壊れた人形

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 始まったのは、淫欲の沼に沈む日々だ──。



 祥衛は怜から刺激を与えられると、それが何であろうと受け入れる。痛いこと、気持ちいいこと、恥ずかしいこと、全てを貪欲に。どんな行為でも嬉しがって感じる姿は『淫乱』としか言いようがない。還る場所のない祥衛はすがりつくように、性的な行為に居場所を見いだしている。まるで、絶望の暗闇の中で溺れて掴んだ藁(わら)がセックスだった、とでもいうような具合だ。
 今日も祥衛はあえいでいる。仕事を終え、帰宅した怜は寝室の前に立って耳をそばだててみた。扉越しでも響いてくる、少年の嬌声。
 この家に閉じこめてからというもの、祥衛は自慰が癖になっている。散々、怜が快楽を与えても、幾度射精しても、満足できないらしい。一人きりにするとすぐに己をいたぶり始める。やれやれ、とため息を吐きながら怜はドアを開けた。
「祥衛。どうしようもないコだね、キミは」
 ベッドの上、裸体で自慰に耽る姿。ローションを絡ませたべとついた手で性器を扱き、形を膨らませている。片手の指はアナルへと捩じ込まれていた。
「あ……」
 怜と目が合っても、祥衛は蕩けたような顔をしている。熱に浮かされているかのような表情だった。ぼおっとして、心の半分はもう此処にはないかのよう。
「続ければいいよ。俺が居ようと、居まいとさ」
 怜は広い寝台の端に、腰を下ろした。発情している少年を冷めた視線で眺める。傍らの窓からは夜の街がカーテンのスキ間から垣間見えた。光る高層ビルと、暗い路を走る車のライト達が反射する光景。
「出来るでしょ? キミはスケベだから人に見られてたって平気でオナニーするんだ」
「ふっ、あぁ……」
 祥衛は勃起したペニスを握りしめたまま、動作を止めた。伏せ目がちにした瞼は震えている。どうやら、恥じらいを覚えているらしい。堂々と自慰ばかりしてる癖に今さら恥ずかしいのか、と怜は鼻で笑う。寝室のダストボックスには体液を拭ったあとの丸めたティッシュが詰まっている。全て、怜が出かけてから祥衛一人で溜めたものだ。
「しろよ」
 怜が語調を強めると、祥衛は身体をびくつかせた。表情は変わらないままだが、少しばかり動揺したのだろう。早くしろ、と続けざまに言うと祥衛は握った手を上下に動かしはじめた。
 脅せば、祥衛は何でもする。怜は口許を嘲笑いの形に歪める。

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「もっと激しく。お尻もちゃんと弄るんだよ」
 観察しながら命じれば、祥衛はその通りに太腿の奥へと指を這わせた。性器をいたぶりながらアナルを突きはじめる。
「はぁあ……ッ……」
 切なそうに眉根を寄せ、吐息を零しながらおのれの指を飲み込んでいる。それは淫猥な姿だった。淫らという言葉以外は当てはまらない、とてつもなく怠惰な姿。
 まだ幼さを十分過ぎるほどに残した少年が、浅ましく快楽を貪っている──
「射精してよ。俺の前でね」
 怜は冷たい瞳で、視姦を決め込む。観賞していれば、絶頂はすぐだ。あっけなく祥衛は達する。身体をビクビク震わせ、つま先を伸ばして胸も反らし、鳴きながら噴出する。濁液を。
「あ……ぅ、出……ッ……!」
 散らす精液は、僅かだった。弄りすぎて傷んだペニスから滲む白い蜜。それは祥衛の指を汚し、滴ってゆく。
「舐めてごらんよ」
 怜が言うと、もちろん祥衛は言う通りにした。痙攣する手を口許に当て、小さく舌を出してみせる。怯えているような、こわごわとした動作だ。
「オイシイね? 祥衛」
 指を銜えながら祥衛は頷いた。そして切なげに瞼を閉じる。
 怜に眺められながら、祥衛は眠りへと堕ちていく。この部屋に来てから、少年は性的なことをしているか、寝ているかのどちらかだった。
 いいよ、眠りなよ。声に出さず怜は思った。少女のように可憐な顔立ちを見つめる。
 眺めていれば祥衛はすぐに意識を失い、銜えていた手をシーツへ落とした。裸身は陰影に覆われている。殆ど肉がついておらず、骨張って脆弱な身体。腕も腰も細すぎて、力を加えれば簡単に折れてしまいそうだ。
 ──逃げたいのなら、逃げなよ。無理をして辛い現実で生きる必要はないんだ。全部放棄してもいいんだよ。
 夢に溺れて行く祥衛に、怜は静かに語りかける。
 死ぬ事よりも生きる事のほうが辛いから死にたいんだ。幸せに生きてきた奴にはそれが分かんないんだろうけどね。俺は手首を切る事も咎めない。それで精神が落ち着くんだったら幾らでも切れば良い。憎いもののために血を流すなんて滑稽だとは思うけれど、祥衛の問題だ、どうぞ、ご勝手に。
 怜は少年の自傷痕を指でなぞる。それから布団を掛けてやり、寝室を後にした。
 祥衛が目覚めたら、また、新しい現実逃避を贈ろう。SM遊戯という名のトリップを教えてあげよう。

