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 四季彩は郊外にある。濃霧の漂う竹林の奥に、渡り廊下を連ねた広大な屋敷群を潜ませている。

 健次はその一番奥にある建物へと通された。売春商売をする廓でなく、越前谷家の人々が暮らす母屋だ。

 越前谷家に仕える者たちは皆漆黒のスーツで寡黙、無駄口を叩かない。よく調教されている。彼らに案内された和室には着物姿の青年、秀乃がくつろいでいた。

「待っていたよ。健次君……皆は下がってくれ。彼と二人で過ごしたいんだ」

 命じられれば、即座に去ってゆく使用人達。健次と秀乃を残し、襖は閉じられる。

「さてと……もっとそばに来なよ。健次君は俺のモノになったんだろう?」

 微笑んで手招きするにこやかな表情は、学校で見る秀乃と何ら変わらない。健次は腕組みをした。

「……笑わせるな。俺は、てめえが一体何を考えてやがるのか、聞きに来ただけだ」
「何って、ただ俺は健次君を手に入れたかっただけさ」
「ふざけやがって……」

 健次は舌打ちを零し、馨る匂いに顔を歪める。屋敷の中に入ってからずっと微かに感じていた香りが、この部屋ではさらに強烈だ。春江の使う白蓮の香水にも似ているけれど、匂いのきつさは比べ物にならない。

「駄目なのか。俺は健次君に惹かれる、健次が欲しい」
 
 秀乃は立ち上がり、歩み寄ってくる。押しのけようとした健次だったが──

「……?! ……」
 
 身体の力が抜け、畳に崩れてしまう。何故? 健次は驚き、目を見開く。

「また、殴られては敵わないからね。姐さんにお香を調合してもらった。俺達は慣れているけど、初めて味わう健次には良く効くだろう?」

 いつのまにか呼び捨てにされている。抱きしめられ唇を奪われた。瞬間に、健次に泡立つのは不快感。

「! や…めろ……!!」

 渾身の力を込めれば、秀乃を剥がすことができた。けれどそれは最後の力。健次の手足は重りをつけられたように麻痺してゆき、瞼さえも重くなった。

 かすむ意識の中で再びキスをされ、舌に錠剤を与えられる。唾液とともに咽喉奥に流しこまれてゆく。怪しい薬であることは明白だが、健次はもう抗えない。

「すぐに意識も遠くなって来るよ。俺に身体を委ねればいい、素直に」

 健次を腕の中に閉じこめ、秀乃は笑う。

「やっと手に入れた、愛しい人」

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 秀乃は健次を引きずって、奥の寝室に運んだ。既に敷いてある布団の上に寝転がせる。

 瞼を閉じ、寝息を繰り返す顔立ちには色気があった。映像で見ていたときも秀乃はいつも『やらしい寝顔をして』と思い続けてきたが、実際に目にしても感想は変わらない。

「また殴られたのか? 可哀相にな……」

 学校で会った時には無かった傷を見つけ、思わずなぞってみる。口許も切って腫れさせていて、半渇きの血はまだ生々しく、真新しい。

「俺は、健次を殴らないよ。健次に殴られても。まだアザになっていて痛むけど」

 皮肉めいて呟き、口許に触れていた指を首筋に這わせる。鎖骨から服越しの胸元へ、腹部へ。ひきしまった肉感がたまらない。好事家どもがそそる身体と口をそろえて言うのも理解できる。

 直に触れられる嬉しさに微笑ってしまいながら、カットソーをたくしあげた。バックルを外し、黒のデニムも下着ごと脱がせる。現れる性器は剃毛されたばかりらしくすべすべだ。秀乃は思わず息を飲んだ。壮一のことはあまり好きでないが、彼の趣味には賛同したい。

「ッ……ん……」

 裸身に剥くと、健次は動いた。まとわりつく秀乃を鬱陶しがるように寝返りをうち、微かに表情も歪める。

「あぁ本当に可愛いな……離さない。二度と屋敷から出したくない。俺のモノにしたんだから」

 引き寄せられるように接吻をした。舌でこじあけて内部を探ると、健次は無意識に絡め返してくれる。思わぬ反応に興奮する秀乃。健次はキスに慣れている、散々映像集を見て知っているが、実際に味わえば強く嫉妬を覚え複雑な心境にもなった。けれど、生まれる刺激と発情にマイナスな感情は誤魔化されもする。

「いやらしい子だ、健次は。こんなキスの仕方を知ってるんだから。これから俺が、もっとやらしい身体にしてやるけどね……」

 唇を離したあとも、秀乃は肌を舐め続ける。耳朶に這わせ、胸の突起は口に含む。唾液に濡らし、愛でてゆけば次第に勃起してゆく健次のペニス。それを目線に入れると、いよいよ手にして感触を握りしめた。

