姦覧

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(わぁあ……なぁに、これ……)

 セイは自分の置かれた状況がわからない。
 たくさんの人、人、人。
 知らない大人たちに囲まれている、見られている──此処は舞台の上らしい。

 ふと誘拐される前、ふつうの子供らしく生活していたころの感覚が働いた。セイは無意識のうちに股間を隠す。即座に叩かれる、手の甲。

「あッ、痛ぁい……」
「ダメだろう、覆ったら。顔と同じくらい、大事なところなんだからお見せしよう」

 絵本かなにかで見たことのある外国の神父のような服装をした男が、諭してくる。彼の言っている意味はよくわからない。なぜおちんちんが大事で見せないといけないのか。けれど……なんだかセイはもう、わからない思いをすることにも慣れてきてしまった。

 健次に捕らえられてからずっと夢のなかにいるみたいだ。いままで生きてきた世界とはまるでちがう異世界に放りこまれた。

(そうだ、ケンジさぁん……?)

 性器を露出しながら、セイは視線をさまよわせた。そういえば、健次はどこにいってしまったのだろう。気がついたら彼の姿はなくて、さみしい。不安になっているセイがいる。

 健次は怖い人のはずだった。それなのにいまは健次を見つけたいと願うセイがいる。きっと安心できるから。健次のそばに戻りたい。
 また殴られてもいい。痛い目に遭わされても構わない。
 犯してもらいたくもある。健次に無理矢理に開かれて、捩じこまれて、抜き差しされた時間は苦痛ばかりだったけれど、いま思いだすと恍惚に似た気持ちよさもあった。

 またハメて欲しい。口にも、おしりにも。味わいたい。セイの粘膜からの出血が付着したあの大きくて固くたまらない肉棒。握って舐めたい。唾液でグチョグチョにぬるむまで頬張りたい。そうして、健次に抉ってもらいたい……欲望めいた感情を覚えたセイはうっすらと微笑んでしまう。

「なに笑ってるんだ、この子は……」

 前列客の呟きが、セイに届いたとき。神父に手を引かれ、舞台の床に倒される。

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 床に尻もちをつき、ひんやりとした感触がはしった。有無を言わせず、神父に統率されている黒衣の係員たちがそれぞれセイの両足首を掴み、左右に開脚する。セイの意志とは関係なく開かれてしまって、改めてあらわになる性器と蕾。

「やぁッ、はずかしぃよぅう……!」

 全裸生活に慣れたセイでも、羞恥を感じた。ペニスと尻穴をおおっぴらに晒し、スポットライトまで注がれて、無数の大人たちに公開するなんて……。

 人々はどよめき、覗きこむようにセイの陰部に見入ってくる。神父がなにごとか説明しているが、恥ずかしいばかりのセイにはなにを喋っているのかほとんど頭に入ってこなかった。頬が熱い。

「純粋そうな顔して、男知ってやがるんだな。見ろ、あんなにも裂けて腫れてる」
「まだ発毛の兆しはないね、肌も白くて赤い蝋が似合いそうだ……卑猥な刺青を施してやるのもいい」

 客たちの声が届いたところで、セイにはなにをいっているのか理解できないものも多い。ただ、自分のことを口々に話されていることだけはわかる。

「おっ、勃起してきたぞ!」

 大きくなってきてしまうと、係員にペニスを摘まれた。より一層見せつけるように。
 客の目はさらにセイの性器へと集まり、口々に感想を述べた。カワイイという声から、舐めさせろと求めてくる者もいて、紙幣を掲げる腕も幾つも伸びる。歓声とともに。

 神父はそれらの客をうまく取り仕切り、順番を決める。
 舞台にひとりずつやって来ることになった。まず、セイにしゃぶりついてきたのは頭の禿げた初老の男。

 床に寝かされたたままのセイは、初めて感じる他人の舌の感触に驚いた。次いで、発情がせり上がってくる。

「あ……、あッ、あ、ぁあ……?」

 真っ白になってしまう、セイの頭。気持ちがいいということすらも瞬時に理解できないほど混乱した。今夜、こんなこともされてしまうなんて予想もしておらず、ただ断続的に悶える。そんな風にビクビク悶えるさまは観客の笑いを誘い、見ものとなった。

