nasty work

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 改札を出て少しばかり歩き、地下街のなかの階段を上っていく大貴の視界に――コインロッカーと雑誌売店の間の柱にもたれる、祥衛の姿が飛び込んできた。
 ボアのついたダウンベスト、七部丈のカットソー、手首と首筋にきらめくシルバーのアクセサリ。耳には過剰にピアスが並び、それは左眉にも貫通している。折れそうなほど細い脚はデニムを履き、足元はブーツ。白いマスクをしているために顔半分は隠れているが、逆に美麗な目元を際立たたせる結果となっていた。
「ヤスエっ」
 大貴は微笑み、近づいてゆく。通う高校のブレザーを着崩した大貴を、祥衛はじっと注視して迎えてくれた。ポケットに突っ込んだ手を出さないまま。
「……」
「俺、もしかして待たせちまった?」
 問いかけに、祥衛は首を横に振る。
「そんならいーけど。じゃーいこーぜ」
 大貴が歩き出すと、祥衛は壁から背中を離した。
 並んで通る地下商店街には、フルーツ屋、パスタ屋、お茶屋、ドラッグストア、靴屋などが連なる。
 パン屋の前を通りががったとき――大貴の足は自然にそちらに寄ってしまった。
「すげーいいにおい!」
「おい……」
 マフラーの先を、祥衛に後ろから掴まれる。
「いいだろ。まだ時間よゆーあるし」
「だめだ……歩いてるうちに、ちょうどよくなる」
「うるせーな、やすえにはわかんねーんだよ、俺のパンへのおもいが!」
 昼に弁当を食べてから数時間が経つ。これから仕事をこなさねばならないと思うと、なおさら腹ごしらえをしたくなる大貴だ。強引に店に入り、トレイとトングを手にする。仕方なくといった様子で祥衛はついてくる。
「やすえも食えばいーじゃん。どおせなんも食ってねーんだろ」
「……食べた」
 OLや主婦らしき客層にはさまれながら、大貴は次々とパンをトレイにのせる。
「めずらしー、なにくったの?」
「ハイシーL……」
「それメシじゃねえし。医薬品だし!」
 うずたかく積まれたトレイをレジに持っていき、vivienneの財布を開いて精算した。
 店外に出ると歩きながらほおばる。祥衛はそんな大貴を呆れたように見ていて、大貴が差し出したパンを受け取ってはくれない。

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 先方に指定された場所は、歓楽街の外れにある地味なホテル。左右を雑居ビルにはさまれた建物は縦に長く、横幅を伸ばせないため上に伸ばしたといった風だ。
 二人は回転ドアをくぐり足を踏み入れると、チャコールの絨毯のロビーを横切った。エレベーターで702号室に向かう。
 迎えてくれたフジタニは既に下着姿で、靴下も脱いでいる。公立高校の教諭だが株で儲けているらしく、頻繁にW指名してくる。
「つかれちゃったよ、テスト週間でさぁ〜」
 ベッドでフジタニは拗ねた子どものように膝を抱えている。大貴は傍らのソファに腰を下ろし、祥衛は大貴に向かい合って座った。
「俺もつかれたし。先生とおんなじ学校がよかったなー、そうしたら問題おしえてもらえるもん」
 今、大貴はチーズドッグをほおばっている。いったいどれほど胃に入るのかと呆れを超えて感心してしまう祥衛だ。
「ダメダメぇ、大貴くんが教え子になったら、学校でいろんなことしたくなっちゃう。や、やばいよ」
「いいじゃん。みんながかえったあとー、教室で抱いてやるよ。理科室とかでもいーけど」
 大貴は半分を食べのこし、腕を伸ばしてフジタニに渡す。するとフジタニは嬉々として食べはじめる。大貴くんと間接キス、などと言いながら。
 祥衛はフジタニを軽蔑の目で見た。男娼になってからというもの数多くの変態と知りあってきたが、フジタニを含め、彼らの多くは祥衛の理解の範疇を超える。祥衛自身も決してノーマルでないことは自覚しているけれども――彼らに比べれば遙かに逸脱していないつもりだ。
「大貴くん、大貴くん、ハァハァ!」
 吐息を乱して包装紙まで舐め、その紙を口に含んでみたりもするフジタニ。大貴はというと彼が食べている間に通学カバンからローションやら器具やらを取り出してテーブルに並べている。
 祥衛はマスクの中でため息を零すと、並べられたもののなかから医療用のグローブをつまんだ。衛生面というよりも、客の身体をじかにさわりたくないがために着けたかった。
 フジタニの所望は、祥衛と大貴に弄られたいと言う。弄られる側を専門とする祥衛にとってはやる気の起きない仕事だ。快楽を与えてもらえることが男娼業の唯一の楽しみなのに、それが無いなんて退屈でしかない。
「お、お、おいしかったよ、大貴くんっ」
「まじで。よかった。まだパンあるから帰りにあげる」
「や、祥衛くんの食べ残しもほしいなぁほんとは!」
 唾液でグショグショになった包装紙を後生大事に丸めているフジタニに、祥衛は返事をしない。指輪をひとつずつ丁寧に外し、その横にブレスレットも置く。そうして薄い手袋をするとマスクも取った。
「おっし、じゃあ今から2時間な」
 大貴は時計を見ながら告げ、シャツを腕まくりする。

