Neoteny

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 初めて訪れた、市内でも有数の高級住宅街。
 地下鉄駅から徒歩すぐだと聞いたので、電車に乗ってきたのだけれど正解だったと祥衛は思う。
 ヤンキー仕様のゼファーを引いてウロウロしていたら悪目立ちしそうな閑静な街だ。
 目的地の豪邸に着くと、緊張しながらチャイムを押す。
 しわがれた男の声で応答があった。

『どちらさまでしょうか』
「……ヤスエ……です。FAMILYからきました」

 こんな言いかたで大丈夫だろうかと不安ながら伝えると『いま、門をお開けします』との返事がされて、すぐに建物から出てきたのはシャツとスラックスに身を包んだ小奇麗な初老の男だ。
 中から閂(かんぬき)を開け高い柵をひらき、祥衛を迎えいれてくれた。

「道に迷いませんでしたかな?」

 声はインターホンの応答とおなじものだった。

「だいじょうぶ……、です」
「それなら良かった」

 笑う彼に先導され、塀のなかのゆるい坂を登ってデザイナーズ建築の入り口に立つ。
 ドアの向こうの玄関も外観から想像を裏切らず、だだっ広く天井は高く、祥衛の緊張が途切れることはない。
 ブーツを脱いで出されたスリッパを履き、家の奥へと案内してもらう。

(べっそう……って聞いた。こんなにりっぱなのに……)

 怜に教えてもらった話では、今夜の客は首都圏に此処の数倍の敷地面積を有する屋敷を構えているらしく、さらには別宅も各地に持っているという。
 今宵の客──大貴を数年前から抱いている饗庭(あえば)という男は。

「旦那様はお昼からずっとお楽しみなんですよ」

(学校……は……?)

 今日は土日でも祝日でもない普通の日だ。
 老人の言葉に、ちょっと祥衛は驚く。
 大貴に対し、休まずに学校に行くイメージを抱いていた。

(仕事を優先する日もあるのか…………)

 廊下の先の階段をのぼり、ダウンライトに浸された薄暗い二階は間仕切りがなく、ローテーブルには軽食、ワイングラス、酒類のボトルなどが並んでいる。
 そのすぐ近くにクイーンサイズのベッドがあって、客と大貴がいちゃついている最中だ。

(…………う、わ…………)

 いきなりこんな光景と出くわすことになるとは思っていなかった。
 絶句して立ちどまる祥衛のかたわら、老人は気兼ねなくベッドの主人に声をかける。

「お取りこみ中の所、失礼いたします。もうひとりの子がいらっしゃいました」

 もぞもぞと戯れているブランケットが剥がれ、祥衛が勝手に想像していた年齢よりも若い男が身を起こした。

「あぁ……わかった」

 返事をもらい、老人は階段を下りて去ってゆく。

「きみがウワサのヤスエ君か。綺麗な顔をしているな……」
「…………」

 まじまじと眺められ、祥衛は目を背けることもできず饗庭を見つめ返す。
 ビキニタイプの下着一枚の裸身は鍛えているのか引き締まっていて、顔立ちも端正だ。

「なあ大貴。後輩が出来たんだから、親切に色々教えてあげるんだぞ」

 祥衛からやっと視線をそらした饗庭は、うつぶせに寝そべっている大貴の背中に触れ、さわさわと撫でる。
 大貴も下着だけの姿だったが、臀部には大きく切れこみが入っているビキニパンツで尻の谷間があらわだ。
 暖色系の薄明かりに照らされている双丘を撫でる指先はひどく卑猥で、性的な触りかただった。

「わかってるよー……」

 寝返りをうつ大貴は、気だるげに瞼をこする。

「何時……? 祥衛来たってことはー……、もう夕方……?」

 起きあがる大貴の口を、饗庭は奪う。

「ン…………」

 濃厚な口づけ。
 肩に腕をまわされて舌を挿れられながら、大貴は祥衛を見ていた。
 やがて瞼を伏せる、勢いに流されたかのように。
 祥衛はしばらくのあいだ、彼らのディープキスを鑑賞することになる。