 意図的に、唾液を垂らす。

 遊廓四季彩を継ぐ者は、体液の媚薬化を求められる。生まれてからずっと日常的に秘伝の媚薬を飲まされ、そのうちに血も涙も汗も、分泌する全てに媚薬と同じ効果が含まれるように成った。

 この体液を絡めれば、どんな者も発情する。香りで弱らせ、睡眠薬で眠らせた健次を永遠に辱めるために秀乃は自らの漏らす先走りも塗りつける。

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 涎と透明な蜜に絡んだ性器を扱きながらも、尻の窄みに指を伸ばす。滴る体液では足りないかと思い、瓶入りの潤滑剤を手にした。それにも強烈な媚薬が含まれている。垂らし、ぬるませて後孔を弄る。

 蕾には当然のように傷ついた痕跡があった。とはいえ酷く炎症を起こしているということもない。近頃は地獄のようなレイプは行われていないのだと、秀乃は愛撫しながらも安心する。

「……!!」

 ふと、健次は派手な反応を見せた。眉間に皴を寄せてかぶりをふる。が、完全には覚醒しておらず、幼児期のような表情の歪めかただ。

「どうしたんだ、健次……」
「……、ア……」
「大丈夫だよ」
「……ッ、ン、や……」

 拒絶の素振り。けれど秀乃は行為を止めない。香りと薬を味わった状態で、よく意識を取り戻したと感心しつつ──怯えたように身をこわばらせる健次を嬲る。

「ッ、う、あぁ……!」
「……怖いんだね。当たり前か、あんなにひどいことをいっぱいされて来たんだ。でも俺も健次にひどいことをしてもいいかな、健次のことが好きだから……」

 言い聞かせながらも、おかしなことを言っているとは我ながら思う秀乃だ。指を二本に増やして粘膜をほぐしてゆく。もう片方の手では屹立した健次のペニスを触り続けている。

「気持ちよくして、嫌じゃなくしてやる」
「イヤだ、イヤだ……」
「ここを弄られるのが大好きな身体になるんだよ、健次は俺のお嫁さんになるんだから……」

 張りつめたペニスからは先走りを垂らしているというのに、健次は苦しそうだ。ギュッと目を閉じてシーツをきつく掴む姿は、秀乃を視覚的に攻めたて、欲情を加速させるばかり。

「あぁ、あぁあァッ、あぁ!」
「はははは、凄いな、本当にキツイや、健次の中」
「はなれろ、イヤだ、さわるなぁあ……」

 殴ろうとしたのか、健次は腕を振る。けれども力は無く、秀乃にはじゃれているかのように当たるのみ。喘ぐ言葉もうわ言とそう変わらない。

 尻穴は解れた。秀乃は自らのモノを取り出す──

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 あてがえば、あまりにも狭い。食い込む痛みに秀乃は眉を顰めた。しっかりと解したにも関わらず、肉を裂いてゆくような感触だ。

「イヤ、イヤだ……! ヤあぁああああッ……」

 健次は紅潮した裸身を痙攣させ、頭も横に振る。泣きそうな表情をしていて、その顔も秀乃の心をときめかせてくれた。

「はるえ、たすけ、ッ、イヤだ、怖い……」
「ハルエ?」
「怖い……!」

 今は自分と二人きりなのに、家政婦の名を呼ぶなんて許せない。秀乃は憤慨した、聞き捨てならぬ言葉だ。思わず、挿入する動きが少し乱暴になる。

「あぅうぅッ…!」
「健次……何言ってるんだ…? いけない子だ、俺の名前以外呼ばないでよ……」
「痛い、痛……ぃ、これ、イヤ……ぁあ」
「健次が悪いんだ、この口が悪いんだ!」
「ウぁあ……!」
 
 腰をグリグリと蠢かせながら、顎を掴んだ。強い力を込めて顔を揺さぶってやる。唇にも爪を立てた。

「ヒデノって呼べ、誰が犯してるんだ? 健次のことを今犯してるのは俺だろ?」
「す、け、ッ、あぁああぁ、嫌──」
「助けたのは俺だよ健次。もう壮一さんには手出しさせない、俺があの家から助けたのに!」
「はなれ、ろ──、抜け、たすけ……はるえ!」
「健次ぃぃっ!!」

 健次の様子は幼児期の映像そのものだ。秀乃は悲しくなる。どうして? 健次はこんなにも勃起させて蜜まで垂らして明らかに発情しているくせにどうして嫌がる?

