烙印

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 ──燃え盛る焔。

 地獄の業火にも似た、灼熱の焔。 

 庭の片隅に立つ古い土蔵。
 其処に実の父親を閉じ込め、閂(かんぬき)をかけ、灯油を撒いて火をつけた。

 不幸な火災で死んだ流行作家・相沢壮一。
 殺したのは他でもない、実の息子、相沢健次だった──

『ハハハハハハハハハ……!!』

 学ラン姿で立つ健次は、紅く照らされている。
 込みあげる愉悦で笑いがとまらない。腹を抱えて笑い続けた。
 こんなにも、腹の底から、笑ったのは生まれて初めてだ。

 憎らしい父親。この世で一番醜悪で愚かな男。
 幼い頃からずっと「殺したい」と願いながら。
 ずっと迷い、躊躇した。
 首を絞めようとして出来ず、何度手を握り締めて迷っただろう。
 
 しかし、実際に殺めてしまえば。

 これ以上ないほどに、爽快だった。

 迷うことなど無かった、もっと早く殺しても良かった。
 生きるに値しない存在なのだから、消してしまっても構わなかった……
 実の親だから……という情など抱く必要もなく。

 舞う火の粉が、綺麗だ。

 傍らでは、焔を瞳に映した母親が絶望のままに膝から崩れ落ちている。
 呆然の表情で。

 ──健次は眼を開く。

(…………夢か)

 鉄パイプのベッドの上、身を起こした。
 余計な物のないシンプルな部屋は薄暗い。カーテンの向こうは日没を迎えようとしている。

 健次は額を押さえる。十年前のアノ日を夢で見るのは、久しぶりだった。

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 少年を監禁している202号室の隣、203号室は仮眠室になっている。202号室のように雑然としておらず、片付けられてそれなりに綺麗だ。
 
 健次はベッドに腰掛けたまま、赤LARKに火を点けた。寝起きの一服を味わう。
 それから、薄手のジャンパーを羽織り、外廊下に出る。春先といえどまだ肌寒い。夜になればますます冷える。裸身に剥かれた少年には辛いだろう。

 だが、骨身に染みる寒さが少年に現実を教えてくれる。少年はまだおのれの境遇を理解していない。言葉で説明するより、実際に味わって知るほうが、ボディーブローのようにじわじわと効いてくるはずだ。

 202号室の扉を開けた。監禁室からは喘ぎ声がする。調教役が持ち込んでそのままになっている裏AVの音声だ。南京錠を解いて覗くと、肩から毛布を被って座りこむ少年はとろけるような表情をしていた。モザイク無しで交わるテレビ画面の男女を見つめ、恍惚としている。

 健次は鼻で笑った。何も知らない、無垢だった子供が、性の意味を知ったのだとしたら大した成長だ。

「あ……」

 少年は健次に気づき、明らかにビクリとする。慌てて画面を消そうとしたのか、床にあったリモコンを白い腕で掴んだ。

「どうした」

 相変わらず、土足のままで健次は踏み入る。こんな部屋でブーツを脱ぐ気はしない。かつて此処に繋いだ性奴隷候補の者たちによって散々に汚されている。ショックのあまりに嘔吐したり、糞尿を漏らしたり、精液など体液を撒き散らしたりと、そういった汚物が染みこんだ空間だ。

「あ、あ、あのぅ……、勝手にテレビつけてっ、ごめんなさい……」

 健次はリモコンを蹴った。ブルーシートを滑り、尿で溜まった洗面器にぶつかる。朝よりも嵩(かさ)の増えた水面が波立った。

「見てろっつったのは俺だろ」
「は、はい……」

 ずいぶんとしおらしくなったものだ。観察してやると、眼のまわりが赤らんでいる。健次が眠っているあいだに、また泣いたのかも知れない。

 それよりも、気になるモノがある。健次は少年の毛布を奪った。

「わぁっ!」

 驚く少年の股間、幼茎は勃起している。小さいながらに天を指し示し、屹立している。

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「何だ、コレは?」

 侮蔑するように、健次は言った。少年は股間を隠し、微かに背を丸めた。

「わ、分かんない……なんか、ヘン……なの……」

 戸惑うように外したその手は、性器からの透明な分泌物で汚れてしまった。
 少年は蜜液で股を濡らしているのだ。

「淫乱なガキが」

 自覚なく淫らな少年に、健次は呆れた。
 首輪を掴んで引き倒してやる。ひゃあ、と悲鳴をあげた少年はブルーシートに仰向けを晒す。
 屹立した性器が頼りなげに揺れる。

「お前、扱いたこともねぇのか?」
「し……ごく……?」

 しゃがんでやり、少年の性器を握る。乱暴に。
 それでも少年は喘いだ。きつく握りしめてやっただけで、吐息を漏らした。

「ひゃ……あ……、」

 小さなソレを擦る。包んだ手を上下に動かせば、少年の漏らす声はますます官能の色を含みだす。表情もよりうっとりとして、伏せ目がちになる瞼。
 震える睫毛は長く、健次はなぜだか家政婦の春江を思いだした。
 幾度となく抱いてきた、愛しい春江の感じる表情が脳裏に浮かぶ。

 ……少年のペニスを弄んでやりながら、健次は怪訝さに眉根を寄せる。
 何故いま彼女が過ぎったのか。思いだすのか。
 分からない。

 この少年はどうしてなのか、健次をすこしだけ、乱す。

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 健次の手のひらはすぐに汚れた。蜜液の分泌は多量でドロドロと止まらない。
 たった少しの間なのに、こんなにも濡れるなんて有り得ない。付着した手を開いた健次の眉間には皺が寄る。少年といえど、同性の体液で汚れるのは不快だ。少年の肌に撫で付けて拭うと、健次は立ち上がった。

「……自分でやってみろ」

 見下して命じる。少年は寝そべったまま、ゆっくりと自らの股間に手を伸ばした。
 性器は張り詰めを増している。

「あ、ふ、ぅ…………」
 
 健次にされたよう、少年は擦ってみせる。
 それはまさに開花の姿──無垢だった白いつぼみが解け、咲く姿。
 斜陽を過ぎ、夜の闇を迎え入れようとしているこの部屋で。
 おのれの手で快楽を摘みだしてゆく少年。

 唇から漏れだす吐息。しっとりと汗ばむ裸身。
 扱く動作とともに時折少年は派手に震える。引き攣るように。
 爪先まで力ませて。

(何だこのガキは──……)

 健次は視線に、困惑を絡ませる。
 これは普通の子供ではない。淫やらしすぎる。
 妙だ。顔つきも様子も。溢れる色香は濃厚過ぎて毒気に近い。
 性の知識も皆無だった少年の癖に。

 この生き物は、何だ?

 怪訝さを深める健次の前、少年は喘ぎを増し、扱く動作を派手にする。
 自然に股を開き、M字に開脚し、健次に尻穴までも披露してきた。
 昨夜健次が穿ってやったその穴はヒクヒク蠢き、開いたり、閉じたりと淫猥だ。
 肉茎からの蜜はますます溢れ、少年を濡らしている。

「んやぁ、あぁ、あ……!」

 片手で幼茎を扱き回しながら、片手では睾丸を揉んでいる。
 教えもしていないのに、手は玉袋から移動して先走り液の痕をつけながら腹部をなぞり、すでに尖らせている乳頭をも弄りだす始末だ。

「ヘン、ヘンなの、ヘンだよぉー……、これ、すごぉぉぃっ……」

 激しく扱けば、透明な飛沫が迸る。少年は健次の前で、夢中になって自慰を続ける。