陰影

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 健次は結局、今宵も少年を犯してしまった。
 少年の発する色香に煽られて──

 四つん這いにして覆いかぶさるだけでない。
 幼い身体を様々な体位で割り開く。体重も軽く、小さな身体はしなやかに曲げ伸ばし出来、抱えるのも容易だ。

 足首を掴みあげて奥深くまで抽送を繰り返し、凌辱していると、少年のペニスが反応しだした。
「痛い、痛い」と啜り泣き、頬を濡らしているのにも関わらず。尻穴は出血し、健次の肉杭を血合いで染めてもいるのに。

 幼茎はそそり立ち、抜き差しの度に揺れる。
 まるで健次からの揺らしつけのリズムを取っているかのようで、滑稽でありながらも可憐だ。

「ひッ、ひぃッ、う……」
「痛てぇのに感じるのか」

 最奥まで埋めながら尋ねる。大した淫乱だと、健次は内心で呆れた。

「か……んじる……? な……に、そ……れ? な……」

 処女と対して変わらない少年は、当然のように意味を知らない。鼻水を啜る表情はまさしく幼な子で、充血した目はウサギのよう。
 
 それなのに。勃起した小さな性器からは、とろりと蜜までも垂らしている。しっかりと発情しているのだ。

(真性のマゾか。一体、何処まで……)

 淫乱なんだ。

 この子供は。

 末恐ろしい。

 売り捌いてしまえば二度と会うこともないから、健次には少年の行く末がどうなるか知る術も無く、そこまでの興味も抱かないけれど。
 あまりに普通の子供離れした素質には、驚かされる。

(羨ましいくらいだぜ。逆に。ここまで淫乱だとな……)

 抜き差しを続けて、締めつける絶妙な感触を味わいながら健次は思う。
 この少年なら犯されることに慣れ、そのうち愉しめるようになるだろう。
 苦痛を歓喜と捉えられるなら、奴隷に堕とされる身分にも快感を覚えられるかも知れない。

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「ぁあッひぁ──……、あ……ンぅぅ!」

 座位の形になる。健次は少年の腰を掴み、抱え上げたり下ろしたりと繰り返すことで擦った。
 男根を全て飲みこむ度、少年は悲鳴を上げる。
 当然だ、か弱い後孔で成人男性のモノを受け止めるのはキツイに違いない。
 だが、少年は健気に頑張る。先程に大声をあげて叱られたのが効いているのか、声量を抑えようと時折、唇をギュッと噛むのだ。

 そんな少年の表情は、S性癖の健次にはそそるものがある。子供、しかも男児を犯していて、此処まで妙な気持ちにさせられるのはめずらしかった。
 健次を熱くさせるものがこの少年にはある。

「中出しだ」

 近づきつつある絶頂、健次は告げてやる。おそらく少年はその言葉の意味も知らない。
 涙と汗で乱れた少年の首を掴んだ。力加減ひとつで容易く絞め殺せてしまえそうな細い首を。

 瞬間、健次はかすかに顔をしかめ、揺さぶりを止める。少年の狭い窄まりに迸らせた。

「……あ、熱……いよぉ……」

 体内に受けとめた少年は泣き顔で言う。驚くべきことに、彼の性器は未だ屹立を保っている。射精を終えた健次が抜き取ればおのずとその身は崩れ、糸の切れた操り人形のようにぐしゃりと倒れた。

「あ……、ぁ…………」

 長い睫毛に縁取られた瞳は半目で、だらしなく舌を垂らす。疲弊しきった少年が脱力すれば、無残に開いた尻穴から漏れるのは白濁。ブルーシートに血混じりで溢れてきた。
 少年のペニスからの透明な蜜も玉袋を辿るようにして、筋を作り、零れたそれは、シートの精液に交わる。
 なんとも淫らな様相だ。
 放心しそうにとろりとした少年の表情がまた、淫猥さを増させる。

