……、うぅ……」

 ローションでぬめった指先で尻孔をいじられた。入り口の皺を嬲られるだけでなく、人差し指がいきなりずくずく奥に進んでくる。祥衛は乳首のリングピアスを揺らして大きくビクついてしまう。

「うやぁ……あ……!」
「おぉ、気持ちいいのかな。感じやすいんだなぁ……」

 抜かれたあとは、指の腹でぬめりを広げられ、さらにローションを塗りつけられる。

「ほら、祥衛、背中上げろって」
「…………」

 大貴によって、枕を背中の下に入れられた。
 いちだんとお尻を突き出す体勢になってしまう。

「……あぁッ、あ……!!」

 いよいよディルドを押しつけられた。硬質なぬめりで双丘の窄まりをなぞられたり、カタチを押しつけられたりして、祥衛の興奮はさらに高まっていく。
 勃起しきったペニスの尖端から、ぽたりと透明な淫蜜が垂れこぼれる。

5 / 10

 ディルドを挿入されるだけでもたまらないのに、大貴の舌が乳首に吸いついてくるから、もう、おかしくなりそうだ。執拗に舐めまわす竹村のやり方も祥衛に快感を与えてくれたけれど、甘噛して吸う大貴のやり方も祥衛を溺れさせる。
 大貴は片手で吸っていないほうの乳頭もコリコリといじってきた。

「ひぃっ……!!」

 ピアスを引っ張られて痛みを与えられた瞬間、妙な声を上げてしまう。
 同時に尻孔のなかでは竹村の手淫が祥衛の感じるところをつついてくるから、意識はどこに集中していいのかわからず、気がヘンになりそうだ。

「ヤスエが気持ちいいってゆってる」

 口を離し、両手でいじりながら大貴が竹村に告げる。
 竹村は嬉しそうに何度も頷く。

「感じやすい子だねぇ、ヤスエくんは。自分で抜き差ししてみるかな?」
「あ……、ぁ……」

 竹村の手が外れたディルドを、祥衛はおそるおそる掴んでみる。
 軽く動かしただけで腸壁に刺激が走った。

「すご……ぃ……、すご……い……、あぁあ……」

 癖になってしまう。
 ゴシゴシと抜き差ししていると、ローションにぬめった竹村の指が右の乳首をつまむ。
 大貴は左の乳首をつまんできて、そうやって片方ずつ彼らに嬲られるのもたまらなく興奮した。

「これ、見ろよ。感じまくってる。ギンギンだし」

 大貴は笑って、祥衛のペニスを握りもする。
 ろくに触れられずとも祥衛の怒張は維持されたままだ。

「いい子だなぁ、ヤスエくんはぁ」

 竹村に尖端を撫でられると、疼くような快楽も走る。

「俺はっ?」

 大貴は笑いかけて尋ねた。竹村はぶんぶんと首を振る。

「いい子に決まってるよ、今日もエッチに遊んでくれて、おじさんはとっても嬉しいんだ」
「俺も竹村さんの笑顔が見れるとうれしい……ほんとにそう思ってるんだよっ……キスしよ?」

 竹村に抱きつく大貴。
 彼らは濃厚に口づけあって楽しみだす。
 竹村の手は大貴の身体を撫でさすり、ガウンの下の太腿や尻もまさぐっている。
 ふたりの様子を目にしながらも、祥衛はディルドを掻きまわし続ける。
 そのうち手は自然に乳首にも伸びてしまった。自分でも乳頭を弄ってしまう──

6 / 10

 大貴は竹村にフェラチオを施した。
 堪能して悦んだ竹村は、欲情の滾りを祥衛に向ける。
 ディルドを抜かれた後孔に竹村の肉杭が突き立てられた。ゆっくりと侵入してくる──

「あッ、あっ、あぁあ……!」

 本物のペニスのほうが、樹脂で出来たオモチャよりずっと良い。
 生の感触は祥衛を恍惚とさせる。
 このときばかりはふだんの潔癖症ぎみな自分のことさえも忘れてしまう。
 快楽はすべてを吹き飛ばしてくれた。

