爛・下

 甘く咽ぶ声は兄妹だけあって、先程の舞花によく似ていた。
 広々としたベッドの上、了理は正座し、崇史に覆い被さられて犯される黎生を眺めている。
 仮面を着けたホテルの夜は、ただ呆然としていたふしもあったが、今日はあのときよりかは冷静に捉えられた。
 荒々しく抱かれていても黎生の表情は歓喜に染まり、苦痛どころか嬉しそうだ。
「あぁあ、崇史、すご……ぃよう……、壊れちゃうよ……!」
 ひたすら的確に穿つ崇史は、腰つきをとめないまま黎生に囁く。
「壊してやろうか」
 黎生の頬をなぞり、その頬にキスも与える。
 黎生は嫌々と首を振る。
「だめぇ、死ぬのは今じゃない、まだ俺を壊さないで……っ……」
「ふっ……」
 薄く笑った崇史は、奥まで突き挿して抽送を止めた。
 その瞬間にも黎生は艶めかしく声を上げてみせる。
「……やぁあぁぁっ……!!」
 崇史は黎生の首に手を伸ばし──黎生は悦んでいるのかいまにも泣きだしそうなのか、判別しづらい趣深い表情で崇史を見つめていた。
 崇史の指が頸動脈に添えられていることには、多少の医療の知識を持つ了理にはすぐに分かる。
「お前の命は俺の手中にあるようで、とても気分がいい……」
「いや、だ……怖い……たかふみっ……」
 黎生は歯を鳴らすほど震えだし、崇史は鼻で笑う。
「しかし、恐怖も悦いのだろう、難儀な性癖だ」
 確かに黎生のペニスは屹立を保ち、先走りに濡れそぼってもいる。
 黎生の首を掴んだまま、再開される抜き差し。それに合わせてまた漏れはじめる喘ぎは艶やかでしかない。
「あん……、あっ……、あっ……、あ……」
「了理さん、ねぇ、了理さんっ──……」
 何度も呼ばれていることに、やっと気づき、了理はハッとする。
 向かいあわせに座る舞花へと視線をやった。
「す、すみません、つい見とれてしまって」
「ふふっ、お兄さまのすばらしさが、了理さんにも分かっていただけて嬉しい……」
 裸身にバスローブを纏っただけの舞花は目を細める。そんな表情はまだ幼く、淫靡な寝室にはあまり似合わない。
 そして舞花は了理に豪奢な手鏡を渡してくれる──了理は行為のかたわらで化粧を施されていたのだ。
「完成しましたわ。やっぱり了理さんって、化粧映えするお顔だち」
「………」
 鏡の中に映っている自分は、もしも妹がいるのなら、こんな顔だったのではと思わされる。
 初めてのマスカラ、口紅、白粉にチーク……あまりの変身ぶりに目を点にしていると、舞花に擦り寄られて、柔らかな胸の感触が当たってしまう。了理は驚きから手鏡を落とした。
「ちょ、ちょっと、舞花さん」
「だって……了理さんってば、すごくかわいいんだもの……舞花は、かわいいものと綺麗なものがだいすきなの!」
 抱きしめられる了理の装いは、舞花の持ってきた紺青のベビードールとニーストッキング。ショートコルセットと、崇史手製の足枷と手枷も嵌められ、それらを余裕をもって繋ぐ長い鎖が垂れる。
 チェリーピンクのマニキュアに塗られた舞花の指先は、何でもないことのように了理の股間も探ってくるから、了理は「ひぃぃ」と上擦った声を漏らしてしまった。
「でも、了理さんは欲情しないのね、つまんないっ……お兄さまは嫌々言う癖に、女の子の下着もお洋服も大興奮してくれるのに」
 喘ぐ黎生を見つめながら、舞花は呆れたように呟いた。
「身体はMなのに心はSらしいの。崇史さんの言うとおり、ほんとうに難儀なお兄さま」
「そういったケースも、おありなのですか」
「えぇ、性癖は十人十色ってパパもよく言っているし」
 ベッドにぶちまけられた様々な化粧道具や衣装の中から、舞花はブラシを拾い、了理の髪を梳きはじめる。タッセルの揺れる綺麗な瓶から、薔薇の香りのするミストも吹きかけられた。
 体位を変えて愛しあうふたりを目にしつつ、了理はうなだれる。
「えぇと……僕はまだ倒錯した世界を知って日が浅いので、様々な点で理解が追いつかず、欲情どころではないのかもしれません……舞花さんのご期待に沿えず……申し訳ありません」