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 怜は祥衛を後ろ手に拘束した。昼下がりの一時、陽光差し込む居間にて──少年の白い手首に黒いカフスはよく映える。祥衛は同じ布を瞼にも巻かれ、両目を塞がれた状態で立たされていた。
 部屋に響く震動音は、祥衛の体内から聞こえる。尻穴にローターを捩じ込まれているためだ。遠隔操作出来るスイッチは怜の掌の中。祥衛は蠢きがもどかしいのか、下半身をもぞつかせていた。その動きに怜は嘲笑う。
「んふ、うぅう……」
 祥衛は喘ぐ事さえも上手くできない。口枷をされているためだ。球体を噛む、呼吸の苦しさと顎の辛さは後孔の刺激を攪拌(かくはん)する。それらは混ざり合ってなんとも言えぬ恍惚を祥衛に与えた。
「ダメじゃないか。祥衛」
 耐えられなくなってよろけ、フローリングに膝をついてしまう。すると、怜に声を掛けられた。
「立ってなきゃいけないって言ったでしょ?」
 分かっている、けれど身体が動かない。こうしている間にもアナルでは艶めかしい動きが続いており、意識は虚ろに揺らいでいた。見えなくとも触れなくとも、自分の性器が嫌というほど屹立しているのが祥衛には分かる。ソコがだらしなく多量の嬉し涙を垂らしていることも分かる──
「ねぇ。日本語分かんないのー?」
 怜は鼻で笑ったようだ。そして祥衛は背中に感触を覚える。踏まれているのだとすぐに理解した。
「飼い主の命令を聞けないんだ、キミは」
「お……ふうぅ……」
 口の端から零れる唾液。汚いなぁ、とわざとらしく声を上げまた怜は笑う。踏みつけられている苦痛から開放されると、今度は強引に髪を掴まれた。引き上げられてより激しい痛みが走る。
「うぅううう……!」
「立たなきゃ、外へ放り出しちゃおうか。この格好のまま」
「あぅ……」
 それは、嫌だ……祥衛は首を横に振る。そんなことをされたら恥ずかし過ぎる。怜は追い討ちを掛けるように「学校の前に棄ててあげようね」なんて言って苛める。祥衛はますます、必死に嫌々と抗った。
「ハハハハ。変態だってバレたくないんだね、淫乱のくせにさ!」
 頭から手を離され、祥衛はふらつきながらも踏ん張る。何故だか悲しくなってきて、泣いてしまいそうな気分になった。それなのに興奮しているのも事実で、祥衛の心は混乱に追い込まれてゆく。涎とカウパー液、汗にまみれていく身体には絶えず振動も続いている。もう、わけがわからない。痛いのか、苦しいのか、気持ちいいのか、嬉しいのか。
 けれどこの混乱に快さを覚えている自分自身もいる。もっとカキマワサレタイ。怜くんに乱されたい。めちゃくちゃにして欲しい。
 壊れても構わない、どうせもう居場所も無いんだから。裸で街に放り出されても、それはそれで惨めさにウレシクなるかもしれない……思考が歪む。

