福音

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 なにがなんだかわからないうちに終わった、恥ずかしいパーティー。セイにとってそれは、とても心地よい時間となった。

 色んな人におちんちんをしゃぶってもらうのも興奮したし、大貴や祥衛に触られたのも良い。また『シャセイ』出来たのも嬉しかった。しかもただ達するだけでなく、たくさんの人に笑われたり、馬鹿にされたりしながら。全裸で、性器を嬲りながら会場じゅうを回らされたのも頭がスパークしそうなほどに悦かった……手拍子されながら扱いたり、お尻を自分でも弄ったりし、たくさん、たくさん、尿ではない透明なお漏らしを続けて。

 勃起は収まることがない。普段からこの大きさでこのカタチだったかとセイ自身錯覚してしまうほど、自然にずっと屹立している。

 服を着ないことも、もはや当然のようになっていた。それどころかセイは、二度とまともな服なんて着る機会なくてもいいとさえ思うのだ。

 ひょっとしたらさいしょから……人間に似ているだけで人間とはべつの生き物だったのだろうか。エッチなことばかり考えてしてしまう淫乱な動物。まちがって人間のお母さんとお父さんに育ててもらっていたのかも知れない。常に絶頂と隣り合わせでおかしくなっているセイの想像力はそんなふうにどんどんと脱線するばかり。

 だったら、檻の中で四つん這いで、使われるときだけ出されて弄ってもらうような立場は、本来の姿に戻っただけ……? これが、自分の、本来の姿。

「ね、ケ……ンジさぁん、ちょ……だぃ……」

 セイは檻の中の床に手をついて、尻を突きだした。鉄格子にむっちりと尻肉が食いこむほど。肛門を健次に向けて、どれだけ健次に突っこんで欲しいかを表現する。ハァハァと呼吸を乱したまま、汗ばむ身で焦がれる。健次に貫通された瞬間を思いだすと高鳴ってゆく胸。

 激痛と快楽の絡みあったあの境地が忘れられない。

「おれのぉ……、穴、いっぱいにしてぇ……いっぱいにぃ……おねがぁい、ほしぃよう!」

 意識せずに入り口の襞がヒクヒク震えてしまって、それを見せつけている事実が恥ずかしくて、その恥ずかしさがまた最高に痺れる。

 ブザマすぎる必死の請いが通ったのか、健次は檻の入り口を開けた。鍵はかかっていなかったのだ。セイはもう、施錠を確認する意識すら持ちあわせていなかった。

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 黒髪を掴まれ、引きずり出される。 

「んやっ、あぁあッ……!」

 腕や足をぶつければ、すでに擦りむいてかさぶたになりかけている箇所がまた痛くて、セイは悲鳴を上げた。けれどこれは苦しさからでなく歓喜の悲鳴だ。
 痛みさえもセイにはもはや、甘美な刺激となる。

「あぁ……あ……ぁ……」

 冷たい床に膝をつき、恍惚として見上げる、バックルを外す健次を。
 彼の動作を目にしただけで、セイは惹かれるよう自然に身体が動く。ファスナーを下ろすのは、すがりついたセイの手だった。

 そして含む。当然のように。

 長い睫毛に縁取られた瞼を閉じて、恭順に、信奉するかのごとく、セイは舐めまわす。はじめてのフェラチオのときは意味が分からなかった口淫。いまはアノ昼間よりはほんのすこしだけ分かる。舌の這わせかたも、唇での扱きかたも、理解していた。

 しだいに、口腔いっぱいに健次の感触が広がっていくのがたまらなく嬉しい。
 味もいい。男の匂いもいい。好きになれそうだ。
 セイは夢中になって舌奉仕を施す。

「なんなんだ……お前は。本当にいままで、普通に暮らしてたのか」

 髪を掴まれることで引き剥がされ、涎まみれの性器が抜けてしまう。健次の問いかけに首を傾げつつも、ペニスが名残惜しく手を伸ばす。しかし指先は届かず、セイは突き飛ばされて転び、驚きから「ひゃン!」と、短く鳴いた。
 
「なにも知らねぇガキだったくせに、目覚ましい成長だ。なぁ……?」
「あ、あ、やぁ……」

 四つん這いになったセイに覆いかぶさる健次の影。もう挿れてもらえるのかと思うと期待でどうにかなりそうだ。あの太くて大きくて激痛いのが!ぶちこんでもらえる!

