1 / 12晩秋の午後だった。健次はひとり、田舎町の電車に揺られている。窓の外では葉を落とした樹々が連なっていて、冬が近い。何故郊外へ向かっているかというと、やっかいな仕事を押し付けられたためだ。 相手先の指定で、健次が着ているものは学生服。荷物を詰めてきたのも、部活の合宿などに用いるスポーツバッグ。 父親の命令には逆らえない。逆らえば春江が罰を受ける──それだけは避けたかった。仕方が無いとはいえ、言いつけに従うしかない現実は空しい。 車内は空席が目立ち、ちらほらといる者は旅行客ばかりのようだ。健次の近くに座る中年女性のグループは楽しそうに観光の予定を話している。 やがて景色は停まり、終点を知らすアナウンスが響く。ホームに降りた途端に感じる、肌寒さ。健次が暮らす街よりも気温が低い。 駅には『ようこそ温泉郷へ』などと書かれた看板が目立つ。そう、此処は山間の温泉地だ。壮一の友人がこのあたりで旅館を営んでいる。健次の仕事とは、その旅館に行くこと。何をされるかは、もちろんわかりきっている。 はじめ、壮一は春江も伴わせるつもりだった。旅館の主は両刀の趣味を持つ。しかし、それに健次は反抗した。『自分だけであいつを満足させられるってか、大した自信だ』壮一は揶揄るように言って健次を笑った。反論するのも馬鹿らしい。 『あいつは衰えという者を知らん。飽き足らずに夜通し貪る』そうも壮一は言った。 知っている。彼に健次は何度も犯されたことがある。相沢家の客間でだ。 はじめて接待をしたのはまだ小学生の頃で、一晩中弄ばれたおぼえがある。まだ子供だったこともあり、体力が途中で尽き、意識を失ってしまった。しかしそれでも男は、そんな健次を抱き続けたのである。目覚めるとすでに朝で、身体はぐたぐたになって腰が立たなかった。その日は一日中寝込んでしまい、春江の介抱を受けるはめになった。 それからも度々男は相沢家を訪れ、気分で春江をえらんだり、健次をえらんだり、時にはそのふたつをえらび、夜を楽しんでゆく。 「ああ、お待ちしておりました」 駅員が手作業で切符をもぎる改札を出ると、初老の男が近づいて来た。彼が着ているナイロンの上着には、胸元に『志乃森屋』と刺繍がある。招待されている旅館の名だ。 「相沢さんのおぼっちゃん。ほおー、話で聞いた通りいい男だ」 健次はこの男と面識が無い。どうして自分のことが分かったのだろうかと思ったところで、回りに学生服の少年など誰もいないことに気付いた。今の健次はわかりやすい目印を着ているのも同然だ。 「……はは、じゃあ、案内します」 仏頂面で無言の健次に戸惑ったのか、男は苦笑して歩き出す。健次はそのあとに従った。 (愛想笑いのひとつでも期待してたか? まぬけなヤツ) 浮かんだ言葉は胸中で呟き、口にはださない。 旅館の車なのだろう。駅前の駐車場には白いワゴン車が停められていた。助手席を薦める男を無視し、健次は後部座席に座った。何処までも突き放す健次に男はたじろぐ様子をみせる。 車内では彼の観光案内がはじまった。無論、健次は全く興味が無い。頬杖をつき、流れる風景を眺めるのみ。のどかな風景に連なるのは宿ばかりだ。 目的地に着くと、健次はさっさと車を降りる。砂利の敷地を歩き、竹林に囲まれた建物へ急いだ。旅館の外観は風流な日本家屋といった趣である。 「お、お荷物。荷物持ちますが」 慌てて追いかけて来た男を、健次は見向きもしない。邪険に扱われつづけ、男は悲壮な表情を浮かべていた。男に何も罪はない。健次の機嫌が悪いのだ。 「──ようこそ志乃森屋へ」 自動ドアを開いて入ると、和服の女が駆け寄ってくる。此処の女将らしい。その後に仲井らしき者達も現れ、彼女達は揃って頭を下げた。 「旦那様ともども、お待ちしておりました。極上のお部屋を用意しております」 この女達は、主に一体何処まで事情を聞いているのだろうか、知っているのだろうか──健次は少し気になった。おかしな目で見られたくはない。しかし、ひとりきりの制服姿で経営者に招かれるという時点ですでに奇妙である。女将によって部屋に案内されながら、健次はため息を吐いた。 「長旅で疲れましたか?」 それを見られたらしい。振り返って尋ねられ、健次は「いや」とだけ答えた。まともに顔を見ていなかったが、目が合った彼女は美人の部類に入る女だった。歳の頃は三十の中頃といったところか。 辿り着いた部屋は確かに極上だった。花雅の間というらしい。何部屋に分かれており、飾られた骨董品や水墨画といった品々は明らかに高価そうなもの。窓から望む景色も逸品で、重なる山々や温泉郷が一望出来る。 「素晴らしい景観でしょう。昼もさわやかで美しいですが、夜もまた格別ですよ。温泉街の灯りがロマンティックだと皆様仰られます」 荷物を置いた健次に、女将はそう説明した。 「灰皿」 健次は部屋を見渡して、足りないものに気がつく。言ってやると、女将はしばし呆然としたような顔をする。が、すぐに、申し訳ありません、と謝ってから外へ取りに行った。健次は座布団の上に腰を下ろし、あぐらをかく。 女将が持って来た灰皿は瑪瑙(めのう)で出来たもので、レトロな風合いだった。 灰皿を置くと、女将は旅館の名が刻まれたライターをさっと出す。健次は一瞬どうするべきかと思ったものの、煙草をくわえ顔を傾ける。彼女の手によって火が点けられた。 「旦那様がいつもお呼びになる坊や達とは、あなた少し違いますのね」 机にライターを置き、女将は備え付けのポットに触れる。始めるのは茶の準備だった。動作は艶っぽかったが、春江が匂わせる艶とはまたちがう種類の色香だ。 「俺は陰間じゃねえ」 女将は口許に手をあてて微笑んだ。 「まあ、風流な言葉を知っていらっしゃるのねぇ。どうぞ」 目の前に出された湯呑みを健次はちらりと見る。 「大丈夫ですよ。おかしなものなど混れてはおりませんから。こちらのお菓子も召し上がって」 「肝心の旦那サマはどうしたんだ」 「急くのね。早く欲しいの、待ちきれないの?」 「殺されたいのか?」 女はもう、女将の態度を崩していた。健次は煙を吐き出し、宣告する。それは脅し文句だったが、相手の態度によってはそれなりの制裁を与えるだろう。 「物騒なことを言うのね。今の子って怖い」 「質問に答えろ」 眉根に皺を寄せ、促した。健次の様子に女は肩をすくめる。 「健坊に会うには身を清めなければならないって、念入りに湯浴みしてる。貴方相当気に入られてるみたいよ」 くすくす、くすくす。女の笑い声は妖しく、そして同時に不愉快だった。容姿は美しい彼女だが、性根はそれに比例していないらしい。 健次は灰皿に灰を落とし、親指を添えて煙草を掴むと女の顔へと近づけた。 「顔が一番大事なんだろ。女は」 「焦がすつもり? そんなことをしたら旦那様から、貴方のお父様に連絡が行く」 女は深い事情まで知っている。 「手元が狂ったって言えばいい──」 「なにをしている」 部屋の襖が開いた。現れたのは、この旅館の主だった。 2 / 12「まったく、あの雌猫は」女を退席させた後で、旅館の主は舌打をする。浴衣に羽織を一枚着た、湯上がりの姿だった。 「亡くなった弟の妻なんだが、手癖が悪くてね。度々つまみ食いをはたらく。とくに健坊みたいな凛々しい子には目がないんだ」 「死んだ弟?」 あの女将は未亡人だというのか。尋ねた健次の隣に腰を下ろし、男は頷く。 「数年前にね。だからまぁ寂しいという気持ちも分からなくはないんだが」 男の指が健次の腿に触れた。なぞるような動きを、健次は目で追う。 「私の大切なご馳走を、猫なんぞに食わせたくはない」 「手をつけられたことがあるんだな」 「ああ、油断も隙もならない。男坊主だけじゃないぞ。あれはな、娘も食うんだ」 口づけで途切れる会話。生暖かい舌の感触。健次に拒む権利はなかった。本当は除けたいし、男相手など苦痛なだけだ。しかし、逆らうことはできない。 覚悟もしてきた。壮一に今日のことを命令されていざ出立するまでには数日の猶予があったし、行く途中の電車旅もそれなりに長かった。心の整理をする時間はたっぷりとある。健次は機嫌を損ねてはいたが、突然に押し倒されて強姦されるときに比べれば、遥かに精神は落ち着いていた。 「似た者同士じゃねえか」 唾液の糸を引いてキスが解かれると、健次は鼻で笑う。失敬な、と男は健次のベルトに手を掛ける。 「もう始めるのか」 「そのつもりだが」 「がっつくな」 まだ、会って五分と起っていないのに、男は行為をはじめる気でいる。 「……わざわざ制服で来てやったのに。もう脱がすのか」 「それもそうだ。じゃあ、最初は着たままで犯そうか」 男が笑い、健次はげんなりした。これではまるで自分がプレイを提案したみたいではないか。 (裸だろうと制服だろうと、どうせされることは同じ) そう思い直し、健次は男に従う。場所を変え、寝室の襖が開かれた。畳の上には夕暮れ前だというのに、既に布団が敷かれている。うつぶせで押し倒され、背後からのしかかられる。男の手ははじめ、ズボンの上から健次の尻肉や、性器の感触を楽しんだ。健次の意志とは関係なくそこが反応すると、いよいよ服の中に指を忍ばせてくる。 「元気が良いねぇ。最近、抜いてないのか?」 耳元に吐息を吹きかけながら、男は囁く。そんなことはない。今週は壮一にも抱かれたし、壮一の連れて来た客人の相手もさせられた。けれど精液を放ってもすぐさま生産されてしまうのがこの年頃の身体だ。若さは残酷な程に、どんな刺激にも容易く勃起してしまう。 「それとも、私に触られて嬉しいのか。健次くん」 学ランは着たままで、下半身を隠すものを全て奪われた。健次は男の方を見ない。言葉も発しない。 「強張っちゃって。だが最後には鳴きわめくことになるんだ。きみは意識を失っていて、覚えていないかもしれないけれど……」 うつぶせのままの健次の耳に物音が届く。男が立ち上がり、寝室の戸棚を開いているようだ。 男は何かを持ってくる。モノの正体はすぐに分かった、尻肉の谷間に垂らされる感触で──ローションだ。 こういった所は、志乃森屋の主は心得ている。壮一のように無理矢理に捩じ込み、犯したりはしない。きちんとほぐしてから行為をすすめてくれる。ただ、痛みではなく快楽を感じることもまた健次にとっては苦痛だった。本来は排泄をするはずの孔に穿たれて感じるなんて、屈辱以外の何物でもない。 「初めて私が健坊を抱いた日なんか、凄かったよ。泣きながらあんあん喘いで、腰を振っていたんだ」 「嘘を吐け」 とろつく液を指で伸ばされる感触を覚えつつ、健次は否定した。 「嘘じゃあない。気持ちいい気持ちいいって言いながら自分から跨がってた」 「真実だって証拠はあんのか?」 「私の記憶の中に。最後はさすがにもうやめてーって言ってたよ。鼻水垂らしながら」 ギリ、と健次は奥歯を噛み締めた。枕に埋めている横顔、瞳に険しい光が宿る。男はそれを見逃さない。健次が見せる激しい憎悪の表情は、男にとって愉しいものだ。 「昨年のことは覚えているだろう。浣腸と剃毛を見せてもらって」 「……だまれ」 「顔を真っ赤にしながら、我慢してたね」 「だまれと言っているだろ」 健次は顔の両横に置いている拳を握りしめた。瞼も閉ざす。聞きたくもない、思い出したくもない。わなわなと怒りに震える心をまさぐるように後孔には指が差し込まれる。ゆっくりと慎重に掻き回され、穴は膣に変わってゆく。 「健坊っていつまでたっても飼いならされないな。普通、ここまでめちゃくちゃにされてたらとっくに心折れて、性の下僕になってるんじゃないのか」 「だれが。そんな、もんに……」 健次は最後まで言葉を発せなかった。男の長い中指に敏感な部分を突かれて、思わず震えてしまったのだ。 「ならないってか。身体は開発されてるのにねぇ」 「……!」 尻穴の中で、指が波打つ。わざと震わせているのだ。 「ほうら、前を触らなくとも、穴だけでこんなに気持ち良くなれる。健坊も立派な雌猫だよ。きみは相沢家の坊ちゃんだからね、上等な血統書付きの猫だ」 男の手管は巧みだった。いじられていると不覚にも感じて、心地よくなってくる。健次は喘ぎを零さぬように必死に我慢した。無駄な抵抗だとは分かっている。だが、少しでも抗いたい。 「だいぶゆるんできた。健次くんのここはきついけど、ちゃんと慣らせば開くからね」 そう言って、男はアナルに触れていないほうの手で健次の腿を撫でる。 「仰向けになって」 要求には応じなかった。男のため息が響く。 「じゃあ、このまま続けよう。分かるか、いま指何本入ってるか」 三本だ。脳裏では答えたが、口は聞いてやらない。押し黙っていると指の数を四本に増やされた。痛みが走る。けれど健次は唇を噛んだまま動きもしない。何度か潤滑油を注がれてぐちゃぐちゃにされ、四本の指の痛みも消えた頃に、男はそれらの指を抜いた。 いよいよ来る。健次は悟り、枕に顔を埋める。 「処女みたいなんだよな、いちいち反応が。締まりもだが」 男は健次の腰を掴み、持ち上げるように促した。さすがにそれには従ってやる。行為が進まないからだ。 学ランの上だけを纏って、男に尻を突き出している体勢。まぬけだと健次は自分で思う、情けない。 「良い眺めだ。お尻の穴が挿れて欲しそうにひくついて。ローションはヨダレみたいに垂れてる」 聞きたくもない解説のあとに、男の刀身が収められた。サイズは大きかったが、たっぷりと慣らされたお陰で痛みはほとんど感じない。 「……っ……」 「痛いのか?」 「……痛くねえ……」 そうか良かった、と男は言った。刹那、ゆっくりと抜き差しがはじめられる。溢れ出すのは快楽だった。 「う……あぁ……!」 健次は表情を歪める。きもちよかった。ペニスの裏側を擦られる感触は他の何ものにも代え難い。身体を揺らされ、ぎゅっとシーツを掴んだ。 「あぁ、っ、ふ……うぅ……」 「たまらないな、健坊のお尻は名器だぞ」 「うる……せ……え……!」 男の腰つきを受け入れ、ひと塊になって動く。健次は翻弄される。快感の前では剥いていた牙も脆く崩れて力を無くす。飲み込まれてしまう。 そのうちに、男の手が伸びた。健次が着ているシャツのなかに侵入してくる。指は滑らかな胸筋を撫で、熟れた実を見つけた。 「乳首、勃ってるぞ。触れていないはずだが」 笑われながらそこを弄られ、後ろからも突き込まれ、健次は甘く溺れてゆく。散々胸元をいじりまわした男の手が性器に降りると、それは先走りの蜜を滴らせるほどに快感を示している。 3 / 12何度達したか分からない。健次は朦朧と夢現をさまよう。健坊、ご飯だぞ、そんな声を聞いたが、答えるのも面倒臭いほどの倦怠感に支配されていた。裸で布団に埋もれていると性的な戯れは再開され、毒牙に絡めとられる。 何か飲め。男はそうも言った。口移しで飲まされたのはきつい日本酒で、強烈な味と臭いに健次は噎せた。けれど構わず男は健次の喉に流し込む。 それからは余計に意識が混濁した。遠くのほうで己の喘ぎ声を聞く。……畜生、健次は恨めしく思った。 「もう……やめろ……む……りだ……」 「嘘吐き。健坊はそんなやわな子じゃないだろう」 「あぁ、はぁ、あっ、ふ……ぅ……」 「それに本当は嫌がってないじゃないか。嬉しいくせに」 「ん……うぅ……はぁ……!」 仰向けの身体から、挿入されていた玩具を抜き取られる。無数にイボのついた物体は禍々しく電動でうねり、健次の腸壁を刺激し続けていたのだ。男は健次の引き締まった腿に手を掛けて開く。ぽっかりと開いた尻穴や、猛る性器をしげしげと眺められる。酒と羞恥で顔が熱かった。 「これ、剃ろうか。おまえには必要ない」 男は健次の股間をまさぐり、生えている毛を掴む。健次の陰毛は壮一やその連れにしょっちゅう刈り取られてしまうが、珍しく最近は難を逃れていた。男が仲居を呼びつけ、剃毛の用意を整えろと言いつけている。 (春江の分も……役目を……) ぐらぐらと揺れる視界のなかで、健次は昔を思い出す。幻影のように蘇る記憶。 黒いランドセルを背負い、路地裏を走っている。早く帰らなければと焦っていた。何故なら、家では春江が体調を崩して寝込んでいる。高熱もあった。 (それなのに……あの……クズ共は……) 昼中から来客を呼ぶ予定だと、壮一は言っていた。病床の春江に相手をさせるつもりだ。朝にそれを聞いていた健次は急いで帰宅した。屋敷につくと扉を開け放ち、廊下を駆ける。つかさちゃんくつはちゃんとそろえなさいよ──耳を翳めるのは頭のネジを亡くした母の呑気な声。 『春江!』 春江の部屋へゆくと、春江の布団のまわりを壮一とその来客が囲んでいた。彼らにより、春江は離れの間へと引き連れられようとしている。 『健次。こんなに早い時間に帰ってくるなんてなぁ……駄目じゃないか、空手さぼっちゃ』 壮一の顔が奇妙な薄笑いに歪む。春江の手首を握りながら。 『春江チャンは今からお仕事なんだよ、健次クン』 『わかるだろ、おじさんたちの邪魔をしちゃいけないよ』 客人達も笑う。 『やめろ。春江にさわるな』 健次は怒りの形相で、壮一の手首を春江から引き剥がした。 『健次さま、だめです、皆様のいうことをきかないと』 そう言う春江の声はかすれている。言葉を発した後には咳き込むしまつだ。 こんな状態の春江を縛し、辱め、淫猥な写真に収めようという彼らはまさしく鬼でしかない。 『私は大丈夫ですから。健次さまは、空手のお稽古に……』 行って下さい、そう言いながら春江はまた咳を散らす。健次は表情を歪めた。 『俺がする。