断罪

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 呼び出されたのは、それから数日後だ。

 話があると言われ、楓は学校を終えてすぐ、越前谷家の母屋を訪ねた。迎えてくれるのは和服姿の秀乃──表情はいつもと違う。柔和な雰囲気はなく、瞳には鋭さを孕んでいる。次期当主としての顔だった。

「まあ座ってくれ」 
「秀乃、話って……」

 楓が座布団に正座すると、秀乃は語り始めた。

「先週のことだ。送迎車に乗らなかった日があっただろう。本当は何をしていたのかな」

 ……?
 何故、そんなことを聞くのだろう。
 楓は戸惑う。もしかして、学校に戻っていないことがばれたのだろうか。
 
「佐々木様から、電話があった。楓と美砂ちゃんを見たって」
「え、っ……」
「美砂ちゃんの手を引いて歩いていたらしいな、それもいかがわしい街の中でね」

 密告だ──楓は息を飲む。

 四季彩の商品が、規則の中で厳しく飼われているのは周知の事実。違反娼妓を見つけると、嬉々として遊廓に報告する客も多い。報告の見返りに様々な恩賞を受けられるためだ。

「学校には行っていないんだろう?」
「……行ってない。ごめん……、佐々木さんは、どうして……どこまで話したんだ? ミサと佐々木さんは──」
「どこまでって、どういうことかな。単に見掛けたとしか、俺は聞いていないけど」
「! そんな……」 
「もう一度聞くよ……本当は何をしていた」

 秀乃の声色が、低く変わった。

 正直に答えたい。だが、理由を話せば美砂と佐々木との間に何があったのか……“秘密”が秀乃に漏れる。
 
 壮一は四季彩の常連客でもある。もし此処で話して、万が一、壮一の耳に伝わったら。

 美砂子は傷つく……

 誰にも言わないで、相沢のおじさんには言わないで、と震えていた美砂子の姿を思い出してしまう楓だった。

「楓、言えないのか」
「あ……」
「言いなさい。最終宣告だ」

 秀乃は傍らに置いていた、木刀を手に取る。答えなければ叩かれるだろう、そしてきっと罰はそれだけでは済まない。

「失望したよ、楓は優秀な性家畜だと思ってた。それがまさか、隠れてデートするような子だとは」

 秀乃はゆらりと立ち上がる。畳を歩き、楓の背後に回ると思いきり振り下ろす。

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 背中に振り下ろされ、楓は畳に倒れ込んだ。殴打は終わらずに、さらに何発も続けられる。

「ちがうんだ、ミサとは、何も……あぁ!」

 また一撃が加えられた。容赦のない痛みが軋む。

「ご、誤解なんだ……!!」
「愚かだな、誤解させた時点で許されない存在の癖に」

 這いつくばったままで見上げれば、冷徹な瞳にビクリとしてしまう。秀乃が漂わせているのは、支配者らしい威圧感。

「躾けなおしだ、楓。しばらく牢に入ってもらおう」
「本当にちがう、俺は、そんなつもりで……」
「じゃあ、どんなつもりだったんだ?」
「……う……!」

 答えられない。上手い嘘も、言い訳も見つからない。言葉を詰まらせていると、響いてくる足音。那智のものだ。

「やめて。楓を罰するなんて……!」

 慌てて駆けつけたらしく、呼吸も着物も乱れた姿だ。秀乃はというと、呆れた表情を浮かべている。

「楓が理由なしに規律を破るはずがないよ、事情があったんだよね……?」
「元はといえば姐さんが甘いからさ。そうやって甘やかすから、商品がつけあがる。楓は再調教決定だ、四季彩の性玩具だという自覚が薄い」

 部屋に控えていた、使用人達が動き出す。楓は強引に肩や腕を掴まれてしまう。

「楓、庇ってるんでしょう……佐々木様や、美砂子ちゃんになにかあったんでしょう?!! だから黙ってるんだよね!?」

 那智の叫びは真実だ。乱雑に扱われ、立ち上がらされながらも楓はうつむいてしまう。

「仕方なく駆けつけたんじゃないの? 正直に言ってよ!!」

 ……悲しかった。これほどまでに理解してくれる那智に対し、沈黙を決め込んでいる自分が。
 

 だけど美砂子を守ると決めてしまった。
 目覚めた気持ちは消せない。
 たとえどんな目に遭おうとも。
 誰よりも、美砂子のことを大切にしたいと想う……

 
「何とか言って、楓ったら!!」

 半ば泣いている那智も、取り押さえられて部屋から出される。楓は掴まれながら連行されていく──

 残された秀乃はくすりと口許で笑んだ。わずかに開かれた襖の向こう、隣室には裁きの一部始終を見届けた先々代当主が居る。

 座椅子に着物姿の背を深くもたせかけ、白髪に煙管を燻らせる老人だ。

「どうですか、お祖父様。俺はもう十分に当主を勤められるでしょう……?」

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 階段を深く降りた地下に、座敷牢の並ぶ通路がある。一室に楓は放り出された。遠慮はされず、叩きつけられるように身体をぶつけてしまう。