 謝る了理に、舞花はくすくすと無邪気に笑った。
「パパもお兄さまも、了理さんを『見どころがある』って褒めていた理由が、わたしにも分かったかも」
「きょ……恐縮です……」
 了理自身は、なぜそう言ってもらえるのかも、分からない。
 舞花は了理をブラッシングしながら、本音を零してくれる。
「お兄さまが俗世の方にそう仰るのはめずらしいから、すこしだけ嫉妬もしちゃったの。だけど会ってみて、わたしも了理さんには可能性を感じるし、お友だちになれそうって思う……」
「ありがとうございます。僕も舞花さんとのお話は楽しいですよ」
 しかし、嫉妬とは穏やかでない感情だ。そう思ったのが、伝わったのかもしれない。舞花はさらに感情を吐露した。
「お兄さまだけを愛しているの。小さなころからずっとよ」
(愛している……それはいったい──……)
 どういう意味かと了理は戸惑う。家族愛なのか、恋人に抱くような愛なのか。分からないなりに、了理は感想を伝える。
「舞花さんは、一途でいらっしゃいますね」
「そう……? だけど舞花が特別なわけではないの。皆そうなの」
「皆、とは……」
「真堂の血を引くわたしたちは、幼いころに生涯愛するひとを見つけて、それからはずっとその相手だけを愛していくんだから……」
「そんなことが……」
(一族全員?)
 了理は目を瞬く。
「あり得るのでしょうか?」
「血が濃いの」
 舞花はブラシを止め、飽きたように放り捨てた。
「呪われているの」
 そして了理の顔を覗き込む。動作とともに揺れる巻き髪。
 了理と瞳を合わせたまま、教えてくれた。
「本能のままにありとあらゆる淫奔と残虐と退廃を愛して、近親交尾まで愉しみ果てた一族の末路が、わたしたちよ……禁忌などおそれずに親子でも兄妹でも交わってきたから、性癖も資質も色濃く受け継がれて、たとえばそう……初恋の人をずっと愛してしまう癖もおなじ」
「……そ、それは……」
 絶句する了理に、舞花は苦笑する。
「習性は、まがまがしいものばかりじゃないわ。わたしたちは紅茶もすき、薔薇の香りも、月の光も」
 顔立ちにも纏う雰囲気にも幼さを残す舞花だが、了理はこの少女からは匂い立つような高貴さも感じる。
 そして気になったことを一点、尋ねてしまった。
「あの、舞花さん、崇史先輩に対して嫉妬はしないのですか」
 舞花は不思議そうに目を見開く。
「崇史さんは舞花の子どものころの玩具でもあるのに、どうしてお人形に対して、そんな感情を抱かなくてはいけないの?」
 口許に指先を当ててきょとんとするさまは、無邪気な姫君そのものだった。了理は納得もさせられる。
(貴い方に、足を踏み入れたばかりの僕の理解が及ぶはずもありません……)
 了理は頭を下げ、訂正するのだった。
「失礼しました、舞花さん、今の質問は忘れて下さいませんか」
「了理さんはまだ、生きた玩具だとか、性奴隷といった存在には慣れていないから、仕方ないわ。それにお兄さまはわたしを大切にしてくれるし、生涯愛しつづけてもいいと仰ってくれているから、とっても満足してるのよ」
 舞花は笑って了承してくれたあと、悪戯っぽく目を細める。
「了理さんは賢い方だから、勘づいた? パパとママも兄妹なの」
「なるほど。そうだったのですね」
 頷く了理に、舞花の唇はまた笑みに歪む。
 さまざまな表情を見せてくれる、魅力的な少女だ。
 男たちが放っておかないだろうに、舞花は黎生だけを愛し、将来の夫も決まっているのだから、舞花に想いを寄せる男たちはことごとく悲恋に終わるのだろう。そう推察する了理のとなりで、舞花の視線はおなじベッドの行為へと流れていく。
「ふふっ、お兄さまと崇史さん……ずうっと鑑賞していたい……」
 確かに舞花の言うとおり、いつまでも眺めていられそうだった。
 黎生は崇史の上に跨って、踊るように跳ね、抜き差ししている。
 痩せた身体だが、ペニスは豊かに充溢し、その屹立がリズムに合わせて揺れるさまも淫らでしかない。
「まさしく、可愛いものと綺麗なものですね、先輩たちは」
