Night Breed

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 夜になるとマイナスな感情が吹き出して、泣いてしまうことも少なくない大貴だけれど──昼間、学校に行っているあいだだけは、憂鬱を忘れられる。
 教室は楽しい。クラスメイトに混じっていると、この身がいやらしく穢されつくしている事実も、薫子に対して思い悩む感情もどこかに消えてくれた。
 学校は大貴にとって、ゆいいつ味わえる『普通の子どもとして過ごしてもいい時間』『普通の日常』であり、聖域だ。
「なにをきようかなー……」
 放課後には、昨夜泣き濡れたこともすっかり忘れてしまっている。帰宅した大貴は機嫌良く口許をゆるめ、黒い手すりの優美な階段を上っていった。
 今日はこれから、友人の尚哉が遊びにくる。
 私服に着替えるために向かうドレッシングルーム。子ども部屋の隣にあって、大貴の衣類が私服から制服まですべて並べられていた。壁一面に作り付けられた棚や、豪奢な額縁のようにふちどられた姿見が置いてある空間だ。
 大貴は私服でも、ラフな服など一着も持っていない。崇史の趣味でかっちりとしたワイシャツやブラウスにカーディガン、ベストなどを合わせるのが常。鉄則なのは半ズボンとハイソックス。靴はローファーばかりで、運動靴を履くのは体育の授業だけである。
 そのことに大貴は疑問を抱いたことはない。通っている私立初等部は育ちの良い少年ばかりで、普段からきちんとした身なりをしている子が多いためだった。
 着替えた大貴はまた階下にゆく。脱ぎ散らかした制服は、家政婦が片づけるので気にしない。
「おぼっちゃま、崇史さまからお電話がありましたよ」
 リビングを通りがかったとき、声をかけてきたのは執事。
 執事は、黒柳という長身の男だ。地黒の肌に切れ長の瞳をもち、威圧的な雰囲気を漂わせている。他の使用人にはわがままを言ったり、反抗することのある大貴も彼には逆らいがたく、強い口調で言い放たれるとビクリとしてしまう。崇史よりも歳若いが、真堂邸を任せられているくらいなので毅然とした出来る男だ。
「えー……、なに?」
 大貴は不満を表してふりむいた。これから尚哉と遊ぼうというのに、変な用事をいいつけられたらたまったものではない。
「今宵、地下に降りて様子を見て欲しい奴隷玩具があるとのことです」
「地下ー? めんどくさい、どうして僕が?」
「崇史さまは出張中ですよ。崇史さまの留守中、この館の主はおぼっちゃまなのですから」
 地下はあまり好きではない大貴だが、この館の主、という言葉に気を良くして口角を吊り上げた。
 黒柳は大貴を操縦するのも実に巧い。そのあたりも崇史に執事を任せられている要因ではある。
「僕はこれからナオヤと遊ぶんだ。夕食のあとだったらいいよ。調教してあげる」
「ご立派で御座います、大貴さま」
「ふふん。じゃあナオヤと遊んでるあいだに、僕の鞭を用意しておいて。拘束具もだ」
「かしこまりました」
 黒柳はうやうやしく左胸に手を当て、頭を下げた。歩きだした大貴は玄関ホールに向かう。階段を下りた先に、来客を迎えるその空間が広がっている。
 床は白と黒のチェッカー模様。吹き抜けになった天井からはシャンデリアが揺れてきらめく。
「ナオヤ、今日はなにしてあそぶ?!」
 家政婦に応対されている友人に、大貴は笑顔を見せて駆け降りてゆく。さきほど黒柳に見せた高圧的な表情はもうどこにもない。11才の少年らしい、あどけない微笑みだ。

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「だいきのお家って、広くっていいなあー!」
「ナオヤの家も広いじゃん。プールもあるしうらやましいなー」
