海猫

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 祥衛は天井を眺めていた。薄暗いけれど木目が見える。ほんのりと映るのは祥衛自身と、祥衛を犯している男の影。部屋の隅に置かれた、行灯の光がつくる像だった。
「……ッ…………」
 暑苦しいと思いながら目を閉じた。抜き差しされる感触は大して巧くなく、感じやすい祥衛でもあまり快楽を見つけられない。ただ汗ばんでゆくばかり。お互いに汗をかいたベトツキは、潔癖症ぎみの祥衛には気持ち悪くてたまらなかった。
 あとでもう一度湯を浴びよう。祥衛は心のなかで呟いた。激しく穿たれながら。

 ……此処は、美しい日本建築の和風旅館。都心を離れた温泉郷だ。克己と愛人契約を結んでいる秋山という男に連れられて来た。
 秋山はマニア向けのAVを制作・販売するというアンダーグラウンドな仕事をしていて、彼の主宰するノクターンレーベルという名は、知る人ぞ知るコアなレーベル名である。 
 ノクターンの慰安旅行に祥衛と大貴、秋山の愛人である克己が同伴することになった。だが、参加社員は秋山とアシスタントの岸本、いま祥衛を貫いている事務担当の増子しかいない。他にも社員は何人かいるらしいが、このメンバーしか来なかった。岸本いわく「普段の飲み会でも、ウチの会社の集まりの悪さは異常」らしい。
 一般社会からははじかれた者たちが集まった会社なので、ズレているのは仕方がないかも知れない……

「い、いくよッ、祥衛クン!!」

 祥衛の細い腿を抱え、増子は容赦ない中出しをする。
 体内に吐かれることは嫌だ、けれど慣れてしまった。
 祥衛を買う男たちは当然のように種付けを楽しむ。
「すごい、ぐ、ぐちゅぐちゅだね、わぁ、溢れでてきた!」
 増子はヘタクソな癖に絶倫だ。何度も腸内で射精され、ペニスを抜かれた祥衛の尻穴は開ききり、ナカから白濁液がとろとろと垂れてくる。ローションと混ざりあったそれは多量だった。

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 行為を終えると、増子はゴロンと横になり、さっそく眠ろうとしている。後戯と会話がない客は面倒でないから、祥衛にはちょうど良い。
 祥衛は増子をそのままにして、部屋にある内湯のシャワーで汗を流した。
 塗れた髪は持ってきた愛用のドライヤーを使って乾かす。旅館の浴衣に袖を通してみたが、帯の結び方がよくわからない。増子に尋ねようかと洗面所から畳の部屋を覗いたが、すでに爆睡している。車の運転を岸本と交代で行っていたので、疲れていたのかも知れない。それで何度も絶頂を極めれば、眠気にも誘われるだろう。
(まあいい……帯なんて。俺も、もう……寝るだけ、だし)
 とは言え、客と隣りあって過ごす夜なんて、不眠症の祥衛は眠れる気が全くしない。この旅行では大貴が岸本、克己が秋山との同室となっていた。
 とりあえずは横になってみるかと考えながら、祥衛は薄闇の中でケータイを開く。すると大貴から着信があり、メールも来ていた。
[カッツンと1階のゲーセンにいるからヤスエもこいよ!]
 それだけの文章だ。送られてきた時刻はもう三十分も前。しつこく犯されていたのは自分だけで、克己も大貴もとっくに自由時間を手に入れていたのかと思うと、祥衛はすこしむかつく。増子のいびきを聞きながらメンソールを一本吸った。
 それから肩にタオルをかけたまま立ちあがると、起こさないように気をつけて廊下にでた。鍵も持っていく。ビジネスホテルのようなカードキーなどではなく、昔ながらの旅館の鍵。
 はたして大貴と克己の二人はまだ、その場所にいるのだろうか。電話して確かめてみようかとも考えたが、面倒くさい。いなくても、いても、どちらでも構わず、気分転換に旅館の中を歩いてみたい気分にもとらわれている。祥衛はフラフラとさまようのが好きだ。
 エレベーターの中の案内板によると、一階にある大浴場の隣に『遊技場』なる施設があるらしい。それが大貴の言うゲーセンなんだろうなと目星をつけて向かった。