「あ、あふぅッン……やぁぅ、きもちぃぃい……!」

 ジュポン、と水音をたて性器が開放される。次の方どうぞと機械的に神父が言えば、また違う男がセイを咥えに来る。

「ひゃは……ぅ、ンふ!」

 先程とは舌の重みも舐め方も違う。十人十色のフェラチオを味わい、セイは歓喜に震えた。代わる代わるたくさんの口にしゃぶられることに興奮してしまう。セイの意志など確認されることもなく。射精しそうになると中断され、すこし落ち着くと咥えこみの再開で、絶頂はまだまだ遠い。

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 唾液にまみれた幼茎、陰嚢、腿。舐めつくされて派手に尿を漏らしたかのように下半身を濡らし、上半身も汗で汚している。前髪も、額にはりついていた。上気して興奮した身体は立たされ、檻に手をついて尻を突き出すように命じられる。そのポーズは長くとらされた。

 注ぐスポットライトに対し、最初の恥じらいと戸惑いはすでに消え、セイにとって気持ちがいいものに変わった……傷ついた肛門を見られることに感じているセイがいる。玉袋の裏まで知られてしまうこともたまらない。大きくなったペニスを淫猥に震わせながら、肛門もピクッピクッと意志とは関係なしに収斂(しゅうれん)させてしまい、その度に野次られる幸せ。さらけ出すことにドキドキしている。草むらで排泄するのも気持ちよかったけれど、こうやって普通なら見せないような部分をたくさんの人に見てもらうことも良いなと思って嬉しくなった。

「なんて尻だ」「挿れさせろ」「レイプだ!」口々に囃したてる客たち。セイの姿は大人たちを煽ってやまないらしい。神父はそれらを断った。挿入は落札者の権利だと言うのだ。

 代わりに舞台に上げられたのは、祥衛と大貴。
 セイが、檻の並ぶ部屋で出会ったあの少年たち……セイは悦楽にうるむ瞳で彼らの姿をとらえる。

 初対面のときより、すこしばかり装いは乱れていたし、セイと同じく汗もかいている。けれど少年たちには気品のようなものが残っていた。裸に剥かれ、家畜のような扱いをされているセイとは明確に違う。

「んぁ……?」

 祥衛に肩を抱かれ、尻に触れるのは大貴の手だ。エナメルの手袋の感触はセイには新鮮だった。

「開いたトコロ、見てぇよなぁー?」

 大貴が言うと、客は歓声で応える。大貴の両手の指によってセイの肛門はあられもなく割り開かれた。その瞬間、セイには痛みがはしり、歓声は大きくなる。祥衛が、トロつく液体──ローションを垂らしてきた。少年たちは慣れているのか、作業に無駄がない。

「んあッ、あっふぅ……やぁ……」

 大貴は液をなじませるようにセイの敏感な部分を撫で、蕾に中指を掛ける。無言で顔を抱いてくる祥衛の腕のなかで、セイは派手にビクついた。もがいてしまう動作がいけなかったのか、大貴は片手で背骨を押さえてくる。少年たちがアイコンタクトをしたのはセイにも伝わり、背中を押さえる役割は祥衛に移行した。大貴は弄りに集中する。

 沈んでくる中指──セイの体内に挿入ってきた。

「あひゃァっ、あ、あ、おしりぃ……!」

 なんだか、セイ自身でさんざん弄りまわしていたときよりも、大貴は上手い。指一本でも違う。健次にレイプされた傷は当然ながら癒えていないのに、指の動きは、痛みよりも快感のほうが完全に大きい。

「だめ、ぇなのぉ、あふぅぅう──……あっ、ふやしちゃああ、……あぁあ──そんなぁ──……!」

 人差し指も添えられて、高まって叫んでしまうと、大貴に鼻で笑われる。

「なにがダメなんだよ。お客サマに説明しろよ。せっかく見てくれてるんだぜ!」
「きっ、き、もちよくなっちゃうから、だめだよぉー……、おれぇ……」

 撹拌(かくはん)されるように突かれるともう言葉にならない。あやふやに朦朧と喘いでいると「スゲェ淫乱!」とまた大貴に笑われた。さらに追加されるローションが、セイの傷ついた太腿を零れおちてゆく。さらに汚くなったセイは祥衛に抱きついていた。祥衛のやせ細った胸板は体温が低くて心地いい。彼の両乳首には、金属の輪が通っていて、セイはすこしだけ驚いた。