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 また、とある昼下がりには浴室での遊戯が行われた。
 バスタブに手を付き腰を突き出す祥衛の裸体を、怜は愉しそうに眺める。元々傷だらけだった少年の肌はこの部屋に来てから余計に痛々しさを増していた。交錯する鞭の痕、首筋の噛み痕、手錠と足枷の擦れた痕など──刻まれた新しい傷達。
 そんなズタズタの身体を震わせて、祥衛は荒い呼吸を繰り返す。祥衛を今も支配しているのは、恥ずかしさと痛みと快さが混ざり合った極上の困惑。ナチュラル・ハイの恍惚に酔いしれながら、抜き差しされているアナルバイブの振動に涎を垂らす。
 あさましい姿だ、貪欲に快楽をむさぼって、浴室中にアエギを反響させている少年の図は。薄く陰毛の生えかけた性器は大人のように膨張し、先端からはやはり蜜を滴らせていた。怜の元に来てから、祥衛のココは絶えず嬉し涙を流し続けている。
 挿れられているモノのサイズも日に日に太く凶悪的な形に成り、今日はイボのついたおぞましき物体を嵌められていた。それを怜は掴み、巧みな手首の返しでピストン運動を施している。
 遠ざかる祥衛の意識……こうして浴槽の縁に手を掛けて、全裸で股を開いて他人に尻穴までも晒し、オモチャを抜き差しされているなんて……シチュエーションだけで興奮のあまり気を失いそうだ。
 ズチュズチュと沸く猥褻的な音は与えられたローションが抽送の度に腸壁で掻き混ざる音。液体は溢れて玉袋の裏や内股を伝い、細い脚を筋のように流れてタイルの床へと続いてゆく。
「ふッ、あぁ……」
 バイブの刺激がいちばん気持ちいい処を掠めると切なくなって、祥衛は自らの手首に噛みついた。治りかけの自傷痕に歯を立て、身体の奥へと広がる痺れに耐える。こうでもしないと崩れ落ちてしまいそうだった。勝手に体勢を変えたら、罰を与えられる。叩かれるくらいならいいけれど、水を飲ませてもらえなかったり、食事を与えてもらえなかったりするから、辛い。
 しかし、その辛さにもそれはそれで興奮してしまう祥衛だ。折檻だとか、お仕置きという単語を聞いただけでペニスがヒクヒク蜜を零してしまう、どうしようもない変態マゾ。元々少年が持っていた淫性は、怜の部屋に閉じこめられてからというもの益々まがまがしく開花している。

 ──でも、まだ、祥衛は『蕾』だ。

 この少年はもっともっといやらしくなれる。もっと頭のおかしい淫乱の変態に成れる──怜は思ってほくそ笑み、突き上げる玩具の角度を変えた。
「ココが悦いんでしょ?」
 瞬間、祥衛の背中が反り返る。アエギの種類も変わった。