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 昭和っぽい気がする、という祥衛の想像通り、レトロな空気が漂っていた。
 それほど広くない木造の空間に、一昔前のマージャンのゲームや、インベーダー、パチンコ台などが並んでいる。自販機も何台かあって、お土産の売店も隣接していた。
 大貴と克己は卓球で遊んでいる。
 二人とも祥衛と同じ浴衣姿で、大貴は袖をまくって上腕まで出していた。二人以外、この遊技場にはだれもいない。
「おっ、ヤスエやっと来たな!」
 ラケットとピンポン玉を手に、大貴が振り返った。ぱぁっと表情を輝かせる大貴の額には汗が滲んでいる。
 一方克己はというと、汗などまったくかいておらず、いつも通りに涼やかだ。
「またフロ入ってたのかよ。お前、ほんとにフロすきだなー!」
「帯の結び方が、だらしないですね」
 克己はラケットを置いて、祥衛のそばに来た。手早く祥衛の帯をほどき結び直し、腰のあたりで綺麗に結んでくれる。
「俺もさっきー、むすびかたカッツンに教えてもらったんだー。もう覚えたし、カンペキ」
「本当ですか、大貴君?」
「ばっちし。これでー、浴衣で夏祭りもいける!」
 大貴は手のなかでピンポン玉を小さく投げたり、もてあそびながら笑っている。大貴の笑顔を見ると、なぜだかほっとして、安心する祥衛だった。
「……そーだ聞けよ、祥衛っ。カッツンすげー強えんだぜ、勝てねぇ! おかしいって絶対。カッツンってどーなってんだよ?」
「どうなってるとは、どういう意味ですか?」
「なにもかも優れてるもん、チートすぎる。でっイケメンなんだぜ……おかしい!」
「もう一試合しますか。遊技場の使用は23時までですよ」
 克己は大貴と反対側に戻り、再びラケットを握る。大貴は壁の時計を見て「げ、あと十分しかない!」と声をあげた。

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 祥衛は、大貴と克己を眺めていた。俺といっしょに戦えよ!と大貴に言われたけれど、やりたくないから参加しない。
 結果、大貴は祥衛の前でも完膚なきまでに叩きのめされていた。遊技場を後にする廊下、汗をぬぐいながら歩いている。
「くっそー、ありえねーし……、俺っがっこーではだぃきくん卓球つよいね!ってゆわれてるのに〜……」
「中学生レベルと俺を一緒にしないで下さい」
「! んだよ、そのよゆー発言。見てろよ、いつか絶対勝つからなっっっ!!!」
 大貴は走りだす。祥衛の隣を歩く克己は「元気ですね」と特に感情もなく呟いていた。
「なぁっ! ちょっと休憩してこ。いいだろ」
 大貴が向かった先は、フロントの傍らにあるロビーだった。ソファやマッサージチェアが並べられているが、夜遅いためか、だれもいない。しかも大貴は喋りながら小銭入れを出し、すでに缶コーラを買っているのだった。
「カッツンはお茶っ。あっ、ご当地のお茶だって。俺こんなの見たことない」
 祥衛と克己が大貴に追いついたころには、ポカリスエットも買われている。並んで座る大貴と祥衛に向きあって、克己も仕方なさそうに腰を下ろした。
 優美に脚を組んだ、克己の浴衣姿は麗しい。フロントの女性従業員はチラチラと克己を明らかに見ているし、遊技場からの帰り、廊下ですれ違った女性客も驚いたように克己を注視していた。
「鬱陶しいな……、ブスの目線が」
「ん? カッツンなんかゆった? ほいっヤスエ、ポカリっ」
「いいえ。ありがとうございます、大貴君」
 祥衛は、克己がなにを呟いたのかを聞いてしまった。ぞっとして顔を上げると、克己はペットボトルのお茶を受けとりながら、爽やかに大貴に微笑みかけている。
「ヤスエ、もしかしてヤッてきたのか? 増子ってひとと」
 克己の二面性を目の当たりにし、すこしヒイた祥衛に、なにも気付いていない大貴が尋ねてくる。
「あぁ……」
「マジでー? もしかして部屋引き上げてから、ずっとやってたのかよ?」
 そういう話はすこし気を遣っているのか、抑えた小声のトーンだった。ポカリスエットのペットボトルに口をつけながら、祥衛は頷く。
「えー、すっげ長いじゃん。まともに相手しなくたっていいんだぜ。そんなん、うまくごまかせよ。俺まだやってねーよ、岸本サンと」
「そう……なのか」
「疲れたぁーとか、温泉きもちよかったとか、話してるあいだに岸本サン、寝ちゃったし」
「…………」
 器用にかわせる大貴が、羨ましい。祥衛は増子に求められるまま押し倒されてしまったのに。