「そうなの……すてき……」
 うっとりと舞花は頷く。一言で了理を現実に引き戻しもする。
「了理さんも、あとで舞花に、お兄さまみたいな艶やかな姿を見せてくれるの……?」
「そ、それは……」
 迫りくる瞬間に実感は湧かない。未だに心のどこかには、此処から逃げだしたほうがいいのではと迷う気持ちもある……迷いながらも、惑いながらも惹かれて、見とれている了理がいるのも確かだ。
 舞花と了理に見守られながら、黎生は昇りつめていく。
 突き動かされるままに鳴く黎生の裸身と、絡みあう崇史のありさまは儚くも美しい。



   ◆ ◆ ◆



 黎生は、嬌声を上げながら射精した。
 自らの白濁にまみれてぐったりと崩れ落ち、肩で息をする……落ち着くと、まだ乱れた吐息交じりに告げる。
「……次は……了理君の……番だよ……」
 仰向けに寝転がったまま、黎生は了理に柔らかく笑んだ。
「あれっ……道化師になるんじゃ……なかったの? 初夜を買われた少女みたいに……されてしまったね……」
 了理は黎生にかいつまんで説明する。
「舞花さんは、僕の頬にアルルカンの涙を書きこむのは、またの機会になされたそうです」
「そっか……そうなんだ……、……うん、でも……舞花のセンスはさすがだね……」
「嬉しい、お兄さま」
 褒められて頬を染めながら、舞花は黎生の世話をはじめる。
 先程のお返しとでも言わんばかりに、精液もペニスも愛おしげに清拭し、すっかり綺麗にしてしまうと、舞花のものとお揃いのバスローブを黎生に着せた。
 そのあいだ、崇史はうなだれている──亜麻色の髪で表情は見えないが、崇史も呼吸を乱し、肩を上下させている。素肌はひどく汗ばんで、潤滑剤と先走りに濡れそぼったペニスは充血を続けていた。
 まだ一度として達する許可を貰えていないのだ。
(大丈夫ですか……とか、声をかけてもいいのだろうか……?)
 了理の戸惑いは、黎生の声に遮断された。
「崇史」
 黎生は鋭い視線で崇史を見る。
「どうして休んでるの? 次は了理君を犯して」
 命令にびくつくのは崇史ではなく了理だった。
(……犯して、って──……あぁ……怖い……)
 拒むなら、本当に最後のチャンスだ。
 どうしようと逡巡する了理の前で、黎生は崇史の首輪に繋がるリードを引っぱり、崇史の上体はつんのめった。
「犯してって言ってるよね……聞こえないの? 疲れたの? イキそうなの? 駄目だよ、種畜は交尾が仕事なんだから……了理君をイカせるまでは『おあずけ』だからね」
 黎生はふと、優しい笑みを了理に向けもする。
「心配しなくていいよ、了理君……崇史はね、何度も何度も何度も一晩中だって交尾出来るようにパパたちが厳しく訓練してくれたから、まだまだ交尾できるんだよ」
 黎生は柔和な笑顔のまま「ね、崇史、そうだよね」と話しかける。……だるそうに崇史は顔を上げ、乱れた髪を掻きあげる。
 その態度は黎生の気に障ったらしい。
「なに、不満そうにして……舞花、口枷を頂戴。ペナルティだ」
「どうぞ、お兄さま」
 舞花によって渡されるのは、化粧道具と同じくぶちまけられたいくつかの衣装や拘束具の山から拾われたボールギャグ。ひょっとしたら了理が嵌められるはずのアイテムだったかもしれない。
 崇史の口に噛ませながら、黎生は大げさにため息をこぼす。
「S奴隷を所有するのは大変だなぁ、飼い主の俺のことだって、いつも虐めてくるし……」
「だけど崇史さんに虐められて、お兄さまは悦んでいるくせに」
「もうっ、言わないで舞花、それはそれっ」
 指先が離れると、崇史はじゃれるように口枷を黎生の頬に擦りつけ、体重をかけてシーツに押し倒す。
「あっ……崇史……重いってばっ……甘えてるの……?」
 まるで猛獣にのしかかられているかの姿で、了理にはとても甘えているようには見えない。それでも彼らにとっては戯れらしく、身をよじりあい、黎生の笑い声が響いた。
 しばらく『飼い主』と遊んで満足したのか、崇史はのっそりと身を起こし、その瞳は了理をとらえる。
(ひっ……!)