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 フジタニは凌辱者には着衣でいて欲しがる。子供の頃にいじめられ、教室でよく服を剥がされていたことで目覚めた性癖らしい。一人だけ素裸というシチュエーションに興奮を覚えるそうだ。
 汚しそうな予感しかしないので、ベッドにはビニルシートを広げる。大貴のカバンはそういった仕事用の品でいっぱいで、学校の友達などに見つかったらどういう言い訳をするのだろうと、祥衛は昔からいつも思っている。
 その上に寝そべったフジタニの身体は既に熱く、ブリーフの前は期待感に膨らんでいた。
「俺とキスしたい?」
 大貴も寝そべると、フジタニを抱き寄せて誘った。したい、と言うフジタニは甘えた表情で唇を重ね、執拗に吸い付いてゆく。
「大貴くん、今日、フェラチオとか、し、してないんだよね、ぼくが最初のお客さんだよね」
「うん、そうだよ」
「綺麗な唇もらっちゃった、うれしい――!」
 涎の糸を引きながら感動しているフジタニに向け、祥衛はローションの容器を逆さにした。遠慮してやらないことが彼への気遣いだ。液の冷たさにフジタニは震え、履いたままのブリーフはすぐにびしょ濡れになる。
「帰りノーパンで帰れよ、先生」
 大貴は自分も浴びてしまう前に身体をどけた。ベッドを降り、祥衛の傍らに立つ。
「えッ、あっ、そんなぁ! ヒィッ!」
「あははは。すっげー勃起してる!」
 ヒキガエルのように仰向けになったフジタニの身体は、祥衛の手によってぬめりを広げられてゆく。性的な作業に慣れてきたことを祥衛は自覚した。中年男の乳首を尖らせて弄ったり、わざとじらすように内股を撫でたりできる。大貴はその様子を観察して笑い、フジタニの鳴き声は悲鳴とも嬌声ともつかない。
 しばらく後に、大貴も医療用の手袋を着けた。追加のローションを垂らしながら祥衛と協力してフジタニを嬲る。手が増えるとアエギも増す。透ける下着を祥衛が下ろしてやると、猛々しく勃起したペニスが現れた。それをごしごしと二人で一緒に掴んで扱いたり、大貴の指は後孔も容赦なく責める。
 フィナーレは手首まで捩じ込むフィストファック。
 やすえも手ぇつっこんでみろよ、と誘われたが、祥衛は首を横に振る。自分の孔に同じことをされても耐えられるが、他人にするなんて気持ちが悪い。ましてや変態の中年男。大貴の拳を飲み込んだうれしさのあまり失禁しながら、祥衛のマスクをほおばっている筋金入りの変質者の尻に手なんて挿れたくない。
「こんなに汚れるなら……風呂ですれば、よかった」
 クリップ型のバイブで挟んだフジタニの乳首をつねりながら、祥衛は呟いた。するとフジタニは唾液まみれの口を動かす。
「だ、だいじょうぶだよ祥衛くん、お掃除はボクがするからさ!」
「あったしまえだろ。嬉ションまでしてまじきたねぇ、てめえで片づけろ」
 大貴は腸壁の中の手首を回す。フジタニの身体がびくびくと震えた。
「俺んちの犬でもションベンもらさねぇし。フジタニ先生ってどうしようもねえな!」
「ひゃぁあぁ――きもちいぃよぉお──……!!」
 拳を引き抜かれた瞬間、フジタニは射精した。白濁の液が頬に飛沫き、祥衛の眉間には激しく皴が刻まれる。汚らしい、と祥衛は思った。