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「ったく、ヤスエらしいなー」
「祥衛君が愉しいのなら、淫靡なひとときも良いんじゃないですか」
 克己の言葉には、素直に頷けない祥衛だった。なにしろ増子は巧くない。快楽にのめりこむことはできなかった。祥衛の沈黙の意味を……すぐ克己と大貴の二人は理解してしまう。
「きもちよくねーの? もしかして」
 大貴に尋ねられ、祥衛はおずおずと頷く。
「……それはそれは。祥衛君にとっては大変ですね」
「ヘタなんだ、あいつ。えー、笑える。うっそ! そんなふうに見えねーのに!」
「……わらいごとじゃない……」
 大貴はついに「アハハハ!」と声をだして笑う。祥衛がむすっとしているので、余計に可笑しいらしく、腹を抱えている。
「珍しっ! ヤスエがきもちよくねーなんて、ホントにヘタなんじゃん」
「大貴君、お客様の醜聞で笑うのは良くないですよ」
「だってー……! でもー、それって育て甲斐があるってことなんだぜ。自分好みに調教できるし」
(調教…………)
 大貴らしい言葉だ。けれど、祥衛は眉間に皴を寄せてしまう。そんなことが自分に出来るとは思えない。
「むずかしくねーよ。たとえばー、ふつうのエッチしてるときでも、ここらへんが感じるー、とかぁ教えて誘導したりー……」
 大貴は缶コーラをテーブルに置くと、両手で男の腰を掴むかのような動作を空中にした。
「俺たちは男娼だけど、ガマンばっかしなくてもいいんだぜ。セックスは二人で楽しむもんだしな」
「そうですよ。祥衛君も気持ちいいほうが、お客さまも嬉しいと思いますよ」
「…………」
 にっこりと微笑む大貴に、祥衛は納得した。ふたたびコーラを飲む大貴の隣に出来れば朝までいたい、居心地が良いから……そう思いながら、祥衛もポカリスエットに口をつける。奢ってくれてありがとうという言葉は、相変わらず言えなかった。