 庭でサッカーをしたり、真堂邸で飼われるドーベルマンのノエルと戯れていたら小腹が空き、陽当たりの良いサンルームでおやつを食べている。円形のテーブルやチェアの他に観葉植物も飾られ、薔薇園も望める素晴らしい空間だった。
 テーブルクロスの上、鳥籠型のティースタンドにはマフィンやタルト、クッキーなどが盛りつけられている。紅茶はフォションのシヴァで作られた甘いミルクティーで、大貴はシナモンスパイスを入れて飲むのが好きだ。遊びにきた友達もみんなこの飲み方を気に入ってくれて、もちろん尚哉もそうしている。
「地下室もあるんだよね? だいきのお家って」
 アーモンドのチョコレートをかじったとき、あまりにも自然に尚哉が言うので、大貴は頷きそうになってしまった。あわてて否定する。
「えっ、ないよ。そんなのあるわけない……!」
「だってママが言ってたよ。ぜったいあるって、うわさされてるって」 
 たくさんの使用人が出入りする真堂邸だが、地下を知らない者も多い。尚哉の母親は結婚前、花嫁修業も兼ねて真堂家で家政婦をしていたが、一介の使用人だったので知るはずがなかった。
「あるとしても、僕は知らない……」
 大貴は尚哉から目を背けた。両手でティーカップを持ち、啜るように飲む。
 そんな大貴に対し、尚哉は自信あり気に言うのだ。
「出入り口は書斎だよ、きっと。だいきのパパも、執事のひとも、書斎にはいってずうっと出てこないことがときどきあったんだって」
 その情報は当たっていた。大貴が内心で驚いていることも知らず、さらに尚哉は強気に続ける。
「ねえ、こんど探険したいな! きっと楽しいよっ!」
「イヤだ。かってに書斎に入ったらパパにしかられる」
「えー、いいじゃん、だいきッ」
「ダメだったら。ダメ」
 むすりとして口を閉ざす大貴に、尚哉は納得できていない様子だが、とりあえずは諦めたらしい。
 わかったよ、と頷いてくれた。
(楽しくないよ、ナオヤ。あんな場所に入ったら後悔するのはナオヤなんだ)
 学校での出来事を話しはじめた友人をぼんやり眺めながら、大貴は思う。
 地下は禁断の領域で、おぞましい牢獄だ。
 崇史は堕天使の庭だとか、煉獄と呼んでいるときもある。地下の存在を知る使用人たちは伏魔殿などとも言う。
 それに勝手に入れば叱られるのは、事実。いまよりも幼いころ、大貴は許可なく忍びこんで散々な目に遭ったことがある。
 あっけなくばれてしまい、手酷い折檻を受けた。ノエルに犯されるという獣姦を味わされた揚げ句に、肛門が壊れるまで極太の張り型を突っ込まれ、鮮血を撒き散らしながら失神する。それでも許してもらえず、電流を流されて強制的に意識を取り戻させられ、去勢してやろうかと脅され──あげくにはドイツ製の拷問椅子に拘束されたりと、幾夜も続けて極上の苦痛を与えられたのだ。
 眼球に針を刺されて絶叫した記憶が蘇り、大貴は身を震わせる。どんなに壮絶な虐待よりも、注射と針プレイがいちばんきらいだ。
 あんな目には二度と遭いたくない。悪戯をすると万倍の罰を与えられてしまう。
「きいてるー? だいきっ」
 尚哉の声に、大貴ははっとする。
(そうだ……いまは夜じゃない。忘れよう、僕は、昼間のあいだはふつうの子どもで、いて良いんだった……)
 ティーカップをソーサーに置いた大貴は、そんなふうに自分に言い聞かせた。聞いてるよ、と尚哉に返事をして会話に戻る。

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 真堂家の地下は、地上部分と匹敵するほどに広い。
 三階建ての『表の顔』が英国貴族の洋館だとすれば、螺旋階段を下りた『裏の顔』地下は罪人を収容する古城に似ている。崇史は此処に闇オークションなどで買い求めた老若男女を封じこめ、道具のように改造したり、奴隷として調教するのを密かな愉悦にしている。