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「っ……あぁ……」

 口づけが途切れて、離れる顔と顔。
 開放され、息を吸いこむ大貴の首を掴む饗庭。

(このひと……見たこと……ある)

 気づいた祥衛はまばたきを忘れ、軽く戦慄する。
 饗庭の姿はテレビ番組で見かけたことがある。
 お昼のワイドショーで笑っていた姿を。

「……ッ、ふぅ……、あ……!」

 ビキニパンツ越しの性器を揉みしだかれつつ、首筋を撫でられている大貴はビクッと震えた。
 目を閉じたまま。

「う……、ぅ……」

 悩ましげな吐息を漏らすさまが、祥衛の瞳に映る。

「ヤスエ君もベッドに来て」

 客の命令には逆らえない。

「…………」

 祥衛は、言われるがままに近づいた。
 広いベッドに祥衛の影も落ちる。

「座って、間近で大貴を見てみなさい」
「祥衛……」

 薄目を開ける大貴は、どことなく不安げな表情を浮かべていた。
 饗庭はそれを見逃さず、大貴の腿をパンッと平手打つ。

「恥ずかしがっちゃダメだろう。大貴は淫乱な性玩具なんだから」
「恥ずかしがってないよ」

 大貴は取り繕うように、すぐに笑顔を浮かべる。

「お友達のヤスエ君の前でエッチな仕事をするのは辛いんだな?」
「ぜんぜんヘーキ。なにゆってんだよ、饗庭さんっ」

 叩かれた部位をつねられながら、大貴は饗庭に腕をまわして抱きつく。
 饗庭はなめらかな背を抱きしめかえした。

「次、普通の男の子みたいな態度見せたら、パパに言いつけるぞ」
「エロいことだいすき、すきだからー……!」

 声のボリュームをあげて主張する大貴の髪を、饗庭は撫でる。

「学校休んで、喜んで犯されに来るくらい好きだよな」
「うん、すき、すきだよ、ホモセックスすき!」

(……パパ……?)

 ふたたび濃密なキスを交わすさまを先程よりも間近で眺めながら、祥衛は怪訝に感じる。

(言いつけ……る? 薫子さんじゃなくて……親に?)

 やっぱりまだ祥衛は、大貴のことを深く知らない。

「んっ……、ふ……」

 口づけつつビキニパンツの生地の上から性器をまさぐられ大貴は、素足を伸ばしてくる。
 その爪先が、腰掛けている祥衛に触れた。

(すごい……、あんなになって……)

 饗庭の手にいじられ布地を持ちあげている膨らみを、祥衛はじっと見てしまう。
 絡みあいながらキスをするふたりは、ずるずるとベッドに身を沈め、寝そべって下着同士の股間を押しつけあう。
 唇と舌で交わり、ペニス同士も重なる、官能的でしかない光景が、ダウンライトの寝室で繰り広げられてゆく。

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 互いの胸や背中を撫であう彼らの手。
 音を立てて吸いあう口と、とろける唾液。
 眺めている祥衛は無意識のあいだにシーツをギュッと握っていた。
 饗庭の指が大貴の乳首をいじり、屹立すると触れるにとどまらずむしゃぶりつきだして、大貴は甘い吐息を漏らす。
 祥衛はいよいよ、いてもたってもいられなくなる。

(…………うらやましい……)

 そんなことを思う自分自身に驚きもしなかった。
 当然のように湧きだした感情だった。

「ヤスエ君も混ざりたそうだね」

 饗庭に微笑いかけられ、祥衛はうなずく。
 すると声に出して笑われる。

「はははは……将来有望な少年男娼だな」

 薄明かりに覗く大貴の表情は、どこか諦めたような顔立ちに祥衛には見えた。

「おいで。3人で気持ちよくなろう」

 客の言葉に誘われ、祥衛もベッドに崩れ、這って大貴のかたわらにすべりこむ。

「ね、脱がせていい……ヤスエの服」

 大貴は瞼を伏せたまま、饗庭にうかがう。

「ああ、大貴が裸にしてやれ」

 返答を受けて、大貴は祥衛のシャツに手をかけてきた。
 衣服を剥がされることにすすんで協力する祥衛は、ベルトは自らはずしてしまう。

「スゴイな。ヤスエ君はまだ新人なのに、こんな身体をしているのか……」

 あらわになった両乳首のピアスを饗庭に眺められ、走る羞恥も祥衛には心地良い。
 トランクスごとデニムを脱がされ、早くも半勃起となった性器を晒してしまうのも……快感だ。
 大貴に抱きしめられ、濃厚なキスを交わす。