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 いつまでもロビーでだべっているわけにもいかず、男娼たちはそれぞれの客の部屋に帰る。
 祥衛は案の定眠れず、薄闇のなかで持ってきた文庫本を読んで過ごした。主人公の少年が、好きな女の子のために自らの父親を殺す小説だ。
 夜明けが近づいてきたころにやっと寝落ちできて、すこしは眠ることができた。三時間の睡眠は祥衛にとっては上出来。
 朝食は全員揃い、貸し切りの座敷で食べる。増子と祥衛が着替えて行くと、畳の部屋にはすでにいくつかの器が並べられ、秋山と克己もいた。秋山は気さくに祥衛に話しかけてくれるが、祥衛は返事くらいしかできない。もっと話せるようになりたい……、と歯がゆく感じていると、岸本と大貴が来た。二人とも昨夜の浴衣のままだ。
「やっと来たか、お前ら。朝からお盛んな事だな」
 面白そうに笑いながら秋山が言う。大貴は用意された席のうち、祥衛の隣に座ってくれた。岸本と増子にはさまれなくてよかった、と祥衛はホッとする。
「チコクは俺のせいじゃねーよ、岸本サンが求めてくるんだもん」
「ちょ、ちょっと大貴クン、皆の前で言わないでくれないかなぁ!」
 焦りだす岸本に、場は笑いで染まる。全員がそろったところで宿の従業員を呼び、ご飯を盛ってもらったり、味噌汁を運んで来てもらったりした。各自の前にある小さな鍋には火がつけられる。
 配膳をされるなか、大貴は小声で祥衛と話してくれ「おはよっ」「寝れた?」などと、気遣ってくれる。岸本とは「フェラっただけ」らしい。いったいどこまで引き延ばすつもりなのだろう……そう考えたところで、祥衛はひとつの結論に達した。
 増子がこの三人のなかで最も絶倫なのだ!
「いただきまーすっ、やっべー、うまそーだけど俺の敵多すぎ!」
「お、俺の敵?」
 岸本は大貴に問いかける。大貴はさっそく漬物や煮物の器を岸本のところに除けていた。
「やーさーいっ! くいたくない!」 
「いかんぞ、大貴は。好き嫌い多いと丈夫な大人になれないだろう?」
 秋山に言われても、大貴は箸で野菜を岸本の皿に除けつづける。納得するまで除けてから、やっとばくばくと食事をはじめた。岸本は呆れたような態度を見せつつも、大貴に盛られたモノを食べている。大貴に甘えられるのは、まんざらでもないのだろう。

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 秋山の部屋がいちばん広く、豪華な露天風呂までついている。秋山いわく「社長特権」らしい。
 その露天で、食事後しばらく経ってから撮影会となった。秋山の個人的な趣味でハンディカムを回されたり、写真を撮られたりしている。祥衛一人の被写体で……
(……どうして、俺だけ…………)
 こんな目に遭わないといけないのだろう。眩しい光を浴びながら、湯船のなかにタオル一枚を腰に巻いて立ち、増子のスマートフォンで撮影されたり、秋山の本格的な一眼レフで激写されたりと祥衛は憂鬱だ。
「俺は昨夜、和さんに撮られましたからね。次は祥衛くんの番ですよ」
 カッターシャツにスラックスの克己が柱に凭れて立ち、こちらを見て微笑んでいる。祥衛の撮影にはもとより参加する気がないらしく、手には文庫本があった。
 克己は秋山と完全に二人きりで行われたプライベートな撮影ではないのか。祥衛はいま秋山にも増子にも克己にも注視されている、圧倒的に不公平だ。
 不満を感じていると、やっと大貴が来た。相変わらずの浴衣姿を脱ぎ捨てると下はすでに裸身で、祥衛の立つ檜の露天風呂に入ってきてくれた。
「うおー、すっげーいい風景、山も海も見えるし!」
「大貴、まずはタオルで隠せ。それで抱きあえ」
 秋山には色々と段取りがあるらしい。大貴についてきた岸本が湯船の大貴にタオルを渡した。大貴はそれを腰に巻いて性器を隠す。
「最初は微エロでいちゃいちゃだ、分かったな?」
「なにそれ。つーか、あとで海いきたい。泳ぎたいっ」
「日焼けします。駄目ですよ」
 風景を眺める大貴を律するのは克己だ。大貴は「えー!」と、不満の声をあげた。
「およぐ! ぜってーおよぐ!!」
「いけません。男娼にとって紫外線は厳禁です。……この露天も本当ならいけません」
「日焼け止め塗るからっ、おーよーぐー!!!」
「駄目です」
 きっぱりと言ってのける克己に、秋山は苦笑する。
「いいじゃないか、夏休みなんだ。すこしは陽差しを浴びさせてやれ」
「甘やかさないでください。商品管理は年中いつであろうと徹底します」
「ケチ。カッツンのケチ。せっかく海のちかくに来たのになー……!」
 拗ねた大貴は湯に座りこんだ。そうしながらも祥衛の手首を掴んでくるので、つられるように祥衛も座る。
 ふてくされた表情をしながらも、言われたことはこなすらしい。大貴は祥衛に肌を寄せ、かるくキスをしてきた。その瞬間にノクターンレーベルの面々のフラッシュが光り、秋山は身を乗り出して撮影する。