春江のかわりに俺がなる』 『いけません』 健次と春江のやり取りを、父親らはにやにやとした笑みを浮かべているのみ。 『だめだ。おまえは寝ていろ。俺だっておまえのかわりくらいできる』 『いいんです、健次さまは早くお稽古に』 『だまれ。俺に命令するな、かせいふのくせに!』 春江の身体を押しのけて、健次は壮一を睨んだ。 『春江の代わりだと? 出来るのかぁ? お前は男坊主だろ』 壮一は散々、健次に対し女にするような行為をしておいて、こういうときだけ男児扱いする。 『オスガキのお前に、女の真似事なんて出来るわけが無いだろう』 『できる。なんでもしろ。春江がなおるまで春江のかわりになる』 『やめて! この人達、好都合だと思ってるの!』 叫んだ春江の頬は、客人にぶたれた。 『健次さまを……げほっ、くっ、おとしめる、絶好の機会だと……』 春江の口は背後から塞がれる。彼女の瞳からは透明な雫がぽろぽろと零れだした。 『お前がそれほどの決意なら、仕方ない。自分から犯ってくださいってなぁ、志願されたんじゃなぁ。どうですか皆さん、此処は健次の意見を尊重して』 壮一はパン、と平手を叩く。客人達も頷く。 『じゃあ予定は変更して、健次クンのエッチ撮影会ということで』 『“本人の意思を尊重して”女の子の服一杯着てもらいましょうや』 『ついでだから春江チャンが回復するまで庭の土蔵に閉じ込めるってのはどうだい』 『そりゃあいい案だ。春江、健次の学校に連絡しなさい。“しばらく旅行で留守にします”ってな』 ケタケタと笑い出す大人達。健次は唇を噛み締め、彼らを見据える。どこまでも薄汚れた彼らを。 その後、春江の体調がすっかり良くなるまで、健次は土蔵でわいせつな玩具と化した。そんな想い出が何故か今、浮かんでくる。 (守りたかった……あいつが酷い目に遭うくらいなら……俺が、遭えばいい……いつもそう思う……) 今回の仕事も、春江を振り切り一人で来た。ぎりぎりまで春江は自分も行くといってきかず、実際に旅支度までしていた。そんな彼女を置きざりにし、健次は此処を訪れたのだ。 股間の下にシートが敷かれ、泡立ったクリームを刷毛で塗られていた。酔っているせいかクリームの生温かさも心地良い。 「ははは、健坊、刷毛になぞられてチンコますます勃っちゃったぞ。もしかして剃られ好きか?」 そんなわけがないと言いたかったが、唇は動かない。何だかだるく、眠かった。 和服姿の仲居に性器を摘まれ、せっかく生えた陰毛が刈られてゆく。慣れているのか、仲居の手つきは巧かった。様々な者の秘部を処理してきたのだろう。 身体を投げ出した健次が剃毛されている様子を肴に、志乃森屋の主は酒を楽しんでいた。 4 / 12温泉宿だけあって、湯の心地は最高だった。客間に備え付けられた露天風呂に健次は身を沈めている。目覚めた朝日が山間に光をちりばめ、眺めも良い。夜明け近くまで蹂躙されていたが、健次の意識は途中で途切れていた。お陰であまり苦痛を感じずに済み、二日酔いもない。 しかし、まだ滞在の日々は始まったばかり。健次は此処に幾日か滞在することになっている。初日が楽に済んでも、これから先何があるかは分からない。 湯浴みを終えて脱衣所に出ると、用意されていたのは長襦袢だった。色柄こそ黒地に扇が舞う地味なものだったが、広げてみると薄手で袖など透けている。合わせて置かれた帯は象牙色。下着などはなく、素肌にこれだけを纏えということらしい。 志乃森の趣味に辟易したが、これを着なければ裸でいなければならない。持って来た荷物からは着替えだけが奪われていた。旅館の者の仕業だろう。 「お一人で着れます?」 衝立の向こうで、例の女将の声がした。その頃にはもう健次は襦袢を着終わっている。板の間を出ると、机に朝食を置く彼女は振り返った。 「あらぁ、良く似合ってる。着方もちゃんと心得てるのねぇ」 女物の襦袢を着せられて犯されたことは幾度となくある。そのために健次は手際よく纏うことができた。 「帯も花魁みたいに結んで。何処で覚えたの?」 しなりよる女を無視し、健次は座布団に腰を下ろした。ずっと布団に沈んでいて何も食べていないため、ひどく腹が減っている。用意された食事はいわゆる“旅館の朝食”。焼き魚に卵焼き、味噌汁やおひたし、海苔、漬け物、サラダなど。健次は箸を取ると早速食べはじめる。 「やだ、無視しないでよ。仲良くやりましょ。今日は三時まであの男いないのよ」 あの男というのは此処の主のことだろう。健次は茶碗の米を口に運びながら、眉間に皺を寄せた。こんなかしましい女と過ごすなんて考えただけでも気が滅入る。 「あたし覗いたんだから。貴方昨日それはそれは艶っぽかったわ」 「出て行け」 「可哀相に、下の毛剃られちゃって。でもなかなか立派なモノ持ってるのねぇ、味見し──」 「聞こえないのか?」 顔を上げて睨むと、女は怯んだ。わかったわよ、と言葉を放ち退室してゆく。 これで良く女将が務まっているものだ。ひょっとしたら、客も好みのものがいれば声をかけているのかもしれない。好色のオーナーと色狂いの女将。どういう旅館だ、と健次は鼻で笑った。 食事をすべて平らげたとき、携帯電話が鳴った。健次のカバンのポケットの中で震えている。立ち上がるとそれを手にとった。電話だ。相手は──春江。 「……どうした」 春江はどうやら外にいるらしい。ざわざわと雑音がする。 『お体は大丈夫ですか。何も、酷いことはされておりませんか』 「平気だ」 『信用できません。健次さまは平気でなくとも、私には平気だと嘘をつく』 春江の声の調子は恨めしい、そんな様子だ。健次は戸惑う。春江が一度気分を曲げると、意外と手強いのだ。機嫌を直させるのには手がかかる。 「怒ってるのか? 置いていったことを」 『あたりまえです。苦しむなら、共に苦しみたかった。共に傷つけられたかった。健次さまと落ちる地獄なら怖く有りません……』 「怖いことを言うな。お前は家で、親父の相手してればいいんだ」 『まあ、健次さまは私と旦那さまにいちゃいちゃ過ごして欲しかったんですか?』 「違う。俺はただ……」 こんな遠くまでわざわざ凌辱されに出てくるなんてことを、春江にさせたくなかった。そう素直に伝えればいいものを、うまく言葉にできない。健次は素直な想いを伝えることが苦手だ。 「……お前は家政婦らしく、家にいて家のことをしていろ」 『健次さまのお世話をして差し上げに行くと、旦那様には許可を貰いました。これから電車に乗りますから』 「おい……!」 春江はどうやら、此処に来るつもりらしい。健次は驚いた。春江にそんな行動力があるなんて。 「馬鹿か。帰れ。来るな!」 健次の耳元に響くのは列車の発車ベル。春江は駅のホームに居たのだ。通話は切れ、健次は半ば呆然としつつ画面を見た。 「あらあら、坊やの家政婦さんがいらっしゃるの?」 いつのまにか、部屋には女将が入ってきていた。健次は彼女を睨みつける。 「そう怖い目で見ないでよ。あたし貴方と仲良くしたいのよ」 「出て行けと言ったはずだ」 「朝食のお皿、片付けなくちゃいけないでしょ。ねえ家政婦さんって最初坊やと一緒に此処来る予定だった方よねぇ」 「俺の名前はボウヤじゃねえ」 健次は携帯電話にロックをかけ、広縁に置かれたテーブルの上にそれを放る。窓から望む景色は相変わらず秀麗だ。 「家政婦さんとは気が合うかしら、あ・た・し」 クスクスと笑う女の声を聞きながら、健次は舌打ちを零す。 5 / 12こんな格好で部屋の外には出られないので、健次は必然的に室内で過ごすこととなった。軟禁も同じである。何もやることがないと、健次のすることは筋トレしかない。腕立て伏せやスクワットをして、腹筋をしているときに志乃森が部屋に入って来た。時刻はまだ昼前だ。「健坊は土蔵で監禁されてる時もそうやってたな」 畳に座った健次のもとに男は歩いてくる。色々なことを良く覚えてやがる、と健次は思った。 「三時まで用事なんじゃねえのか」 「おまえの様子を見に来たんだよ。あぁせっかく艶な襦袢を与えたのに、着崩して」 健次は上半身の全てをはだけていた。両袖から腕を抜いてしまっている。 「けれどこれもこれでいいな。健坊らしい」 志乃森は健次の腕に触れ、僅かに汗ばんだ筋肉を撫でた。 「春江が来る。壮一さんから連絡があってね。……やはりな、彼女は彼氏の後を追って来たか」 「彼氏? 誰が」 「とぼけなくてもいい。そうなんだろう」 顎を掴まれ口づけを与えられながら、健次は怪訝な表情を浮かべる。健次にはそのような自覚は全くなかった。恋愛感情というものもよくわからない。ただ、春江に対しては他の人間と違う何かを感じるだけなのだ。 「あいつはただの使用人だ」 「二人きりになると、いやらしいことしてるそうじゃないか?」 「お前だって俺を犯す。でも、俺はお前の何でもねえだろ」 そりゃあそうだ、と言って志乃森は笑った。