 息を呑む了理は無意識のうちにシーツをあとずさるが、崇史は了理の足枷の鎖を掴んできて、もう逃げられない。
 そのまま崇史の手はなぞるように膝、内腿に這わされ、了理はぞくぞくと背筋を震わせる。
 黎生も了理ににじり寄り、了理の髪を撫でてきた。
 それから、唇を奪ってくる。
 何度目のキスだろうか。大学内にある黎生のための部屋でもそれとなく盗まれたりして、了理なりに、最初の頃に比べれば口づけに慣れてきていた。
 軽く舌も絡めるさまを、とても間近で鑑賞しているのは舞花だ。
 美術館の名画に見とれているかのような顔をしている。両手は祈りを捧げるかのように胸の前で組まれてもいた。
(……こんなの……正常ではありません……僕には濃密すぎる!)
 真堂家の人々に貪られていく──……
 黎生はついばむキスを楽しみながらも、了理の胸元を撫でたり、気まぐれに乳頭も触ってくる。
 崇史は下腹部をまさぐってきて、舞花に着せられたランジェリーの奥の性器を探り、握りしめて扱きはじめた。巧すぎる手淫に了理は咽びを漏らす。自分でするよりもずっと気持ちがいい。
「せ……先輩たち……やっぱり、こんなこと、いけません……!」
 唾液にぬめった唇を離し、黎生はクスッと微笑ってから、囁く。
「いけないことなんてこの世にはないよ」
 妖しく輝く黎生の瞳から目をそらせない。
「なにを善とするか、悪とするか、人々の価値観なんて、時代によって移り変わる。ただの流行に過ぎないんだ──」
 黎生は了理からそっと離れた。
「了理君は、流行を追うタイプには見えないけどね……」
「た、しかに、僕は、流行りというものに疎い、ですが……」
 崇史に弄ばれながらも了理は、兄妹が注射器の形をした浣腸器具や、医療用の銀皿に注がれた溶液をシーツに置くさまを眺める。
 この部屋には、この屋敷には、淫らな用途に使う器具など腐るほど用意されているのだろう。
 注射器を手にして溶液を吸わせるのは舞花だった。可憐な少女には似合わない慣れた手つきだ。
「ガラスのシリンダーを愛用するのも、真堂の血ね、お兄さま」
「うん、そう言われてみれば、そうかもしれない」
 楽しげに会話しながら、なんでもないことのように了理に施そうとする。すっかり勃起したペニスから手を離した崇史は、力づくで黎生の両脚を開かせ、押さえつけてきた。
 肛門に潤滑剤らしきジェルを塗られたあと、ガラスの感触がする。
 小さなころの発熱で、叔父に座薬を入れてもらった記憶が了理の脳裏を掠めた。
「ひぃっ……、あ……、あ……!」
 入ってくる生温かな感触に、意識せずとも声が漏れる。
 舞花と崇史に処置をさせている黎生は、了理の喉を撫でまわした。
「そう、思うまま鳴けばいいよ。ちなみに5分3セットだからね」
 ある程度注入して、離れていく浣腸器具。
 黎生にはひくつく肛門までも凝視されてしまう。
「こんなに綺麗な処女のアナルって、ひさしぶりに見たよ」
「わたしもよ、お兄さま。大学生まで純潔を守り抜いてきたのね、感動しちゃう……」
 感動されるほどのことではない、と言いたかったが、言葉を投げかける余裕は了理にない。恥部を晒している羞恥と、恐怖、怯えから拳をぎゅっと握ると、黎生はその手を撫でてくれた。
「ほとんどぬるま湯だよ。怖がらなくていいからね」
「うぅ……、せんぱ……い……」
 かたわらには舞花の微笑もある。安心していく了理の意識だが、依然として恥ずかしさなどもあり、さまざまな感情で頭の中はいっぱいだ。穏やかに高まる便意を感じながらも、彼らに身体を撫でられたり舐められたりは続き、欲情しきった状態で、黎生に「トイレはあそこだから」と指で示された。浴室と同じドアだ。