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 係員である黒衣の者が捧げてきたのは、よく出来た擬似の男根だった。ビニールシートの敷かれたあの部屋で与えられたモノよりも、もっとリアルでいやらしい形をしている。無数の突起物があった。

 ソレを大貴は客たちに見せつけるようにわざとらしく舌を出して舐め、盛りあげる。大貴はショウだということをよく心得ているのだ。
 
「あぁあ……、あぁああ……!!」

 たっぷりと唾液に濡れ、潤滑液にもまみれた異物が、セイの尻穴に埋められる。指先でのいたぶりとも同じくスムーズに痛みもなく、セイは満たされていった。拡げられた肛門──

(やっぱり、すきぃ、このカタチぃ……!)

 お尻がいっぱいになって苦しくなる感覚がなんとも言えずたまらない。腸壁のなかから性器を刺激されるような説明しがたい妙な快感も幸せだ。うっとりするのもつかの間、男根が振動をはじめたのでセイは「ひゃッツ」と悲鳴をあげて目を見開く。それはセイにとってはまた新しい、いままでに感じたことのない興奮だ。

「バイブすき? おまえ……」
「ばい……ぶー?」

 手首を使って動かされながら大貴に尋ねられても、知らない単語だからよくわからない。祥衛は相変わらずの無表情のまま、セイの胸に指を這わせてくれる。そうやって乳頭を触られるのも好きだとセイは実感し、もっと弾いて欲しくて、弄って欲しくて、祥衛に胸を押しつけてしまった。

「射精しろよ。ホラ、女王サマがビデオ撮ってくれてるぜ」

 祥衛の手を頬に感じながら、セイは観客席を横目に見る。

 はしゃいでいる人々の最前列、小さな機器を構えた黒いドレスの女。レンズはセイをまっすぐに射抜いている。

「……やッぁあ……あ……!」

 運動会で母親が撮ってくれた、あのハンディカムと同じようなカメラで、今夜はこんなにも恥ずかしい場面を記録されてしまうのか。

 現実を認識しただけで興奮する。おぞましすぎる悦楽が背骨を駆けあがり、電流に似た愉悦がはしる。大貴は強引に力づくでセイをカメラに向けた。鉄格子に身体をぶつけて、痛い。尻穴には玩具がハマったまま、尻尾のよう頭を出しながら振動を続けている。

「ひゃぁああぁあぁァ、はずぅかしぃよぉ、おれぇ、おれえ……!!!」

 羞恥と快感の混ざりあいにとんでもなく歓喜しているセイがいた。先走りはもうビショビショにセイを濡らしていて、ペニスはこれ以上ないほどにそそり立って主張している。少年の性器とは思えないほどに怒張していた。乳首までもピンと屹立させ、尖りを帯びている。

「はぁ……ん、み、ないでぇ……え、みないで、くださ……ぁいッ……!!」

 見られていることが嬉しいくせに、極度な恥ずかしさのあまり間逆なことを口走る。神父姿のあの司会者が「おっと、ついに絶頂かなー?!」などと囃したててきた。

「お、おれぇ、でちゃぁう、すごぉい、の、でちゃうぅぅぅぅぁあああ、…………!!!」

 ついに叫びながら散らす白濁の液。運ばれる車内からずっと弄っていた快感だから、爆発はとめどない。
 噴水のようあたりに撒き散らし、断続的に分泌される。

「あっ! あっ! またァ、出ッぁ! あーーー……、あぁあァーーーー!!!またぁああああぁとまんないよぉ、もらしてぇごめぇんなさぁい、おもら、し、すごぃよぉお────……!!」

 零れるたびみっともなく喚き、立っていられない。セイは残滓を漏らしながらも崩れ落ち、自らの分泌した精液の水たまりに倒れる。安らぎに満ち足りていった。焦点がもう合わなくなった瞳で舌を出せば、さまざまなモノが混ざった液が美味しい……安堵のあまりか、続けざまに小便も漏らしてしまったけれど、嘲笑われる声はもう遠かった。