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 露天風呂のなかでいくつもの卑猥なポーズを取らされた。それを大人たちに撮影されるというシチュエーションに興奮し、祥衛は感じてしまう。乳首はツンと尖ってしまったし、温泉に入っているから、という理由だけでなく肌も赤らんでいる。性器も完全に勃起してタオルにテントを作っていた。明らかに発情している股間を見られるのは恥ずかしい。
 祥衛だけでなく、大貴もまた興奮しているようだった。大貴のペニスもタオルを押しあげてリアルな形を表している。そんな性器同士を触れあわせて大人たちを見つめ、次の指示を待つ。こんなとき、祥衛は自分が本当にオモチャなんだと思った。性玩具に自らの意志はさほど必要ない……
「よし、祥衛、ここに手をついて腰を突きだせ」
 秋山から命令が下った。檜の湯船に手をついて言うとおりにする。タオルがめくれて双丘もその奥の蕾もあらわになった。晒された肛門に増子や岸本が息を呑んでいるのが、祥衛にも伝わる。早速、尻穴にスマートフォンを近づけられて写メられたりしてしまう。
 大貴にも同じ指示が出て、二人仲良く尻を突きだすはめになった。並んだアナルは圧巻の光景だと大人たちは褒めている。恥ずかしくてたまらない祥衛が隣を見ると、大貴も頬を染めて恥ずかしそうにしていた。唇をぎゅっとつむって湯船を見つめている。
「ケツをヒクヒクさせてみろ、二人で。……ふはは、チンポも同時に揺らしてみるか」
「は……ずかしい、こんなこと、させんなよ……!」
 動作は従いながらも、大貴はそう口走る。そんな二人に岸本と増子が近づき、それぞれ気に入りの少年にローションの瓶を傾けた。腰から尻を伝う冷たい感触に祥衛は身震いしてしまう。
「……あ……ッ……、ひ……」
 冷たくぬめるそれは増子の指で引き伸ばされる。円を描くように肛門になじまされ、それから2本指でゆっくり掻きわけて蕾へと差しこまれる。日常的にいじめられている祥衛の肛門は難なく男の指を受けいれてしまう。
「う……ぅ、や……だ……!」
 大貴もまた岸本の注入に鳴いていた。浴槽の縁に突っ伏し、瞼を閉じて感じている。大貴の犯されているところをしょっちゅう見ている祥衛は、大貴の喘ぎ方や表情で演技なのか本当に気持ちいいのか見破れるようになっていた。いまの大貴は割と本気の喘ぎだ。
 ヘタクソな増子に愛撫されている祥衛は、すこし大貴がうらやましい。