笑ってからもう一度キスをしてくる。今度は長めのやや濃密なものだった。健次はきちんと口づけを交わす気など全くないので、適当にされるがままに受け流している。本当は噛み切りたいのを我慢しているくらいだ。 男の指が鎖骨をなぞり、剥き出しの胸に触れてきた。摘むのは突起だ。弄り回されながら舌先を触れ合わせていると、痺れるような快楽が生まれる。 「健坊の身体はきれいだ。均整が取れていて、適度に筋肉がついて……たまらんよ」 指は下部へと動き、腹筋をさわる。鍛えたそこはなめらかに割れていた。 「変態ヤロウが……俺の身体のなにがいい」 「おまえを抱く男達は皆思っているだろう。壮一さんの作品にも健坊をモデルにした少年がよく出てくる。賛美の文章とともに。読者達もきみが投影された少年に酔っているんだぞ」 「馬鹿馬鹿しい」 健次はそっぽを向く。壮一の本は苛立つのでほとんど読んでいない。読んでいるとはらわたが煮えくり返るような感情さえ抱く。あれは創作なんかではない、調教記録だ。実際の陵辱をもとに記しているだけだ。 「ベストセラーの少年を現実に抱けるなんて、これ以上の幸せがあるか?」 薄い布地をたくしあげて、腿に手が触れる。男は健次の体中様々な部位を撫でて楽しむ。気色が悪く、健次の表情は自然と歪んだ。だが、こんな態度や表情すらもきっと相手を喜ばせているのだろうと思い、嫌気がさした。抗っても、逆に悦んでも、どうしたって男を楽しませるだけなのだ。健次に出来る術はただ行為に身をまかせ、時間が流れるのを待つしかない。 男は健次の性器をとらえると、重点的に愛撫をはじめた。昨夜あんなに精を吐き出したというのに、若さは反応を鈍らせない。たやすく形は引き出されて首をもたげる。 手触りを楽しむだけでは満足できないらしい、男は味も確かめようとペニスに口を寄せてきた。与えられるフェラチオ。溢れ出す快楽で、思わず吐息が漏れそうになる。健次は唇をきゅっと閉じた。 「素直に喘いでいいんだぞ。といっても、きみは正気のうちは堪えるだろうが」 肉棒を弄ぶのに飽きると、男は立ち上がった。仲居を呼び、何やら命じる。すると仲居は麻縄を持って来て主に渡す。 「きつく縛ってやろう。おまえは力が強いからな。外れないように頑丈にしなければ」 志乃森により、健次の両手首足首は縄で縛られる。緊縛を心得ているらしく、動作は手際よく縛り方も巧い。手首は臍の前で、脚は開いて固定された。 一体何をはじめようと言うのか。不快な表情をする健次のまわりには何やら道具が運び込まれてくる。刷毛を見て、健次はまた剃毛するのかと思ってしまう。 「剃るところなんてもう無い。坊主にするつもりか?」 「剃毛より楽しいことだ。はじめなさい」 はい、と仲居は返事をした。壷からひしゃくで液体をすくい、手にした椀に入れる。 「いきなりここに垂らしても良いぞ」 志乃森が指差したのは健次の股間だった。仲居は健次の襦袢をはだけ、秘部を露わにし、椀をその上で傾ける。とろつく液体は重力に従い、健次の性器に降り掛かった。 「なんだ、これは……」 健次は拳を握りしめた。普通の液ではない。あやしいものが仕込まれた液だ。垂らされた部位はすぐに浸透して、熱くなる。しばらくすると襲い来るのは猛烈な痒み。 「媚薬か──?!」 「惜しい。似たようなものだが、ただ熱と痒みを与えるだけだ。芋茎の汁が混ぜてあってな」 志乃森が喋る横で、仲居は筆を走らせた。液体が引き延ばされ、ペニスをなぞられた。健次は身震いする。 「どういうつもりだ……」 「晩のおかずの仕込みだ」 「ふざけ……るな……!」 睨みつけたところで、健次の視界は闇で覆われた。目隠しをされてしまう。 「おまえの眼光は凶器だからな。仲居達が怯えてしまう」 それじゃ、よろしく。そう言い残し志乃森は部屋を出て行った。仲居は瓶からすくった液を健次の性器や内腿、尻穴、乳首などに垂らし、筆でなぞり続ける。 じんじんと響く痒みは、今すぐ掻きむしりたいほどの濃密なものだ。けれど健次は身体を縛されている。疼きは増すばかり。 仲居の人数も増えた。彼女らは代わる代わる無数の刷毛や筆で塗り付ける。健次の男根から滲み出る苦悶の蜜も混ざり合い、肌が乾くことはない。 (糞……糞! 気が……変になる、死ぬ……!!) 火照る身体を無意識のうちに揺さぶってしまう。惨めで、痒くて、辛過ぎる。 (こんな目にばかり遭わせやがって。親父も、腐った連中も……いつか見ていろ……) 唇を噛みながら、負け犬の遠吠えと我ながら感じた。吠えることしかできない。 春江のせいだ。春江がいなければ嫌な目に遭わなくてすむ──春江は何か壮一に弱みを握られていて、そのせいで逆らえないらしく、そんな彼女を守るために健次までもが恥虐を被るはめになった。春江に惚れたのが運の尽きだ、そう心の中呟いて健次は気付く。 (……俺は……そうか……) この想いが恋愛というものなのだろうか。 こんな下らぬ情に人生を支配され、毎日毎日ズタズタにされているなんて、何ということだろう。愚かとしかいいようがない。ブザマで笑えてくる。 「ふっ……くくく、ふはははっ……!」 突然笑い出した健次に、仲居たちは怯んだ。しばらくの間、塗り付ける筆の手が止まる。 (俺が一番腐ってんのか……? 自分から沼にはまったんだからな!) 春江に心を寄せたために、火の粉を被った人生。これほど馬鹿らしいことはない。気付いた健次は身を蝕む疼きの中で、己を嘲笑い続ける。 瞼を塞がれた闇の中に彼女の姿が浮かぶ──薄紫の着物を纏い、微笑む姿。陽射しを避けるように日傘を傾けて、ひかえめに後ろをついて歩いてくる。そんないつの日かの情景が脳裏に描き出された。 6 / 12健次から一日遅れ、宿に到着した春江。着いたのは夕方で、月雅の間という部屋に通された。案内してくれた宿の者に健次のことを尋ねても、何ひとつ教えてくれない。 不安に苛まれる──健次の身は無事なのか、おかしなことはされていないのか。部屋の露天風呂をすすめられてそれに従ったが、湯を楽しむ気など起こらない。健次のことが心配でたまらない。今頃、どんな目に遭っているのか。健次の姿を早く見たい。 身体を綺麗に清めると、用意されていた襦袢を身に纏う。昔の花魁が着ていたかのような、深紅の襦袢。洗い立ての素肌にそれを着て、寝室に赴くと、志乃森が待っている。 春江は志乃森に抱かれた。 仕事としてセックスをすることには慣れきっている。ほとんど口をきいたこともないような人間や、得体の知れない人間とばかり交わってきた。壮一の命令で。 しかし、嫌悪ばかりではない。春江も女だ。相手の男と気が合えば、多少のときめきを覚えてしまうこともある。身も心も充実した夜さえも時にはあった。 けれど充実感や快感と共に罪悪感がついてくる。どれほど情熱的な一夜を過ごしても、朝になれば結局は自己嫌悪に陥ることが多い。 健次のことを愛しているのに、他の男の腕の中で悦んだ自分は醜い女だと思って落ち込んでしまうのだ。 それに、どんなに男が楽しませてくれても、可愛がってくれても、健次と寝たときのような心からの悦びは感じられない。無数の男達との契りは、結局、一夜の遊戯でしかなかった。 (健次さまも昨日この男に犯されたの……?) 志乃森の腕に包まれ、揺られながら春江は想いを馳せる。そんなことを考えるだけで間接的に健次に触れたような気がして、ときめく。 健次とはしばらく肌を交えていない。最近は毎晩交互に壮一や彼の客人の相手をさせられて、二人きりで過ごす夜が無い。 (健次さまの身体が……恋しい……) 健次はこんなふうに抱いたりしない。触りかたは淡白だし、ときにはわざと強く貫いたりと痛みを与えてくることもある。しかし春江はそんなふうにされることが好きだった。嘲笑う健次の表情を愛している。子供らしさのないあの鋭い瞳も好きだ。 そう、健次には年頃の少年らしさがほとんど無い。あどけなさというものが存在しない。威嚇するようなはりつめた空気を纏い、誰に対しても刺々しい言動をとる。子供らしいことなどほとんどさせてもらえず、延々と虐待・調教に晒されてきたために健次の心は歪んでしまったのである。 「他ごとを考えていたな」 行為が終わったあとに耳元で囁かれ、春江ははっとする。 「そんなこと……ありません」 「嘘を吐け。健坊のことでも想っていたんだろう?」 ずばりと言われてしまい、言葉に詰まった。弁解することができない。 「春江嬢は身も心も愛らしい。何も子供に心砕かなくとも、いくらでも良い男が付くだろうに」 同じ褥に横たわり、間近で重なる視線。志乃森の目は何かを探るようだ。 「私には壮一さまがいます」 「表向きだけじゃないか。本当は息子の健次くんとつきあっているくせに」 「いいえ、私は壮一さまの妾婦。