「使ったのか、コレを。女の子と密会して!」

 衣服を剥がされ、下半身をあらわにされた。直後に踏みにじられるペニス──楓は苦痛に呻く。

「い、痛ぁッ、あぁ……!」
「挿入を覚えたのか!」
「ちが……っ、そんな事は、絶対に……!」
「童貞のままか?」
「ひぐぁあッ……」

 肩も腕も押さえられ、顎も掴まれた。苦痛で染まる表情には唾を吐きかけられてしまう。

 四季彩に来てから、性器で達してしまったことは数回ほど。客に弄られてイキそうになってもこらえて、耐える日常だった。自慰どころか、用を足す時や風呂でしか触った事がない。そうするようにと厳しく律されてきたから──

 蘇る那智の声。

『楓はずっと純潔でいればいいの。自分で扱くことも知らなくていい。男の子なのに可哀相だけど仕方ないね、越前谷家の受け子なのだから』
   
『むしろ誇らしげに露出していて。犯し尽くされた身体の中で唯一、純粋なままの部位だよ?』

『お尻は毎日セックスして突っ込んでもらってるのに。前は綺麗なままだなんて可笑しいね……!』

 ……楓も思春期の少年だ。肛門の刺激だけでなく、ペニスでイッてみたいと思う気持ちは当然ながらある。でも、言いつけをきちんと守ってきた。それに──

 美砂子と繋がろうなんて、考えもしていなかった。好きという気持ちさえも、まだ、芽生えたばかりなのに。

「本当かどうか分からんな、嘘をつくような娼妓だ」

 開脚させられ、潤滑油が垂らされた。乱雑な手つきで肛門に塗り込まれて痛い。もちろん恥ずかしさもある。性交は日常茶飯事でも、羞恥は未だに消えない。

「あぁッ。あっ、ひッ、ぁあ……」

 遠慮なく進入する男の指先。掻き回されながら、口許では別の男の性器を押しつけられ、有無も言わさず含まされる。蒸れた汗の味がした。

「戒律を破る商品には、遠慮なく罰と指導を。許しが出るまでは、ずっと犯され続ける日々を覚悟するんだな」

 宣告され、犯されはじめる。薄暗くじめじめとした地下の密室で、越前谷家の使用人達に群がられてゆく。

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「…ンあッ、あっ、あっ……!!」

「ひっ、ンッ、んん、う……!」

「あぁあッ、あンッ、あっ、あ……!!」



 ……



 牢からは昼夜問わず、楓のアエギが聞こえてくる。文字通り“抱かれ続けている”のだ。パンパンと肌と肌の当たる音もリズミカルに響く。

 再調教中の生活は、一日の大半を交尾に費やす。過酷な性交漬けに肛門は傷つき、腫れて捲れている。

 排泄も許可なしには許されず、我慢させられて身をよじる姿を飼育係に笑われた。悪戯に大量の水を飲まされたりもする。もしもお漏らしをしてしまえば百叩きだったり、ちぎれそうなほどに乳首を器具で摘まれ引っ張られたり、性器に湯をかけられたりと残虐な目に遭わされた。

 罰は他の失態でも同様に浴びせられる。勝手に射精したり、フェラチオの最中に少しでも歯を立ててしまったりすると容赦のない折檻だ。

 睡眠はろくにさせてもらえず、ほんの休息程度に与えられるだけ。

 餌はというと日に二回、結合をしながら、または身体を弄ってもらいながらの口移しで栄養剤入りのゼリーを貰う。味は無く、家畜の餌よりもみじめである。

 こうした日々を送らせる四季彩の目論みは、性玩具であるという己の立場を理解させること。人間らしい尊厳も権利も無いに等しい、性処理用の存在なのだということを分からせ、もう二度と規則を破らないように精神に刻み込む。



「あッ、あっ、あ、あッン……!」



 楓はこの毎日によく耐えていた。日付も、時間すらも分からない牢の中、懸命に様々な体位を受けいれ、結合し続けている。小さな身体にはアザや傷が目立ち痛々しい。風呂も入れられないため髪に精液が付着したままだったり、体臭も匂い、それがまた家畜らしさを彷彿とさせていた。

 男達の間で物のように受け渡され、次々とペニスを挿入されている楓はまさしく性処理用の穴でしかない。

「ひっ…あーーっッ……!!」

 尻穴の奥まで貫かれる度に、漏れる声。

 ──ここまで犯し尽くされているというのに、激痛みも感じているだろうに、未だに股間を勃起させる姿は淫猥だ。棒のように屹立させ、先走りの蜜も零している。抜き差しに合わせてブルブルと揺れる性器は面白がられてからかわれ、指で弾かれたりもする。

 そういった辱めを受けるたびに頬を染める楓。毎日絶えず男相手のセックスをさせられ、交尾の為に育てられた少年は本人の意思とは関係なく、M奴隷・肉便器のような淫性を抱えている。

