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何故この世に産み落とされたのか
絶望感 閉塞感 劣等感 圧迫感 無力感……
存在理由がわからない    全てを呪いたい
死にたい 渦巻く鬱が重過ぎる
自分自身の無価値だけ知ってる、募る自殺願望
痛み 助けて 助けて 助けて
誰か…教えて…誰か…   怒り どうしてこんな目に遭わなければいけないんだ
デキソコナイ 苦しみ 人形なんかじゃない
抜け出したいのに……
分裂しそうな頭の中、何も見いだせない見いだせない
  現 実 が 憎 い
どうせ心の中では馬鹿にしてんだろ笑ってんだろ見下してんだろ?
飛び降りたい、手首を切りたい、消え去りたい
あぁ、どうして生まれてきてしまったんだろう──

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 安ホテルの401号室、幾つか吊るされている裸電球の一つが今にも切れそうだ。光は時折ちらちら途切れ、点滅するフィラメント。
 それを祥衛(やすえ)はベッドに座り、裸のままで煙草を吸って眺めている。はたして点滅に規則性があるのかどうか。気になってしばらく観察していたがどうもリズムを見つけ出せない。光が黙するのはランダムで、気まぐれに灯っては消え、灯っては消えを繰り返している。
 法則を見いだすのを諦め、祥衛は吸い殻を灰皿に押し潰した。立ち上がってソファへと行き、脱ぎ捨てた衣服を纏う。灰色のボクサーパンツ、細身のジーンズ、カットソーにボア付きのパーカー。
 客は身体を洗っている。何の飾り気もない、ただ単にベッドルームと浴室を分けるために取り付けただけのアルミ扉の向こうから水音がする。
 テーブルの上に置かれた、PRADAの財布。
 その財布は客のものだ。祥衛は手に取ると、パーカーのポケットにしまい込んだ。
 男は性交の前、祥衛に二万円を払ってくれた。けれど祥衛はそのとき覗き見ている、財布にはまだ何枚も紙幣が詰まっていたのを。
(だったら、すべて、奪えばいい)
 シャワーの音を聞きながら部屋を出る。安宿の廊下は薄暗かった。仄灯りが作る陰影はいたずらに絨毯の模様を人面や悪魔に似せ、祥衛は嫌な気持ちになる。そんなふうに見えるのは盗みを働き逃げる後ろめたさも、きっと影響している。
 エレベーターで一階に降り、外に出た。料金は前払いで渡したためフロントの老婆は何も言わない。漆黒の空と場末のネオンに包まれて走り出す。アスファルトを蹴り、路地裏に滑り込み、誰かが吐いた嘔吐物、ノラ猫の死骸、転がるホームレスの身体、積み上げられている不法投棄のゴミを跨いで逃げる。逃げる!
 辿り着いたのは駅裏のドラッグストアで、店先に原付を停めてあった。キーを捩じ込み、祥衛はそれに乗る。ヘルメットは持っていない。夜の風に遊ばれる金色の髪。
 頬を切り裂く空気が、冷たかった──