「俺しか見えなくなるほどに。犯し続けてやる。健次の頭の中も身体も俺だけでいっぱいにしてやる、家政婦の名前なんて思い出せなくしてやる。健次、健次、健次……俺はもう健次でいっぱいだよ、だから健次も俺だけに狂ってよ!」

 揺り動かし、抜き差しをはじめながら話しかける。感情のまま乱雑に腰を振った。健次は苦悶の表情で春江の名を何度も、何度も呟く。それは秀乃の苛立ちをあおり、頬を張りたくなる衝動に駆られる。

 けれども必死に堪える、ここで手を上げれば壮一や、壮一の取り巻きと何も変わらない、同じだ。

 彼らとは違う。健次を愛しているから犯す。それを健次に知って欲しい、気付いて欲しい。

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 ──健次は困惑する。

 誰かが鳴いていると思った。が、浅い眠りと深い眠りとを繰り返しているうちに、自分の唇から発せられているものだと気付く。タスケテといううわ言を聞いた気もしたが、それも自分の声だったとは心外だ。

「あぁあッ、あぁッ、はぁ、アァ、アぁッ!」

 状況も認識した。今は布団に手をつき、後ろから犯されている。ひどく身体が火照っていて多量に汗をかいていた。犯しているのは、越前谷秀乃。

「アぅ、あッ、あっ、ンっ、ん──…!!」

 気持ち良い。

 突かれる度、身体の奥から蜜が迸る。尻穴は爛熟した果実のようにジュクジュクとして、腸壁が蠢いているのがわかる。こんな状態はシラフではありえない。媚薬を使われているのかと、ぼんやりとした頭で思った。凄まじく押し寄せる快楽で深くモノを考えられない。

「き、さま、俺に、な……に、を、ッして、」

 それでも、健次は問いかけた。犯されながら顔を後ろを向ければ、健次の腰を掴んで結合し、君臨している秀乃がいる。

「気持ち良くしてやってる、健次のことを」
「……、ン、くッ…!」

 薄笑みを浮かべる秀乃に軽く揺すられ、乳首にそっと手をやられただけで肌が粟立つ。

「や、ッ、さわ、るな」
「ずっと、そればっかりだな。どうして触られたくないんだ? イイんだろ?」
「あ、あッ、ひ……!」

 片手では腰を撫でられ、片手では胸を弄られる。そうされながらもリズミカルな抜き差しは続き、健次は刺激に悶えることしかできない。秀乃の肉杭が最奥に当たる度に電流が身体を駆け抜けるかのようだった。

「やめ…ろ! 変態、がぁッ……!!」

 快感に溺れながら言っても、むしろ秀乃を悦ばせるだけ。乱れた呼吸で何を喋ってもアエギに変わってしまう。これ以上喋ってもみじめさを味わうだけだと気付き、健次はシーツを噛む。異常なほどに暑い。

「おかしくなりそうなくらい、イイ癖に」
「……、あッ、あッ、アァア……」
「お尻でも立派に感じれるじゃないか、健次。すぐに後ろだけでイケるようになれるさ」
「あ、あっ、うァああ……!」

 喉から漏れる嬌声を我慢できない。健次は羞恥を感じて頬を赤らめた。悔しい。どうしてこんなに好き勝手にされている? 簡単に秀乃の手に落ちた? 喧嘩をするつもりで此処に来たのに──

「俺をなめるな。四季彩の当主に成る男なんだ」

 乳首を弄っていた指は、股間へと降りていく。ペニスを握られると、それだけで漏らしてしまいそうになるほどの快楽が込み上げる。微睡みの中で何度も射精してしまったらしいことは濡れた布団と、肌に飛沫いたものが半渇きになった感触で分かった。

「グチュグチュだ、触るたびにイって。健次がお父さん達に調教されてることは聞いて知ってたよ、でもこんなに淫乱だとは知らなかった」
「……ぐ、ッ、うぅ……」

 秀乃の嗤いに悔しさは一層募った。けれど、屈辱を感じる余裕もないほどに気持ち良い。性器とアナルとを同時に攻められれば、すぐに絶頂に追いやられる。

「い、あぁア……、あ……!!」

 滴る肉棒から白濁を垂らし、健次は声にならない悲鳴を上げた。腕を突っ張って震えていると交わりを解かれた。崩れる体位。抜けてしまっても挿入されているような余韻が残り、熱く疼く。

「可愛い。本当に可愛い。好きだ、ずっとイカセ続けてやるよ、俺だけを見ていて欲しい、健次……」 
「……」

 与えられるキスに、頭がぼおっとする。舌を挿れられても抵抗なく絡めることができた。快楽に引きずられて思考回路がまともにはたらかない……