 ずっと欲しかった……。風呂場で自慰をしていた午後から。船に運ばれる道の途中でも。健次の姿が見当たらなくなってからも、焦がれつづけた。

「立て。ケツを突きだせ」

 短く威圧的な命令は、セイにとっては悦びでしかない。
 言うとおりにし、震える指で鉄格子を掴んで立ちあがる。懸命に尻を、健次に向けた。

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「あっ……ぁ、あ……──ン……!」

 蕾に押し当てられる尖端。突き挿れられるのを覚悟し、期待する。
 だがしばらく健次はそのままの体勢で挿れてくれない。
 焦らされている。セイはもどかしく腰をくねらせた。

「くだらねぇ踊りだ」

 健次の嘲る視線を背中に感じて、恥ずかしい。脇腹を両手で抱えるよう握られる感触も痛い。
 それでも、セイはねだってしまう。
 羞恥と混乱のなかで。欲しい、ただ欲しい。

「ケンジさん、ほしいょう、ちょ、だぁい、ちょうだい」

 何度目かの嘆願の末、やっと貫いてもらえた。穴の中心を一突きにされ、一瞬、呼吸が止まる。
 それから全身で叫んだ。爪先立ちになって、爪が白くなるほど鉄格子を握りしめて。

「あッあぁああああぁ──────!!!!」

 愉悦と混ざりあった激痛がセイを駆け抜ける。

 潤滑剤もなにもない。唾液と、健次の滲ませた先走り、それからセイの腸液だけでメリメリと進む。粘膜の破れるような感覚がした。抉られて肛門だけでなく、下腹部全体が激痛くなる。

 それなのに、嬉しい。
 アナルだけではなくて身も心も満たされる。
 快楽中枢が痺れ、溶けおちそうな悦びにただ咆哮することしかできなかった、抜き差しのたびに。

「うるせえ、クソガキが」
「ひぃあっ…………!」
 
 揺らがされながら、頭を押さえつけられた。鉄格子に額が当たる。痛い。そんなふうに乱雑に扱われるのも、それはそれでときめいてしまうセイ。この時間がずっと終わらなければいいのにと願わずにはいられない。

「あッ、あぁっ、んあァ、うれしぃい」

 健次からの衝撃にあわせて尻を振る。喘ぐばかりで飲みこめない唾液を垂らし、セイの視線はフワフワと彷徨った。

 気を失いそうな意識は、回想を見せる。家族で花見にいったときのこと。いまは離れて暮らしている父親も、あの頃はいっしょに居た。

 優しい春の色に満たされた世界で、セイは駆け出す。
 両親の手を振りほどいて。そんなセイを呼びとめる母の声がする。けれど、セイは振り返らない──ひとりきりで駆けだしてしまう。いけないことかも知れないと、わかっているのに。向かう先はきっと闇なのに。

 もう、止まらない。止められない。動きだした歯車を。

 淫らに堕ちてゆくのは、セイの、宿命だった。

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 健次の飛沫を後孔で受けとめる。それからもしばらく内部を擦られ、二度目は背中に浴びた。
 セイにとっては祝福のシャワーに等しい。

 恍惚としながら、鉄格子を掴んだまま崩れ落ちた。開いてしまったアナルからは白濁が零れ、それは血混じりだ。汗ばむ身体で呼吸を乱し、無意識のうちに指を伸ばして尻穴の濡れた襞をなぞると、口許に運び、舐めてみた……匂いも味もセイを悦ばせてくれるものだった。

 やがて蹴られて檻に戻され、倒れこむ。薄目を開けば去ってゆく健次の背がある。 
 
「……ケンジさぁん…………」

 セイは頬を赤らめてうっとりと笑んだ。いまも響く痛みと、彼の感触が心地いい。また……また会えるだろうか。また犯して欲しい。強く願いながらも、セイの瞼は重く、ゆっくりと閉じられる。意識は微睡みに投げだされた。
 
 眠りに落ちそうで落ちないはざまのうつろを、セイはたゆたう。

 感じるのはこの場所を出入りする人々の気配。
 ひとり、またひとり、檻から連れだされてゆくのがわかった。

 そして当然ながら、セイの番も訪れる。

 朦朧としてハッキリと目が開けられない。おまけに逆光だ。汗と精液と出血にまみれたセイを抱きあげた男は「眠っていなさい」と囁く。
 頷くことも出来ないまま、セイは夢に沈む。男の纏う衣服はセイの肌にさらりと心地よかった。



 ──夜の港。波に揺れる月影。
 
 秘密裏に行われた、異質な宴が閉幕する。
 明けを待たずに船もすべて消えて、痕跡は残されない。
 平常な世界に暮らす人々にはなにも気づかせないまま、闇は闇に紛れる。