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「あッ、あっ、あぁああッ、あ……!」
「あンッ、あー、はっ、あっ」
 仲良く犯されている。湯船に手をつき並んで突き出した尻をそれぞれの客に抱えられ、激しく後孔に抽送を受けていた。目の前には見下ろした山あいの絶景が広がっていて、天気も快晴なのに、そんな清々しい光景とは真逆の行為が繰り広げられている。祥衛はおのれの体内に抜き差しされる肉棒の感触で既に一回達し、股も辺りも白濁に汚していた。増子がさほど巧くなくても、挿入の前にさんざん感じたこともあり簡単に射精してしまったのだ。
「大貴のほうがやっぱりイイ腰の振りしてるな、祥衛も見習え!」
 ハンディカムを構えながら、秋山が笑っている。
 岸本は大貴の中で達し、腰つきをとめた。はじめのころは中出しにさえ躊躇していた岸本も、性玩具の使い方を心得たようで、大貴を気遣うことなく欲望のままに抜き差しして射精する。普通の少年に対するもののよう扱わなくていい、性奴隷や、言ってみればオナホールのように遠慮なく使ってやればいいと理解したらしい。
「ふうっ、俺も、いきそ……う……!」
 そんな存在が許可なく射精することは許されない。大貴はペニスの抜かれた尻穴をキュッと窄めながらも、下肢を震わせて耐えている。
「イキたいっ、いか、せて……!」
「どうしますか? 秋山社長」
 浴槽にすがりついている大貴を前に、岸本は自分だけ股間を湯で流し清めていた。秋山は大貴の懇願するような瞳を見てまた嬉しそうに笑う。
「祥衛にイカせてもらうか、大貴」
「っ、え……」
 驚いたのは祥衛もだ。快楽を彷徨ってぼんやりとした意識で、秋山の命令を聞いた。そのうちに身体から増子の感触が抜けてしまう。
 祥衛は増子に腕を引かれ、ふらつきながらも立つ。大貴を犯すかのようその背に覆いかぶさり、祥衛の手は大貴の肉棒を握りしめさせられた。ヌルついたその性器はひどく張りつめていて、感触を握るだけで祥衛も興奮してしまう。
「ははは、いい光景だ、祥衛が大貴を犯してるみたいだな」
「ヤスエっ、こすって……」
 浴槽に手をついた体勢のまま、熱に浮かされたような声で大貴が懇願する。祥衛はどきどきしつつも握る手を動かした。すぐに爆ぜてしまいそうなペニスだ。
「もっとギュって握って。……そう……あっ、きもちいい……」
 瞼を閉じたまま、大貴は甘い吐息を零す。祥衛の股間もまた、熱を帯びてきてしまっていた。すこし萎えていたはずなのに、大貴を扱きながらふたたび芯を入れはじめてしまう。まるで自分の性器を擦っているような、自慰をしているかのような不思議な錯覚にもとらわれていった。
「いく、イクっ……! でるっ、あ──……!!」
 放出される白濁に、秋山のハンディカムや岸本のデジカメが寄る。心地よさそうな大貴は肩で息をしていて、そんな大貴を見て祥衛も多量の先走りを漏らし、大貴の腰のあたりを盛大に濡らしてしまった。

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 その後は室内に引きあげ、乱交となった。大貴が増子に犯されたり、祥衛が岸本に犯されたりする。布団に寝転がって岸本に抜き差ししてもらいながら、祥衛はやっぱり増子より気持ちいい、と感じる。
「大貴クンもいいけど、祥衛クンもイイね、お尻がキツくて搾りとられそうだ……」
 岸本は嬉しそうにそんなことを言う。ちらりと祥衛が傍らを見ると、増子に騎乗位で跨がった大貴はガンガン腰を使っていた。まるで大貴が犯しているかのように。されるがまま翻弄された増子は感じすぎてもう虫の息。大貴はというと嬉しそうに口許に笑みを浮かべていて、やはり受け身よりも責めるほうが楽しそうだった。
 午後、大人たちが服を着てしまっても、祥衛と大貴は鑑賞され、淫らに乱れつづけなければならない。祥衛は四つん這いになって大貴に犯されながら意識は遠のきそうだったし、尻穴も痛い。大貴も祥衛に抽送を繰り返しながら「もうやめたい、やだ、終わらせて」と懇願している。
 願いが通じ、解放されたのはもう夕方にさしかかった頃だ。
 ノクターンレーベルの面々と克己たちは飲みに行くといって宿を出ていった。祥衛と大貴は旅館の中で好きに過ごしていいとの許可をもらったが、2人とも起きあがる気にもなれず布団に寝そべったままぐったりとしている。
 しばらく後、大貴が先に起きあがった。
「ヤスエ。……シャワー浴びよーぜ」
 大貴の手のひらに揺さぶられても、祥衛は目を開けたくない。このままずっと倒れていたい、何度射精したかわからない身体はひどくだるい。
 けれど体液にまみれたままで寝そべっているのも祥衛には苦痛だった。ゆっくりと身を起こすと、大貴は裸身のまま心配そうに祥衛を見ている。窓から差しこむ光の陰影のなかで。大貴も疲れているな──祥衛が思うと口に出さずとも通じてしまう。
「……俺はだいじょうぶだよ。祥衛のカラダ俺が洗ってあげる!」
 宣言してから、大貴は祥衛を抱えた。こともあろうに、お姫さま抱っこだ。普段ならやめろと言えるけれど、いまの祥衛は疲労のせいで唇も動かない。
 大貴は露天風呂でなく、内湯に行った。タイルの床に祥衛を座らせる。
「よっこいしょっ! ……やべー、薫子よりかるいんじゃねーの……? つーか、あとで海行こ!」
「……旅館をでたら…………怒られる」
 祥衛はやっと声を発し、備えつけの椅子に腰を下ろした。目の前では大貴がシャワーの湯を出している。
「いーよ、俺がムリヤリ祥衛を連れだしたってゆうから。それにあっきーたちはそんな怒らねぇと思う」
「……そうだな……」
 ぬるめのお湯を浴びながら、祥衛はなんだか、やっとほっとすることができた。これだけ乱れたのだから、今宵はもう求められることはないと思う。大貴もリラックスして素の微笑みを浮かべていた。