「おぉお……気持ちいいお尻だ、凄く絞まってるね」
「あ……、ぁ……、あ……!!」

 打ちこみがはじまる。
 竹村は腰を揺らしながらも祥衛の乳首をいじってくれる。両胸を同時につままれると「やぁああッ」と、鮮やかな悲鳴を上げてしまった。
 やっとガウンを脱いで裸になった大貴が、犯されている祥衛に擦り寄るように寝そべり、抱きしめてくれる。優しく頬にキスもされた。

「もっと股ひろげて、竹村さんが突きやすいようにして」

 耳元で囁かれる。

「ん……、ん……!」

 恥ずかしいけれどその通りにした。自分で腿に手をかけてさらにM字に割り開く。

「そう。えらいな、ヤスエ」

 微笑む大貴に髪を撫でられる。大貴がそばにいると、初対面の男に犯されるときでもリラックス出来た。相手が大貴の親しくしている客ならばなおさらだ。

「き、きもち、いい……、ぁあ、あ……!」

 突きこみに合わせて声が漏れてしまう。抑えられない。

「ここがいいのかい?」

 感じるところをもう見つけられた。
 祥衛は声を張り上げる。

「やぁああ……、だめ……だめ……」
「だめじゃないよねぇ、いいところだよね、ヤスエくんの……」
「うぅう……! うぅ、それ、だめぇ……」

 もはや、自分でなにを呻いているのかもわからない。

「あっ、竹村さん……」

 祥衛のかたわらで、大貴が眉根を寄せる。竹村の手が大貴のペニスに伸ばされたからだ。

「大貴くんとヤスエくんのエッチも見たいな。いいよね?」
「ヤスエのケツ、もっと楽しんであげればいいじゃん……」
「いやぁ、もう、十分だよ。続けてたらもうすぐにでもイッちゃいそうだしねぇ、おじさんは」
 
 ズルリと抜ける竹村の感触。
 祥衛は大きく息をついた。

「あとで、大貴くんにも挿れたいし……」
「あっ、ちょ……、あー……」

 竹村は身を倒し、大貴の股間にしゃぶりつく。

「あいかわらず、すべすべなおちんちんだね……! 大貴くんはずうっとお毛々が生えないんだもんね……」
「ッ……、うぅ……」

 大貴は眉間に皺を寄せて、嫌々をするようにかぶりを振った。
 本格的に咥えこまれると大貴の姿勢が崩れ、祥衛から大貴の温もりは離れてゆく。
 尻孔も豪快に舐められ、感じている大貴の手がシーツをギュッときつく握りしめるのを、祥衛は快楽の淵でぼおっと眺めていた。

7 / 10

 祥衛は四つん這いにさせられ、大貴に後ろからにじり寄られる。
 大貴はローションを足してくれた。
 尻孔に馴染まされる手つきにも感じてしまう祥衛だ。

「あッ……、あぁあ……」

 指が抜かれ、腰を抱えられる。
 ゆっくりとすこしずつ祥衛の奥に進みはじめた。

「力抜けって、もうちょっと……」
「ん……ふ……」

 竹村よりも張った亀頭に拡げられる感触もたまらないし、太い竿の肉感もたまらない。
 竹村の挿入よりサイズが大きくなったせいで痛みも感じたが、圧倒的な心地よさと快楽の前にそれはあまりにも些細だった。えもすれば、痛み自体にも感じてしまうマゾヒストの祥衛だ。

