麝香

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 服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になった。ひさしぶりに那智に素裸を晒すのは、やはりとても恥ずかしい。
 それでも『堂々としろ』と施された躾は忘れていなかった。性玩具に、陰部を手で隠すような真似は許されない。発情した姿をあからさまに披露するのが、淫乱らしくて良いとされる。
「あーあ……すっかり、大人になっちゃったね」
 屹立を示すペニスを見て、那智は残念そうに呟いた。指で摘まれもする。
「皮も剥けちゃったし、サイズも増しちゃって……楓の体格からしたら、大きい方なんじゃないかな……どうして剥いてしまったの?」
「どうしてって……気づいたら、自然に……」
 握りしめて覗きこまないで欲しい。楓は両手をシーツにつく。
「挿入したときとか、扱いたときの摩擦のせいかな」
 遊郭にいたころは自分で触れることさえ、ろくに許してもらえなかった。そんな生活で包皮が剥けることはまずありえない。
「童貞のほうが、良かったか……?」
 扱かれながら布団に倒れ、那智を見つめる。
「わたしの好みではね。だけど、そんなこと言ってられない、楓だって大人になるんだよ。反省しているくらい……当主だったころ──昆虫や星座にきらきらしてる楓がとても可愛かったから、ずっと、そうであってほしいって思いすぎてた……」
 愛撫を施されていく。内腿を撫でられるのも、睾丸に触れられるのも気持ちがいい。ぬるま湯に溺れていくような快感だ。
「成長を遅らせたくって、ろくに栄養も取らせなかった。与える餌は、フルーツだけ」
「四季彩で食べたクラウンメロンも、スイカも、美味しかったな……」
 あの味を思いだして微笑む。ヨーグルトに添えられたリンゴやブルーベリー、寒天と白桃。さまざまな果実を閉じこめたゼリー。どれもいまでも楓の好物。
「楓はいい子すぎるよ」
 綻ばせていた表情に苦笑された。那智も倒れこんでくる。ペニスから指先が離れた。

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 楓からもすがりついてキスをしてみる。唇にも、首筋にも。那智の衣服を脱がすのも手伝う。
「あ……、ぅ……、ン……」
 胸元をいじられれば、吐息が漏れた。性器とおなじようにすぐ屹立し、敏感な反応をあらわにする。
「肌触りの良さも、色艶の良さも変わらないね。ちゃんとお手入れしてるの……?」
 両胸を同時に摘まれると、たまらない。少年男娼だったころは乳首を嬲られて射精を迎えることもあった。
「これといって……は……、でも……」
「でも?」
「たま……にお客さんを、取るから……、多少は、気をつけて……」
「偉い子だね」と、髪を撫でられる。那智の手は下腹部へと下りていった。次に探られる場所を理解して、なにも言われずとも楓はM字に脚を開く。そうしながら、さらなる羞恥から眉根をひそめてしまった。
 楓にとっては性器を見られることよりも、肛門を見られるほうが恥ずかしい。
「うぅ……」
 覗きこまれ、悶える。あからさまに恥じらえばきっと叱られると分かっているのに顔は熱くなるばかりで目を開けていることもできなくなる。ぎゅっと閉じれば、四季彩に連れていかれてはじめて那智に身体を調べられた夜を思いだした。
 あれは、もう、何年前になるのだろう──
「なんだか、楓、初々しいね……はじめて会ったときみたい」
 那智もそう思ったらしい。楓は薄目を開いた。
「お尻も薄ピンク色で可愛くって、はやく、突きこみたいな……」
 入り口の皺を指でなぞられた。楓は敏感に震える。興奮を維持したペニスもぶるっと揺れて、それは那智を視覚的にも悦ばせたようだ。