それに、健次さまは雇い人の息子で、私はただの使用人です。つきあうなんて」 春江はきっぱりと否定し、首を横に振る。それは本当だった、健次とは何も愛の契りなど交わしてはいない。ただ自然に気付いたらお互いの心を通わせる存在になっていて、明確に恋人の宣言をしたわけではない。 「いやらしいことをしているのに?」 なおも探るように言われ、春江は怪訝に感じる。彼が何を言いたいのか、わからない。 「元々は、壮一さまの命令です。健次さまの……筆おろしを……しろと言われて。それがきっかけで、ときどきするようになっただけ」 「ほう、これは興味深い。壮一さんがきみたちを交わらせたのか」 「健次さまを男にさせると仰って。そのとき、たまたま手近に居た女が私だっただけのことです」 そう答えると、やっと志乃森は尋問をやめた。春江を恋人のように抱きしめ、七時にまた会おうと言って床を出てゆく。 「健次さまは無事なのですか? 一体どこで何をしているの」 後ろ姿に問いかけても、答えは帰って来なかった。志乃森は去って行ってしまう。 月雅の間は、春江ひとりの空間になる。 早く健次に会いたいのに、会うことができない。 (健次さま。大丈夫なのですか? おかしなことをされていませんように) 祈るように心の中で想い、寝返りをうって、瞼を閉じる。 せっかく追いかけてきたのに、これでは相沢家にいるのと変わらない。いや、家に居るよりも残酷で切ないかも知れない、同じ場所にいるのに姿を見ることが出来ないだなんて。 春江は自らの肩を抱いた。 早く逢いたい── 7 / 12志乃森は脇息に肘を置き、ゆったりとくつろいでいる。彼の視線の先には床に伏せる健次が居た。纏う襦袢は新しいものに取り替えられており、布地は紫の絞り、帯は赤い兵児帯。その姿で手首を縛られ、寝転がっている。もう液薬には塗れていないが、数時間に渡って塗り付けられた秘薬は皮膚にしみ込んで浸透し、健次へ疼きを与えていた。「火照って仕方が無いだろう? 健坊」 健次の姿を酒肴にして、志乃森は杯を舐める。 並の者ならば、とっくの昔に自我が壊れているはずだ。しかし、健次は一筋縄ではいかない、簡単にプライドを失ったりはしない。 乱れた襦袢からそそり立つのは、屹立したままの肉棒。それは時折びくびくと震えて先走りを分泌させ、零れている。呼吸も荒い。苦しげに目を伏せて吐息を繰り返し、熱にうかされているような表情を浮かべる。 それなのに健次は犯してくれと懇願することもなければ、発情する身体を慰めようともしない。ただただ身を焦がす淫欲に耐えている。 「どんな踊りを見せてくれるのかと期待していたが、おまえは大人しいものだな」 踊り。それは、疼き狂いながらも拘束された者達が少しでも身を慰めようと行う行為のことだ。腰を振ったり、床や柱に性器をこすりつけたり。その姿はまるでダンスのようで、見ている者の嘲笑を誘うのである。 「しごいて欲しくてたまらないくせに。尻の穴も触って欲しいだろう」 志乃森の言葉に、健次は眉間に皺を寄せ、唇を噛んだ。鬱陶しそうに寝返りをうち、そっぽを向いてしまう。そんな態度に志乃森は一層笑んだ。 「ははは、可愛らしいな。意地っ張りの健坊……」 志乃森は立ち上がると、部屋に置かれた古風な電話機に触れる。受話器を持ち、ダイヤルを回すと、例のものを持って来いとだけ言って、すぐに切った。 「しかし。いつまで強情でいられるかな」 すぐに仲居が来た──手に持つ盆には志乃森が命じた『例のもの』を乗せて。 「これはな、このあたりで採れる山芋だ。普通に食っても美味いが、これにはこういう使い方もある」 例のものとは、山芋のことだった。握りやすいように根本を残して皮が剥かれている。形はおぞましくも男性器を模して削られていた。 志乃森は仲居の盆からそれを取り、健次の元に歩み寄る。 「……やめろ……」 何をされるのかを察し、健次は志乃森を睨んだ。長時間の責めに耐え、さすがに眼光が弱っている。 「変態が……そんな、もん……俺に近づけ……るな」 志乃森は健次の言葉など聞いていない。腿を掴んでこじ開けるといきなりに長芋を押し当てた。ぬめる固まりはたやすく滑り込む。同時に、健次の腸壁には刺すような刺激が走る。 「っ……!! な……」 強烈な痒み。昼間に塗り付けられた液よりも痒い。すべて挿入されると、健次は表情を引き攣らせる。 「抜け! 糞、あぁ、あぁあ……!」 「たまらんだろう。さすがにお前もこれには、な」 「あっうぅうう……!」 股を擦り合わせ、身をよじり、健次は腰を振るう。いてもたってもいられない、そんな動作だ。麻縄で後ろ手に縛されているため、抜くことはできない。もどかしく畳の上で身をよじり、苦悶の表情を浮かべてのたうつ。 「はははは! 辛いだろう、健坊!」 遂に強固な城壁を壊した。志乃森はそんな気分になり、側で眺めて笑む。 「恥ずかしい子だな、勃起ちんこ振って身体くねらせて。くははははっ」 「や、っ、う……くッ……」 健次は頬を紅潮させ、歯を食いしばる。ぎりぎりのところで、健次の意志は踏みとどまった。震える身体に力を込め、爪先までも緊張させ、もがく動作を止める。 「ほう。まだ我慢するか」 抜かれることはないと分かっているらしい、健次は瞼を伏せ、耐えている。狂いそうなほどの疼きに身を支配されているというのに。 「大したものだな、おまえは」 志乃森は頷き、感嘆の言葉を漏らした。 「可愛らしく喘いで、抜いてくださいって言ってみろ。そうすれば抜いてやるぞ」 「だれが、そんな……こと……!」 「ほらほら、動かすぞ?」 志乃森は飛び出た長芋のふちをつまみ、ぐらぐらと揺らしてやる。 「う、あぁ……っ……」 「かゆくて普通なら踊り狂ってるだろう。こんなことをされたんではな」 志乃森のいたぶりはまだ終わらない。掴んで軽く抜き差しをする。健次の身体は強張り、開いた唇は声にならない悲鳴を上げた。 「…………!!」 「はははは、どうだ、長芋でピストンされる心地は」 「ぐっ、あぁ、ちく……しょ……う……!」 健次は自分をいたぶる男を睨みつける。屈辱と怒りからか、眼光には凄みが戻っていた。刀の切先のような瞳だ。 「ぶっ殺す。覚えてろ……いつか…いつか……!」 「物騒なことを言うな。そういう口は塞いでやらねばならん」 志乃森は健次の肌から手を離すと、顔を上げる。先程、盆を持って来た仲居に連れられ、春江が部屋に入って来ていた。壁の時計はちょうど七時を差している。 「春江嬢が来てくれたぞ、健次。キスで塞いでもらうか?」 「……春江……」 健次は寝返りをうつ。健次の瞳には、駆け寄ってくる春江が映った。赤い襦袢を身に纏い、表情を悲痛に歪ませて── 「健次さま。あぁ、酷い……!」 「いやらしい姿だろう。健次くんは今発情してるところなんだ」 「やめてください。楽にしてあげて。健次さまに何をしたの?!」 春江は志乃森の腕を掴み、声を荒げた。 「宿に伝わる秘密の淫薬を塗ってな、今は長芋をお尻に挿れている」 「そ、そんな……」 「まさか、壁一枚隔てた場所で健坊がいたぶられてるとは思いもしなかったんじゃないのかい」 志乃森はほくそ笑む。 そう、春江が居た部屋“月雅の間”は、此処“花雅の間”の隣室にあたる部屋だった。 「抜いてください。手首もほどいて!」 「駄目だ。健次くんが自分から、抜いてーっておねだりするまでな」 迫る春江に、志乃森はそう言ってのける。志乃森は春江の肩を掴み、唇を奪った。きゃあ、と春江は声を上げる。健次の目の前で交わされる、濃密なディープキス。 「健坊。我慢はやめて言いなさい。抜いて下さいお願いします、可愛らしくだぞ」 口づけのあとで志乃森は言った。健次は荒い呼吸を繰り返しながら志乃森を見ている。健次にキスを見られたことが哀しくて、春江は掌で顔を覆った。 「そうしないと、お前だけではない。春江嬢にも辱めを与えてやる」 志乃森は勝ち誇ったような気分だった。流石の健次も、そういうこととなれば屈服しない訳にはいかぬまい。そう思っていた。 しかし。 「言うか……! そんな、もん、俺は、言わね……え……」 健次の言葉は拒絶だった。 志乃森を見据え、はっきりと断る。 「健坊。おまえがそんなふうだと彼女も罰を貰うんだぞ」 「うるせえ、勝手に……しろ……」 疼きから頬を紅潮させ、吐息を乱しながらも不遜な態度を崩さない。 志乃森は驚くしかない。何故、健次はいつものように春江を庇わないのだろう。そんな態度を取るのだろう。分からず、不可解だった。 「こんな所まで、来やがって、俺は怒って、るんだ……」 健次の瞳は春江へと動く。顔を覆っていた指のスキ間から、春江は健次を見た。目の前で性器をあらわに苦しむ健次を覗き、涙がにじむ。 