凌辱

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 ──また腕を捻りあげられた。セイは悲鳴を響かせる。
 
 意味が分からない。どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう。突然に連れられた部屋で知らない男に乱暴され、痛めつけられるなんて。
 
 とても現実のような気がしない。いきなり闇のなかに放られたようだ。母と二人暮らしていたマンションの部屋でゲームをしていたのはまだ、たった数時間前のことなのに。

 僅かな間に、こんな世界に堕とされるなんて……

 セイは母の言葉の意味を想う。

 夜中にお店まで歩いてきちゃダメ。
 
 何度も、何度も叱られた。
 それなのに懲りず、今宵も家を抜けだして。
 今更セイは後悔する。遅すぎる悔いだ。

(もう、いい子にするから、いいつけを守るから、おうちに帰りたいよぅう……)

 身を守るように縮ませて、セイは涙を頬に零す。全裸の肌寒さなど感じる余裕も無い。
 次は何処を蹴られるのか、踏まれるのか。
 怯える、身体じゅう痛かった。
 早く終わって欲しい。この理不尽すぎる戯れが。

「……ひ、ッ、あ……?」

 蹲っているセイは、ふとした瞬間、腰に垂らされた妙な感触に驚く。なまめかしい液体が……冷たい。

 ドロドロとするソレはセイの臀部に垂れ、ブルーシートにも垂れた。セイは何のためにこんなことを男がしているのか、まったく理解できず、さらなる困惑に突き落とされてゆく。

「お前のために使ってやるんじゃねえからな。キツそうだから、俺のためだ」

 男の言葉の意味も分からない。セイが理解できることなど、彼にさらわれてからひとつもないのだったが。

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 セイを貫いたのは男の指だった。
 こんなところを人にいたぶられた経験などない。驚いたセイが顔を上げようとすると「動くな」と命じられた。短時間のあいだで彼の怖さは身に染みて理解ったので、セイはビクッと震えたものの、従う。

「あ……? うぅ……、う……」

 先ほど垂らされた液体がヌルつき、男の指をセイの体内に運ぶ。決して丁寧とはいえない触られかただったが、液体のおかげなのか、痛みはさほどなかった。

「や、ぁ、やだぁ……、なにしてるの……っ……?」
「黙れ」
「……んふ……ぅ、これ、ヘン…………」

 弄られる柔壁。進入され、かき混ぜられ、抜き差しされる。排泄をするときとはまた違う、味わったことのない奇妙すぎる感覚がセイを襲った。
 セイは、自分に起きていることがさらに分からなくなってゆく。

「ンやぁ……、やだァ、あ、あ──……!」

 妙な悲鳴を上げながらもセイは股を大きくM字に割り、仰向けに男の行為を受け入れる。両拳を胸の前でそれぞれ握り、まるで仔犬が服従を示しているかのようなポーズで。
 セイが身をよじる度、幼い茎もふるふると揺れる。

「あひッ、あッ、あっ……あぁあ……ン……!」

 挿れられる指が二本に増えた。不思議な感触は増し、後孔は拡げられるばかり。いったいどんな意味の行為なのだろう。水音が泡立ち、響く。男の手がセイの唇を覆って塞いだ。ぬるつく液に塗れた指が、セイの口許にも付着する。

「イイ声出すじゃねえか。経験あるのか?」

 言っている意味が分からず、セイはただ固まる。褒められたのだろうかと戸惑った。

 身じろいでいると、セイから離れる男の手。男は親指についた液を舌先で舐める。仕草にセイは何故だかドキッとした。怖いはずなのに、色気がある。よく見れば、男の顔立ちはわりあい、端正だ。

 切れ長の目、スッと通った鼻梁。ジャケットを脱いだ黒いアンダーシャツの身体には、程よい筋肉が乗っている。

 さらわれてからはじめて、冷静に男の容姿を見たセイは、すこし驚いた。誘拐犯は悪魔でも怪物でもなく、まだ若い男だ。

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 男はダークデニムの前をくつろげる。バックルも外して、下着からペニスを取りだす。ソレにもドロつく液体をまぶし、握りしめて扱いた。

(えぁっ……な、にぃ、……?)