 人間の姿のままのセックスドールの他に、四肢を切断し、代わりに真鍮の脚をつけた人間椅子やテーブルなどもある。フェラチオ専用のオブジェ。防腐処置を施して熱帯魚と共に水槽を泳がせた頭部。本物の眼球をはめた指輪はデコラティブな装飾で高級感さえ漂う。
 おぞましき品々を、崇史は社長業の息抜きに、ほんの戯れで造ったにすぎない。しかしアンダーグラウンドな世界では『芸術』と讃えられ、買い取りたいという者も多かった。
 よって、現在は趣味ではなく、依頼を受けて製造することのほうがメインだ。崇史は経営者にならなかったのなら、美術系の道に進みたかったという。いまの状態はまんざらでもないらしい。
 夕食を済ませた大貴は、執事の黒柳とともにその禁断の世界に向かう。
 書斎の先にある螺旋階段を下りてゆく。
 仄暗いため、壁に埋め込まれた灯だけでは頼りなかった。執事はランタンを手にしている。ふたりの影は長く伸び、カツン、カツン、と足音が反響する。
 やっと底に辿りつくと、そびえ立つ巨大な鉄製の扉が、内部を厳重に封じていた。
 執事はアンティークな鍵束を持っていて、そのうちの一つを扉に差しこむ。セキュリティはそれだけではなく、登録済みの虹彩を認識しないと開かない。
 崇史の瞳のほかにこの黒柳や、真堂家の主治医などの眼球パターンが登録されている。大貴の瞳を認識しないのは、また勝手に入りこむといけないから。その日までは暗証番号式のロックだったものが、セキュリティ強化されてしまった。
 執事を認めた鉄扉はゆっくりと開く。
 煉獄の封印が解ける。
 すべて開き終わらないうちに、大貴と執事は内部へと踏みこんだ。温度は低く、肌寒い。
「僕はどれを痛めつければいいの?」
 歩きながら大貴は問いかけた。執事は地下の大広間を抜けて、いくつもの檻や調教室が連なったフロアへと進んでゆく。天井からはシャンデリアが吊り下がっているがいずれも暗く、まるで幽霊城さながらの光景が広がっている。
「こちらです、おぼっちゃま」
 ひとつの部屋の前で執事が足を止めた。部屋番号のプレートは004と刻印されていて、やはり屈強な鉄扉だ。執事は鍵束の中からすぐに鍵を見つけ、解錠する。

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 室内は調教室というよりは拷問室と呼ぶほうが似合うかもしれない。もしくは、秘密の人体実験施設。
 タイルの床には金髪裸身の少年が、目隠しと口枷、後ろ手の手枷、鎖のつながった足枷をされて転がっていた。
 それだけでじゅうぶんすぎるほどの束縛なのに、黒い粘着テープをがんじがらめに巻き付かされてもいる。髪色と、抜けるように白い肌色から日本人でないことは大貴にもすぐにわかった。
 部屋には夕方に大貴が命じた通り、すでに調教器具も揃えられている。キャスターのついたステンレスのワゴンに、鞭、ローションのボトルやディルド、他にもさまざまな道具が並べられていた。
 それらの全てをひととおり味わったことのある大貴は使い方はもちろん、どの程度痛めつけると気を失うか、失わないかまで心得ている。
「いもむしみたい。なあに? この生きもの……」
 大貴は少年を見下して言った。ブルブルと痙攣のように震えている少年の顎をローファーの先でつつく。大貴の瞳には子ども離れした冷酷さしかない。
 地下に繋がれている人間たちを、大貴は人間とは思っていなかった。
 そういう教育を受けているために。
「納期は三日後なのです。引き渡しの前に、大貴さまの手でどうぞ、遊んであげてください」
