蜜月

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 謹慎期間を終えても『家庭の事情』と休学を続ける相沢健次は、このまま自主退学をするのでは──と、校内で流れる噂を耳にするたび、優越感を覚える秀乃だ。

 本当は家の事情で学校に来れないんじゃない。この手でとらえ、ずっと部屋に閉じこめている。

 狂っていると言われても良い。
 健次のことが好きだから。

「ただいま、健次!」

 授業を終えてまっすぐに帰宅すると、寝室の襖を開ける。そこには布団に横たわる姿があった。後ろ手に縄をかけられ、襦袢を汗でびっしょりと濡らした想い人。

 健次は呼吸を荒げ、頬を染め、高熱にうなされているようにも見える。だが、病気ではなく、欲情して苦しんでいるのだ。

 四季彩当主の体液に絡めとられた者は四六時中発情して、見境なく快感だけを欲しがるようになるのが常。

 健次も例にもれず、ひどい疼きに蝕まれているのは確かだ。それは絶え間なく分泌される先走りの蜜や、勃起を維持したままの性器が物語っている。

 それなのに、健次は自分からは求めない。自慰をすることもなかった。秀乃が触れない限り、悶えながらも耐え続ける。

 称賛に値するほどの精神力──
 本当なら、とっくに壊れてもおかしくないのに。

「凄いな、溜まりきってるじゃないか」

 秀乃は薄笑いを浮かべ、健次のそばに近づいて膝をつく。じとじとに濡れた襦袢を捲ってやれば、突き上がったペニスが望めた。

「ッ、ひっ、う……!」

 秀乃に注視されるだけで、健次は縛られた身体を蠢かす。下腹部に指を伸ばしてやれば、呼吸も荒くなる。

「……くぅッ、あぁ……!」

 驚くべきことに、秀乃がその肉茎を掴んだだけで射精に至った。噴出する白濁液。それは赤らんだ健次の頬や、秀乃のレンズにまで飛び散る。

 秀乃はクスクスと声を出して笑い、おのれの口許に跳ねた雫は舌で舐め取った。

「……健次は強情だからいけない。辛かったら使用人に頼めば良いと言っているだろう、抜いてくれって」
「! ば、かにするな……!」

 ゼエゼエと呼吸を乱し、達した身体を震わせながら睨まれても、まるで説得力は無い。

 秀乃は派手に粗相をしたばかりのペニスを、軽く扱いてやる。爆発しそうな肉感は萎える気配もない。健次は苦しげに表情を歪める。

「くそッ、ぐ……」
「気持ち良いな? もっと出していいんだよ」
「ッあ……!」

 嫌々と頭を横に振る健次。だが、秀乃は手管を止めない。精液に塗れた亀頭を口に含み、味わうように吸付いてやれば、あっけなく二度目の射精を行った。

「ン、く、ぅ……!!」

 反り返る足先はシーツを蹴る。秀乃は刀身の全てを舐めあげて濃厚な濁液を飲み込んだ。濃厚な味を愛しく嚥下する。それは美味で芳醇、秀乃を酔わせるあまりにも淫らな蜜だ。

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 なし崩しに性交を行った。丹念に突いて再び射精をさせ、自らも健次の中で達する。

 切り上げたあと、秀乃は隣室で自習をはじめる。襖を開け放って健次を観察しながらも、学習机に向かうひととき。シャープペンを走らせつつ、時折目線をやり観察して愉しむ。

 健次はずいぶんと長い間、放心状態の身体を投げ出していた。やっとのことで起き上がると、布団に座り込んでいる。呼吸も表情も辛そうなままで、うつむき、シーツをぎゅっと掴んだりしていた。絶頂を味わっても疼きが消えないのだろう。

 抱いてくれと甘えてくれれば、いつでも抱くのに。
 絶えず快楽を与えてやるのに。
 秀乃はそのつもりでいる。

 けれど健次が求めてこない。ただただ我慢している。

 ここまで恥態をさらし、慰みものにされながらも、耐えるのは最後のプライドなのだろうか?

「参るな。健次の気位の高さには……」

 使用人に淹れさせたコーヒーを飲み干すと、秀乃は椅子を立つ。秀乃が寝室への敷居をまたぐだけで、健次は明らかにビクついた。

「そう警戒しないでくれ、悪いようにはしない」

 相変わらず張りつめた肉棒に手を伸ばす。透明な蜜が滴り、はだけた襦袢に糸を引いている始末だ。

 あまりにも淫靡な状態を笑ってやると、両肩を掴んで押し倒した。今の健次に抗う力は無く、あっけなく体勢は崩れる。仰向けになれば熱に浮かされたような表情もその姿もよく観察できて、秀乃には嬉しい。
 
 首筋も、鎖骨も、乳首も、汗ではりついた前髪も、半開きの唇からの吐息も、閉じた瞼も、腿も、なめらかについた筋肉も、足先までも、愛おしい。

 健次の全てに色香を感じ、秀乃はときめく。

「どうしたら、俺に甘えてくれる? ヒデノって呼んでくれるんだ? 素直になってくれる……?」

 分からなくて、秀乃はまた健次の性感帯を探る。犯し続けることしかできない。どうすればいいのか見当がつかない。身体を無理やりに繋いでも、心は奪えないのだということを、ここしばらくの間で嫌というほど認識させられたのに。