「罰だ……きょうは、守って、やらねえ、お前も、地獄に、おとし……てや、る」 ビクビクと身を痙攣させながら健次は喋る。限界など、とうに超えている。普通ならば気が触れてもおかしくないほどの状態に置かれているのだ。 「はい、健次さま、私もいま、そこにいきます。健次さまと同じ地獄に。私もともに苦しみます」 泣きながら健次に語りかける春江を見、志乃森は声を上げて腹から笑う。二人の様子は滑稽で、それでいて情愛に溢れていて愉快だ。 「はっはははは。助かる道もあったものを。愚かな者達だ、はははは!」 今晩の肴は、昨夜よりも美味そうだ──そんなことを呟いて、志乃森は脇息のもとへ戻る。 「秘薬と、縄と、芋を持って来い。もうひとり分な」 命じられて仲居は頷く。淫靡な夜伽が、幕開けてゆく。 8 / 12肉体を炎の龍に巻かれているような感覚の中で、健次は春江の顎を掴んだ。縛されていた縄は解かれたものの、疼きから逃れる訳ではない。尻穴には依然として淫らな芋が挿入されたままだったし、痒みは治まらない。痛いのか痒いのかが分からないほどに痺れて、のたうち回りたい気分だ。それを強い意志で押さえ込み、健次は意識を保っている。刺激が強すぎて麻痺してきたのかもしれない、そう我ながら思っていた。「つらい……か……?」 深紅の襦袢ごと縛された春江に、問いかけてみる。しかし、返事は返って来ない。春江は苦悶の表情を浮かべ、ぜえぜえと肩で息をしているのみだ。春江はとうに正気を手放している。縛られていなければ畳の上を転がり回り、狂気のままに己で性器を弄っているに違いない。 喘ぐ春江の唇からは涎が垂れる。塗りたくられた液薬の上に零れてゆく。そう、春江の髪も肌も衣も濡れている、まるで溺れたかのように。健次が昼間塗られたものと同じ汁を浴びせられたのだ。 「ふっ、くくく……気が、ふれたのか……脆いヤツ」 痴れた春江を眺めているのは、悪い気分ではない。健次は身を焦がす疼きに支配されながらも、春江を見つめてくつくつと笑う。熱病にかかったように意識はぼんやりとしていて、周りのことは気にならない。視界も輪郭があいまいで、おかしい。春江と、触れ合う体温だけをリアルに感じる。 少し離れた所から、志乃森や、仲居や、女将達がこちらを見ているのは分かっていた。彼らは自分たちを鑑賞して談笑し、酒を呑み、懐石料理を楽しんでいる。ギャラリーは増えるばかりで、瞳の数は時間とともに多くなる。健次を駅に迎えにきたあの男も、いつのまにか観覧の輪に加わっているようだ。 「なあ、春江……そこは、地獄か……?」 春江の上に身体を重ね、滴る液に肢体や襦袢を汚しながら、健次は再び問いかけた。もはや春江の瞳は焦点が合っていない。意識はあらぬ場所へと逝ってしまい、どこか遠くを見ている。その瞳に何処か母に似た面影を感じ、健次は微笑んだ。 「春江……」 頬を撫でて、口づけを与えた。柔らかな唇の感触を味わうと舌を挿れてみる。唾で満ちた春江の口腔を探り、動かし、絡めてゆく。 しばらくキスを楽しむと、首筋へと口を這わせた。鎖骨をなぞり、春江の縄を指先で触れる。固く結ばれた縄は女体に食い込み、雁字搦めだ。 濡れた襦袢ごしに尖った乳首を確かめ、健次は強く摘んでみた。痛みを与えるように。けれど春江は動かない。いつもなら悲鳴を上げるのに。つまらなくて、健次は食らいつく。歯を立てて乳房を噛んでみる──すると、春江は小さく震えてくれた。 反応が嬉しく、健次は身体を起こすと、脇腹を掴んだ。力を込めて潰れる肉の感触に笑う。内蔵を雑巾のように絞ってやりたい。 「──……い、たい、です、あぁ……」 春江は眉間に皺を寄せ、言葉を発した。 「やめて、やめ……て、ください……!」 「なんだ……意識が、あるのか……」 「痛、い……」 健次が虐めたせいで、正気が蘇ったらしい。春江は潤んだ視線を健次へ向けた。瞳には焦点が戻っている。 「気分は、どうだ……」 「おかしく、なりそう、頭が、狂い、そ、う」 「俺と堕ちる地獄は……怖くないと言った……」 健次は春江の細い首に手を伸ばす。ゆっくりと、乱れた髪を掻き分けて握ってみる。 「は……い。言い……ま、した、うれしい、です、健次さまと、一緒に、今、苦しんでいることが……幸せ、です」 「じゃあ幸せなまま死ね」 健次は指先にぐっと力を込める。春江の呼吸が圧迫され、途切れたのが健次へ伝わった。 それを見て、宿の使用人が二人の行為をやめさせようと腰を上げた。しかし志乃森は制止する。見守ろうじゃないか、そう言い引き止める。 「か……は、ッ……」 ぎりぎりと締め上げられて、春江は爪先を浮かせた。眼球を見開き、苦痛に痙攣する。 「ははははは、ははははッ、あはははははは」 健次は声を上げて笑う。首を絞めながら、心底愉しそうに。それは子供らしい笑みだった、無邪気にはしゃぐかのような表情。 春江の視界が霞み、意識が切れそうな、まさにその瞬間── 「嘘だこの馬鹿!」 健次は絞首を解く。手を離した瞬間、解放された春江は激しく噎せだした。縛られた身をよじり、派手に咳を散らす。生理的な涙を零しながら。 「くくくくっ、はははっ、面白い、死にかけたか」 「ぐっ、あっ、け……んじ、さ、ま……!」 「身体はオカシイ、息は苦しい、生き地獄だな春江、はははは!」 春江の様子を見て健次は腹を抱えた。爽快に笑い続ける。 「……最高の心地……だろ」 未だ噎せる春江の髪を掴み、自分の元へ強引に顔を寄せさせる。わざと揺さぶって春江の身を振った。 「なあ、マゾ女。気持ち良い……ん、だろう、が……」 春江はぐすぐすと嗚咽を漏らす。長い髪も襦袢も乱れ、凄惨な姿と化していた。布はめくれてしまい、股間も太腿もあらわだ。その性器は健次と同じよう綺麗に剃毛され、後孔には男根を模した長芋をぶち込まれていた。 「気持ちいい、です、何をされても、健次さまとなら、健次さまになら……!」 「ふははっ、変なヤツだ。本当に馬鹿なんだな……」 健次は髪を放す。どさりと春江は崩れ落ちる。 これは、遊びだった。 健次と春江はじゃれているのだ。痛みと苦痛と屈従の中で、遊んでいる。 苦しみ涙を流しながらも春江は喜び、そんな春江を傷つけ罵倒して健次は笑顔を見せる。 「わたしを、健次さま、ゆるして、下さ……い」 春江は芋虫のようにねじり身体を起こすともぞもぞ動き、健次の元へと身体を寄せた。 「ほしいです、からだがおか、しいん、です、健次、さまの、くださ……」 泣き濡れた目は健次のそそり立つ肉棒を見つめていた。腿に頬を擦り付け、口許に性器を運ぶ。亀頭を含まれると、健次は眉間に皺を寄せた。 「淫乱の……糞アマ、ふっ、ははははっ」 一日じゅう責めに遭っていたペニスがはじめて刺激を得る。弾けそうな感覚に、健次は笑いつつも身を震わせた。春江は幸せそうに喉で愛し、舌を巻き付かせてくる。 フェラチオをされながら、健次は長い黒髪を掻き混ぜた。春江は一心不乱に吸い続けている。男のものを銜え慣れた口で発情した性器を舐め回されれば、たやすく絶頂は掴み出されてしまう。 「イ、ク、あぁ……飲め……全部……!」 健次は瞼を閉じる。 迸る絶頂は想像を絶するもので、さすがの健次も耐えきれない。疼き続けていた身体を癒す、白濁のたぎり。液量は多く、春江の唇から零れ溢れて互いの着物を、肌を、畳を濡らしてゆく。 あまりの快感に、健次の意識はゆらいだ。しばらく気が遠くなる。仰向けで倒れ込み、肩で息を切らした。 周囲の音など聞こえない。ただ己の繰り返す呼吸だけが分かる。 熱い。おかしなほどに熱くて、自分も気がふれているのだと思った。思っても、どうしようもできない。ただ熱く、苦しく、何故だか切ない。 「春……江」 放心しそうな意識をなんとか現実にとどめ、健次は薄目を開く。視界では春江が微笑んでいた。口許を白濁で汚しながら。 (馬鹿は俺だ……情に流されすぎだろ。こんな女のために。ズタズタにされて、犯られて……) 春江を見つめ、健次は悲しげに表情を歪める。 (本当にこいつを殺してしまえたらいい。そうすれば……楽になれる、苦しむこともなくなる……それなのに) ──春江を殺すことが出来ない── 9 / 12衣を脱がされ、春江の縄も解かれ、二人は交尾を繰り返す。火照った身から溢れる情欲は底無しで、とどまることを知らない。衆人環視の中にあるというのに、あさましく性を貪り続ける。形を変え、絡み合い、飽きること無く腰を振って、愛液と精液を混ぜ溺れてゆく。尻穴の芋は抜かれ、代わりに揃いのバイブをぶち込まれていた。アナルからは同じ持ち手が頭を出している。その振動を後孔で感じながら、健次は春江の膣へ射精し続けた。注ぎ込むように、何度も、何度も、何度も。狂ったように喘ぐ春江を延々と犯す。 額から伝う雫は、汗なのか浴びせられた液汁なのかお互いの蜜なのか、分からない。