 セイは驚く。男の性器はセイの見たことのないカタチをしていた。怒張してはりつめている。

 割り開かれた股間に押しつけられると──
 衝撃は鈍痛から、裂かれる激痛へと様変わりする。

「??? や……っ、んやぁああああああぁ……!?」
 
 増幅する痛みを感じながらも、セイは未だに、なにをされているかを認識していない。
 弄られていた尻穴に指よりも凶悪なモノが挿入ってきている。
 気づくと同時に……串刺しの絶叫をあげていた。

「や、やだぁ、っッ、アァああァあああ?! アァアアああぁあああ──……!!!!!!」

 激痛はかなりの深部まで届いた。十分にまぶされたヌルつく液体のせいで、男の肉杭はスムーズに進入してきて、苦しい……声変わりを迎えていない、少女のようないたいけな悲鳴をセイは響かせた。

「ぁあああッぁ、あぁ、アぁぁあやぁだぁあぁあああ!!!──」

 あまりの衝撃にセイは呼吸さえ忘れそうになり、ある瞬間、大きな瞳と小さな口を開けたまま硬直する。最奥まで貫いた男はセイの様子を気にすることもなく、幼い両肩を掴み「キツイな」と呟いた。苛立つよう、眉間に皺を寄せながら。

「痛いか?」

 素っ気ない男の問いかけに、セイは頷く。また涙が溢れてきた。腹部がズタズタに抉り裂かれるような激痛に耐えながら。

「だろうな…………」

 男はそう言うと、満足げに笑った。

 蠢きはじめた腰つき。揺らされるたび、セイに追い打ちをかけるさらなる苦痛。
 身体がよじれて、もう、壊れてしまいそうだ。

 覆いかぶさる男の服を掴んで、セイは痛みのままにただ、叫ぶことしかできない。ギャアギャアと、まるで奈落の底で足掻くように。

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 永く続く拷問。

 脚を男の肩に乗せられたり、四つん這いになって尻を突きだしたり。様々な体位でなされる抜き差し。傷を負った腸壁で感じる、重厚な男の輪郭。
 
 セイの可憐な幼茎とはあまりにカタチが違う。大人になれば、あれほどまでに育つものなのだろうかと、朦朧とする意識のなかでセイは疑問を感じる。父親と風呂に入ったとき、あんなにも凄まじいモノではなかったはずだけれど。

「ううッ、う…………!」

 なめらかなセイの素足を伝うのは血液。
 無理やりに開花させられた蕾が耐え切れずに紅い雫を垂らしている。
 それでも、セイはもう驚かない。
 あまりにも大きな衝撃を受け止めきれず麻痺してきた。
 すすり泣きながらも、この現状を、どこか他事のように受けとめている。
 もう疲れた……今日はおかしい。時計の針が十二時を廻った瞬間から、別世界に足を踏み入れてしまったのだろうか……

「ぁあッ……」

 黒髪を掴まれ、引っ張られる。
 様々な種類の痛みを男はくれる。セイがいままでの人生で味わってきた痛みよりも多くの激痛を、今宵一夜だけで彼から与えられた。

 不意に結合が解かれる。ブルーシートに倒れるセイの上に熱い白濁が零された。

「……ッぁあ……っ?…………」

 無意識のうちにセイは舌を出した。
 何故そんなことをしたのか自覚は無い。

 セイの期待通り、舌先にも飛沫があり、恍惚として飲み下す。
 叫んで、泣いて、からからになっていた喉を過ぎる甘露。美味しい、とセイは素直に思う。

 瞼が重い。
 
 四肢も重い。

 微睡みにさらわれてゆく。
 
 静かに意識を手放したセイは、さらなる奈落へと沈んでゆくのだった。