「つーか、ガン見しすぎだし……」

 祥衛からはその様子が見えないが、竹村は結合のありさまをまじまじと注視しているらしい。

「挿入ってるね、うわぁ、凄いね、ほんとうにエッチしているんだねぇ……!」
「あはは……、してるよ、全部はいったっ」

 すべてを収めると、大貴は腰を使いはじめる。その瞬間に祥衛のなかで快楽が跳ねた。

「あッ、ひゃっ……、あぁあ、うっ……、う……!!」

 揺さぶりに合わせて妙な声を上げてしまう。やっぱり大貴の腰遣いは竹村より巧かった。大貴より上手に犯してくれるお客さんはそうそういない。

「出たり入ったりしてるよ、ヤスエくん、大貴くんのパイパンおちんちんにずこずこ犯されてるんだよ、ど、どうかな?」
「うッ……、うぅ……!」
「ねぇ、どう? どう?」

 耳元に息を吹きかけられる。どうと言われても答えようがない。

「どうっておじさまがゆってんだろ。答えろよッ」

 思いきり腰を引かれて、また勢いよく最奥まで満たされる。

「ひ、ッ、ゃぁぁあ……」

 祥衛は悲鳴を上げてシーツを掴む。
 ダイナミックな動きの後には小刻みに揺らされたりもして、唾液を飲むことも忘れてしまい、祥衛の唇からは涎がはしたなく垂れ零れた。

「また頭上げた!」

 後頭部を大貴の手のひらに押さえられ、枕に顔を沈められる。
 感じきった祥衛は身をよじり、無意識のうちに上半身を起こしすぎたのだ。

「こないだも注意しただろ、バックで犯してるといっつもそーするんだぜ、ヤスエって」
「あ……、ぁあ……ッ……」

 わかってはいるのだが、快楽や興奮が強くなると色々な諸注意を忘れてしまう。

「きびしいなぁ、大貴くん。ヤスエくんはまだデビューしたばかりなんだから……」
「これでも甘やかしてるし。お客さんによっては、甘やかしすぎって俺もしかられるんだよ」
「そうなんだ……みんな厳しいね、おじさんはいーっぱい甘やかしてあげたいけどなぁ……!」
「あははは、ありがと、おじさまっ」

 竹村は祥衛の涎を手のひらでこそげ取るようにして拭いてくれる。
 臀部は大貴に平手打たれ、パァンと音が鳴った。

「でー、俺に犯されてる感想は? はやくゆえって」
「あ……、き……、きもちいぃ……」

 竹村の手は祥衛のペニスを掴んできた。
 絞るような動きに先走りが溢れて、シーツに恥ずかしい染みを広げる。
 もっと具体的にちゃんと答えたほうがいいのだろうけれど、もともと学校の作文も感想文もうまく書けないし、普段の会話ですら苦手な祥衛には、犯されながら答えるなんてことは難易度が高すぎて、舌がもつれるばかりだ。

8 / 10

 大貴からの動きが鈍った。
 どうやら竹村は大貴の後孔を責めているらしい。

「男らしく交尾してるときの大貴くんのアナルはど、どんな感じかな?」
「あっ……、おじさまぁ、指ヤだぁっ……」

 大貴は身体を倒し、繋がったままの祥衛の背中に覆い被さる。

「やっ、あッ、あっ、う……」
「ほら、ほら、大貴くんはエッチだね、お尻に指2本も挿れられながら、お友だちともセックスしてぇ……!」

 いたぶられながらも大貴は抜き差しを止めない。
 自らの粘膜を指で撹拌されながらも、祥衛の尻孔をペニスで突いてくれる、ペースは乱れてしまっているけれど。

「あぁああ、おじさま、俺おかしくなっちゃうよぉお」

 やがて竹村は大貴を後ろから抱きしめ、ついに自身を捩じこんだ。
 大貴からの挿入しか受けていないはずの祥衛もひどく興奮を覚える。3人でひとかたまりになっているだなんて、背徳的でしかない。
 どきどきしすぎて気が遠くなりそうだ。
 身体は熱く、とろけおちてしまいそうなほどに火照っていた。