 執事は夕刻のようにうやうやしくお辞儀をする。ふうん、と大貴は興味なさそうに返事をした。
「どんなふうに遊べばいいの? 痛いのはスキなの?」
「ええ、それはもちろん。この蟲めは、十日の間絶頂に達しておりませんゆえ、すぐに達することでしょう」
「じゃあ僕が射精させてやるよ。うれしいな、ゴミムシのくせに……」
 大貴はその場にしゃがみ込み、少年の頬をつねる。ボールギャグ越しにオォオ、と悲鳴が漏れた。
「いまから僕に気持ちよくしてもらえるなんて。ふつうなら、お金をもらうんだよ。僕と遊ぶっていうのはそういうことなんだよ」
 クスクスと笑う大貴は溢れている唾液を顔に塗りつけてやってから、立ちあがった。ワゴンのいちばん上に並べられているいくつもの鞭に迷うそぶりを見せる。
「どれにしようかな。今日は。えーっと、やっぱりこれかなあ……」
 大貴が手に取ったのは赤い一本鞭。大貴のために匠と崇められる鞭職人が造ってくれた逸品だ。
 ずっと愛用していて、グリップは大貴の手によく馴染んでいるし、使用人たちがこまめに手入れしてくれているのでしなりも良い。

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 まずはわざと床に当て、ビシリ、と音だけを響かせて少年を怯えさせる。大貴の目論見通りに少年は震えた。
「こわいんだ? ……スキなくせに」
 垂らした鞭で、拘束された身体をなぞる。背中を丸めるようにしてうずくまっているため、少年の性器は大貴から見えない。執事は殴打が当たらないようにそっとワゴンを壁際に寄せた。
 打擲がはじまる。
 少年は悲鳴を上げ、鮮やかな音も小部屋に弾ける。
 波打つような強弱のつけ方も、一定のリズムを守っていたかと思うと乱して崩す打ち方も、子どもの手腕とは思えない。Sの女王か熟練したマスターのように、大貴はしなやかに一本鞭を扱う。
「きゃはははは、あはははっ、ははははっ!」
 振るうとともに、大貴は楽しそうに白い歯を見せて笑っていた。執事の黒柳は感慨深く「ご立派になられて……」と呟く。
 大貴がサディスティックな性癖を身につけたのは、崇史のシナリオの外。意図的に仕込んだわけではなく、大貴自身がおのずと開花させた。
『鞭の使い方を教えてほしい』と、大貴のほうから志願してきたのだ。
 責めることに興味を持ちだしてからは、虐待されるときにただイヤイヤと泣き叫ぶのは減り、されることを観察するようになった大貴。どんなふうに器具を使っているのか、痛みと快楽を与えているのか、崇史や使用人たちの手元や動作などをよく見ている。
 ただ、針はどうしても駄目らしく、顔をそむけたり瞼を閉じてしまっているが。
「ほんとうだ、こいつ、痛いのスキなんだ」
 首輪の鎖を引いて少年の向きを変えた大貴は、彼の股間を見て嬉しそうにする。小ぶりな性器は大人のよう立派に剥けて勃起していた。
 無毛の丘にはラテン語でなにごとか黒い刺青の文字も刻んであるのだが、大貴には読めない。呪術的なおどろおどろしいデザインの文字列だ。
「ウウゥゥうう──……!」
 鞭痕で肌を赤く染めた少年は、大貴に踏みつけられることで射精する。よほど溜まっていたのか、ペニスに靴が触れた瞬間、多量の白濁を漏らしてしまう。
 きっと、崇史が海外出張に行く以前からおあずけを喰らっていたのだろう。痛みで感じている姿が面白くて、大貴の笑みはクスクスと止まらない。

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 さらに鞭を浴びた少年の乳首は、頑強なクリップで挟まれる。
 睾丸も錘(おもり)のついた同じもので挟んだ。肉の色が変色するほどに痛めつけられているのに、勃起は止んでいない。むしろ、錘をぶら下げられてから性器はさらにいきり立っている。
