情痴

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『もしもぉーし。ナニ、なんのご用?』

 相変わらず間の抜けた声だ。健次は眉間をしかめる。

「あのガキの件だ、俺が運ぶ」
『えっ? は?』
「そっちまで……俺が運んでやると言ってるんだ」

 どういう風の吹き回し、と電話の向こうの怜は言う。怜を疑うわけではないが、こちらの居場所は告げずにおいた。間接的に情報が漏れるとも限らない。

『面倒臭がりの健次がねぇ。ヘンなの。ま、俺は手間が省けてウレシイけど』

 簡潔に用件だけの通話を終える。スマートフォンを置いたテーブルには、ちょうど春江がお茶の用意を済ませ、煎餅なども器に盛られていた。

「どうぞ、健次さま」

 出された湯呑みに口をつける。春江の炒れる日本茶は美味しい。
 この部屋は普段使うことがないので、菓子など置いていない。春江が用意してきたのだ。
 何処までも準備周到な家政婦だ。

「お前は気を回しすぎだ」

 言ってやると、テーブル越しに春江は微笑む。

「それが仕事です。私の」
「ふ……そうか」
「健次さまにお仕えすることが、生き甲斐です」

 春江もお茶を飲んだ。上品な仕草に健次は微かだけ見とれた。
 大きな窓から降り注ぐ陽光。浴室に少年を監禁しているとは思えない、ダークサイドに関わっているとは思えない、穏やかな午後が流れてゆく。

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 オークションは土曜の今宵、船上で行われる。
 わりと大規模な宴だ。

 参加者には政府の要人や、誰もが知る企業のトップ、著名人、彼らの代理人もいる。
 寵愛目的でなく、ビジネス目的の者も多い。娼窟で売春させる商品を探す楼主、昼間は肉体労働に従事させ夜は性的に弄ぶ玩具を探す事業主。さらに転売するバイヤーも訪れる。
 
 また、海外からの客人も来る。その目的・職種も国内の顧客同様、多種多様だ。

「……そろそろ行くか」

 健次はスーツに着替えた。オークション会場にまで少年を運ぶと伝えただけで、春江が用意してきた。ネクタイはせず、黒いシャツの胸元をいくつか開ける。

 まだ日が暮れたばかりだが、車に少年を積んで行けばちょうど良い時間になるだろう。

「お前は此処にいろ」

 当然のように健次が告げると、春江も当然のよう「分かりました」と頷いた。
 闇の仕事に直接、春江を関わらせたことは少ない。

「俺が戻るまで外に出るな。来客があっても、無視しろ」
「健次さまが迎えに来てくださらなかったら、私はこの部屋で死にますね」

 空恐ろしいことを、春江は朗らかに言う。

「いってらっしゃいませ。男の子を詰めるのに、お手伝いは必要ですか?」
「いや、いい」

 春江を残し、健次は居間を出た。少年を置いた浴室に向かう。
 あの淫乱な少年のことだ、退屈を感じればすぐに自慰をはじめていることだろう──健次はそう思いながら近づいていったが、その予想は的中していた。

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「ンふぁあ……ッ……」

 浴室の扉を開ければ、やはり少年は乱れていた。頬を紅潮させ、タイルの上に感じた肢体を奔放に投げだしている。健次の視線の先、くねる細い腰。幼い性器は張り詰めて起ち、双玉にはカウパーの滴り。
 少年の右手人差し指と中指とが肛門に挿入り、左手はというと孔を拡げている。
 健次からの暴力で傷ついた肌は……汗ばんでいた。

「やぁ……、ぁあ……」
「サルみてぇに覚えやがって」
「あ……!」

 健次は少年の性器を踏みつけた。弾力が足の裏に伝わる。

「やぁあっ、痛ぁ……いいぃィ!」
「馬鹿の一つ覚えか。性奴隷になるために生まれてきたようなガキだ」
「せ……ど、れぃ……?!」

 何も分かっていない少年。何も知らなかった少年。
 今は水を得た魚のように卑猥さを加速させているが、健次が攫うまでは性に無知だった。

 それが、わずかな時間でこの様だ。資質を嘲笑ってやりながら、健次は少年の髪を掴む。

「立て」
「うぅ……、う……」

 痛みに顔をしかめ、ふらつきながらも従う少年。
 健次は浴室を出、早足で玄関に進んだ。後を追う少年はというと勃起した性器を濡らしたままで、一歩一歩廊下を歩いてくる。
 
 そんな姿には首輪も映え、もはや立派な性奴隷だ。

 何も言われずとも自ら、玄関に開かれているスーツケースに入ろうとして身を丸める。
 本当に性家畜になるために生まれてきたような少年だ。健次の唇はゆるんだ。

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 春江に見送られ、健次はマンションを後にした。
 地下駐車場でスーツケースを開けてやる。出発する車の後部座席で、少年は粗末な毛布にくるまって大人しく座った。

 誘拐したばかりのときの錯乱ぶりは、もう遠い昔のようだ。

 しばらく経って、ミラー越しに見る姿は時折もぞついているようにも見える。
 健次は振り返らずに言った。

「してぇんだったら勝手に続きしてろ」
「ぅ……う……」

 少年の頬は紅い。健次の言葉を聞いて、さっそくペニスに手を伸ばす。ごそごそと布の擦れる音がする……始めたらしい。

(このガキ、末路は廃人だな)

 媚薬もドラッグも洗脳も、何も施していない。素の状態でこのハマリようだ。健次は呆れる。時刻柄、帰路につく車で混雑する大通り、外灯とネオンを眺めながら。
 
 少年は陰部を扱きつづける。此処はベッドルームでもないし、健次という他人の目があるのにも関わらず、恥知らずに快感を貪る。吐息も乱して。

「ん、あ……、きも……ちい……」

 都心部を抜ける頃には寝そべり、仰向けになって股を開いていた。
 少年の指は性器からは離れ、肛門を弄くるのに夢中なようだ。指先で花びらをめくるように虐めている。

 きっと、少年は何をどうしたら射精に至るのかまだ知らない。快感を攪拌(かくはん)することしか分かっていない。塔のように屹立した肉茎はおびただしい蜜液を漏らし、いまも滴の玉が滑りおちてゆく。尖端から玉袋へと。
 
 それほどまでに感じながらも、決定打を下すことが出来なくて、ひたすらに愉悦の波間を彷徨う。
 達せないままで可憐な喘ぎを響かせ続けている。
 目的地へと走りながら、親の顔が見てみたいなと健次は思った。