 ふらつく足取りで向かい、扉を開けると明かりはすでに点いていた。ガラス張りの向こうには猫脚のバスタブがある。
 便器に座ってひり出し、出しきってふうっと息を漏らす。
 また寝室に戻るために扉を開けると、目の前に黎生がいたので声も出ないほどに驚いてしまう。
「ふふっ、びっくりしちゃった?」
 黎生と手をつないで戻って、2度目の処置を受け、サイドテーブルの砂時計が落ちきるとまたトイレに赴く。今度は舞花が待っていてくれた。そして3度目。もう固形の便は出ない。
 扉を開けると誰もおらず、ベッドでは黎生と崇史が抱きあっていた。キスを交わしているのかと思ったが、黎生の舌先はボールギャグを愛おしげに舐めている。舞花はそばに寝そべり、澄ました顔で、手鏡を持ってリップを塗っていた。
 ランプシェードによって壁に投影された彼らの陰の蠢きまでも、了理の瞳にはなんだか淫靡に映る。退廃を愉しみすぎて堕ちる底の果てがあるなら、きっとこんな情景なのだろうと思った。



   ◆ ◆ ◆

 

 中指と人差し指の抜き差しに合わせ、漏れてしまう了理の声。
「う……っ、うぁ……、あ……」
 崇史のやり方は慣れきって、淡々と的確に快楽を与えてくれた。
 特に、前立腺を刺激されると腰がびくつき、さらに情けなく鳴いてしまう。
「……うわっ、あッ、あっ……!」
 跳ねる了理からローションまみれの指は引き抜かれ、次に挿れられたのは同じくローションにまぶされたディルドだった。
 難なく挿入る。それを手首で動かすのは黎生だ。
 抉りとともにまた漏れる喘ぎ。
「……ひぃッ、いっ、あ、あぁあ、あ……」
「了理君のペニスって、申し分ない大きさだね、相変わらず勃ちも良いし──……」
 しばらく触れられずとも興奮を維持している了理に、黎生が微笑う。すると崇史は了理の隣に滑りこみ、了理の勃起に自分の勃起を押しつけてくる。了理の心音は高鳴る。
(あぁ……崇史先輩のモノが当たって……)
 主張する肉感にどきどきしてしまう。黎生はクスクスさらに笑う。
「張りあってるの? さすがに崇史には勝てないってば」
 ボールギャグの穴から唾液を垂らしながら、崇史は了理の肉茎ごと握って、二本同時に扱きはじめた。
 了理にとって、性器と後孔を同時に刺激される快楽はいままで生きてきたなかで味わったことのないほどの衝撃で、身を捩り、爪先にまで妙な力を込めて震えて享受する。
「ひ……っ……、あぁあ、あ……!!」
「崇史、ただでさえイキそうなくせに、そんなことして遊んでたら本当にイッちゃうよ」
 悶える了理のかたわらで、黎生は肩もすくめてみせた。
「勝手に射精したら、お仕置きだからね」
 了理にも垂れてくる崇史の唾液。不快感はない。
 もうしばらく扱いたあと、崇史は手を離す。首輪のリードを引かれて舞花のそばに向かう。舞花は崇史の髪にもブラシを伸ばして梳きはじめる……その様子を目の端に捉えながら、未知の悦びをたゆたう了理だったが、やがては後孔の貫きも抜かれてしまう。
 ディルドから解放されると、ホッとするような、ぽっかりと穴が開いてしまって寂しいような、複雑な心境に陥る。
 黎生は男根の形をしたそれを舐めあげた。いままで嵌まっていたモノを平気でそうされると、また了理の心はざわつく。
 了理の心境は、黎生にはたやすく見透かされた。
「どきどきしてる……?」
 たずねられて、頷いた。黎生も頷く。
「よかった……もっとどきどきさせてあげるよ。舞花、崇史を頂戴」
 舞花は崇史の髪を弄んで三つ編みにして、舞花の無邪気な笑い声も響いている。黎生は拗ねたように口を尖らせる。
「もうっ、舞花……髪に変なクセがついちゃうから、やめてよ」