(きもち、いい……)

 ホテルの夜とおなじく蠢く舌は絶品でしかない。
 祥衛をしびれさせてくれる。
 溢れる唾液は口許から鎖骨までも汚し、流れてゆく。
 大貴は指を滑らせ、祥衛のニップルピアスをつまむ。

「……それ……ぁあッ──……」

 キスが途切れて祥衛は啼いた。
 ピアスを揺らされ、もどかしい刺激に顔を歪める。
 大貴に首筋を舐められているとき、饗庭は祥衛のペニスを握った。

「ッうぁあ……っ……!」

 彼らに蹂躙され、祥衛は妙な声をあげ続けてしまう。

「あ……ぅ、すげー……、キモチ……い……」

 大貴も快楽を口にした。
 饗庭は大貴のモノもビキニパンツから掴みだし、祥衛と大貴をひとまとめに握り擦るからだ。

(す……ごい……、ッ……! すごい……、あぁあ……)

 ゴシゴシといたぶられ、祥衛は固く目をとじる。
 ずっと感じている快い羞恥と、ダイレクトな刺激からの興奮が混ざりあう。
 饗庭は片手ずつに少年の肉棒を握りしめ、亀頭でキスをするよう先端だけを触れあわせもして、それもまた祥衛には心地よくてたまらない。

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 祥衛は、股間に垂れこぼれるジェルの感触を覚えた。
 少年たちの下腹部を豪快に濡らした饗庭は、祥衛の睾丸を撫でたり、大貴の尻を揉んだりと楽しんでいる。

(こんなの……おか、しい……)

 大貴には舌を吸われつつ、ふと、いまさら祥衛は理性をぶり返す。

(変だ……、大貴と、こんなことして……お金をもらうなんて……)

 これが、自分の選んだ選択肢。
 踏みこんだ世界なのだけれど。

(……うれしがってる俺も……、変……だ)

 キスをして繋がっている口腔、ドロドロな涎まみれで舌をうねらせてみる。
 大貴のように上手くは出来ない。

「見てご覧、ヤスエ君」

 饗庭に呼ばれたから、大貴の両肩をつかんでいた指を離し、身を起こしてそちらに顔を向けた。

(すごい…………)

 切れこみの入ったビキニパンツにあらわな双丘の谷間、奥まった蕾を饗庭の中指がなぞった。
 潤滑性のあるジェルにぬめり、第一関節、第二関節と挿入されるとともに、大貴は喘ぐ。

「っ、ぅ……、あぁぁ……ッ……」

 弄る指先を、祥衛は食い入るように見つめてしまう。

「お尻気持ちいいな、大貴」
「……うん……、きもち、いい……」 

 掻きまわす動きとともに卑猥な水音も立つ。
 饗庭はアナルを弄りながら、もう片手では大貴の肉茎を愛撫する。
 そのせいもあり大貴の猛々しい勃起は維持され、祥衛の興味を惹きつけてやまない。

「ほら、嬉し涙だ」

 饗庭はいたぶる手を止め、ペニスの尖端をきつく握った。
「あぁあ」と、大貴の声がまた漏れる。
 尿道口から生まれた、先走りの透明な蜜液。
 祥衛はまばたきも忘れて注視してしまう。
 見つめていると、とろりとあふれて垂れこぼれた。