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 フジタニは丁寧な掃除をしていった。彼にとってはそれもプレイの延長らしく、雑巾とウェットティッシュを持参しており、全裸のままでシートの始末や、床に零れた液体を拭く。
 その間大貴はツインベッドのうち使っていないほうの綺麗なベッドに寝そべり、客に営業電話をしたりメールをして過ごしていた。祥衛はというとホテルに来たときのいつもの癖で案内冊子を読んだり、非常口への経路が書かれた紙を見て逃げる場合を想像したり、引き出しにある聖書を読んでみたりする(イエスの12人の弟子のうち半分くらいの名前は覚えてしまった近頃だ)
 それにも飽きた祥衛がテレビを見始めたころ、やっと掃除が終わった。フジタニはスーツに着替え、すっかり高校教諭の顔に戻っている。
「二人とも楽しい時間をありがとう。ボクは先生同士の飲み会があって急ぎますが、君達は気が済むまでゆっくりしていくと良いよ」
「えっ、それってテストの打ち上げ?」
 大貴は携帯電話を手に身を起こす。フジタニはあぁと頷いた。
「そうなんだ。たのしんでこいよ。あっそうだパン!」
「いいよ大貴くん、きみが食べるべきだ」
「だめだって! だってこれ先生にあげるために買ったんだもん。レーズンすきだったよね?」
 立ち上がった大貴はいつのまにか靴下を脱いでいて、素足で絨毯を踏む。ソファの上に放られていたパンの袋をフジタニに渡した。
「! きみって子はぁ……!」
「やすえのマスクとー、俺のくったパンの紙もちゃんと持った?」
「持った、持った! また宝物が増えたよ、ほんとうにありがとう」
「先生じゃあなっ。またあそぼーな」
 手を振りながら部屋を出てゆくフジタニ。大貴も手を振って見送っている。ドアが閉じるとくるりと背を向け、息を吐きだした。
「ふーっ、おわったー。めっちゃ楽にすんだ!」
「……そうか……?」
「ぬがない、なめない、さわらせないっ」
 風俗の宣伝文句のようなことを言いながら、大貴は室内を横切ってゆく。祥衛はテレビに映る放火事件がわりと地元の近所だったので『ぶっそうだな』と心の中で呟いた。
「どーする? 祥衛ってー、次の仕事11時だったよな」
 ベッドに倒れ込んだ大貴が、問いかけてくる。
「ああ」
 今夜の大貴はもう仕事終わりだ。テスト週間はあまり寝れなかったため、ひさしぶりに熟睡したいんだとホテルに来る道程で話していた。
「じゃーそれまで一緒にいよーぜ。いいだろ」
「……せっかく、もう終わったのに」
 テレビ画面から顔を背け、大貴のほうを向く。大貴はねそべり、また携帯をさわりはじめている。
 早く帰って休んだほうが良い、祥衛はそう思うのだが――
「だって、薫子遅くまで仕事なんだ。つまんねぇ」
「そうなのか……」
「なんかちょっとやりてーし……。ムラムラする、フィストして興奮した。……俺って変態なんかな」
 いまさら、何を。祥衛は言いかけた。
 大貴もまた祥衛からすれば常識の範疇を超えることが多々ある。例えば、薫子との関係についてもそう。
 薫子がM男を虐めるのを大貴は綺麗すぎると言う。
 大貴が男に抱かれるのを薫子は可愛いわねと言う。
「祥衛だってものたりねーって思ってんだろ」
 携帯を放した大貴に、見つめられる。
「……ああ」
 祥衛は目をそらし、頷いた。
 本当はああいうことをされたい側なのに、するだけなんて。煽られているような時間だった。
「……」
 ソファから立ち上がって、ベッドに向かう。
「祥衛の仕事に支障出たらどうしよう」
 近づいた祥衛に、大貴は上目遣いで問いかけてきた。腕を伸ばし、手首を掴みながらそんなことを言ってもナンセンスでしかない。言葉と行動が相反している。
「出てもいい……」
 引き寄せられ、崩れ落ちながら祥衛は呟く。背中に両腕を回されて強く抱きしめられ、キスをされた。