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 シャワーを浴びたあと、旅館を抜けだした。タクシーを使って海までいく。日没の近い海はまだわずかに紅く染められていて、波間にたなびく夕暮れの残骸が綺麗だ。
「海だっ!!!! やったぁあーーー!!」
「おい、大貴……!」
 ぱぁっと表情を輝かせた大貴は勢いよく、国道から砂浜への階段を駆け降りていってしまう。疲れていたんじゃないのか……と、祥衛は呆れる。
 マイペースにゆっくりと向かう祥衛が、砂浜に足を踏み入れた頃には大貴はサンダルのまま、ハーフパンツの素足で膝下まで水面に入っていた。
「あははは。すげー。ちょううれしい! 」
 海水浴の帰り支度をしている家族連れはいるけれど、いまさら海と戯れている者は大貴しかいない。ひとりで波をばしゃばしゃと手ではじき、水しぶきを作っている。
「あー、満足した! 俺あんま海にきたことねーんだ」
 濡れたままで波間からでてきた大貴の足は、早速砂がついて汚れた。風呂に入ったばかりなのに。
 砂浜には店じまいの準備をしている、海の家や屋台もあった。大貴に促され祥衛もそちらに向かう。
 焼きそばとフライドポテトは、売れ残りということで半額にしてもらえた。缶コーラとアイスティーも買い、二人は海の家のそばのベンチに座る。
「いっただきます! 今度はカッツンのいねーときに海来ねーとな。カッツンくそきびしぃ」
「ああ………」
「四季彩がそうだったんだろうなー」
「きびしさが……?」
 大貴は頷く。祥衛がペットボトルのアイスティーに口をつけると、大貴は焼きそばに箸をつけていた。
「やべーらしいぜ、四季彩の規則って。俺のおやじはー、調教はきびしいけどー、それいがいはけっこう俺のスキにさせてくれるもん」
 微笑みながら、焼きそばに入っているニンジンやキャベツをよけている箸さばきは器用だ。祥衛は眉間に皴を寄せた。
「すきにさせてくれるっていうより……むしろ、甘やかされている」
「! うるっせえなー、ヤサイは俺の敵なんだよ」
「意味がわからない」
 くらえ、ヤサイ攻撃だ、と言って箸でつかんだキャベツを口の中に押しこまれるけれど、祥衛には攻撃でもなんでもない。普通に噛んで飲みこんだ。
「しあわせだなっ。海も見れるし、ゴハンもうめーし、俺らは自由だな」
 大貴は笑っている。祥衛もアイスティーを味わい、すこしだけ微笑った。
 お互いに性奴隷に近いほどの身で、夏休みでもこうして大人たちに犯される毎日。けれど、それでも、そんな身にしては格段に様々なことを許されている。
 使われすぎた尻穴が痛み、マワされた疲弊を覚えながらも、少年たちは笑いあう。
 国道の街灯に光がともりつつあるなか、祥衛と大貴は打ち寄せる波を眺め、気楽に会話をして過ごす。夏鳥たちは鳴きながら、気ままに空を飛びまわっていた。

E N D