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 セックス漬けに慣れてくると、平行して“奉仕活動”も行われるようになった。全裸のままで牢を出され、四季彩の雑務に使われる。

 ──遊廓では早朝、尻穴や性器を披露しながら雑巾掛けをする楓の姿が見られるようになった。

 廊下を拭いているとペニスの揺れも激しく、顔を真っ赤にしての作業となる。勃起すると惨めさは増し、ペチペチと腹に当たる。
 拭き清めたばかりの床に先走りを垂らしてしまい、その場で尻叩きの目に遭うこともあった。

 娼妓や、従業員がそばを通る環境でも『躾直し』に遠慮などはない。同僚達は遭遇しても、何も言わずに放っといてくれるが、それでも痴態を見られてしまったことには変わりなく辛かった。楓は泣きそうになりながらも発情し、雑巾を動かし続ける。あまりに興奮著しいときは汁垂れを防ぐためコンドームをはめての掃除となり、楓は余計に頬を染めるのだ。

 窓拭きには、廊下を拭くのとはまた違う羞恥がある。ガラス越しに見せつける裸身──拭いていると、ちょうど股間の位置に外を行く人々の目線が来る高さの窓もあり、容赦なく性器を見られてしまう。

 こうした清掃を終えたのちに、はじまるのが“朝の性交”。早朝は濃密なプレイやセックスよりも、体力作りとしての面を重視され、野外での交尾だったり、大型犬相手の交尾となったりもする。

 喘ぎも声を張るようにと叱咤され、楓の大きな嬌声が竹林にこだまするのが、この頃の朝の風景だった。

 牢に戻っても、玩具を使っていたぶられたり、蝋や緊縛といった訓練も行われてゆく。わずかばかりの餌や休息をはさみながらも、ほとんど絶え間なく羞恥と性感に溺れさせられている。

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「あッ、あっ、あッ! あ……!」

 ……突かれる度に声が漏れる。

 代わる代わる様々な男に犯され、廻され、尻肉は常にペニスに突かれている。

 ローションと精液に塗れ続けた身体を、洗われるのは数日に一度。庭に連れ出されて冷水と雑巾で軽く拭われるだけだ。

 徹底的に「性商品」「性奴隷」「性玩具」という立場を理解らされる日々。

 普段の量とは比べものにならない絶え間無い性交に、出血も見られる。痛みに耐えるのも躾の一環らしい。
 
 それでも楓は感じ続け、幼げなペニスを棒のように固くしていた。

「あっ、あっ、あぁッ……!」

 今も楓は、飼育係に抱きついてキスをしながら、違う飼育係のペニスをハメてもらっている。

 従業員達は諭すように、語り続ける──

『楓くんの尻穴は排泄をする器官ではなく、お客様に性器を入れてもらい、気持ちよくなってもらい、中出ししてもらうための穴だよ』

『楓くんの身体は大人の性欲を受け止めるために10歳から鍛えてきたね。息を吹き掛けられただけで感じ、指を入れられれば前を勃たせ、淫乱に成育した君は普通の少年ではない』

 言い聞かされ、囁かれながら、犯される。

『恋なんてできる身分じゃない、そんな感情を持つことさえおこがましい、性処理用の肉便器の癖に』

『楓くんの身体は楓くんのモノじゃなくて、四季彩とお客様のモノだ』

『自分のことは人間ではなく、新しい種類の生き物、淫乱な動物だと思いなさい。前にもそう教えたはずだよ』

 動物……確かに、そう思うと楽になった。

 大きな声で喘ぐことや、オチ●ポだとかケツマ●コだとかの卑猥な単語をたくさん言わされることや、どんなに恥ずかしくとも性器や尻を隠すことも禁止されている立場や、同じ年頃の少年たちのよう自由に過ごしたりできない管理された生活が、いくらか楽に思える。

 だって人間じゃないんだから──
 
 交尾を至上の悦びと感じる淫乱で、飼育してもらわないといけないような恥ずかしい家畜なのだから。

「あン、あッ、あっ、あンッ、あンっ!」
「そうだ、思いきり喘ごうね。もっと嬉しそうに」
「あンっ、あんッ、あーっッ、あーー!」
「積極的に淫語言っていこう、おしゃぶりもキスもしていないときは、恥ずかしいことを喋ろう」
「あ…ぅ、チ、ち●ぽ、気持ちい、あン、あっ、あっ、交尾っ気持ち……いッ…」
「笑顔で犯されようか」
「あッ、あん、あン! あぁあぁ…!!」

 指導という名の性交はひたすらに続く。
 辛いと思うことも許されない。
 セックスをするための存在だ。
 その癖に、生意気にも人を好きになってしまった、鍛え直しは当たり前のこと。

 けれど今更、目覚めた感情を消すこともできない。

 犯されながらも美砂子の顔が浮かんでしまうと、ひどく切なくなった。知らないほうが楽だと幾度となく同僚に聞いた言葉が、現実味を帯びる。
 
 楓は、恋を知ってしまった。