「どうして? かわいいのに……」
 舞花の指先が離れ、編まれた跡を中途半端につけたまま、崇史は了理のそばに戻ってきた──崇史と目があって、了理は鼓動をさらに高めていく。黎生に場所を譲られた崇史は了理の両腿に手をかけて開き、覗きこむ。そしてディルドにしたように、崇史の勃起にもローションをなじませる黎生だった。
「頃合いでしょう?」
 崇史は頷く。了理の鼓動はもはや、我ながらうるさいくらいだったし、顔も熱い。きっとこの頬は朱に染まっているのだろう。
 相反するように崇史の瞳は冷めていて、いつもとまるで変わらなかった。口枷から涎を垂らしているのも決してブザマには見えず、むしろ淫靡すぎて了理の心をさらに掻き乱す。
 そういえば人生でこんなに脈拍を乱したのも、興奮したこともない。未知の感情に激しく戸惑いながら、崇史と黎生を交互に見た。
「……こ、わいです、僕はどうなって……しまうんですか……」
 黎生は了理の髪を撫でて「怖くない、怖くないからね」と繰り返してくれたけれど、発情しきった了理のペニスへと崇史の唾液がダイレクトに垂れて、それもまた了理を何故だか震わせる。
 指とディルドで潤ませて拡げた入り口を、確認するかのように崇史になぞられてから、押しつけられる充溢した感触──崇史の勃起だと気づいたとき、了理の頭はいよいよ真っ白に眩む。
「……うわ……あぁ……ッ……あ、ぁ、あ──……!!」
 ディルドよりも太く確かな感触が、了理を開いていく。
 ゆっくりと少しずつ進んでくる。
 しかし、途中で止まり、黎生は崇史を褒めた。
「うん、良い判断だ。無理に奥まで貫通させなくていい」
 崇史は抜けそうなほど腰を引き、また中ほどまで押し戻す。
 いつしかそれは繰り返されるようになり、波の満ち引きのような感覚を味わいながら、了理はついに抽送が開始されたのだと、欲情しきった意識でぼんやりと認識する。
 擦られるとやはり悶えてしまう──自分がこんな声を出すなんて今日まで知らなかった。
「や……はぁ……あ……ぁ……、あ、ッ、ぁ……!」
 崇史の腰つきはあまりにも的確で、まるで機械のようだ。
 リズムに合わせて生まれる快楽に、了理は酔いしれ、痛みはない。
 悶える身体は舞花にも覗きこまれている。揺れる性器も鑑賞されてとても恥ずかしい。
「素敵っ、了理さん、とってもかわいくて綺麗……」
「……あぁあぁぅ……!」
 嵌められたまま腰をくねらされるのもたまらなかったし、軽々と体位を変えられて、また別の角度から突きこまれるのも気持ちいい。
 了理はシーツを引っかいて、名前を呼ぶ。
「たかふみせんぱ……い……ッ、先輩ッ……!!」
 崇史に穿たれているという事実がまた、了理をときめかせる。
 どうしてなのか、崇史にペニスを握られたとき、黎生に同じことをされるよりもさらに興奮してしまう。黎生だって崇史と同じくらい気持ちよく扱いてくれたのに。
(何故……? 僕は……? 崇史先輩の方が……!?)
 悦楽に邪魔をされて、思考を深められない。
 ゆえに疑問は霧散していく。
 行為の隣で黎生と舞花はキスを愉しみ、満足すると唇は離れ、黎生はまた了理の髪を撫でてくれた。
「男の子なのに、童貞より先に処女の方を失っちゃったね」
 言われてみればそうだと、揺れながら頷く。
「俺も崇史も……処女卒のほうが先だから、気に病むことはないよ」
「せんぱいたち……も……先に……後ろを……」
「そうだよ、だから、恥ずかしいことなんかじゃない」
 黎生の声を聞きながら、了理はさらなる快楽に溺れていく。ペニスから溢れる先走りは崇史の涎と交わる。
 絶頂はすぐそこにまで近づいてきている──