「こんな大貴のことをどう思う? ヤスエ君……」

 もてあそぶ手を止めないまま、饗庭は問いかけてきた。

「……す、すごくエ……エッチ……です……」

 素直な感想を述べれば、饗庭は快活に笑う。

「はははは……そうだね、エッチだね、大貴は」

 ひときわ派手に尻孔をかき混ぜてから、指を抜いた。
 瞼を伏せている大貴の頬は上気し、朱に染まっている。

「もっとエッチな大貴を見せてあげるよ」

 饗庭はベッドを離れ、テーブルから何かを取ってすぐに戻ってくる。
 祥衛が初めて見る性具だった。
 市販のモノではなく、オリジナルの改造が加えられた電動アナルパールだからだ。

「あ…………」

 大粒の球が連なり蛇のようにとぐろを巻くそれを見て、大貴はほんの一瞬怯んだ。
 けれどすぐに目を細め、口角もあげる。

「そ、そのオモチャすきっ。俺、饗庭さんには小さいころからー、いろんなオモチャで遊んでもらってるんだー」

 股をM字に割りひらきながら、大貴は祥衛に微笑む。
 饗庭も微笑んでいるが、している行為はおぞましい。
 ジェルを追加し、尖端の球を蕾に押しあてた。

「っ、うー……、ンぅううっ……ッ……」

 後孔にボールを飲みこみ、震える大貴の身体。
 ビキニパンツの前を膨らませたまま。

「気持ちいいっ、すげー……、ぞくぞくするぅ……」
「ははは、使いこまれてきた肉便器はスムーズで飲みこみが違うな」

(……にく……べんき……)

 卑猥な単語にも祥衛はドキリと出来た。
 祥衛は無意識のうちに正座してしまっており、それは密かに饗庭を悦ばせている。

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 最後の球を押しこんでから、饗庭は祥衛に問いかける。

「ヤスエ君、どうだ。大貴のアナルは拡がってるか?」

 なかば恍惚としていた祥衛はハッとして、大貴の後孔を覗きこんだ。

「……は、い……」

 あまりにも卑猥すぎて、見ているだけで祥衛の性器はますます屹立する。
 すべての全長を腹に挿れ、最後になるにつれて大玉になるパールを咥えこんだアナルはヒクヒク震え、ジェルでぬめっていやらしい。

「ひろがって……ます」 

 饗庭は、か細い返事をする祥衛に、コードでつながったスイッチを渡す。

「ヤスエ君がONにしてみなさい」
「…………」
「はやくちょうだい、ヤスエっ……」

 スイッチを握りしめていると、大貴は自らの内腿を抱えて尻をいっそう突きだした。
 ユサユサと身を振り、待ち遠しさを表現する。

「もっと気持ちよくしてっ」
「淫乱に感じるところを、ヤスエ君に見てほしくてたまらないみたいだぞ、大貴は」

 饗庭に肩を抱かれて祥衛はスイッチを押す。
 とたんにパールがうねりだし、響くのは鈍い機械音。

「あっ……! あ……う、あぁあああっ──……」

 身をよじらせる大貴の姿はとてつもなく淫らだ。

「ンぁあっ、あっ、あぁああ……!」

 音を掻き消すほどに喘ぐ大貴を見つつ、饗庭は祥衛に教えてくれる。

「鳴きかたで気にいられて愛されることもあるから、ヤスエ君もお仕事ではいい声で鳴くのを心がけるんだよ」
「は……い……」

 あまりにいやらしい大貴に、赤面してしまいつつ、うなずいた。

「長く仕込まれている大貴とおなじクオリティの性玩具になるのは、いきなりは無理だろうが、よく見て学びなさい──」
「はい…………」

 呆けた返事を繰りかえすことしかできないまま、祥衛は、ただただ、大貴の痴態を網膜に焼きつけている。

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 祥衛は寝そべり、大貴に抱きしめられていた。
 ジェルでぬめる互いの肌の感触にも祥衛は興奮する。

「……だ……いき……」
「……ヤスエ……」

 大貴は哀しげな微笑を浮かべ、それは饗庭に咎められそうな顔つきだ。
 それでもきつく腕をまわし、キスをしてくる。
 触れあう唇、歯列をなぞる舌。
 大貴になされている電動パールの振動が、祥衛にも伝わって揺らされる。