 無残な姿は、濃厚な淫らさを発してやまない。

 少年の瞼がゆっくりと閉じられるのを見守ることもなく、健次は衣服を正し、監禁室を出た。

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 外廊下で煙草を吸う。工場廃墟は完全な暗闇。行為後の気だるさを纏いながら、健次は赤LARKを味わった。

 指で弾いた吸殻も、闇に消えてなくなる。

 少年は、微かに、幼い頃の健次自身とも重なった。
 黒髪と傷のある裸身が姿見を思いださせる。

 健次はずっと虐げられていた。永遠とも思える時間、拷問に等しい性虐待を浴びて育った。
 実の父親をこの手で殺す瞬間まで、地獄は続いた。

「羨ましい、か」

 闇を見つめ、闇の中でポツリと呟く。
 どれほど楽になれただろう。同性に犯されることを快楽と思えたのなら。
 痛みを伴う調教(プレイ)にも順応出来たのなら。
 羞恥に感じ、侮蔑に悦び、服従を美徳と出来れば。

 地獄は甘やかな楽園に変化したのだろうか。

「不器用なのは俺か……」

 どれほど晒されても慣れることが出来なかった。苦痛と気色悪さと悔しさと、憎悪と悪寒と、絶望と、哀しさと情けなさと、嫌悪と、怒りと。
 ありとあらゆる負の感情に精神を蝕まれながら揺らされていた。いつも。
 毎夜、幾夜、時には白昼でも。終わらない悪夢。

 ……あの少年のよう、感じる身体にはなれなかった。
 ひたすらに嫌だった。それが健次だ。
 あの少年のようだったら、健次は健次ではないだろう。
 父親を殺していない可能性さえある。
 この現実には辿りついていない。違う未来に導かれる。
 それこそ、今も様々な男の上で腰を振って悦んでいるような日々かも知れない。

(俺はこれで良かった。……そうだ。慣れることの出来ない俺で)
 
 健次はジャンパーのポケットに手を突っこんだ。そのまま社員寮跡を後にする。

 空腹を癒したい。インプレッサに乗ると、廃工場から離れた。郊外の山林を抜ければ、国道沿いには飲食店が点在している。

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 適当なラーメン屋で夕食を済ませ、少しばかりドライブをした。

 健次は週に何日かのジョギングを日課にしている。が、少年の世話を押しつけられている間は無理そうだ。……あてのない夜の走行は心理的にその代替ともなった。

 走るようになったきっかけは、家に居たくないからだ。父親や、虐待を知りながら止めもしない家族と同じ空間に居たくない。理不尽な仕打ちを受けてむしゃくしゃする心や、苛立ちも、夜道を駆けるとほんのわずかに紛れる。
 そういえば、あの少年と同じくらいの年頃だった、走りはじめたのは。

(どうも色々なことを思い出させやがる……)

 眉間に皺を寄せてハンドルを切る。

 等間隔の外灯で薄められる闇を、黒い車で、過ぎ去って行く。

 今更、過去が辛いということも無い。強靭な精神を持つ健次は、全て受け入れている。
 かすかなトラウマはあっても、魘されることまでは無かった。
 春江のお陰もある。いつも側にいて、献身的に支えてくれる彼女がいるからこそ、健次は父親の死後、平穏を手に入れることが出来た。

「……何だ、あのガキは……」

 赤LARKを咥え、火を点けた。
 溜息混じりに煙を吐く。
 艶めく黒髪に白い肌を持ち、垂れ目がちな大きな瞳のあの少年は、健次の心をチリチリと熱くさせる。妙なところをつつかれるようで、おかしな気分にさせられる。

「まさかな…………」

 健次自身の幼い姿をも呼び起こすが、春江も連想させる。一瞬でも、春江に似ていると感じた印象を健次は掻き消す。煙草の吸殻を潰すように。

 不思議な少年だ。

 高値が付くだろう、見事な雛。淫猥な蕾。
 汚される前の深雪のごとく白い肌をしていながら、内には淫らさを秘めている。
 無垢さと淫猥性の共存。
 少年は対極を実現していた。