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 テレビを消して照明も落とした。ベッドサイドの明かりの下で、舌を絡ませてゆく。愉しくて、顔も首筋も鎖骨までも唾液でべとべとになるほど続けてしまう。生み出される快感に固く勃起してゆく互いの股間。それを押しつけあって興奮する。
 大貴は祥衛の腰に手を廻し、自らの腰をくねらせてきた。服越しに擦り付けられる肉棒の感触。祥衛は感じてしまう……ディープキスしながらの股間への刺激はさらに強く熱を引き寄せる。
 大貴は微笑すると、糸を引く唇を離した。そして祥衛のベルトを外してしまう。デニムを下着ごと膝まで剥がし、屹立した性器にじかに触れてくる。大貴の手で直接されると、祥衛の身体は一層わなないた。息を飲んでしまう。好きなようにいたぶられ、指先で刺激されてパンパンに膨れ上がり、淫蜜も零してしまうありさまだ。
 しばらく後に大貴も前を開き、ペニスを取りだす。さきほどのように服越しでなく、ダイレクトに触れ合う二つの性器。祥衛の興奮は煽られる。
「や、ぁッ、ふ……」
 肉棒をひとかたまりに握られ、慣れきったしごき方で擦られながら、祥衛は大貴の両肩を握りしめる。大貴のモノも祥衛と同じように発情していて、混ざり合って滴る液はどちらの先走りかも分からない。大貴の肉感や指の感触だけでなく、いやらしい水音も祥衛を辱めた。気づけば頬も熱くなってくる……
「…あぅ……」
 ふたたび唇を奪われた。おとなしいキスで終わるはずもなく、舌は祥衛の口腔を犯すかのように激しく絡む。擦られながらそんなことをされてはたまらない、祥衛の視界はますます滲み、虚ろになる。
 ピアスを弄ったり、玉袋を揉んできたりもする、大貴に翻弄されてゆく。
「だ、いきッ……!」
 接吻が途切れた瞬間に、思わず名を呼んだ。
「――どうしたんだよ」
「……」
 大貴と目が合えばゾクリとする、ふだんの大貴とは違う、性的な時間にだけ見せてくれる、威圧的かつ官能の香りがする瞳。その目に射抜かれると祥衛はどうしていいのか分からなくなる……逆らえない、とまで思ってしまう。
「祥衛だけ脱げばいいじゃん」
 掻き抱かれ、身体を撫で回されながら囁かれた。
 言わんとすることの意味はわかる。先程のフジタニのプレイと同じように、いたぶられる側だけが裸身になれということだ。
「さっき先生のこと羨ましかったんだろ、祥衛はマゾだから」
「あ……っ……」
 祥衛から手を離し、大貴はベッドの背にもたれた。制服を乱した姿は何とも言えない色香がある。妖艶さが、祥衛の本能に訴えかけてくる。
「早く脱げよ」
 命令されてしまえば、膝立ちの祥衛は己のカットソーに手をかけるしかない。震える指先で脱ぎはじめる。蜜色の間接照明に光る、胸元のピアス――