(俺も……、ほしい……)

 玩具を挿れてもらっている大貴がうらやましかった。
 その気持ちが通じたのか、饗庭は祥衛の尻を撫で、指先は双丘の谷間を這う。

「っうぅ……」

 与えられる刺激に祥衛は震える。

「大丈夫だよ、ちゃんとヤスエ君も使うから」

 饗庭はジェルを祥衛の腰に垂らした。
 ぬめるそれをアナルへと塗り伸ばされながら、一方では大貴はキスを離し、祥衛の乳首を甘く吸ったりもしてくる。

「ひッぅ……、や……、うぅ…………」

 二人に弄られるのが気持ちよくて、大貴に密接したまま夢中で尻を突きだしていた。
 ペニスを扱くのは大貴の手なのか、臀部を触りまわすのが饗庭の手なのか、祥衛はわからなくなってくる。
 頭のなかがとろけそうに熱い。

「あー……、イキそうになる、饗庭さぁんっ……」

 身をくねらせる大貴の尻孔から垂れるスイッチを、饗庭はOFFにする。

「ダメだぞ、大貴はもう2度も射精したんだから」

 いましめるように、大貴の尻を平手打った。

「今日はもう堪えなさい。何度もイクのは贅沢だ」
「うん、ちゃんとガマンできるから」

 大貴は微笑って、祥衛の玉袋を弄っている。
 いま、祥衛の後孔に指を挿れているのは饗庭らしい。

(もうだれが……どこをさわっているかなんて……関係、ない……)

 快さのなかで祥衛は吐息をこぼす。
 アナルを掻きまわしてくる饗庭の指のうねりが激しくなった。

「イイ穴してるだろ、ヤスエ」

 大貴に饗庭はうなずき、薬指も添えて三本の指で水音を立てる。

「まだ初々しいが、夜毎使いこまれてくうちにもっと具合が良くなりそうな穴だな」

 ジェルを増やして慣らされ、祥衛は至福の吐息をこぼした。

「っあう……、う──……」
「感度も良いみたいだから、使ってもらうだけじゃなく、ヤスエ君自身も楽しめるな」

 掻かれてビクビクッと震えると、饗庭に笑われる。
 笑われてしまうことも、祥衛には気持ちがいい。

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 とろけたアナルに、待ち望んでいた挿入を貰った。

「ぅうう……う……、ぅ……!」

 饗庭の肉棒を埋めこまれながら、祥衛は歓喜のあまりに視界が眩みそうになる。

「全部挿入ったぞ」

 正常位で祥衛の腰骨をつかみ、饗庭は宣言した。

「ヤスエ君に中出しするからな」 
「……ッ、あっあぁ……あ……!」

 はじめられる揺さぶりと抜き差し。
 感じる祥衛を大貴はずっと抱きしめてくれていて、頬に口づけてくれたりする。

「俺は今日ー、もう種付けしてもらったんだよ」

 さも光栄なことだと言わんばかりに、嬉しそうに大貴は告げた。
 ビキニパンツをふくらませてはみ出す勃起しきった大貴の性器や、尻穴からのコードが、肌に触れることにも祥衛はドキドキしてしまう。

「おそろいで種付けしてもらえるなんて、すげーウレシイ……」

 大貴の指先に転がされる乳首は、ずっと尖っている。
 後孔を抉られながら、祥衛は先走りをお漏らしのように分泌させていた。

「あぁ……、あぁあぁ、うああァ……──!」

 意志とは関係なく、派手にあえいでしまう。

「想像以上にド淫乱な肉便器みたいだな、ヤスエ君は」

 しみじみと言われると恥ずかしい。

「ひ、ぁう、あッ、……んぅ……」
「ほめてもらってるぜ、ヤスエ、ありがとうってゆわなきゃ……」

 大貴にうながされ、祥衛はその通り口にする。

「……あ……、りがとう、ございます…………、あぁッ……!」

 最奥にまで挿れられると、また違うところに当たって嬉しくなった。
 大貴の背中に腕をまわして、ただ快感に震えてしまう。

(ほんとうは、お客さんを、ちゃんと、見てろって……)

