淫性

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 スチールラックにあったDVDを再生し、眺めていたら妙な気分になった。
 ぼーっとするような、微熱を感じるような……身体がむずむずとして、気づけば分泌された透明な蜜液で毛布を濡らしていて、セイは戸惑った。

 こんな気持ちになるのも初めてなら、張り詰めてしまった性器から糸を引くほどに妙な液体を溢れさせるのも初めての経験だ。

 現れた男、彼に触れられると微熱も、むずむずも増した。自らの手でもソコに触れてみればもう興奮は止まらない。

 夢中で扱きだしたセイは男の存在も忘れた。
 ブルーシートの上に倒れていることも。
 首輪をつけられた全裸で、監禁されていることさえも──意識の外に飛んでしまう。

「手、ぇ、っ、とまらないよお──、やぁああっ、びしょびしょ、とまらないのぉぉお……!」

 先走りは尿のように多量で、セイの滑らかな股を汚し、シートを汚し、肛門にも垂れてゆく。
 全身が熱い。このまま沸騰してしまいそうだ。巡る血液もすべて。

「ヘンになっちゃうよぉ、あぁああああンッ……!!」

 悲鳴のように絶叫した。おのずと開脚し、股間を激しく揉みしだき、腹部を撫でまわす。
 見つけた乳頭を引っ張るように抓ってみたりと、狂うようにセイは蠢く。

「あぁあ……、あぁああ……!!!」

 大きな声でわめいてもみる。自然に喉から嬌声が溢れてしまうのだ。
 
 身体の芯から昇りつめてくる熱流。
 何処か、遠くに、連れ去られてしまうような感覚。
 セイのわめきも、裸身の震えも、扱くスピードも、すべてが激しくなる。

「や、なに、これ、なにぃ、こ……れ……?!!」

 尿意とは違う。

「ひゃぁン、あぁ……、あ……、あっひ……──!!」

 セイはまばたきも忘れ、達する。
 貪った快楽の果てへと。

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「ん……あ……、あぁあ────ッっっ……!!!」

 頬を赤らめ、唇を大きく開けて、セイは迸らせた。

 生まれてはじめての射精だ。

 発毛の兆候すらない、色素の沈着する様子もない、まだ子供の性器から。
 大人の男のように、快感の極地の濁液を散らした──白くドロつく──淫猥な蜜。

「あ、ぁ、あ」

 太腿に、胸元に、そして青いシートに。
 量はさほどないものの、飛沫は見事に散った。
 セイは何が起こったのかも理解出来ず、ただ、小刻みに震える。乱れた吐息で肩を上下させながら。

「あ……ン、ひぁ……」

 言葉にならない、喘ぎが止まらない。
 この状況を、気持ちを、言葉として表せない。放心状態に近い。
 
 やっとのことで絶頂の余韻を脱し、恍惚としながらも現実に還ってくる。
 セイはキツク握っていた手を口許に運んだ。
 白濁に塗れた指を舐めてみる。意識せず自然にした動作と行為だ。
 
 舐めあげてみれば、今までに味わったことのない未知の味がする。
 形容しがたい──
 苦いような、ほのかに甘いような。
 匂いも芳醇。
 何の味か、分からないのに、夢中でペロペロと指の間までも舐めてしまう。
 それだけでは物足らず、指を口の中に突っこみ吸ってしゃぶったりもする。
 
 こそげ取るように両手で性器の滴りを拭い、唇に運ぶという行為を何度か繰りかえし、やっとセイは男の存在を思いだした。

 男はなにか穢らわしいモノを見るような視線をセイに落とし、顔を顰めている。嫌悪に近い表情だ。

(……? ど……して……?)

 まだすこし、虚ろな意識のままセイは首を傾げる。
 なにか自分はいけないことをしてしまったのだろうか。
 いま、したことは駄目なことなのか?

 彼が、扱けと言ったはず。
 今日散々見た写真集や、映像の男たちもペニスを弄び尽くして気持ちよさそうにしていたのに。

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「ふん……どうしようもねぇガキだ──」

 呆れているかのように言われた。舌打ちも零される。

 何故?
 
 不安に思うセイの髪は掴まれ、強引に身を起こさせられた。

「! 痛ぁい……」
「しゃぶれ。お前みてぇな淫乱は、どうせ咥えるのも好きになる」
「…………?」
 
 昨夜と同じく、男はバックルを外す。開いたデニムから現われたのはやはり昨夜と同じ、彼の性器。
 まだ膨張していない素のままのペニス。

 男のソレを、セイは中腰になって口に含む。髪は男に掴まれたままだ。

 口淫なら、昼間、映像で観た。
 女も、男も、肉棒を咥えていた。
 ……ただ見ただけだから、やり方がよく分からない。セイが躊躇いがちに舌を動かしたり、吸ったりしていると、少しだけ口の中のモノが大きくなってきた。

「ヘタクソだな……当たり前か」

 掴まれている頭ごと動かされ、脳が振られる。
 乱暴に喉を突く亀頭。
 えづくことも許されず、苦しさに表情を歪めながら男の性器を口腔に受け入れるしかない。

「歯ァ立てるな。そうだ……舌を這わせろ」
「ン……は……、ぅう……!」

 ガシガシと頭を振られているうちに、男の肉棒はますます容量を増した。
 口いっぱいに男の感触を受けとめ、苦しく、セイは鼻で息をする。鼻息は陰毛にかかる。
 飲みこめない唾液は多量で、セイの顎から首筋、鎖骨、ブルーシートにまで滴った。男のデニムも汚してしまう。

「げほ、ゲホッ、あ、ぷはぁ…………」

 しばらくの間、拷問に近い、そんな行為を続けられて。
 やっと顔を剥がされたとき。

 目の前のペニスは勃起している。
 セイの屹立とは違う、大人の男の膨張を示している。

 またアレをお尻に挿入されるのだろう。
 昨夜と違うのは、セイがそれを理解していることだ。

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「んぁあァ……!」

 突き飛ばされたセイはうつ伏せで崩れた。
 無防備な白い尻には、昨夜使われたまま転がっていたローションの瓶が傾けられる。トロリとした感触は冷たく、セイは身震いしてしまった。

「やッ。あっ、ああぁ」

 乱雑に慣らされる。初めての貫通の際より雑だ。セイのまだ固い蕾は男の指でこじ開けられ、内部の柔襞にも液が流れこむ。

 そして──

「あ……あッあぁああああぁああ──……っッッ!!!」

 突き立てられる肉杭。

 セイはブルーシートに爪をたて、咆哮する。

 捻じ挿れられる凶暴な激痛は、粘膜が傷ついているせいもあるのか、昨夜より痛いくらいだった。
 あまりの衝撃で、目の前が真っ白に霞む。

「うるせえ……」

 後ろから繋がりながら、鬱陶しげに男が漏らす。うなじを片手で掴まれもした。

「毛布でも噛んでろ」
「あぁ……、あン……! う……ぅ……」

 泳ぐようにもがき、セイは傍らの毛布をたぐり寄せた。大きな悲鳴をあげてしまうと男の気に障って叱られるのだと理解し、必死で口の中に布地を詰めこむ。
 
 強く瞼を閉じて噛めば、涙が溢れてきた。

 男が腰を動かす度に痛みの波が寄せて返す。内臓を抉られる。

「そうだ、静かに出来るんじゃねえか。……いいオモチャだ」

 最奥まで穿たれながら、髪を撫でられる。褒められたのだろうか?

 セイは無言で震え、泣き、この拷問が早く終わるようにと神様に祈ることしかできない。