 体勢は四つんばい。ウオオオ、とボールギャグ越しに呻きながら高く尻を持ち上げた姿。拘束の黒いテープと鎖は執事によって外された。
 手がけるどの奴隷にも自我や感情を認めず、薬物と拷問で脳を破壊することすらある崇史。
 悪魔のような調教によって、この少年も壊れている。奴隷少年に残っているのは快楽への執着だけだ。
「パパのおもちゃで、心を残されたのは僕だけなんだよ。僕は、おまえたちとはちがうんだ……!」
 恥もなく見せつけてくる尻穴を眺めながら、大貴は優越感に浸る。崇史が地下の玩具たちと遊んでいると嫉妬を覚える夜もあるけれど、自分は特別だと思うことでかき消せた。
「僕だって汚されてしまったけど、おまえはもっと汚くて、いやらしいんだ。堕ちるところまで堕ちてしあわせだね!」
 きゃははははぁ、と大貴は腹を抱えてさらに笑いころげる。
 そんな大貴の半ズボンの股間も、虐げたことに興奮して膨らみを帯びていた。けれど大貴は少年を犯してみる気持ちにはならない。こんなに低級な虫けらと交わりたいと思うはずがない。人間ではなく下位の生きものなのだ。飼い犬のノエルのほうが当たり前のように上級動物である。
 大貴は自らで犯す代わりに、スチールのワゴンから男根の張り型をえらび、手に取った。
 執事が少年の尻穴をローションで慣らす様子を、一人がけの優美な椅子に座って眺める。手持ちぶさたに張り型を舐めあげたり、キャンディーのように咥えてみたりもする。唇から外すときはにチュプン、という水音が漏れた。
 ──目の前で少年の悲鳴は甘さを帯びてゆく。明らかに快楽を得ているむせび泣きだ。
「さあ、どんな異物もお迎えできますよ」
 十分に解した執事は、ナプキンで手を拭いている。大貴は立ちあがって迷いなく挿入する。
 一突きにしてやれば、反響する叫び。大貴はほくそ笑んでしまいながら手首を使ってアナルを掘った。
 なかなかに愉しい作業だった、崇史からのいいつけでやらされているということを忘れるほどに。

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……二度、精液の噴水を見たところでおひらきにした。片づけなど後のことは執事の黒柳が始末してくれる。
 大貴は迎えにきた家政婦とともに地上へ上がった。「お風呂の準備がしてございますので」と微笑まれながら、調教室をあとにする。
 地上への階段へと戻る途中には、収容されている奴隷の泣き声も聞いたが、いつものことなので大貴も家政婦も気にしない。感情の欠片を残した人形たちの呻きだ。この断末魔の叫びはいずれ完全に潰される。大貴が今宵遊んだ少年のように、収容者の感情は薄れるのが末路だった。
「おぼっちゃま、お早く、お身体を綺麗になさってくださいね」
 家政婦も大貴同様、牢獄を汚らわしいものと思っているらしい。煉獄につながれた奴隷に哀れみなど持たぬようにと執事に言い聞かされているからだ。地下の空気に触れた大貴を早く清めさせようと急かす。
 一階にあるバスルームにはすでに着替えも、バスタオルの類もすべて用意されている。磨りガラスの扉越しに去ってゆく家政婦の影を見送った大貴は、ひとりきりになり吐息を漏らした。
 その吐息は熱を孕む。
(ぬかないと……だめだ、ぼく……)
 屹立はしずまっているものの、身体の奥は興奮したまま。大貴はブラウスを脱ぎ、半ズボンに手をかける。
 下着ごと脱ぎ去ったそこには、年齢のわりにひどく発達した性器があった。サイズは成人と同程度あり、包皮も剥かれている。
 崇史によって弄られた結果だ。
 軽くメスを入れられてカタチを整えられ、ホルモン剤を投与されて性徴を早められ、奇妙な器具なども使われて肥大化させられた。精通もわずか6才で終えている。