「も、もうだめ、だめ……、きもちよすぎて、俺……俺えっ……!!」

 大貴は声を泣きそうに掠れさせながら、腰をゆさゆさ振る。

「もうだめって、挿れたばかりだよ、大貴くぅん!」
「だって……、こんなの……、まじで……、あぁぁあっ」

 竹村の手が背後から大貴の両乳首をつまんでいる様子が伝わって、祥衛の興奮はさらに煽られてしまう。ふたりぶんの重みを受けてシーツに擦れる祥衛のペニスはお漏らしと見まごうほどに透明な先走りを分泌しつづけている。

「い……くぅ……、い……く……」

 祥衛は限界だ。咽び声を上げてそれを伝える。

「俺もっ、だめ……、いきそう、すげー、すごいぃっ……がまんできないよおぉっ」

 大貴の手が祥衛の下腹部を彷徨い、勃起しきったペニスを見つけられてすがりつくように握りしめられると、祥衛の身体は不自然にしなった。

「で、る、だぃき、出……ッ……!」
「イッてもいぃ? イキたいっ。おじさまぁ、おじさま……!」
「うん、うん、仲良しだねぇ、ふたりは射精もいっしょなんだねぇ……ほほえましいねぇ……」

 身体のなかに熱い迸りを感じたのが先だったのか、自分が漏らしたのが先だったのか、わからない。目眩を覚えるほどの気持ちよさに包まれた祥衛はほんのわずかなあいだだけれど、気を失ってしまった──

9 / 10

 目が覚めたのは、口のなかに竹村のペニスを突っこまれたからだ。
 萎えかけていたそれは祥衛が舌を動かすとすぐに大きくなり、先走りも分泌させた。
 嘔吐感を覚えた祥衛だったが、懸命に舌を動かす。表情が歪んでしまうのは隠せない。
 後孔には大貴の指を感じている。愛撫しているのかと思ったが、意識がはっきりしてくるにつれて分かった。
 
(掻きだし、てる……)

 中出しした白濁を。
 大貴は指での作業にとどまらず、尻孔に口をつけてじゅるじゅると啜ったりもしてきた。
 祥衛は感じてしまい、身を震わせる。口を性器で塞がれていなければ妙な喘ぎ声を漏らしていたはずだ。
 そういえば、竹村の肉茎は先程まで大貴を犯していたものだ──それを思いだすとさらに意識してドキドキしてしまう祥衛だった。祥衛の性器は完全に萎えていたのに、いつのまにかわずかに頭をもたげている。

「ヤスエくん、イクよ、ほら!」

 頭を両手で押さえつけられて、口腔に発射された。
 青臭い味が広がり、今夜何度目かの、泣きそうな気持ちになる。
 ゆっくりとペニスを抜かれながら精液も吐き出したかったが、こんなときは美味しそうに飲むようにと怜にも大貴にも言われている。男娼の仕事をはじめてから飲精の機会はもう何度もあったが、未だに、決死の覚悟で飲みこんでいた。とても美味しそうに飲めるはずがない。
 それでも、ちゃんと嚥下できたことを、偉い子だ、いい子だと竹村に撫でまわされた。
 その後みんなで浴室に向かうと、いつのまにか祥衛が気を失っていたあいだに広々としたバスタブにはお湯が張られていた。
 祥衛は次の仕事があるので軽く洗っただけだが、今日はもう仕事終わりの大貴は家から持ってきたシャンプーとコンディショナーのミニボトルで洗髪したり、洗顔もしている。竹村が先に出たあと、大貴は鏡にシャワーを当てながら「ごめんな」と呟いた。
 なぜ謝られたのか、祥衛はピンとこない。
 湯船のなかでぼおっとしていると、水流を止めた大貴もバスタブに入ってきた。水面が飛沫く。
 大貴は向かいあわせに座り、素足が触れあった。

「中に出しちゃって……外に出す余裕なかった」
「あぁ……」

 それを聞いて、やっと合点がいく祥衛だった。

「今日は俺のセキニンだけど……、これからー、お客さんの命令で中出しさせられるときもあると思う。けど、そうゆうとき以外は、中出ししないように気をつける」
「べつに、俺は……気にしない……」