 怜に言われたはずだった。
 けれどあまりの快感に身体が言うことを聞かず、目を閉じてしまう。
 引きぬかれたかと思えば、また最奥まで貫かれて、翻弄される。

「しゃぶってあげるんだ、大貴」

 饗庭にペニスを握られていたが、大貴が身をすべらせ、バトンタッチを受けるように今度は大貴の手に包まれる。
 そして口に含まれ、舌先が蠢く。

「ひッあぁ……!」

 はじめて味わう大貴のフェラチオは、ありえないほどに気持ちよかった。
 信じられないほどの絶技に、性器がとろとろに溶けてしまいそうな感覚を覚える。

(な……、これ……、すご……)

「ッぅううう……っ……!!」

 絶妙な吸いつきに翻弄されたあとで、根本から尖端までを舐めあげられたりもする。

「良いだろう、大貴のフェラは」
「い……い、……いい……、ッっ…………」

 快楽に堕ちている祥衛を饗庭は笑う。

「大貴のフェラとキスのせいで、女を抱くのが馬鹿らしくなったと言う御仁(ごじん)もいるぞ」

 彼の腰使いから広がる熱と、喉奥を突いて生まれる熱がぶつかりあって、祥衛を狂わせてゆく。
 射精感は生まれてきていた。
 其処に向かって、もう、昇るだけだ。

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 だだっ広い浴室、祥衛はひとりでシャワーを浴びる。
 大貴もこの家で風呂に入ったことがあるのだろうか、とぼんやり考えながら。
 今夜の仕事はこれで終わりだ。
 それは予定通りだが、イレギュラーなことも起こった。
 大貴とふたりで帰るはずだったのに、行為後のベッドで饗庭が告げた。

『大貴だけ延長指名だ』

 祥衛の精液を嚥下したばかりの大貴は、動揺したようにビクッと震える。

『理由は分かるな』
『……ごめん、なさい……』
『パパに代わって、軽くしつけ直してやる』
『…………』

 大貴はうつむいてしまった。

(俺のせい……なのか……)

 浴室の扉を開ければ、洗面所には着てきた衣類がたたんで置かれている。
 バスタオルで身体を拭いて、祥衛は元通りに着替えた。

(……俺のほうが……男娼を……やめる、べき、なんじゃ……)

 大貴に迷惑をかけている気がする。 
 いまさらそんな懸念をよぎらせながら廊下に出ると、バスローブを纏った饗庭が現れた。

「玄関まで送るよ、ヤスエ君」

 祥衛が注視してしまったのは、饗庭の背後にいる大貴の姿だ。

「……だい、き…………」

 ビキニパンツは脱がされ、代わりにガーターベルトをされ、そこには幾つものローターのコントローラーが挟まれている。
 コードで繋がっている先は大貴の後孔だった。

「下品な姿に驚いたのか。大貴はもう、しつけ直しの最中なんだよ」
「い、っしょに帰れなくて……ご、めん……、祥衛……」

 後ろ手に手枷を嵌められている大貴は頬を真っ赤に染めながらも、微笑ってみせる。
 床に垂れる液体は潤滑剤の類なのか、反り返って怒張した大貴のペニスからの先走りなのか、祥衛には判別がつかない。

「……あ、ッ、ぁあ」

 振動音ともに大貴は身をよじらせ、ぬめる太腿をすりあわせる。

「……うあ……ぅ……!」
「私が帰ってくるまで、そこで正座していなさい」

 ブザマに身体をよじらせながらも、大貴は従う。
 呼吸を乱しつつも廊下に正座し、背筋を伸ばすと尖った乳首が際立った。

「射精したら本当にパパに電話するからな。……さあ、行こう、ヤスエ君」

 饗庭に肩を叩かれ、祥衛は去ることになった。

(大貴…………)