 ホルモン剤の成分を調整し、声がわりは回避することができたが、体毛の発毛は抑えられなかった──だから、すべて永久脱毛された。
 この歳にして睫毛から下の毛根は除去済みで、ずっと生えることはない。
 大貴の身体は崇史の美意識を余すところなく表現した完璧な性玩具人形。
 酷すぎる傷は崇史好みではないため、拷問と虐待によって大きな傷痕ができると主治医によって消される。
 手を加えられて維持されているなめらかな裸身で、大貴は脱衣所から浴室に入った。
 ポケットに入れていた薫子のロザリオだけを握りしめて。

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 地下室の調教で興奮していたため、すこし愛撫するだけで、すぐにはち切れんばかりに育った。
「っ……ふぅ、うう……」
 浴槽からの湯気の中、大貴の表情は歪む。
 ロザリオを首から下げて座りこみ、扱くペニス。
 反り返った鎌首も、怒張して浮き立つ血管も、成人男性さながらの性器である。
 背はクラスでも高いほうの大貴ではあったが、顔も身体つきも当然ながら年相応に幼い。それなのに、股間だけは不釣り合いに成熟したアンバランスさ。
 異様な身体にされてしまって、大貴自身は悲しいし、きもちわるいと思ってしまうのに……崇史も、大貴を抱きたがる者も、みんなこのギャップがイイと言う。
 大貴の英語の家庭教師を務める夫人などは、夫にばれることなく男の肉棒を味わえるとご満悦だ。
(スキ……、おねえちゃん、すきぃっ……!)
 ぎゅっと瞼を閉じる大貴のオカズは、いつものように薫子。薫子以外で自慰をしたことはない。大人たちとのセックスで絶頂を迎えるときも、薫子のことばかりを考えて達する。
(おねえちゃんでしか、イきたくない、だって、それくらい……)
 薫子を愛している。
「ぁ……、ぅ、はぁ……」
 分泌された先走りに腿や手を汚しながら、尿道孔を親指の腹で弄くる。そうしながらも、もう片方の手でロザリオを唇に当てた。十字架にキスをするとドクドクと鼓動が脈打ち、大貴の頬はさらに上気する。
「だいすきだよ……、おねえちゃん、おねえちゃん……!」
 妄想するのは、さきほどの少年がもし薫子だったらということ。あの透きとおるような白い肌に拘束具を巻き付かせ、目隠しをさせられて。タイルの床に長い黒髪を乱していたら──想像するだけで、たまらない。
 そんな薫子に、鞭を振り下ろして傷つけたい。
 めちゃくちゃにしたい。
 綺麗な薫子を痛めつけたい。
 S性癖の大貴は、いつも妄想のなかで薫子を虐げている。ときには原形がなくなるくらいに壊す。
 バラバラに四肢を破壊する。
 生首だけにして、その頭部を抱きしめて眼球を舐めあげたりもする。今宵の自慰もそんな空想の中で果てた。薫子の血に溺れながら。
(イク……!!)
 十字架を握りしめながら、白濁を迸らせた。
 まるで祈りを捧げる信徒だ。
 恍惚に吸いこまれ、しばし酔いしれ、それからがっくりと肩を落とした。呼吸をあえがせて乱しながらも、派手に汚したザーメンを呆然と眺める。
(だいすき……スキ、すき、すき……)
 絶頂の快楽から一転、大貴は悲しくなる。こんな妄想で自慰をしてしまうことが罪深くて、申し訳なくて、いけない悪い子なのだと自己嫌悪に陥る。
 どうしてこんなことばかり考えて気持ちよくなってしまうのか。頭がオカシイとしか思えない。
「……パパのせいだ。パパが僕をめちゃくちゃにするから、僕、こんなふうになっちゃったんだよ」
 崇史を恨んでうつむいた。
 おねえちゃんごめんなさい、と小さな声で呟いた大貴はロザリオを握りしめたまま唇を噛んだ。