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「はっ……うぅ、ン…ふ……」
 祥衛は大貴の股間に顔をうずめた。どうしようもなく発情してしまいながら、その肉棒を咥えこんでフェラチオをしている。
 大貴は制服を着ているのに自分だけが裸、というのは予想以上に祥衛を興奮させた。フジタニは子供時代こうしていじめられていたのだろうか、そのせいでこんなシチュエーションに興奮する大人になったのだろうか――と思考をめぐらせているとますます身体が熱くなる。
「だいぶうまくなったな」
 ふいに喉を撫でられた。舌を動かしつつも祥衛は上目遣いに大貴を見る。
「練習した?」
「し、てない……」
 そっか、と微笑われて、抱き起こされた。背骨をたどる大貴の手が尻肉に届くと祥衛は震えてしまう。谷間を開かれ、孔を探り当てられれば身体が跳ねる。
 そんな祥衛を一瞬見つめた後、大貴はローションのボトルを取った。手のひらに出したものを塗りつけられる。感触に吐息を漏らしてしまう祥衛。シーツに両手をついて知らず知らずのうちに腰を突きだすような体勢になっていた。大貴の指にたやすく開く蕾は淫猥な音とともに混ぜられ、二本三本と指を馴染まされてゆく。
「ん……あ、あっ、あッ……」
 なんて巧みな愛撫なんだろう。大貴にされると心地よくてたまらない。シーツを握りしめ耐えていればある時全ての指が抜かれる。
「すげぇ。まじやらしい……」
 尻穴に対し、大貴が感想を漏らしている。腰骨に接吻もしてきて、思わず小さく鳴いてしまった。恥ずかしくてたまらず、祥衛は力を込めて窄めた。そんなことをしても羞恥から逃れられるわけもない。ただ、滴るローションが垂れただけだった。
「挿れていい、祥衛」
 頷いて、息をひそめる祥衛。大貴は開いたスラックスの前からいきりたつ肉茎を押し当ててくる。そっと尖端が触れれば、祥衛は悩ましく顔を歪める。

 欲しい。
 早く。
 入れて欲しい。
 大貴に貫かれたい……

「あッ……、あッ、あ……!!」
 飲み込めば溢れる歓喜。
 内壁に満ちていく肉感がたまらなく嬉しい。大貴のモノは太くて長くて祥衛自身の指では届かない奥底までいっぱいに拡げてくれる。
「うれしい?」
「ん、ぅ……!」
「俺もうれしい。祥衛のナカきもちよすぎる」
 身体を掴まれ、はじめられる抜き差し。衝動に祥衛はますます表情をよじらせる。凄い。抽送の度に意識が持っていかれそうになる。リズムをつけた腰つきで嬲られてゆく。深い粘膜を突き上げたかと思うと、ずるりと抜いて入り口あたりだけを焦らすように擦りつけてきたり、祥衛を翻弄して喘がせてくれる。
「だ、いき、ッ……ひっッ、うぅ……!」
「なんだよ」
 穿ちながらも、大貴の指は乳首を抓ってきた。強く引っ張って痛みを起こす祥衛好みのいじり方で。
「すご……、い、いぃ……っ」
「祥衛はー、突っ込まれながら胸さわられんのだいすきだもんな?」
 その通りだ。何度も首を縦に振り、祥衛は唇を噛む。身体は沸騰してぬるぬるぐちゃぐちゃとろけきって、なにがなんだかわからなくなる。それほどまでに大貴は巧すぎた。同じ少年男娼とはいえ、中1からはじめた祥衛と、物心つくかつかないかの頃から性の躾を徹底的に叩き込まれながら育てられてきた大貴とはレベルが違う。
「あぁあああ……!!」
 揺さぶられるままに乱れるしかない。祥衛が大貴よりも性玩具として優れている点は天性のM性と感度の高さで、それゆえに喘ぎがとまらない。
「だ、ぃき、だいき……ッ、も……」
「イクの……?」
「ん……!!」
 身体を弄る手先が優しくなる。肌に滑る唇の感触も。けれど後孔を貫く刺激は激しいままで、祥衛の意識は掻き回されてゆく。