 よく知らない男や、変態の男のものを受けるのは不快だけれど、大貴にされてもそれほどイヤじゃない。

「俺が気にするもん。ただでさえヤスエは俺より中出しされてるのにー、俺まで祥衛にエンリョなくそんなことしてたら、祥衛のおなか、おかしくなっちゃう」
「俺は……いがいと、がんじょう、だ」
「ほんとかよ……しんぱい!」

 大貴は爪先で祥衛に触れてくる。

「……でも、気にしないってゆわれたの、ちょっとうれしいなー。俺も、祥衛に出されてもヘーキだよ。おじさんたちに中出しされるのはぁ、いっつも、ほんとはすげーヤだって思ってるんだけど……あっ、いまのは竹村さんにもないしょだよ。聞こえたりして……まーいっか、あはははっ……」

 笑顔を向けられると、祥衛はなんだかホッとする。
 いまはまだ仕事中なのだということを忘れるくらい、リラックスできた。

10 / 10

 バスルームを出ても、時刻はまだ0時前だった。
 合流した時刻がそう遅くなかったせいもあるだろう。

「ヤスエー、次のシゴトまでいっしょにいていいんだぜ」

 もうしばらくこの部屋で竹村と過ごしていくらしい大貴は、気さくに声をかけてくれる。

「いいのか……」
「うん。てきとーにくつろいでろよ」

 祥衛は私服に袖を通すが、大貴は換えのボクサーパンツを穿いただけだ。
 竹村はバスローブを纏い、缶ビールを開けながら、ベッドに腰を下ろしている。

「ええっ、ヤスエくんはまだ働くのかぁ……働きすぎじゃないの?」
「働きすぎだよー。だから俺ー、いっつもヤスエのこと心配してるもん」

 大貴は床に置いたカバンをごそごそと漁り、教科書や下敷きをはさんだノート、筆箱などを取り出している。

「しゅくだいしよーっと!」
「何時間労働なんだい……いやぁ、厳しいなぁ……おぉ、大貴くぅん、ベッドで勉強するなんて、おぎょうぎが悪いよ、お、おじさんはうれしいけどねぇ……」

 ぶつぶつ呟く竹村のそばに大貴はうつぶせで寝そべり、さっそくテキストを開いていた。

「問一、辺ABとねじれの関係にある辺をすべてこたえなさい、えっとー……!」

 竹村は大貴のガウンをめくってボクサーパンツの尻を撫でまわしたり、頬ずりまではじめている。
 気にせずに宿題にとりかかる大貴を横目に、祥衛はスツールに腰かけた。いつもするように今夜もデスクに置かれたホテルの案内冊子を読んでみる。

「ヤスエくん、今日はありがとうねぇ」

 ふと竹村に話しかけられたので、祥衛は顔をあげた。

「次はご飯でも食べに行こう。3人でね」

 大貴の髪を撫でながら、竹村は祥衛に微笑う。
 祥衛はどんな言葉を返せばいいのかわからず、ただ、こくんと頷いた。

「問五、切断した切り口はどんな図形になるでしょうか。うわー、なにこれ、むずかしー。ヤスエー、わかる?」
「……さあ……」
「おじさまっ。おしえて♪」
「わぁ、懐かしいなぁ……こんな問題、中1でやったかなぁ?」

 大貴は竹村にテキストを押しつけてベッドから立つ。
 ニコニコと無邪気な笑顔のままで祥衛のそばに来て、両肩をつかんできた。そのまま肩を叩いてくれて、気持ちよかったので、しばらく身を預ける。
 大貴の笑顔は好きだ。
 いつもうまく笑えないけれど、本当はもっと大貴といっしょに笑ってみたい。
 このまま彼らと過ごしていたくなった。
 ひそかに祥衛は心のなかで、今夜、もうひとつ仕事を入れてしまったことをほんのすこしだけ後悔する。

E N D