「健次ッ……!」

 どうすれば、健次に認めてもらえるのだろう。

 名を囁くのはいつも自分だけで、健次の口からは決して紡がれない。秀乃という名前も、想う言葉も。

「……ローションいらない位だな、こんなにグチョグチョにして。本当は早くイキたいくせに。イッてもイッても足りないくせにな! 淫乱……!」

 心にも無い台詞を吐き、雑に扱く。水音を荒立たせたあとは股を割って尻穴も掻き回す。後ろを弄られるのを嫌う健次はやはり眉間に皴を寄せた。いつも見せる拒絶のサイン。けれど、構わず秀乃は中指と人さし指で掻いて弄り続ける。

 健次の滲ませる汗は睫毛にも宿って、まるで涙のようなのに。

 秀乃は衝動を止めることができない。取り憑かれたかのように蹂躙する、健次を。

「イカせてって甘えろよ……!」

 嬲り廻し先走りの液塗れにして、秀乃は迫った。

「イキたい、秀乃、って。言えよ!」
「だれ、が……!!」

 ここにきても健次は鋭い眼光を見せつける。ねじふせられ、艶っぽい息を零しながら。

 健次が、跪く訳がない。
 それを絶望的に理解しつつある。秀乃は泣きそうな気持ちになりながら、自身のファスナーを下ろした。

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 健次に覆い被さった。分からないまま出来るのは、飽きもせず一塊になることだけ。固く欲情したモノを入り口に押しつけ、捩じ込んでゆく。

「好きだよ、健次。好きなんだよ……!」

 伝わらないと分かっていても、秀乃は伝えずにはいられない。雄膣をこじ開けながら狂った睦言を奏でる。

「健次はさ、俺のお嫁さんになるんだ、これからもずうっと毎日子作りするんだ。嫌がったって無駄、俺は一生健次を閉じこめて可愛がりたい」

 狭い孔を突き進めば、健次は呻く。布団を蹴り、もがく動作も見せた。秀乃のシャツを掴みもする。

「っ、ぐッ、嫌、だ……!」
「相変わらずの締めつけだ、凄いや、健次」
「やめ、ろ! やめ……」
「大好きだよ」

 苦悶の表情も秀乃には愛しい。熱く爛れた粘膜に全てを埋め込むと、ゆっくりと揺らしつけ、侵食してゆく。

 ッ、と吐息を漏らしたあと健次はきゅっと唇をつむった。映像集でも良く見た、喘いでしまうのを我慢するときの顔。その耐える顔が余計に凌辱者を悦ばせると健次は気付いているのだろうか?

「駄目だ、駄目だ……聞かせろよ、健次の声!」

 秀乃は興奮を昂ぶらせながらも、顎を掴む。親指で口を押し開け歯列に触れる。健次の表情はますます嫌そうに歪むばかり。

「い、はァッ、あ……」
「今更恥ずかしがっても、意味無い。もう俺は健次の恥ずかしい所全部知ったのに」
「うあっ、あッ、あぁぅ……!」

 健次は微かな反抗なのか、瞼を強く閉じた。そんな健次に接吻をする。唾液という名の媚薬を注ぎ、悦楽に縛りつける。健次を性の虜にしたい。

 だが、虜になっているのは秀乃のほうなのだ。健次という存在が秀乃にとっては媚薬で、絶え間なく発情を促し続ける。底なしに魅せて、誘い込む。
 
「あぁあああッ、あ──!!」

 ある瞬間、健次は胸を反らしひときわ大きく鳴いた。結合しながら、秀乃に握られたペニスを爆ぜさせる。ほとばしる濁液──白く飛沫き、この瞬間ばかりは健次の表情も恍惚となる。太腿もビクビクと痙攣し、挿入している秀乃には食いちぎりそうなほどの締めつけを与えてきた。

「イッたね。また、俺に掘られて」

 秀乃は抽送を止め、腕で目元を隠す健次を見つめる。悔しいのか、恥ずかしいのか、屈辱を覚えているのか、健次の拳は固く握られて震えていた。秀乃はその手首を掴んで顔をあらわにしてやる。

「隠すなよ。イキ顔見られるの恥ずかしいのか」
「る、せぇ……!」

 健次は秀乃を振り払う。弱っている健次にとって、渾身の力だっただろう。

「意味無いって今言ったばかりだろ。剃毛チンポもやらしいケツの孔も調教済の身体も全部晒して、毎日俺にザーメン絞り取られてる癖に」

 わざと意地悪なことを言えば、健次の表情はこれ以上ないほど不機嫌に歪んだ。同時に頬は赤く染まる。屈辱を噛み潰すよう一層固く口を結び、その顔をまた腕で隠してしまう。

 膨張を維持したままの肉棒も秀乃の手の中、身体も繋がったまま。それでも、健次と心を通わせることはできない。

 秀乃の愛情はいびつになるばかりで、ただただ陵辱を繰り返す。間を置かずふたたび揺らしはじめ、快楽の海に健次を溺れさせ続ける。