 置いて帰ることに気が引けて仕方がない。
 だが、客の意向がすべてだ。

「あの……大貴の……!」

 階段を降りたところで、祥衛は勇気をふりしぼった。

「なにが、だめだったん……です、か……」

 立ちどまって尋ねれば、先を歩いていた饗庭も歩をとめてくれる。

「素が出てただろう。いけないな。ヤスエ君と絡みたくないのが明らかだった」
「…………」
「大貴は『明るくていつも元気な男の子で、」

 語る饗庭はそこでいったん、息をつく。

「──エッチなことが大好きで、おじさまたちの性処理に使われるのもうれしくてたまらない、どんなニーズにも笑顔で応えてしまう淫乱な性玩具』なのだから、お友達とも嬉しそうに絡まなければダメだろう?」

(……なんだ、それ……き、められてるのか……? ……)

 祥衛は戦慄する。
 自分から飛びこんだ世界の怖さを、大貴に課せられた闇の深さを、またすこし知る。
 微笑してから饗庭は歩きだし、祥衛はふり返って階段を見たけれど、この場に留まっているわけにもいかず、玄関へとついていくしかなった。

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 饗庭邸の前には黒塗りのベンツが停まっていた。
 この屋敷にも、この高級住宅街にも似合う車だ。

「祥衛君はなにも気にしなくていい」

 祥衛ひとりで後部座席に乗りこみ、クラシックの流れる車内で沈黙していると、大通りに出たあたりで運転手が告げる。

「これは、大貴君の問題だ。大貴君が乗り越えるしかない」

 断言されても祥衛は腑に落ちない。

(俺のせい……俺が男娼になったから、大貴をなやませてる……)

 過ぎゆく夜景を眺めた。
 バイクで走って感じる風景と、車窓からの風景は、またすこし違って感じられる。

「いっそ大貴君は少年男娼をやめたらいい。そちらのほうが薫子お嬢さまもお喜びになる──」

 運転手が、薫子お嬢さま、と呼んだことに祥衛はひっかかりを覚えた。
 質問の口をはさめないまま、彼の話を聞く。

「でも、やめられないだろう。祥衛君は生活の為に少年男娼になったらしいね。大貴君にとっては心のバランスを保つために必要だ」
「……バラン……ス?」 
「あの子は解離性障害の気もありながら、ギリギリのところで正気を保っている。私からしてみれば、壊れていないのが不思議だよ。いや、もう、壊れているのか……」

 祥衛にはよくわからない話だった。
 いつもにもまして、どう返事をすればいいのか見つけられない。 

「とにかく、祥衛君は、君らしく過ごせばいい」
「……………」

 長田もそれ以上語らないから、長いあいだ車内は無言だ。
 いつのまにか、見なれた街角に戻ってきている。

「あ、の……」

 FAMILYのビル近くでやっと祥衛は、長田に質問することができた。

「なにか、大貴に、してあげられることはない……ですか……」

 たずねてから、馬鹿だなとも思う。
 自分が男娼になったことで余計大貴を苦しめているのに。

「優しい子だね」

 ビルの駐車場に車を入れ、まっすぐに停車してから、長田は微笑った。

「大貴君と友達でいたいと思ってくれているのかい、祥衛君は」
「…………」

 ゆっくりとうなずいた。
 友達という響きに緊張を覚え、無意識のうちに拳を握りしめる。

「それなら──……そうだ、大貴君は辛いことがあると、中央公園で野良猫と遊ぶよ。お嬢さまには内緒でね」

 それだけ教えてくれて、ボタン操作で扉を開く。
 祥衛が外に出ると運転手は思い出したように述べた。 

「ああ……申し遅れた、私は長田だ。薫子お嬢さまの運転手を勤めている。その縁もあって大貴くんの送迎もしている訳だ。よろしく」
「あ……よろしくおねがいします…………」 
「じゃあ、お疲れさま」

 祥衛を残し、ベンツはビルの敷地から出ていった。
 祥衛は、息を吐く。
 ポケットからガラケーを出し、時刻を見ると22時。
 まだ日付が変わっていないことを、意外に思った。