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「!! ……あぁああッ…!」
 強く前立腺を突かれ、祥衛は痙攣する。全身で悦楽を表現する祥衛の姿に、怜は唇を歪めた。
「あ、ぁ、イッ……くぅう……」
「イキなよ」
 怜の声と同時に爆ぜる、祥衛の白濁。絶頂は飛び散り、浴槽の縁へと滴った。
「はははは。今日はもう何回目だろうね?」
 肩で息をし、爪先立つ祥衛の身体から、怜はバイブを抜きとる。ローションがどろどろと垂れて、祥衛の腿は精液とその潤滑液と、多量に漏れた先走りとでぬめっていた。猥褻に塗れている。
「けどキミはすけべだから、まだまだおちんちんからセイエキが出そうだね」
 タイルの上に玩具を投げ捨てると、怜はその場にしゃがんだ。荒い呼吸を繰り返している祥衛の腿の間に腕を差し込み、後ろから射精したばかりの性器を掴む。
「!」
 瞬間、祥衛の身体はビクツク。達してすぐのペニスにダイレクトな刺激は強すぎて、身体が跳ねてしまう。
「あっ、れ……いくんッ、ひ、ッ、あぁああ!」
 まるで牛のミルクを搾るかのように怜は弄くる。片手では玉袋をもてあそんだり、バイブのせいで拡がってしまった尻穴に指を掛けて苛めてきた。祥衛は肉棒を扱かれながら、表情を歪め懸命にもがく。
「や……め、……っ、や……ぅ、あ……!!」
「また先走り漏らしてるくせに。何がイヤなの?」
「あッ、ひ、うぅうう………!!」
 バスタブを掴み、歯を食いしばる祥衛の鳴き声で浴室は充ちる。怜の手管により、やはり祥衛は簡単にもう一度頂(いただき)へと連れ去られた。祥衛の思考は真っ白になる。絶叫しながら、再度の濁液を撒き散らす。
「ぅあぁあまたイぃいいううう……!!!」
 普段は表情も乏しく、口数も少なく、おとなしい少年の『本来の姿』を怜は彼のペニスを握りしめながら眺めた。性的なことに溺れているとき、祥衛は最も感情豊かになる。今もそう、連続して訪れた歓喜の瞬間に眼球見開きだらしなく唾液を垂らし、口許ではわずかに微笑みさえ浮かべていた。
「ほら。また、射精出来たね」
 怜も笑んでゆっくりと両手を離す。汚れた手を祥衛の背中になすりつけると、少年はずるずると力を無くして膝から崩れ落ちてゆく。そして放心したようにバスタブに胸や頬を預け、折り畳んだ脚の間には液体が広がりはじめた。失禁だ。本当に全身の力がゆるんだのだろう。
「ははは、汚いなぁ、祥衛は」
 怜は尿を踏む前に、笑いながら浴室を出る。意識をうつろにし、瞼を閉じておのれの小便に塗れている祥衛を残したまま扉を閉めた。鎖と南京錠を取り出し、密室を封印する。
 ──……勝手に崩れてお漏らしまでしちゃったから、罰として監禁だ。もっとも、キミは自由を奪われて快感を覚えるんだろうけどね?……

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 祥衛が久しぶりに外の世界へと連れ出されたのは、怜の部屋に来てどれ位経ってからのことだろう。現実世界に背を向けたあの日より、季節は真夏に近づいていた。裸に着けたレインコート一枚と、暑い空気がまとわりつく。
 今日のように、公衆の場で、恥ずかしい目に遭わされることは多々あった……例えば、庭に全裸で放り出されたときのこと。母の彼氏の家で、べつに彼らの機嫌を損ねることなどしていないのに、急にそんな苛めを受けた。
 学校でも服を脱がされ、校庭のホースで水を浴びせかけられて、がたがた震えながら教室に走ったこともある。全裸で廊下を急ぐ姿はクラスメイト達に笑われ、恥ずかしくて、悲しかった。濡れた服で濡れた肌を拭き、ひとりだけ教室で体操服を着て過ごした。担任は、気付いているはずなのに何も言ってくれず──
 やめよう。考えるのは、よそう。祥衛は怜の後ろを歩きながら思考を止める。
 俺はもうキモチイイことしかせずに生きて行くんだから。みじめで辛くて誰も分かってくれなくて痛くてさみしくてユウウツしかなくて孤独過ぎた毎日の事はもう忘れて、捨てるんだ……
「祥衛」
 歩く街角、ひと気のない通りで怜は脚を止めた。
 それに祥衛も従う。女物のミュールを履かされた足でその場に留まる。
「脱いでごらん」
『飼い主』は無表情でそう命じる。祥衛は細い指をコートのボタンに掛けた。抗う、という選択肢は祥衛にはない。それに、此処でこれを脱いだらきっと嬉しくなって、興奮することも自分自身で分かっているから、衣服を脱ぐ動作に躊躇いなど覚えない。
「……変態だねー、キミは」
 怜は祥衛の脱いだコートを預かり、目を細めた。
 素肌を晒した祥衛は、全裸にミュールだけ履いて夜の街に立っている。ちぐはぐな姿だ、細い肢体はリボン飾りの付いた靴に似合い、確かに少女のようではあるけれど──ペニスはいきり立って勃起を示している。整った顔立ちと相俟って、その姿は両性具有のようでもある。
 歩きなよ、と怜が言うと、裸身の祥衛はその通りアスファルトの上一歩を踏み出す。勃起した性器を揺らし、何も纏わない傷アザだらけの肉体を披露しながら、祥衛は夜の裏通りを歩む。
 もし、誰かが通りかかったらどうしよう、不安な思いも祥衛の脳裏にはよぎる。けれど快感のほうが勝っていた。学校の帰りに歩いたことのある、通学路でこんな痴態を晒しているなんて。ドキドキして、心臓が爆ぜそうだ。高鳴る鼓動は余計に性器を昂ぶらせる。
 知っている人にこの姿を見られたら、文字通り人生が終わるかも知れない。でも、祥衛にそんなことはどうでも良くなってきていた。もう、現実(ここ)で生きることを捨てているのだから……