肩で息をして健次は春江に覆い被さる。ぐちゃぐちゃと性器を抜き差ししながら。 「け……んじさま、わたしまた、いっ、イッちゃい、ま……あぁああああッ」 健次の下で、春江の顔が歪む。恍惚となる表情の一部始終を健次は眺めた。春江はもう何度達しているのだろうか、おそらく健次の倍は極みに到達しているはずである。 女性器は痙攣し、健次のペニスをきつく締め付ける。それでも健次は構い無しに腰を揺らす、春江の顎を掴んで様子を観察しながら。 「健坊、そろそろ春江嬢が壊れてしまうぞ」 目を閉じた春江を見ていると、背後から声を掛けられた。この旅館の当主の声だ。 志乃森は結合する二人の部位を覗き込み、くすくす嗤う。 「精子があふれてるじゃないか。妊娠させる気かな?」 「そんなもの、堕胎せば……いい……」 「怖いことを言うよ。この子は」 健次の側に近づき、志乃森は唇を奪う。春江はうっすらと瞼を開けた。視界の上では健次と志乃森が舌を絡めている。ぼんやりと眺めていると、唾液が垂れて来た。健次の瞳がこちらを見て、春江の胸はどきりと騒ぐ。自分に性器を挿入したまま、目の前で男と口づけをする健次は妖しいまでに色っぽい。 「……どうした……」 健次は唇を外すと、志乃森を押しのけて春江に頬を寄せた。 「今、見ていた……だろう」 「はい、とても、けんじさまが、色っぽかった……から……」 「俺の、キスが、か……?」 そう言って健次は春江と唇を重ねる。舌に染みた志乃森の唾液を春江に与え、掻き回す。 「どこが“ただの使用人”と“雇い家の息子”だ。おまえたちは言っていることと実際の関係が違うじゃないか、相思相愛だ」 楽しそうに志乃森は言って、健次の背後に回る。腰を掴むと、捩じ込まれているバイブを一気に引き抜いた。その瞬間、健次は震える。けんじさま、と心配そうに春江は名を呼んだ。 「おまえたちのショウは十分楽しませてもらったよ。そろそろ、私も混ぜてもらっていいかね?」 志乃森は着物の帯を解いた。鑑賞の興奮からか、前をはだけるとすでに彼の性器は膨張している。 「先にどちらに挿れようか迷ったが、健坊にするとしよう」 秘薬の液や長芋のぬめりで潤んだ粘膜は、志乃森の指を吸い込むように受け入れた。二本の指で内部を掻かれ、走る快感。それは今まで感じたことがないほどの凄まじい刺激で、健次は思わず目を見開いた。 「っ、あ、ぅ……!」 「凄いな、ドロドロだ」 「や、め……ろ、あぁあ……あっ、ケツ……が、あぁ……!」 指の蠢きに合わせ、健次は腰を動かしてしまう。志乃森の手管は巧みだ、味わっているとおかしくなりそうになる。 「おケツがどうしたんだ、健次くん」 「はぁ、はぁ、あつ……い、あぁ、もう、だ──」 駄目だ。 健次は理性を手放してしまう。淫薬で狂わされ、それでもまだ完全には失っていなかったプライドが音を立てて崩れゆく。 「あ……ん、はぁあッ、きもち……い、ぃ、あぁあああっ!」 腰を振りながら身をよじり、遂にアエギを漏らした健次。志乃森は蕩ける健次を満面の笑みで見つめる。そして指を抜くと、己の肉棒を差し込んだ。一差しで一気に奥まで貫く。 「やっ、あぁあ、痛ぇ……っ」 「でも気持ち良いだろ? 奥までずっぷりだ」 健次はこくこくと頷いた。歪めた表情は泣きそうな顔にも見える。 「そうか。可愛いな、前も後ろも気持ち良くておかしくなってしまったんだね」 始まる抜き差しに、春江も悲鳴を上げる。二人分の動きが性器に伝わり、重厚に響いてしまう。 「きゃっ、あぁ、すごいです、けんじさまぁあ……」 健次の背中に細い腕を廻し、きつく抱きしめる。とてつもない悦楽の渦に包まれている健次は春江を抱きしめ返し、一つの固まりとなって揺れた。 「は……るえ、いく、すぐ、出……るっ、また、せいし、がぁッ……!」 「だして、ください、中出し……して、くださ……い!」 「はぁ、はぁ、あぁああ、あぁあああッ!!」 健次に訪れる、もう何度目かわからない白い絶頂。しっかりと根本まで春江の膣内に埋めて注ぎ込んだ。ぜえぜえと息を切らす健次だったが、尻穴に出入りする男根の衝撃は止まない。狂いそうになり、震わせる腰。 「ぬ、け、もう、やめ……て……くれ……」 「それはできない。まだ挿れたばかりだぞ」 「イキ……っ、ぱなし、に、な……る……」 健次の身体は志乃森によって持ち上げられた。もはや抗うどころか、快楽と疲労で意識が恍惚としてしまい手足に力が入らない。春江に埋めていたペニスが抜け、膣を満たしていた濁液が溢れた。志乃森が座る上に重なって座る形になり、健次の背は彼の胸面に当たる。もちろん尻穴は貫かれたまま、体位は後背座位になった。 健次と引き剥がされた春江は裸身をあらわに、ぐったりと寝転がっている。 「お尻を犯してもらって感じている所、春江嬢に見てもらいなさい」 「ふっ、くぅっ……、は、る、え……」 揺らされる健次と、春江の目が合う。健次は呼吸を荒げながら、恥じらいを表情に浮かべた。頬を赤らめ、うつむいてしまう。 「見……るな、たの、む、今の、俺を……」 「おやおや。恥ずかしいのか、随分しおらしくなってしまって」 「くそ……っ、うッ、はぁ、あぁあッ」 達したばかりのペニスも、志乃森に握られた。揺られながら扱かれ、健次は身を反らせる。 「いや、だ、嫌なん、だ……っ! あぁ──!」 「またはりつめてきた。凄いなおまえ、本当にイキ続けちゃうな?」 「はぁ、あんッ、あぁ、ひっ、ふうぅっ」 「ほうら、乳首とおチンポ触られて、お尻にも入れられてイクところ皆にも見てもらうんだ」 皆。耳元で囁かれ、健次は忘れていたことを思い出してしまう。この部屋には春江と志乃森以外にも、たくさんのギャラリーがいることを。瞳を動かして見渡してみると、従業員達の好奇の視線が自分に向けられていた。 健次は表情を泣きそうに歪ませた。崩れ落ちていたプライドや自我が、さらに叩きのめされる。硝子のように粉々になり、同時に精神から鮮血が噴き出た。傷つく少年の心。 押しのけたい、逃げ出したい。それなのにもう身体はくたくたで思うように動いてくれない。腕や頭を動かしてみても、嫌々と駄々をこねるかの動作しか出来なかった。 「やめろぉおお、はなせ、さわるな!!」 「どうした、どうした。イキそうなんだろう」 「しね、死ね、きさまらなんて全員、死ねばいい! おまえもだ……!!」 幼児のようにわめく健次の眼光だけは鋭いものに戻る。振り返って志乃森を睨みつける瞳は潤み、顔も真っ赤だ。そんな健次の表情に志乃森は微笑む、限界を超え壊れた健次を見るのが愉しくてしかたがない。 「凄い顔だな。怒りやら、恥やら、悲しみやら色々な感情が混ざって、自分でもわけが分からないんじゃないか」 健次は志乃森を睨みながら、身体をビクビク震わせた。志乃森の手の中に僅かな液汁が散る。量は少ないが、健次は再び吐精したのだ。 「ち、く、しょう……」 健次の震えは止まらない。眉間に皺を寄せると、頬に苦悶の涙を零した。 10 / 12何故俺はこんな目に遭うんだ──わからない。物心ついたときからずっとそうだ。家中追いかけ回されて、竹刀で叩かれて、血まみれにされズタズタに犯される。 『こうしてやる、こうしてやる』 響くクソ親父の声は狂っていた。頭を抑えてうずくまり背中に打撃を受けながら、俺は唇を噛み締める。幼児の頃は叩かれて強姦されながらごめんなさいと謝ってみたこともあった、何故謝らなければいけないのかわからないまま、謝れば許してもらえるのではと期待していた。けれどそれは甘い考えだ、許してもらえるわけがない。 だから俺は媚びることをしなくなった。俺は生きているだけで虐待される。あいつのための玩具になり、ストレスの解消手段になり、性欲処理道具になる。それは地獄の幼児期だった。誰も助けてくれない、手を伸ばしても。泣きわめいてみても無視だ。ジジイババァは目も合わせない。姉貴にも裏切られた。オフクロは俺を認識していない。学校のヤツラも……俺が傷塗れで居ても何も言いやしねえ関わるのが嫌なんだ。誰も誰も誰も助けてなんてくれない、他人なんてあてにするだけ無駄。 唯一違ったのは春江だ。春江だけが俺を見た。俺の傷に触れて泣いた。俺が虐待される度に俺を抱きしめ震えていた。春江のにおいは白檀の香りで、マワされた身体にいつも染みる。 或る夜俺は抱きしめ返した。時は流れキスもするようになった。情に流されてゆく──こいつだけは信じても良いと思えた、けどこの感情を覚えたのが運の尽きだハハハ……この感情のせいで俺は…… 11 / 12「──!」健次は瞼を開き身体を起こした。騒いで宴を楽しんでいたギャラリーは消え失せ、誰もいない。空の酒瓶や料理の残りは未だ片付けられておらず、散らかった部屋は昨夜の盛り上がりを示唆している。