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 那智は荷物から取りだしたジェルで、楓の蕾を慣らしていく。楓はうつぶせでシーツを掴み、尻を突きだして、指先でなされる撹拌に喘ぐしかない。
「ッ……、あうぅ……、う……!」
 とても気持ちがいい。
(……すご……い、上手い……!!)
 こんなに巧みに掻いてもらえたのはどれくらいぶりだろう。
「すごいね、ほら、もう三本も飲みこんでる」
 グチュグチュといじる音とともに囁かれた。指を抜かれる刺激にも感じて「ぁああぅ……」と、悶える。ヒクつく入り口を観察される恥じらいにもときめき、後孔をいたぶられる悦びに浸る楓だった。
「あ……ん、ぁ……」
 舐めあげられると、たまらない。背骨を駆け上がる愉悦。蠢くたび敏感に震え、痙攣さながらの様相を見せる。
 舌を挿れられた瞬間には全身をひきつらせ、爪先にも力をこめた。
「……ひゃッ……ぁああ──……!」
 射精のよう、多量の液汁をシーツに垂らす。感じきった先走りを。
 那智が離れると、楓はもはや耳まで恥じらいに染めていた。それでも尻を突きだした体勢を維持し、ビクビクと収斂を繰り返す蕾をあらわに披露する。
 愛撫してもらっているだけで、こんなにも悦いなんて、いざ結合したらどうなってしまうのだろう……
 快楽の淵で、楓は怖くなる。怖いけれど、早く欲しい、ぶちこんで欲しいと願っている自分もいた。
「どうしようもなくいやらしいね。想像以上かも。現役の少年男娼だったころと、まるでおなじ身体の魅力……」
「! やぁあ……」 
 尻を平手打たれ、意識がスパークする。痛みに恍惚となる。
「あッ、やっ、いやだぁっ、あぁ……、あ……」
「嫌……? だめでしょう? そんな言葉を使っちゃ」
 パンパンと乾いた音が繰り返しに響くなかで、楓は手で口を押さえる。表情を歪めながら。
「……き、気持ちいい、いいっ、光栄ですッ、ありがとうございまぁすっ……!!」
 遊郭で習った言葉を必死で使う。何発もの平手打ちがおさまったころには、楓の尻肉は朱くなっている。それを見せつけるようにいちだんと尻を高く突き上げれば、勃起を維持したペニスから、また、透明な液汁がとろとろこぼれた。
「ふふっ……、感度の良さだけじゃなくって、ドマゾなところも変わらないね。安心しちゃった」
「あぅ……」
 じんじんと痛む皮膚に触れられ、さらに虐められるのかと身構えると、見透かされたらしい。
「安心して。もう叩いたりしないから。でも……楓はもっと痛めつけられたい?」
「那智が、したいなら……」
 撫でられると痛みが和らいでいく。叩かれた後いたわられる感覚も楓は好きだ。
「でも……俺ばかり、よくしてもらって……申しわけないっていうか……」
 那智のことも悦ばせたい。そう思って身を起こすと、スツールに脱ぎ捨てた衣服から、着信音が響く。
 楓は目を見開いた。

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「もしかして……美砂ちゃんからの連絡?」
 那智の言う通りだ。楓は動揺をねじ伏せ、那智の性器を食む。……懐かしい味だ。舌に当たるピアスの感触も。
「まさか、楓と美砂ちゃんがくっつくなんて、思いもしなかったな」
 咥えこむ頬に触れられながら呟かれる。楓だって同感だ。雨の街角で美砂子と出逢ったとき、遊郭で再会するなんて思いもよらなかった。常連客だった相沢壮一の隠し子だということも──それは那智すら知らない。きっと楓しか知らない、美砂子の秘密。
「楓がお父さんだなんて不思議だね、信じられないよ」
「会ってみるか? セイに」
 充溢した感触を吐きだし、楓は目を細める。音は止んでいる。
「だけど、セイは……清志郎は……遊郭の商品にはさせない」
 唾液まみれの勃起を弄びながら、楓は那智を見つめた。
「那智の望みでも聞けない。俺はどうなってもいい。だけど、セイとミサには絶対に手出しさせない」
「楓──……」
 ふたたび貪りつこうとしたのに、那智に抱き起こされてしまった。少年男娼だったときよりは体重が増したはずなのだが、あのころとおなじように軽々と腕を回される。
「なんだ、那智っ……」
「楓っ、可愛いけど、格好いいな。元から強い子だったけど、さらに強くなっちゃったの……?」
「格好よくないぞ、べつに……」
「美砂ちゃんと、楓と美砂ちゃんの子どもは、わたしも守る。越前谷の長老達が欲しがっても、手出しさせない。秀乃だってそう思ってるはずだよ」
 抱きしめられながら、懐かしい名前を聞いた。
「……ありがとう。那智。……秀乃はいまも当主を務めてるのか?」
「うん。随分無理してるけれどね。本当は向いてないよ。ひょっとしたら、わたしのほうがずっと向いてるかもしれない」
 那智は残酷な仕事もそれなりに割りきっていたが、秀乃は那智よりも繊細な神経の持ち主だ。
「そうか……秀乃も大変だな……」
 当主らしく鷹揚と振る舞っていても内心はどうだろうか。楓は眉をひそめた。