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 この快い時間がずっと続けば良い。終わらないで欲しい。恥ずかしさと、ドキドキと、気持ちよさに溺れていたい。
 祥衛のその想いは、祈りにも似ていた。悲しい現実を忘れたくて、ひたすら性的な事柄に没頭する。
「あっ、あぁあ、あッ、あ……!」
 反響するおのれの声は、どこか遠くで響いているような感じもする。連れ込まれたホテルで犯され、揺れながらそれを聞いているのだ。
 怜の腰つきは巧みで、突き込む腰の動きは絶妙な快感を与えてくれる。かと思うと、ときには荒々しく怜自身の欲望を満たすためだけの動きも行う。受け身の祥衛に対し、容赦の無い、抉るような抜き差しで穿つ。
 今もシーツの上、祥衛は手のひらと膝をついて後ろから激しく突き込まれている。痛い……内臓を抉られる感覚が祥衛を襲う。
 けれど、その痛みに萎えるかというと、答えは否。祥衛の性器は興奮を維持している。苦痛と快楽の波はまるでマーブル模様のように混ざり合って、祥衛を痺れさせてくれるのだった。それはまるで、汐の満ち引きのような──痛みと快楽は表裏一体になり、祥衛を激しく責め立てる。
「ひ、っッ、うっ、くぅ……、あっ、あ……」
 祥衛は打ち込まれて鳴きながら、暑くて、熱くて、溶けてしまいそうだとも思っていた。溶けるのもいいかもしれない。このまま、ベッドに。それか、怜の身体に。……溶けた後には消えてしまいたい。快感の中で消えうせることが出来たならどんなに幸せだろう?
 消滅するのが無理なら、ずっと犯されていたい。ずっと溺れていたい。朝も夜もなく、永遠にめちゃくちゃにして欲しい。セックスのことしか考えられないようなアタマにされてもいい、壊されたい。
「れい、くん……」
 揺れながら、祥衛は『飼い主』の名を紡いだ。
「どうしたの祥衛」
 上から髪をぐしゃりと掴まれながら、返される声。その声に祥衛は安堵する。ペニスを後孔に捩じ入れられながら、絡みつくローションと体液と、肌と肌の交わりとを味わいながらほっとする。
 怜は導いてくれる。怜に身を委ねていれば、もっとすごい処へと連れていってくれる。怜は言った、堕ちれば、其処には憎しみも悲しみも無いと。あるのは悦楽だけなのだと。
 行きたい。その場所に行きたい。だからもっと意識を飛ばして、何も考えられなくなるほどにオカシクして欲しい。祥衛は願う。二度と現実に帰れなくても構わないから、俺を廃人にして──!