窓の外を見れば夜明けが近いらしく、闇は薄らいでいた。 (俺は……気絶していた……?) 裸体で座り込み、健次は額に手をあてる。意識は揺らぎ、ぼやけていた。一体いつの間に失神してしまったのかは分からない。覚えているのは燃える情念のままに春江と絡み合い、その後志乃森に抱かれたことだけ。 記憶を辿ると、春江の声を思い出した。もうゆるしてください──強姦の中、春江が叫んだ言葉。志乃森に犯される健次の隣、春江は旅館の女将にいたぶられていた。“あなたが健次クンを選ぶのならあたしは家政婦ちゃんを貰うわ”女将は赤い口紅を歪めてクスクス笑い、春江の肌を弄ぶ。女性器へ抜き差しされる太いバイブやディルド・泣き喚く春江・歓喜する春江・その隣でキスをされながら尻穴へ肉棒をねじ込まれている自分自身……昨夜はまさしく狂乱の一夜だった。 (滅茶苦茶しやがって……) 健次はため息を吐く。全身を包むのはとてつもない疲労感と、鈍い痛み。犯され過ぎて尻穴も性器もひりひりとするし、腿や腹に精液がこびりついて気持ち悪い。山芋のねばつく感触も残っている気がする。さすがにあの痒みは消えていたが。 「おい、春江」 傍らには春江が倒れていて、健次は名を呼んでみる。春江は健次と同じく一糸も纏っておらず、畳の上に崩れている。春江は眠っていた、目を閉じて繰り返し漏らすのは安楽な寝息。 健次は指を伸ばし、瞼や唇にかかる乱れ髪を払ってやった。あらわになる顔はほとんど化粧が取れてしまっている。ぐったりと倒れている春江を見ていると少しだけ痛む健次の心──今日のようにワザと庇わなかったりしたあと、実はいつも健次は後悔する。傷つき疲弊し倒れている春江を目にしてしまうと、やはり守ってやるべきだったのではないかと思ってしまう。 (気にしなくて良い。こいつはマゾだ。しかも淫乱の……だから俺が気に病む必要はねえんだ……こういう目に遭って嬉しいんだからな) 春江は好んで自らこの宿に来たのだ。そんな女に対し悪く思う必要は無い。己に言い聞かせると、健次はそばに放られていた深紅の襦袢を手に取った。それを春江の裸身に掛けてやり、覆ってやる。 「優しいのね」 声が響き、健次は驚く。振り向くと壁に凭れてあの女将が座っており、煙草を吸い紫煙をくゆらせている。健次の頭は未だぼおっとしているせいか、彼女の気配にまったく気付けなかった。 「キサマ……」 「お風呂入ってくると良いわ。部屋片付けるから、下の大風呂に行ってらっしゃいな。入れるように準備させておいたから」 女将はそう言った。けれど女の襦袢姿で外に出る気にはなれない。健次に与えられている衣はそれしかなく、他の宿泊客に見られたらたまらない。そう思って不機嫌な表情になった健次の考えは読まれたらしい、女将は言葉を続ける。 「大丈夫よ、見る人なんて居ないから。今日は休館なの、ボウヤ達の貸切で客を入れてないわ」 休館──遅くまで従業員達が酒盛りを楽しんでいたのはそのためだったのだ。健次は立ち上がり、襦袢を拾う。羽織る健次の姿を女将はうっとりとしたように眺めていた。 「本当、いい身体してる」 その呟きは無視し、健次は帯を探す。座布団の上に落ちていたそれを見つけると胴に回し、手早く結んだ。 「春江ちゃんが羨ましいわね」 「何がだ?」 「だってボウヤみたいな子を独り占めできるんだもの」 「こいつに独り占めされた覚えはねえ」 「あら、そう。でもお似合いよ」 クスクスと例の微笑を零し、女は灰皿に灰を落とす。健次は眠っている春江を置いて部屋を後にした。花雅の間に通されてから、外に出るのははじめてだ。窓の外では夜明け近い空が山々を包んでいた。東の彼方が僅かに闇を薄めている。 12 / 12健次は裸足で廊下を歩き、案内板をたよりに階段を下りた。風呂にはすぐに辿り着く。暖簾をくぐり、戸を開けると無人の脱衣所がある。片隅の籠にはタオルや着替えが入れられて置かれていた。もちろん、その着替えも長襦袢と帯のみで、下着はない。健次は早速衣を脱ぎ捨てた。外へ通じるガラス扉を開けると石で組まれた見事な露天風呂があり、それはかなりの広さだ。 目の前の竹林を眺めながら湯を堪能していると、戸が開いた。現れたのは春江で、タオル一枚を肌に巻いた姿でこちらへ来る。伸びをしながら健次はちらりとその姿を見た。目が合うと春江は笑む。疲れを色濃く滲ませた、哀しげな笑みではあったが。 「……寝てたんじゃねえのか」 桶でお湯をすくい軽く被って、春江も湯面に踏み入る。健次は春江を忌々しく睨んだ。 「ええ、でも起こされてしまったんです。一緒にお風呂行って来なさい、その間に部屋きれいにしておくから、って言われ──」 「この馬鹿が」 顔を背け、健次は春江の言葉を遮る。 「てめえからこんな所来やがって。馬鹿だろ?」 「健次さまのそばに居たかったんです……」 「鬱陶しい」 「健次さま」 「来るな」 腕を払うと飛沫が立った。春江はそれに掛かってしまう。健次は眉間に皺を寄せ、春江から離れる。春江は頭から雫を滴らせながら湯の中に座り、健次の背中を見た。 「ごめんなさい……ごめんなさい、せっかく私を守ろうとしてくれたのに……それを台無しにしてしまって、此処へ来てしまって」 「はっ、分かってんのか」 健次は鼻で笑う。 「……俺はお前を庇おうと思った。それなのにてめえは壊しやがった」 「ごめんなさい!」 「ゴメンナサイしか言えねえ、クズ女が」 「……申し訳、ございません……」 春江の声が震える。この後の展開は読める、どうせ泣くのだ──健次はそう思った。案の定、すぐに背後からは啜り泣きが漏れてきた。 (俺はこんな女の何処が良いんだろうな。振り回される) 健次はため息を吐き、己に辟易する。そして振り向いた。 「健次さまが大好きなんです。許してくだ、さい、お一人だけ辛い目に遭わせるなんて嫌だったんです、私も一緒に傷つきたくてっ……」 湯船の中でしくしくと涙を零し、両目を押さえて俯いている。あまりにも相変わらずな姿だ。相変わらず過ぎて、健次は少し笑ってしまった。 「何処に来ても泣くんだな、お前は」 「健次さまっ……!」 健次は春江に近づき、春江の手首を掴んだ。手のひらに覆われていた顔をあらわにする。 「もういい。泣くな」 そのまま、健次は春江にキスをした。春江は驚いたらしく濡れた目を見開く。唇を離したあとで春江の顎を掴み、頬に舌を這わせた。塩辛い涙は味わいなれた味だ。 「分かったな?」 「はい……」 健次は指を離した。すると、春江に見つめられる。 「ここに来たのは、健次様のそばにいつも居たい、っていう気持ちもあるんです。そばにいられるなら、どんなに傷つけられても構わないって思えちゃうんです……」 「強姦されても輪姦されても、昨日みたいにめちゃくちゃにされてもか」 「ええ。構いません」 即答する春江に、健次は肩をすくめる。 「お前は親父の女だろ。そうまでして俺に」 「でも健次さまを愛しています」 春江は健次を抱きしめた。その瞬間、巻いていたタオルが落ちてしまう。素肌の身体で抱きしめられ、不覚にも健次はどきりとした。春江は回した腕に強く強く力を込めてくる。 「伝わっていますか? わたしの気持ち。健次さまに。本当にあなたが愛おしいんです……」 健次は言葉を返せなかった。春江の言葉は、健次の胸の奥を切なくしめつけてくる。それと同時に困惑も覚えた、他の誰に対してもこんな感情を抱いたことはない。こんなふうに惑わされ、乱されることはない。 「……俺でいいのか……」 健次は春江を抱きしめ返した。 「俺はお前を不幸にする。あいつの息子だしな」 「そんなこと。こうして抱き合えるだけで幸せです」 「……そうか」 健次は目を閉じ、春江の肩に口づける。湯けむりの中でしばらくそうしていた。春江の側は、温もりは、誰のものよりも心地良い。だから“この感情”のせいで苦しむことになっても春江は大切でかけがえのない存在。たとえどれほど痛みを与えられても、春江への想いは手放せない──手放したくない── 「……俺にはお前しかいないんだな」 「え?」 健次は荒っぽい動作で抱擁を解いた。 「残りの数日は出来る限り守ってやる。だからお前は俺のそばで大人しくしてろ」 ぶっきらぼうに顔を背け、健次は告げた。そのまま春江を見ずに立ち上がり、湯から出てゆく。 「健次さま」 洗い場へ行ってしまう後ろ姿を眺める春江の涙腺は嬉しさで再び緩んでしまう。凌辱と倒錯に晒されたこの世界の中で健次の愛情は余りに優しい。目元を拭い春江もまた浴槽を出た。檜の椅子に座る健次のそばに行くと、声を掛けた。 「お背中流したいです。私、健次さまの」 勝手にしろ、健次から帰ってきたのはそんな言葉。春江は微笑んだ。空の闇は随分と薄らんできていて、太陽が顔を出すのはすぐだろう。 E N D |