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 しばらくキスを交わしたあと、ついに後ろから突き入れられ、歓喜の声を響かせる楓だ。
「あぁあ──……ッ、あぁぁあ──……!!」 
 たまらない。懐かしい、那智の感触に拡げられ、満たされていく愉悦。
「具合の良さも変わらないね。私を締めつけてくる……」
 最奥にまで達すると、那智は薄笑む。はぁはぁと上気した呼吸を繰り返す楓をしばらく眺め、平手打ちの赤みが薄まってきた尻を撫でまわしてから、腰を使いはじめた。
「……ひゃっ、あぅ、あ、ぁあ……!」
 開始された抽送に、意識せずとも咽びが漏れてしまう。那智の揺らしつけに呼応するように楓も夢中で腰を振る。
「あぁあっ……、那智ぃ……、いい……、気持ちい……ぃ……!」
 甘ったるく悶え、溺れるようにシーツを掻く。楓の視界は快楽のせいでぼやけて滲んできた。
「はっッ……あんっ、あ──……」
 四つん這いの楓を抉るのに満足したのか、那智は楓の胴体を抱えて力任せに起こす。乱暴な動きにも悦びを感じてしまうどうしようもなくマゾな楓だ。
 後背座位で突き上げられていたが、ぼんやり壁を見つめているのは嫌だった。那智と見つめあいたい。楓は身体をひねって向かいあわせになり、那智を抱きしめる。
 いよいよ溶けあうように絡みあって混ざりあうお互いの腰つき。そこらへんで拾われて交わす売春のセックスより、ずっと悦い──抜き差しされるたびに実感し、楓は唾液を飲みこむのも忘れて口の端から垂らしている。
「あっ、あぁぅ、あ……、ぁ……、あぁあ……」
「乱れすぎだよ。ひさしぶりのわたしとの交尾が気持ちよすぎるの?」
「……う……、ぅ……!」
 こくこくと頷くしかない。泣きそうな顔で一心不乱に腰を振り続ける。内襞に那智の怒張が擦れるたびにもっと擦ってほしくなって、貪るような腰つきはエスカレートするばかりだ。

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 正常位で犯されているとき、吐精された。
 楓は、後孔を満たす熱さにうっとりしながら那智を抱きしめる。抜かれるとき、こぼれないようにきつく尻孔を窄めた。
 そして、いままでハメていた那智のペニスをしゃぶる。達したばかりの性器に不要な快感を与えないように心がけながら口で掃除する。表面だけでなく、尿道口に残っている残滓も吸いだして清めていく。
「偉いね。ちゃんと作法を覚えてるんだね……」
 那智は満足げに楓の髪を撫でまわした。
「……楓?」
 こみあげる興奮に耐えきれなくなった楓は肉茎を吐きだし、那智の腿にすがりつく。
「だ、め、だ……、もう……、がまん……、あぁあぁ──っ……!!」
 パシャパシャと白濁の飛沫を散らした。妙なタイミングと姿勢で漏らしたから、那智の胸元にも、楓の肩にも降り注ぐ。
(そん……な……、俺……!)
 楓は真っ赤に染めた顔を両手で覆い、うずくまる。楓にしてはめずらしく、羞恥に対し、愉悦よりも辛さのほうが上回った。
「咥えていて興奮して、達したの……? ふふ……あははは、楓ったら、本当にマゾなんだから……」
「あ……ッ、やっ……」
 背中に触れられただけで、寒気立つ。射精したばかりの身体はさらに敏感になってしまっている。
「……やっぱり再調教、ちゃんとしないと駄目かな。コントロールできるようにならないと。マゾなのはいいことだけれどお仕事で交尾するのだから、刺激にも羞恥にも、もうすこし、鈍感になろうか」
「……いつもは……ここまで感じやすく、ないんだ……」
 否定する楓に、那智は「わかってる」と、優しく頷いてくれる。
「美砂ちゃんとはどんなふうにしているのか、気になっちゃったけれど?」
 悪戯っぽく尋ねられ、楓は身を起こした。
「……ミサも……Mだから……おたがいをいじめあう感じで……」
 まったりと愉しみ、あまり激しくは交わらない。
「子猫の戯れだね、可愛いなぁ……鑑賞したいな」
「ミサは一般人だから、そういう四季彩の催しみたいなことは……」
「うん、わかってるよ。それよりね──」
 那智はシーツに手をつき、ゆらりと楓に顔を近づけた。朱く染めた毛先が、楓に触れる。
「楓があまりにも可愛いから、また挿れたくなっちゃった……」
「……ん……っ……」
 奪われる唇。楓は瞼を閉じた。達したばかりの身体に蠢く舌先の刺激は強かったが、受け止める。
 那智の舌先は楓の左目を辿り、睫毛を舐める。涙のように唾液は頬を伝ってこぼれた。お互いの性器に手を伸ばしあって再び溺れていく──激しさは増すばかりで、まだまだ、止まらない。