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 気づけば、祥衛はベッドに身体を伸ばしていた。隣には上半身裸の大貴が寝そべっており、彼の目線の先にあるのは音を小さくしたバラエティ番組だ。
「あっ、起きた」
 祥衛が瞼を開いたのに気づくと、大貴は擦り寄ってキスをしてくる。いやらしさはなく、じゃれている延長線のように。
「おはよ。また祥衛気ぃ失ったんだぜ」
 そうなのか、と祥衛は少し驚く。そういえば絶頂の瞬間もあやふやだ。
「……大貴……」
 祥衛は身体を起こし、肌が清められていることに気づいた。大貴が拭いてくれたのだと思うと申しわけない。お礼を言ってみようかとも思ったが、言うタイミングが分からないし、つかめない。
「やっぱおっさんとするより祥衛としたほーがたのしいし、きもちいいな」
「ああ……」
 祥衛はお礼を言うのを諦め、ふらりと立ち上がる。足元がおぼつかず、大貴に「大丈夫かよ」と言われながらもバスルームに向かう。
「身体洗ってやろっか? いっしょにはいる?」
 心配そうな声に、祥衛は首を横に振った。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「じゃあ俺は家で入るから、祥衛フロ出たらー、そっこーで夕飯くいにいこ」
 浴室に入った祥衛をおいかけ、顔を見ながら大貴は言ってきた。祥衛は蛇口をひねろうとした動作を止める。
「……また食べるのか……」
「だってやったら、ハラ減った」
「パンを、食べたばかりだ」
「あれはおやつだろ。なぁなにくいたい? 祥衛のことだからどうせなんでもいいよな、じゃあ俺がきめていいよな!」
 肉かラーメンだな!と、閉められた扉の向こうから響いてくる声。どっちにしろ高カロリーだと思いながら、祥衛はシャワーを浴びはじめた。

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 特製大盛りラーメンチャーシュー増しを頼んだ大貴は満面の笑みをうかべている。カウンター席で祥衛の隣、うれしそうに箸を割った。
「うおっしゃ──いただきます! 休みばんざい! 見ろよ祥衛!」
 気にしなくていいとばかりにニンニクも大量に入れ、うずたかく盛られた具をつつきはじめる。具で麺もスープも見えない。祥衛の頼んだ普通のラーメンの何倍も体積がありそうだ。
「あーうまいなー! ここは坂崎サンに前つれてきてもらったんだー」
「……」
「この仕事してるとうまいもんいっぱい食えるからいいよなー。それゆうと親父も薫子も笑うけど、俺はほんっっとそれもあってー、やってるようなもんだしなっ」
 ずるずると啜って言う大貴らしい台詞。
 祥衛は金銭と快楽を楽しみにして務めているのだが、大貴は薫子のそばに居たいのと食欲を仕事のモチベーションに繋げているらしい。
 胃袋の構造を知りたい、といつもながらに祥衛が思う傍らで、大貴はギョーザも口に運ぶ。
「薫子はラーメンとか食ってくれねーもん。牛丼もだめなんだぜ! お上品じゃないわ、とかゆって。いいよなー沢上は。何屋でもいっしょに入ってくれるもんな」
「……にあわない。薫子さんに、ラーメンは……」
「まぁなぁ、そーなんだけど。けどたまには俺だってー庶民っぽいデートしてぇ!」
「しょみん……」
 無理だろう、と祥衛は内心で呟いた。
 それにしても麺が減らない。大貴は雑談をしながらもどんどんとラーメンを減らしてゆき、最終的には祥衛の残りにも箸を伸ばすのだった。

E N D